「人から好かれるには、どうしたらいいんでしょうか……」
ある日、『Fate/ Grand Order』のプロデューサーなどで知られる塩川洋介氏から、こんなダイレクトメッセージが届いた。
塩川氏といえば、ディライトワークス在籍時代に、たびたび物議を醸す発言を繰り返し、ネット上で大きな炎上騒ぎを引き起こしたことでも知られる。また、そうした彼の発言に含まれる、ある種の“いけすかなさ”から、ユーザーからは未だに根強い反感を持たれている。
「それもプロデューサーの役割、仕事のうちだから」と、長年それを受け入れてきた塩川氏であるが……独立して新たなプロジェクトを立ち上げているいま、そうした問題・課題に直面している、なんとか解決できないか? と言うのだ。
自業自得──!
そう突っ込みたいユーザーも多いかもしれない。
事実、当時の塩川氏の言動をふり返る限り、そう見えてしまっても仕方がないのかもしれない。
しかし、である。
一方で、本当の塩川氏がどういう人物であるか? それがあまり知られてないのではないか? とも思うのだ。少なくとも、私(TAITAI)が知る限りにおいて、塩川氏は非常にゲーム作りには真摯で、素朴な人間である。そうでなければ、まったくお金にもならない海外書籍の翻訳などを、忙しい合間を縫ってやるだろうか?
勘違いしないでほしいが、塩川氏を一方的に擁護したいわけではない。
ゲーム作りに真摯で、素朴であるがゆえに、逆にそれ以外はまったく無頓着という“人としての駄目さ”があるのも、また塩川氏という人間だからだ。
そこで今回、電ファミでは、ちょっとイレギュラーではあるが、そんな塩川氏の悩みに答えるべく、カウンセリング的な対談企画を行ってみた。
聞き手・カウンセラー役としてお呼びしたのは、同じくゲームクリエイターであるヨコオタロウ氏。
というのも、少なくとも私から見て、ヨコオ氏はネット上での発言の上手さ、あるいは炎上などに対しても、かなり“正しい立ち振る舞いをできる”数少ない人物であり──もっといえば、その作風を『2ちゃんねる』などで弄られて来た経歴を持つクリエイターのひとりでもある。
そんなヨコオ氏ならば、塩川氏の過去の騒動をどう振り返り、どうすれば適切だったのか? など、何かよいアドバイスを行えるのではないか? と思ったわけだ。
かくして──。
いままでの電ファミでも、異質なテーマとなった「炎上したクリエイターはどうしたらいいのか?」対談をお届けしてみたい。
ヨコオ氏ならではの鋭い切り口、視点の面白さはもちろんだが、今回改めて見えて来たのは、発言を切り取られて、意図と違う形で発言がひとり歩きしてしまう「切り抜き発言の拡散」「まとめサイト」の問題や、「1%の不満でも、母数が100万人いれば1万人の不満になる」ビッグタイトル特有の運営の難しさなどなど。
塩川氏個人の問題に限らない、ネット社会全体の問題も見え隠れしているようにも感じられる対談となっているので、ぜひ参考としていただければ幸いだ。
「塩川さんはもうダメかもしれない」
──今回の企画の趣旨を簡単に説明しますと、塩川さんが独立デベロッパーとしてこれからゲームを作っていくにあたって、ユーザーから嫌われている状態をなんとかしたい……というご相談がありました。
そこで、“ネット上での立ち振る舞い”の上手さに定評のあるヨコオさんに、先輩としてのアドバイスをいただこうという話になり、本日お集まりいただいた次第となります。
ヨコオタロウ氏(以下、ヨコオ氏):
やめてください(笑)。すみません、実際にはネット上での立ち振る舞いを失敗し続けているヨコオです。よろしくお願いします。今日は、話すお題なんかもいろいろ考えてきたんですよ。構成とか、こういうことを聞こうかなとか。どうなるかは分からないけど、ひとまず考えてきました。頂いた塩川さんの資料も読ませていただきました。
その上で、僕の結論だけ言うと「塩川さんはもうダメかもしれない」。
一同:
(爆笑)。
塩川洋介氏(以下、塩川氏):
やっぱりダメですか……。
ヨコオ氏:
はい。ということで「この人はダメだ、もう治らない」。これがいちばん愛される結論になるんじゃないかと思います(笑)。
なので、今日は“塩川さんはもうダメだ”という場所に向かって話をしていこうかなと。
──今回の対談にあたって、「塩川さんの過去に問題になった発言リスト」をお送りしたじゃないですか。あれを見て、率直にどう思われました?
ヨコオ氏:
よくまとめましたね、これ。自分がこれをまとめられたら嫌ですもん。普通にへこみますよ?
一点、知らない方も読まれると思うので、先に説明をさせてください。僕が一番最初にディレクションをしたゲームが『ドラッグ オン ドラグーン』というタイトルです。
ちょっと変わったエンディングを作ったんですけど、それが原因で、2ちゃんねるでロッカーに入れられるアスキーアートを作られました。それが一番最初の炎上かな?
今回は、そういう過去の経験から「炎上の中でどうやって生きていくか」という話を塩川さんとさせていただければと思います。
これまでの塩川氏の発言が問題になった事例集
ヨコオ氏:
では早速、たくさんいただいているお話を伺っていこうかなと。
最初は2017年3月の事例ですね。
塩川さんがインタビューでユーザーからの意見を「外圧」と発言した結果、「批判や要望が外圧と思われるんじゃないか」という解釈がはびこって、それでバッシングを受けたと。なぜ燃えたのかは見れば分かるんですけど、塩川さんの本当の意図はどういうものだったんですか?
塩川氏:
『FGO』のユーザーさんはモチベーションがすごく高いので、当時は直接・間接を問わず、ユーザーさんからの要望や声が収拾つかないくらい届いていました。
とはいえ、それらの意見をすべて漏れることなくすぐに反映することは非常に難しいですし、仮に同時にユーザーさんの意見をすべて反映することができたとしても、必ずしもすべて反映することが「良い運営」に繋がるとは限らないのではないか……という思いがありました。
『FGO』のサービスを運営しながらより良いものにしていくためには、まだまだやらなければならないことが山積みの状態な中で、どのような優先度で対応していくかを取捨選択していく際に、
「『Fate』にとって良いと思うことを大事にする」
「今『FGO』を楽しんでいただいてるユーザーさんにとって、“より良い運営”と感じてもらえることをまずは優先する」
という考えを、判断指針にしていました。
つまり、「外圧」という発言は「要望の声が多い」即ち「すぐやりましょう」と運営するのではなく、サービスとして一番良いタイミングや内容を見ながら運営していきます、という意図の発言でした。
ただ、それを表現する言い方があまりにもよくなくて……。
ヨコオ氏:
よくないですね(笑)。
塩川氏:
実際、当時はX(旧Twitter)に貼りついてユーザーさんの反応を見ていましたし、リアルイベントでは実際にユーザーさんからの声もいただいたりもしていました。そこから「何に対してアクションを示していくか」という点について参考にさせていただいたり、アクションを示さずとも、「今起きている状況の把握」は常に行っていました。
ヨコオ氏:
それが「外圧に対して臆病にならず、自分たちの信じることをTYPE-MOONさんと一緒に貫いていきたい」という発言になったわけですね。TYPE-MOONさんを思いっきり巻き込んでる気がするんですけど……(苦笑)。
塩川氏:
もちろん、この発言は僕個人に100%責任があり、TYPE-MOONさんは関与しておりません。その点はTYPE-MOONさんにもご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳なく思っています……。
「『Fate』にとって良いと思うことを大事にする」というTYPE-MOONさんの方針を大事にして、それを貫いていこう!という思いがあったのですが、その思いが僕のなかで空回りしてしまい、結果的にあのような表現になってしまいました。
本当に、悪意を持って言ったわけではなかったんです……!でも、字面通りに「批判や要望を伝えることが外圧だと思われているんじゃないか」と捉えられて仕方ない発言だったと反省しています。
ヨコオ氏:
言葉の意図はユーザーさんに伝わってはいたんだろうけど、言葉選びがアグレッシブすぎますね。これが塩川さんにとっての初めての炎上なんですかね。
塩川氏:
自分が表に立ってからの個人的な炎上、という意味ではそうかもしれません。
ヨコオ氏:
確かに“外圧”って言葉にはトゲがあるんだけど、正直なところ「その立場なら僕も言っちゃいそうだな」とは思ったんですよ。『FGO』がユーザー規模の大きいタイトルだから、当たりがますます強くなっちゃっている感じはありますね。
そして、次は「挙句の果てに」という発言。すごい。これ、さっきのと同じ記事での発言じゃないですか。1度のインタビューで2度も燃えてますよ(笑)。内容は「第七特異点をクリアしてくださいと言い続け、挙句の果てにクリアした人に聖晶石まで配りました。どうしても参加してほしかったためです」とのことで……。
塩川氏:
私からことの経緯をお話しますと、まずTYPE-MOONさんから「エンディングをイベントに合わせて、リアルタイムでやりたい」というご要望がありまして。ただ、「エンディングをリアルタイムでやる」となると、それをそのままユーザーさんに事前告知するとエンディングの体験を損なうネタバレになってしまうとも考えました。
そこで、苦肉の策ですが「第七特異点まで何とかクリアしてくれ!(=メインクエストを最後まで進めてくれ!)」といろいろな手段を通じてユーザーさんに告知し続けていたんです。それでも、少ない割合のユーザーさんしかその参加条件を満たせていなかったんです。
けれど、どうしても最後までストーリーを読んでいただき、リアルタイムで一緒にエンディングを体験してほしくて、最終手段として第七特異点をクリアしてくださった方に石を配布することにしました。
当時の『FGO』には、「ついて来てくれる人にこそ、楽しんでほしい」という思想が根底にありました。やっぱり「ついて来てくれて、楽しんでくれている人」が楽しめるように運営していたので、すでに引退してしまった方や、『FGO』から離れがちになっていた方がある意味、サービスから取り残されてしまう形になっていたんです。
でも、このイベントではそういう方々とも一緒にエンディングを迎え、楽しんでもらえるようにしたい、という思いがありました。そのために様々な施策を用意し準備していたので、この発言では、そうした当時の思いや危機感が色濃く出すぎてしまったのだと思います。
──少し補足しますと、『FGO』はこの「リアルタイムでエンディングを迎える」という2016年年末のイベントが、ひとつの転換点だったんです。当時のスマホゲームが「いつでも遊べられます・いつでも始められます」といったことをウリにしていた中で、『FGO』は逆に「クリアしないと遊べません」という挑戦をしていて。
加えて、この施策は塩川さんというよりも、奈須きのこさんの意志なんですよ。「“ライブとかアニメの最終回を一緒に見て、みんなで盛り上がる”というような体験を『Fate』でやりたい」ということを『FGO』を作る直前のインタビューでおっしゃっていて、おそらくそれがやりたかったんじゃないかなと。
ヨコオ氏:
これ、怒られるかもしれないけど、僕の感想では「なんで燃えたのかが分からないな」というのが正直なところです。石を配ったというのも、「最後までやってほしくて、あらゆる手を尽くした上に、持ち出しで石を配ってでもやってほしかった」という“サービス”の話になるんですよね。
だから、ユーザーさん的にはそこまで害のある発言ではないとは思うんです。石をもらえているわけだし。当時の空気感はよくわからないんですけど、「外圧」発言があまりにも憎くて、これも憎くなった……とかですかね。