SNSは自己を表現する場所ではなく、試射場だと考えたほうがいい
──ヨコオさんは自身を「ダメ人間」とおっしゃられていますけども、とはいえX(旧Twitter)ではかなりうまく立ち振る舞われてるなと思っているんです。
ヨコオ氏:
やめてくださいよ(笑)。クレームもたくさん来ます。でも、みんなミュートしちゃいますし、見に行かない。
2ちゃんねるとかだと、叩かれてても見に行かなければいいだけの話ですよね。叩かれていい気分になる人はいないじゃないですか。ただ、SNS時代になると見に行かなくても、直接来るようになる。
でもミュートはいいですよね。今でも自分が何か投稿すると返信がついたりするんですけど、ミュートしてるコメントって表示されないんですよ。でも返信された数自体は出てくる。その時に「返信2だけど、表示が1。あ、誰にも読まれていないよく分からない悪口が闇に消えているのかな。フフフ……」みたいな暗い喜びを感じてますよ(笑)。
でも、誰かに文句を言いたい気持ちもわかりますし、文句を言う自由はあっていい。他人の人生を悪く言うつもりもないので、炎上を誘導するまとめブログみたいなものを一律で否定する気はないです。
ちなみに塩川さんはミュートやブロックってするんですか?
塩川氏:
まさに今日お話しした発言が問題になったときは、TYPE-MOONさんやライターさんたちからも「こういう声が届いているけど……。」と直接問い合わせを受けたりもしていたので、耳にしないということはありませんでした。
ただ、SNS等で日々寄せられるメッセージを全て真に受けていたら正気を保てないですし、次第に気にならなくなっていったという感じです。
ヨコオ氏:
真面目な話、僕はスマホゲームの炎上を直で経験しているわけではないし、『FGO』クラスの規模とも違いますから、「塩川さんの炎上対策は分からない」というのが正直なところですね。
少し話がズレますけど、炎上って「みんなが嫌う罪」と「そうでもない罪」があると思っていて。アイドルが不倫してると問題になるのに、落語家だとすぐに話題から消えたり、「ミュージシャンが違法薬物をやっていた」みたいな話って欧米だとよくある話ですけど、日本だと凄まじいバッシングを受けたり。
ある意味で炎上にも旬や価値みたいなものがあって、そこを見極めるのが重要な回避策になる気がしますね。自分の価値観はブレないけど、世間の価値観ってどんどんズレていくので、炎上の度合いは自分じゃなくて世の中の流れに左右されていきますし。
こういう、いわば“炎上コンサルタント”がいてもいいんじゃないですかね。「今はこれはやめておきましょう。逆にこれは行きましょう」みたいな(笑)。
──メディアの視点から補足しますと、炎上って大抵は経済的な合理性に比例しているんですよ。当時のまとめブログで『FGO』は鉄板ネタで、PVが取れるということで、『FGO』関連の炎上は「美味しいネタ」として扱われていたわけです。塩川さんの場合、その経済合理性があったゆえに、延々と擦られて、拡大されたという部分もありそうです。
ヨコオさんのおっしゃるとおり、その時代その時代で美味しいネタは変わってくるので、塩川さん(『FGO』の話題)は、「炎上商法的な稼げる経済圏」に放り込まれてしまったという背景もあったように思います。
ヨコオ氏:
個人的な経験則として「こういうのはやめたほうがいいな」というのはあります。とりわけクリエイターにとって、SNSは「自己を表現する場所」ではなくて、お客様の反応を見る「試射場」だと考えたほうがいいと思うんです。
だから、塩川さんは「世界で最大級に燃えた男」をウリにして、お客様の反応を探っていく方がいいと思いますよ。それがみんなの共通認識だから。
──なるほど。「世界で最大級に燃えた男がこう言っているのだから、一理あるかもしれない」という感じで、一定数のユーザーからは支持を得られるかもしれない……ということですか。
ヨコオ氏:
ただ強引にやっちゃうと、先ほど話に出ていた「ついてこれないやつは捨てる」理論と同じになっちゃいますね(笑)。いっそ諦めるのも手かもしれません。つまり結論は「塩川さんは炎上系YouTuberになる」。これですね。
塩川氏:
そういう生き方もありますか……。
ヨコオ氏:
でも、クリエイターとして「炎上してる」というのは贅沢な悩みでもありますよね。炎上できるほど知名度がある人って、そこまで多いわけでもないですから。
──レッテル貼りやイメージだけで叩いている人は多いので、ちょっとした細かい配慮で変わる気はする気もしますね。
塩川氏:
やはり「不用意に人を刺激するべきではない」ということでしょうか。
炎上だけの話ではないんですけど、自分の根底には「4点失っても5点取って勝てばいい」、「何かを犠牲にしないと何かを得られない」というような考えがあるのですが、そこに改善の余地があるのかなと感じました。そもそも「点を減らさない」、「人が不快に思うことをしない」など。
ヨコオ氏:
僕としてはもう「採れたての塩川さん」を活かした調理をしていくのがいいんじゃないかなと思います。それが良い形か悪い形になるかは分からないけど、別の形にはなると思う。結局、塩川さん自身の本質から反れることって難しいじゃないですか。
──話が少し逸れますが、ヨコオさんって定期的にゲーム関係の有意義な情報を公開されてますよね。あれってどういう意図なんでしょう?
ヨコオ氏:
昔書いたゲーム企画書サンプルとかですかね……あれは、「ゲームの企画書の書き方」みたいなのを聞いたこともない人が金とって商売にしてたのを見つけて。「就活で必死な学生さん相手にそれなくない?」みたいな衝動がきっかけだったんですよ。
だからサンプルを出して、書き方もプロセスも説明した……というのが発端です。何も知らない学生さんを騙しているやつへの報復みたいな怒りがありました。そこから先は流れでやっている感じがしますね。
──ヨコオさんのアウトプットを見てよく思うのが、書いてある内容のクオリティがすごく高いのに、「上から目線」じゃないことなんです。あの絶妙に「下手に出ている」感じはどのようにやられているのかが気になります。
ヨコオ氏:
さっきの試射といっしょで、「どのように受け入れられるか」という実験をしているところもありますかね。「内容が正しい」以外にも「読んでいて楽しい」はやっぱり必要じゃないですか。
僕は「シナリオの書き方」みたいな本を読み切ったことがなくて。「こんなつまらない書き方をするやつに教わることなんてない」という乱暴な理由でやめちゃうんですけど(笑)。
そういう怒りが根源にあって、楽しく説明を聞いていただくための方法を考えているという感じですかね。
──ヨコオさんの書き方って、自虐みたいな下からの方向性と、キャッチーなワードのセンスがあるじゃないですか。そこを両立できる方はあまり多くないと思います。
ヨコオ氏:
褒められすぎると炎上するのでやめてください(笑)。
炎上は防げないし、人間性を直すこともできないから、闇を受け入れてジョーカーになれ?
ヨコオ氏:
そもそも「クリエイターは表に出るべきなのか?」という話もありますよね。僕も正直、表に出るのは嫌いだけど、「ファミ通さんには出たけど電ファミさんには出ない」みたいなのも好きじゃないので、まあ出てるんですが。
こういう企画は気楽だからいいんだけど、自分が関わっている商品に関するものだと「ご期待ください」みたいな、つまらないことしか言えないじゃないですか。それも面白くない。
そういう意味だと、塩川さんは『つるぎ姫』で前面に出ていらっしゃるじゃないですか。そこには何か目的とか伝えたいことがあるんですか?
塩川氏:
積極的に表に出たいわけではないんですけど、まだ小さい会社ですし、何か強い武器があるわけでもない。その条件下で自分が表に出ることで、プラスマイナス含めて、少しでも関心を引くことができるんじゃないか……と思ったからです。
もちろん本質的にはモノを見てほしいですけど、知名度も信用度も追いついていない。今の状態で「モノを見てほしい」と言っても、誰にも見てもらえないので。
ヨコオ氏:
今のSteamやインディーゲームの界隈って、競合がすごく多いレッドオーシャンですよね。そこで戦っていくために「塩川洋介」という『FGO』で築いたブランドを使っておられるわけですけど。
でも、そこに『FGO』でのマイナス評価をリセットして「好かれたい」という気持ちと同時に、元『FGO』ディレクターのブランドを利用して『つるぎ姫』をプレゼンしたい、というちょっと矛盾した部分があるのかなと思ったんですが。
塩川氏:
本来であれば、「モノで勝負したい」という気持ちではあります。
ヨコオ氏:
徐々に色を消していきながら、今作っているゲームの評価を上げていきたいと。
ちなみに、スマホゲームに戻るつもりはあるんですか?
塩川氏:
今はインディーゲームがメインかなとは思っています。運営型のスマホゲームがイヤだという話ではまったくないんですけど。
もともと家庭用をずっとやってきて、『FGO』で運営タイトルをやって、「自分の好きなことをやろう」と考えた時に、インディーでアクションをやりたいなと。
ヨコオ氏:
『つるぎ姫』を売るために、『つるぎ姫』のスマホゲームをパッケージングするみたいなことも考えていない?
塩川氏:
今は考えていないですね。『つるぎ姫』自体をどうするか。いかに良い物をお届けするか、 というのが最大の目標だと思っています。
──そこをもう少し詳しくお聞きしてみたいですね。
ヨコオ氏:
なんでアクションなのか、とか。
塩川氏:
分解すると2軸あって、1つはやっぱり「誰にも何も言われずに自分の好きなものを作りたい」。企業に所属して作るとなると、自分の好きなものだけを作るわけにはいかない。なので、自分の会社では、死んだ時に後悔しないよう好きなことをやりきろう、と。
もう1軸は「アクション」と「キャラクター」に関わってきたキャリアが多くて。最初は与えられた仕事だったわけですけど、結果として「アクションとキャラが好きだ」ということに気づいたんです。そこから「キャラクターを魅せるアクションゲーム」を作ろうとなった経緯があります。
ヨコオ氏:
なるほど。そうなると、食べ合わせが悪い感じがしますね。「『FGO』で炎上した塩川さん」と、「地道に良いアクションゲームを作りたい塩川さん」は、ひとつのお皿に乗りにくい。どうしても『FGOの人』とは見られますから、そこをどのように改変していくかが問題ですね。
最初のテーマに立ち返ると「塩川さんが愛される人になるためには」というものですけど、これって「炎上しない」事も含まれますよね。これについて、以前から思っていることがあって。実は、そろそろ「炎上っていう文化が終わる」んじゃないかな、って事なんですけど。
今のSNSって“いいね”を集める文化みたいなものがあるじゃないですか。で、AIとかが普及するにつれて、「その人がどういう人間か」をパラメータ化して、マッチングさせる世界がすぐに来ると思うんですよ。つまり、「どう振る舞ったか」を問われる時代が来る。
たとえばですけど、知り合いでもない有名人にタメ口で話しかけるのって、「良くない行動」として相互評価されていくと思うんですね。そうやってSNS上での自分の評価を気にし始める。
個人のブランド化が各地で進んでいますけど、それをさらに高度化したというか、人生にとってプラスになったり、お金を生み出す時代が、もうすぐ来るんじゃないかなと。そうなると「叩きに行く」という行為がデメリットしか生まなくなる。結果的に匿名で喋れる場所も減っていく。
──なるほど。そうなったら、たしかに塩川さんのような人でも生きやすく(?)なる時代になりそうですね。
ヨコオ氏:
そうなんです。塩川さんは根が真面目で、ゲーム作りにも真摯なんだけど、言い方や言葉選びが圧倒的に悪くて反感を買ってしまっている。なので、最初は「時代は変わっていくから、塩川さんのやりたいことがやれるんじゃないですか」と言うつもりだったんですが……。
お話を伺っている限り、塩川さんは根っからのダメ人間っぽいので(笑)。僕も含めて、「塩川さんはダメ人間だった」ということがつまびらかにされたというのが今日の答えな気がしますね(笑)。
一同:
(笑)。
ヨコオ氏:
「部下にねぎらいの言葉がない」とかね、あれもまさに僕自身に言われているような言葉で。そういう人間は根っこがダメなので、社会がどうであれ悪評は消えていかないんですよ。
もう僕も塩川さんも無理なので、いっそ『バットマン』のジョーカーみたいな「ダメの極み」に行くことしか活路はないんじゃないかと。それが僕からのアドバイスです。ジョーカーになれ。
塩川氏:
ダメなところを隠すな、と。
ヨコオ氏:
そうです。逆に、そういうダメなところを拡大していくことが塩川さんの魅力になっていく気がします。
「炎上は防げないし、人間性を直すこともできないから、闇を受け入れてジョーカーになれ」が、今日の記事のシメですね。これでどうですか?(笑)。
一同:
(爆笑)。
塩川氏:
改めて、本日は貴重なご指導をありがとうございました。
ヨコオ氏:
こちらこそありがとうございました。楽しい記事になるといいですね(笑)。
のっけから「教えを乞われているのに“もうダメだ”と突き放す」というジャブ、いやストレートが放たれたと思いきや、「俺“たち”で反省する」という自虐っぷりも繰り広げられ、とどめには「炎上を経験した塩川氏に炎上系YouTuberになることを勧める」「ジョーカーになれ」という、本当にそれでいいのか? と思えるような着地。まさにフルパワーの“ヨコオ節”が炸裂した対談だったと言えよう。
塩川氏とヨコオ氏、このふたりには共通点がある。それは良い意味でも悪い意味でも、“どこか人間くさい”ことだ。
塩川氏のダメっぷりにため息をついた方もいるだろう。あのヨコオ氏が大量に同じ靴下を買い込む姿を想像し、何だかほっこりした方もいるはずだ。
確かにふたりは人をねぎらうことができないかもしれないし、ドレスコードのある店には入店できないかもしれない(今のところは)。
しかし一方で、両人ともクリエイターとして作品に向き合う姿勢は極めて真摯だ。それだけに、塩川氏の過去に“炎上”してしまった発言は、ある意味でその「真摯さ」の裏返しとして──「不器用さ」や「至らなさ」として表出してしまったものだったのではないだろうか。少なくとも本稿の読者には、塩川氏が決して悪意や悪気をもってそれらの発言をしたわけではなかったことは、十分に伝わったのではないかと思う。
“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか? 今回の対談で出たひとつの結論は、「ダメなところを隠さない」ということだ。『バットマン』のジョーカーまで突き詰めるのはなかなか難しいことかもしれないが、変に取り繕わず、ダメな部分もよい部分も含めて、その人自身を隠さずに明らかにすることは、好感に値することであるはずだ。
SNS上での「炎上」や「誹謗中傷」のニュースを日々見るようになった現代、個人的にはヨコオ氏が予想したような「どう振る舞ったか」を問われる時代が早く来てくれることを願うばかりである。