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『プロセカ』が描きたいものとは? もはや「丸ごとリニューアル」と化した3周年に合わせて、「プロセカが描こうとしているもの」を思い切って制作陣に聞いてみた

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 『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』、3周年おめでとうございます!!!

 ということで、『プロセカ』の3周年を記念して、開発チームのみなさんにインタビューを行ってきました。『プロセカ』は比較的最近リリースされたタイトルな気がしていましたが……なんと今年で3周年を迎えたのです。

 まさに、中学生が高校生になるくらいの時間が経ちました。ある意味、「コンテンツとしての節目」の年でもある3年目。そして、『プロセカ』はそんな3年目に「大型アップデート」を行うのです。

 一口に「大型アップデート」と言っても、いろいろなイメージが浮かぶと思います。たとえばUIが変わったり、キャラのビジュアルが一新されたり、3Dモデルが新しくなったり……。ひとつのゲームの中には、さまざまな「大型アップデート」を実施できる箇所があります。

「プロセカが描こうとしているもの」を思い切って聞いてみた_001

 ……が、『プロセカ』の3周年はその全てを大型アップデートしてしまいました。

 UIも、キャラのビジュアルも、3Dモデルも!
 なんと3周年に合わせて大きく一新されているのです!

 もはや「アップデート」というより「丸ごとリニューアル」の様相を見せている『プロセカ』の3周年。スマホゲームでこれほどのリニューアルを行うのは、中々に珍しい気がします。どうして、ここまで大規模なアップデートを3周年で実施したのでしょうか?

 今回は、そんな一新を迎える『プロセカ』の3周年について、開発チームの方々に詳しくお聞きしたインタビューとなっています。

 ゲームの開発・運営を担当しているColorful Palette代表取締役社長であり、本作のプロデューサー兼ディレクターである近藤裕一郎氏、セガのプロデューサーである小菅慎吾氏、そしてクリプトン・フューチャー・メディアで「初音ミク」の責任者として知られる佐々木渉氏の3名に、いろいろお聞きしました。

 そして2~3年目にかけて、ストーリーも大きな盛り上がりを見せています。そこで、「プロセカが描こうとしているもの」についても、より深くお聞きしました。「キャラの進級」という大きな転機を迎え、この物語は、このゲームは……どこへ向かうのか。技術面や運営だけでなく、「プロセカの根底にあるもの」もお聞きしたこのインタビュー、ぜひ最後までご覧ください。

「プロセカが描こうとしているもの」を思い切って聞いてみた_002

聞き手/ジスマロック・実存
撮影/佐々木秀二


プロセカの「周年楽曲」って、どう作ってるの?

──今回はたくさんの要素が一新される『プロセカ』の3周年について、いろいろお聞きしていきたいと思います。まず最初に、この1年を振り返ってみていかがでしょうか?

佐々木渉氏(以下、佐々木氏):
 プロセカが浸透したなーという安心感がありつつ、今までよりは安定した一年だったと思います。特にバーチャル・シンガー含め登場人物達の活躍がバランス良く広がることや、様々な展開も増えてきたなという実感もありますね。近藤さん小菅さんの御二方のアップデートの開発はとても大変だったと思いますが……。

小菅慎吾氏(以下、小菅氏): 
 流石に3年間運営している中で、平常時のドタバタ感などは減ってきた印象がありますね。開発メンバーも、3年間の運営の中でレベルアップしてきています。

 ですが、今回の3周年アップデートの規模の大きさは半端じゃありません。なので、「開発」という意味で最も忙しかったのはこの1年だったんじゃないかと思います……(笑)。

近藤裕一郎氏(以下、近藤氏):
 やはりサーバ負荷などを改善したことによって、コネクトライブを安定して開催できるようになったのは大きな成功だったと思います。

 ですが……それ以上に「3周年のアップデート」がとにかく忙しい1年でしたね。運営の忙しさも確かにあったのですが、「大きな開発をずっと続けていた」という感覚がありました。

 そして、実は3周年に合わせたアプリのリニューアル自体は、2年前から動いている計画だったんです。特に大きなトラブルもなく2年間しっかりとリニューアルの準備を進めることができたのですが……それでも「実装前の土壇場の大変さ」はすごかったです。

──そのくらいガラッとリニューアルするアップデートなのですね。

近藤氏:
 ただ、今回のアップデートは「今後も長く続けていくための、必要な見直し」という立ち位置だと思っていただければ。もちろんアプリをリニューアルした上でUIなども刷新されますが、それによってこれまでの『プロセカ』らしさがなくなるようなことはありません。

 どちらかというと、今から新しく『プロセカ』を遊び始めた方が「古いゲームだな」と感じないような作りにしたり、これから先も最新のタイトルとして運営していくためのアップデートとしての側面が大きいです。

 つまり、今回のアップデートでゲーム全体が劇的に変化するわけではなく、「正統進化」という感じの仕上がりになっていますね。

──ちょうど「アップデートの計画は2年前から動いていた」という話題が出たのでお聞きしたいのですが、そもそもこの「3年目で大きくリニューアルする」こと自体は『プロセカ』の初期段階から決まっていたのでしょうか?

近藤氏:
 そうですね。『プロセカ』のリリース初期から「3年目で大きくリニューアルする」ことは決めていました。やはり「運営型タイトル」は、いずれは衰退してしまうものではあるんです。ですが、「寿命を延ばす」ということは可能です。『プロセカ』も、そのための努力をしなければいけないと思っていました。

 そして、アプリを丸ごとリニューアルするような大型アップデートを運営の3年目で行っているアプリは他にもあまりなかったので……「これはやってみるか」という感じでしたね。

──確かに、運営型タイトルの「3年目」という節目で大型リニューアルを行うケースはあまり聞いたことがないですね。

近藤氏:
 とはいえ、海外のオンラインゲームだと意外とUIやシステムなどがリニューアルされたりするんです。なので、もしかしたら僕がそういったゲームをよく遊んでいることが今回の大型アップデートの参考になっているのかもしれません。

小菅氏:
 確かに、運営型タイトルの開発において他のオンラインゲームなどは参考になりますよね。中には、10年以上運営されているタイトルもありますし……それくらい長生きしているオンラインゲームの施策などは、スマホゲームの運営においても参考になったりします。

 それこそ大型アップデートの度に全く違ったゲームをひとつ追加してくるようなオンラインゲームもあったりしますし、スマホゲームの開発としても「あれくらいやらなきゃダメだよな」とは感じていました。

「プロセカが描こうとしているもの」を思い切って聞いてみた_003

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『NEO』セカイver.(作詞・作曲:じん)3DMV

──さっそく本題に入っていきたいのですが、3周年の周年楽曲として「じん」さんが作詞作曲を務める『NEO』が追加されました。なぜ『NEO』の作詞作曲をじんさんが担当することになったのでしょう?

近藤氏:
 「次の周年楽曲をお願いできるクリエイターさん」を考えた時、すぐにじんさんが浮かんできた感じでしたね。既に周年楽曲は『群青讃歌』でEveさん、『Journey』でDECO*27さんのおふたりが担当されていた中……そこに続いてお願いできる方の一人はじんさんだと思いました。

 結果的に「進級」という大きなイベントとじんさんが描かれる群像的なテーマを噛み合わせることができた印象があったので、3周年のテーマソングとしてとても素敵な楽曲にしていただけたと思います。

佐々木氏:
 周年楽曲にふさわしい大御所感のある方でありつつ、『プロセカ』の世界観を綺麗に切り取ってくださる方を考えると、やはりじんさんが良いのではないかと話していましたね。

近藤氏:
 『ステラ』の時もそうでしたが、じんさんはいつもバチッとはめてきてくださる印象があります。逆に、もう信頼感しかないような状態でしたね(笑)。

──『群青讃歌』や『Journey』も含めて、やはり周年楽曲は特別な印象を受けます。なにか開発チームの方から「周年楽曲はこんな感じ」というコンセプトなどがあるのではないかと感じているのですが、実際になにかあったりするのでしょうか?

近藤氏:
 「周年楽曲全体」というよりかは、その年に合わせた楽曲のコンセプトがあるようなイメージですね。たとえば『Journey』はDECO*27さんにお願いする際、明確に「あんまりハッピーな曲にはしないでください」とはお伝えしていました。

 「2年目は3年目に向けて大きな1歩を踏み出していく時期なので、これから大変なこともあることを感じられるような曲が良い」という意味合いでした。周年楽曲の制作はその1年間の展開をコンポーザーの方と共有しつつ、その年のイメージに合うような楽曲を目指して作り上げています。

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『Journey』セカイver.(作詞・作曲:DECO*27)アニメーションMV

佐々木氏:
 初音ミク16周年で、沢山のクリエイターさんにインタビューする企画があったのですが、ボカロPさんは皆『プロセカ』というタイトルそのものをかなり分析されているんです。

 たとえば過去にヒットした書き下ろし楽曲の傾向や、『プロセカ』のどういった部分を切り取ればファンに喜んでもらえるのかといった部分を、かなり多角的に分析されている方が多いですね。そして何年もタイトルが続いていく中で、ストーリーやキャラの情報といった『プロセカ』の分析できる項目自体も増えています。

 つまり、タイトル自体に「ボカロP側が分析できる余地、素材」がどんどん生まれていて、おのずと書き下ろし楽曲の完成度も上がってきているような印象を受けます。その素材が揃っている上で、じんさんのような感受性やセンスの高い方が書き下ろされると……もうすごい曲が上がってきますよね。

 過去のヒット曲や新たな切り口なども含めて、もう「ワンチャン狙ってやるぞ!!」という迫力がボカロPさんからもひしひしと伝わってくるというか……(笑)。

近藤氏:
 僕らとしては、「プロセカに書き下ろしても伸びないよね」という風潮にならなくて本当に良かったと思います(笑)。

一同:
 (笑)。

小菅氏:
 そういう点でも、じんさんが初期の書き下ろしで『ステラ』を上げてきてくれたのは大きかったですよね。良い意味で「上限を突破してくれた」と言いますか。

佐々木氏:
 少し前にかいりきベアさんとお話する機会があったのですが、「自分のファンが自分のオリジナル曲で盛り上がっている」ところと、「プロセカに書き下ろしてプロセカのファンが盛り上がっている」ところには少し距離を感じると考察されてました。

 より端的に言えば、「ファン層が少し違う」という感覚をボカロPさん側も感じているそうです。なので、そこに対する「自分のファンだけでなく、プロセカのファンに届ける曲づくり」はかなり意識されているそうです。

 やはりオリジナル曲と『プロセカ』の書き下ろし楽曲では、少し違ったファン層に対するアプローチや差別化をしていく必要があるのだと思います。

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プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2023公式サイト

近藤氏:
 先日開催した「プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2023」【※1】でも、通常のボカロ系の即売会とは全く違った層のお客さんが参加されている印象がありました。普段よりも、さらに若い層の方が参加されていましたね。親子で参加されている方もいました。

 『プロセカ』を経由してそういったイベントに参加してくれる方が増えているのはありがたいことですし、多くのボカロPの方にとってプラスになっていれば、より嬉しいですよね。

佐々木氏:
 ボーカロイドシーンにとって、確実に『プロセカ』が何かのキッカケにはなっていますよね。たとえば、「書き下ろし楽曲を書いてる作家さんが素敵だったから、過去曲を追いかけてみよう!」というようなきっかけで、音楽にハマっていくファンも多いと聞いています。

 加えて、これまでYouTubeチャンネルを持っていなかったボカロPの方が『プロセカ』で書き下ろし楽曲を作るにあたって、新しくYouTubeチャンネルをテコ入れする……というケースはよくお聞きします。

 それまでの曲を整理したり、そこから新しく曲を投稿していくモチベーションに繋がったり。『プロセカ』はただ「ゲームの音楽が増える」だけではないたくさんのキッカケや広がりを生み出していますよね。

※1「プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2023」
『プロセカ』が開催したリアルイベントのひとつ。「クリエイターとファンを繋ぐ」ことを目的とし、ボカロPによる音楽即売会とイラストレーターによる展示会が2日間に渡って開催された。

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進級と共に一新されるビジュアル。単に「進級した感」を出すだけではない意外な狙いとは

──ここからは3周年の大型アップデートに関することをお聞きできればと思います。具体的に、今回の3周年アップデートはどんな部分が変わったのでしょうか?

近藤氏:
 まず大前提として、そもそもアプリがリニューアルする……端的に言えば、アプリの中身が全部変わります。

 UI、演出、サウンド……ゲーム的な部分がまるっと刷新されますし、その上でキャラクターたちの制服や私服、街の中での会話もリニューアルされます。そのため、今回のアップデートに合わせたボイスの新録もいくつか行いましたね。

 ちなみに、進級によってクラス分けも変わります。9月には渋谷駅等に宮益坂女子学園と神山高校のクラス表をモチーフにした広告ポスターも貼っていました。

──やはりファンのみなさんが気になっていたのは、「キャラのビジュアルが一新される」という点なのではないかと思います。そもそも、なぜ3周年でキャラクターのビジュアルを一新するのでしょうか?

近藤氏:
 そこに関しては、まず広告やメインビジュアルとして使用するための『プロセカ』のパッケージアートを刷新する狙いがありました。というのも、これまでに使用されていたメインビジュアルや衣装などは4~5年前に描いたものなんです。そこから今に至るまで、やはり流行りのテイストや衣装のトレンドなどは大きく変わっていますよね。

 そして、こういった「メインビジュアル」はゲーム内だけでなく、広告やコラボなどの広い範囲で使用されるものです。もし『プロセカ』をプレイされていない方が目にした時に、パッと見の印象で「なんだか古いビジュアルだな」と感じてしまわないようにするためでもありますね。

──なるほど。「表に出る時の新衣装」としての側面もあるのですね。

近藤氏:
 ちなみに、この新衣装も当然3Dモデルを作ってあります。

小菅氏:
 端的に言えば「全員分の新衣装のモデルを用意する」ということでもあるので、かなり大変でしたね。

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──それぞれのキャラクターの新ビジュアルについて、なにか近藤さんの方から明確な指示やイメージなどはあったのでしょうか? 一口に「進級した感」といっても、そこを具体的に表現していくのは難しそうに感じます。

近藤氏:
 こちらからの指示はそこまで明確にはありません。
 『プロセカ』のアートチームは全員ストーリーをしっかりと読み込んでいるので、これまでのお話から受けたイメージを膨らませるような形で新ビジュアルを作ってくれました。日々のイラストの制作の中でも違和感のないものを作り上げてくれますし、アートチームの腕はかなり信頼しています。

 ただ、「進級を迎える」というイベントのイメージ自体はしっかりと共有していました。先ほどもお話した通り、このメインビジュアルはゲーム全体のイメージや各種広告に使用するものでもあります。そこで「進級」のイメージが少しでもズレてしまうと、本来推し出していきたい空気感とは全く違ったものになってしまいます。

小菅氏:
 僕ら(セガ)側は、そこから上がってきた新ビジュアルを3Dに起こしていくような流れでしたね。ただ、こちら側としては「進級した感」というより、「そこから起こした新しいモデルに合わせた新たな演出やMVなどを、どのように作っていくか」という点に注力していました。

 そもそも『プロセカ』は毎月違った衣装を実装するタイトルではあるので、今回の新ビジュアルのモデルに関してもその延長線上で実装していくことはできました。ただ、今回のアップデートはモデル以外の3Dの部分も大きく一新されるんです。背景、演出、ライト、エフェクト……。ここの「新しい3D部分」の答えを見つけていくまでに、1年半くらいの時間がかかりました。

 最初にセガ側で作り上げたものだけではまだまだ完成せず、そこからColorful Paletteさんのエンジニアさんにすごく協力していただきました。新機能を開発したり、「こんなシステムがいいんじゃないか」という逆提案をしてくれたり……。もちろん新ビジュアルはアートチームの方も頑張っているのですが、3D部分に関してはエンジニアさんたちのおかげでなんとか着地させることができました。

 これまではこちら側でどうにかできる部分もあったのですが、技術が進歩するにつれてMVの演出や表現などにもエンジニアさんの力をお借りする必要が出てきましたね。ゲームの作り方自体がだいぶ変わってきたというか……演出づくりにおいてもプログラム領域に詳しくなる必要が出てきたと思います。

佐々木氏:
 衣装も映像演出も完成度が上がっている中で、結果的にファンの皆さんにとっても、よりキャラクターがエモーショナルに映っているのではないかと思います。

 これらは、一般的なボカロの動画の良さや方向性とは、また違った裾野の広がりにも繋がっている印象です。バーチャル・シンガー達と関わり続けてきた自分としても、例えば「アイムマイン」の3DMVは、ファンにとって凄く視覚的に訴えかける力があり、シンガーを好きになる入り口として分かりやすく、良い流れを感じますね。

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『アイムマイン』バーチャル・シンガーver.(作詞・作曲:halyosy)3DMV

何百点近いプロセカの衣装を、全てチェックし直す……?

──先ほどからお話を聞いてきても感じるのですが、「運営型タイトルでキャラが一斉に進級する」ということはかなり大変なことなのではないかと思います。立ち絵やモデルなどもずっと使うものだからこそ長期的に運営できている側面がある一方で、それを一新させるとなると、すごい数の作業が発生してしまうのではないでしょうか。

近藤氏:
 いや、もう現在進行形(インタビュー実施日:8月23日)でヤバいですよね(笑)。特に大変だったもののひとつとしては、セガさんが担当している3D部分を含むアセット【※2】のボリュームだと思います。

※2「アセット」
ゲームに使用される、素材や部品を指す言葉。世界の背景や人間のモデルなどの、広い範囲の素材を指す。

小菅氏:
 もちろん3Dモデルなどの調整も大変だったのですが、それと同時に進行していたUIやメニューなどの「3周年から先を見越したアップデート」も大変でした。わかりやすく言えば、ゲーム全体のグラフィックスアップデートを行っていました。

 やはり3DMVだけでなく、今後も新たな演出などが必要になってきます。そのためのグラフィックスアップデートではあるのですが……その他もろもろのアップデートも同時に進行したことで、過去に類を見ない大型アップデートになっていますね。

近藤氏:
 正直、今回くらいの大型アップデートでも「2年前から進めれば大丈夫かな」とは思ってたんですよ。全然大丈夫じゃなかったですね。

小菅氏:
 もう……全然大丈夫じゃなかったです!

一同:
 (笑)。

近藤氏:
 流石に、過去の衣装モデルなどはあまりいじれてはいません。ですが、そもそものテクスチャ【※3】等を調整したので、これまでの衣装も全てチェックし直さなければいけなかったんです。何百点近くある衣装から、「衣装に対する影の落ち方」をひとつ取っても確認しなければいけませんでした。

 おそらく実際のアップデート後に感じるプレイ体験以上に、多くのアセットに調整は入っています……ということは、開発側としてはお伝えしておきたいですね(笑)。

※3「テクスチャ」
CGにおいて、物体の表面の質感を表現するために貼り付ける画像や模様のこと。

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──「3Dモデルの改良」についてもう少し詳しくお聞きしたいのですが、今回のモデルの改良はやはり新ビジュアルに合わせたものなのでしょうか? 「もしかしたら進級によって身長が変わるキャラがいるのかな?」と思っていたのですが。

小菅氏:
 そうですね。今回のアップデートで一部キャラの身長が変わっています。ただ、そこまで劇的に変化するわけではなく、「気づく人は気づく」くらいの変化ではあります。

 ですが、ここも中々に大変な箇所でした……。単に「身長を伸ばす」からといって、ただスケールを大きくしただけだと「他のキャラと並んだ時に等身がおかしい」「ひとりだけ顔が大きいように見える」といった問題がたくさん発生するんです。そこを少しずつ違和感のないように調整していきました。

──なるほど、身長を少し変えるだけでそういった問題も起きるのですね。『プロセカ』の3Dモデルはベースの完成度がすごく高いと感じていたので、少しでも調整するといろいろな部分を変える必要がありそうです。

小菅氏:
 そうですね。そのため、今回は3Dモデルのほとんどの箇所を見直す必要がありました。そして「完成度が高い」と言っていただけるのはありがたいのですが……開発側から見るとやはりカクカクしている部分はあったりするんです。

 今回のアップデートに関しては「わずかでもカクカクして見えてしまう部分は、まず全部直しましょう」という話を開発チーム全体にしていました。新ビジュアルでも近いお話が出ましたが、やはりこのモデルも4~5年前に作ったものではあるんです。

 そうやってモデルを作り変えていったのですが、今度は「作り変えたモデルに対して、衣装はどうしよう」という問題が発生しました。そのまま適用してしまうと、モデルが衣装を突き抜けてしまうんですよね……。

 現在は調整に調整を重ねてそういった問題はクリアしたので、おそらく大きなバグなどはない状態でリリースできると思います。ただ、今回は本当にこれまでで最大規模のアップデートとなりますので、プレイヤーのみなさんには少し優しい目で見てもらえると嬉しいです……。バグは発見され次第、必ず直します。

近藤氏:
 やはり今回のアップデートは、『プロセカ』というタイトルを長く続けていくための刷新でもあります。だからこそ、市場の最新タイトルと比較した上で3Dの品質も向上させていく必要があると考えていました。

 そしてビジュアルや3Dモデルだけでなく、UIに関しても3年経つと結構古く見えてきたりします。そもそもの使い勝手の面から考えても、「ここで一度ベースから作り直した方がいい」と考えていましたね。

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──しかし、これほど大きなアップデートとなると、ゲーム側にかかる負荷も大きく変化しそうな気がします。

近藤氏:
 今回のアップデートによるメモリの使用量や負荷などは懸念事項となっていました。ただ、チューニングの結果として推奨端末や対応端末はほぼ変えずに済んでいます。『プロセカ』は多くの方がプレイしてくれているタイトルですし、どれほど大きなアップデートになったとしても、そこに大きな影響を出したくなかったので。

プロセカのUIって、どんな基準で作られているの?

──ちょうど話題が出たので、UIについてもお聞きしたいです。具体的に今回のアップデートでUIはどのように変化するのでしょうか?

近藤氏:
 UIに関しては、画像の差し替えではなく構成そのものから全て調整しました。やはり、ここも「アップデート」というより「まるっとリニューアル」というイメージだと思っていただければ。

 パッと見のビジュアルも変わっていますし、「こういう機能が欲しかったけど、これまで実装できていなかった」システムも今回のリニューアルに合わせてシレっと実装していたりします。たとえば、ライブボーナスの消費量の設定がライブ開始画面で変更できるようになったりしていますね。

 そして、UIの刷新においても「新しいゲームだと思ってもらえる」ことが大きな目的となっていました。「最新のゲームに負けず劣らず、その時代のゲームだと感じてもらえるようなUI」はすごく意識していましたね。

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──アップデート以前から、『プロセカ』のUIやメニュー画面の配置などは完成度が高いと感じていました。なにか近藤さんの中で、「これはゲームの機能として良い、悪い」の明確な判断基準などはあったりするのでしょうか?

近藤氏:
 明確な判断基準を挙げるのは難しいのですが……たとえば、ユーザーがゲームを遊ぶ中で自発的に学習できるものに関しては、必要以上に丁寧な説明をする必要がないと考えています。

 もちろん、全部説明してしまえばそれはそれで楽ではあるんです。ですが、UIは情報量が少ないようにするのが個人的には正しいと思っていますね。

 あとは、「ダイアログを閉じるときに表示されている情報の外の部分を押しても閉じるように」したり……まぁ本当に細かい部分ではあるのですが、少し使いやすくなっていると思います。

プロセカが見据える「終わり」と「未来」。ストーリーにおいて「進級」はどんな役割を果たす

──ちょうど2年目から3年目にかけて、それぞれのストーリーもクライマックスに到達してきている感覚があります。特に「仮面の私にさよならを」などの展開は衝撃的でした。
 以前のインタビューでも『プロセカ』のストーリーはかなり先まで構成などを決めていることが語られていましたが、ああいった「まふゆが家出をする」などの要所要所の展開も事前に決めていった上で作られているのでしょうか?

近藤氏:
 「仮面の私にさよならを」の展開も、事前に決めていましたね。当然ストーリーを作っていく中で「ここはもうちょっと描きたい」という新たな展開が生まれることもあるのですが、やはり「ストーリーの終わり」までの展開などは大枠の構想として決まっています。

 3周年でも進級によってキャラの学年がひとつ上がります。この進級をするタイミングが、「ストーリーの折り返し地点」となっています。より端的に言えば、「半分は終わった」という状態ですね。

 そこからもう半分が終わった時にどうするのかは……その時の状況によると思います。まだ続けてほしいと思ってくれる人がいるのか、我々開発チームに書きたいものがまだあるのか……そういった部分を考えつつ、これからのストーリーを作っていきます。

──要所要所での展開も含めて、ストーリーの終わりはかなり見据えているのですね。

近藤氏:
 やはり『プロセカ』のストーリーは「終わりがある進み」をしているんです。既にエンディングは決まっていて、そこに向かってみんなの物語が進んでいます。

 たしかに、「いつまでも終わらない続き」を書くこともできると思います。でも「プレイヤーの皆さんが本当にそれを見たいか」「自分たちはそれを書きたいか」と考えた時に、やはりそれは難しい問題だと思いました。

──終わりがある進み方をしているからこそ、「キャラの進級」が用意されている面があるんですね。

近藤氏:
 キャラが段々と卒業に向かっていくことを「寂しい」と感じる方もいるかもしれないのですが、やはり一歩一歩進んでいくストーリーの作り方をしているからこそ、キャラクターは当然いつかは卒業もします。ここは『プロセカ』というコンテンツの特性として受け止めていただければと思います。

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近藤氏:
 『プロセカ』のストーリーは「物語を始めた以上、最初に描こうと決めたものは、絶対に描ききる」という方針で作り上げています。

 そしてその物語を一度描ききったあとに、その後のことを考えるべきだと思っています。その時にまだファンの方がたくさん応援してくれているのであれば、「これからどうするか」ということを考えたいと思っています。

 逆に、「人気があるから今の物語を引き伸ばすか」という話になると、それは誰も求めていないのではないかと思ってしまうんです。

 『プロセカ』のストーリーは時間やキャラも含めて少しずつ進んでいくことが特性でもあるので、そこをやめてしまうと僕らだけでなくユーザーの皆さんにとっても「求めていないもの」が出来上がってしまうと思います。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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