貸し借りしたくなる気持ちをより刺激し、愛も注ぎやすくなった「ポーンシステム」
──そのようなキーコンセプトとして大事にしていた「ポーンシステム」が、前作を遊ばれたお客さんにはちゃんと刺さったというわけですね。
平林氏:
だと思います。10年以上、本シリーズを好きでいてくれているユーザーさんのコメントを見ると、「『ドラゴンズドグマ』が持っていたゲームとしての体験や手触り感が良かったから」という理由が多く見受けられるんです。
先ほど伊津野が言っていた「冒険感」、「死ぬかもしれない感」ももちろん大切なんですが……ユーザーの皆さんは『ドラゴンズドグマ』の世界で味わった、「ポーン」を筆頭とする色んな体験をそれぞれ思い出として覚えてくださっているんじゃないかなと。
僕らとしても「このゲームが記憶に、心に残って欲しい!」と思いながら作っていましたから、本当にありがたい限りですよね。
──前作、ポーン愛のすごい方々がたくさんいらっしゃいましたよね。それこそ息子や娘のように愛でたり(笑)。
平林氏:
いましたねぇ(笑)。
伊津野氏:
実は僕もそのひとりなんですよ。前作にはスクリーンショットを撮る機能を入れているんですけど、自分が作った可愛い女の子のポーンを遠くからズームで撮影して楽しんでいたりするんです。ただ、遠くから撮ろうとしますと、LOD【※】でポリゴン数が減っている状態のポーンが写ってしまうのですけど(笑)。
僕自身もそういったことをしていますから、今回の続編でもより楽しんでもらうために気持ちを込めています。キャラクタークリエイトのパーツとしてメガネを入れるとかですね。
「ファンタジー世界にメガネってどうなの?」って色んな人から言われたんですけど、「ここは俺のワガママで入れさせてくれ!」って押し通しました(笑)。そういう僕のこだわりとかもふくめ、『ドラゴンズドグマ』を支持してくれている方が、この十数年の間も残ってくださったのかなと思いますね。
※LOD:Level of Detailの略。カメラからの距離に応じて3Dモデルのポリゴン数を制御し、場面における計算負荷を軽減する手法。
──今回は「スペシャリティ」というポーンの固有特技のような新要素がありますが、これもポーンに愛情を注いでもらうためという狙いからなのでしょうか。
伊津野氏:
まさにポーンが愛されるため、僕らが努力した要素のひとつですね。スペシャリティは「他のプレイヤーがポーンを借りたくなる要素」のひとつになるように設計しました。あとはポーンの個性付けも意図しています。いわゆる特技ですね。
今回、ポーンに関しては「面倒くさいことは全部やらせようぜ」というテーマを掲げているんです。というのも、僕自身がすごく面倒くさがりでして……そんな僕が面倒くさいと感じたことをスペシャリティとして当てているんです。ただ「それはさすがに自分でやりたい」っていう人もいますから、選んで習得できるようにしています。
平林氏:
あとはポーンの性格とか、色んな要素が前作以上に選べるようになりました。
伊津野氏:
性格自体は前作にもあったんですけど、ちょっと曖昧な感じだったんですね。そこを今回は大きく変えていまして、行動もそうですし、口調も変わります。
もっとたくさんの性格があってもいいと思ったのですが、分かりやすさを重視して大きく4つに分類し、そこから選んでいただきやすいようにしています。あと、声優さんにもそれぞれの性格に沿った演技をしていただきつつ、固有の台詞も用意するということをしていますね。
他にも今回は「バッジ」というのもあります。これはボーイスカウトのバッジと同じようなもので、着けている種類によって「そのポーンが何を得意としているのか」がひと目で分かるようになるんですね。もちろん借りる側のプレイヤーにとっては参考になりますし、自分のポーンを借りてもらうため、がんばって愛情を込めて育てていただくことも想定しています。そういう遊び方ができるよう、今回はポーン周りのシステムをすごく強化しました。
平林氏:
個人的に今作ですごく助かったのが、ポーンが手を挙げて道案内してくれることなんですね。まるで友達と一緒にプレイしているような気持ちになれるんですよ。
前作にも冒険を通してポーンが知識を蓄えていくのがありましたけど、今回はその進化版になっていまして、学んだ知識を元にクエストで道案内をしてくれたりするんです。本当にいたる所で助けてくれて、こっちとしても嬉しくなりますね。
──戦闘に限らず、冒険のあちこちでその持ち味を活かしてくれるんですね。
伊津野氏:
はい。「ゲームに詳しい友達が横に座ってくれている時のゲームプレイ」を今回は特に分かりやすく感じ取れるようにしています。前作でもそういう要素は少しあったんですけど、今回はポーンが身振り手振りで丁寧に教えてくれるんです。
道案内もそうですし、「何しているんですかー?」「あそこに宝箱がありますよ!」と、こちらに声をかけてくれたりして。ポーンの声や体を使った表現というのは、今作でもかなり頑張ったポイントのひとつです。
平林氏:
やっぱり、しっかり育てられたポーンだと借りたい気持ちにもなるんですよね。本作ではポーンの貸し借りをユーザーさんが頻繁にやってくださると、すごく盛り上がるだろうなと思っています。「このポーンはこんな能力を持っているんだ、じゃあ借りよう」「僕のポーンも借りてみて欲しいな」とか、そういったポジティブな気持ちになれるような要素には、今作で特に力を入れていますね。
伊津野氏:
特に今ですと、昔と違ってSNSに動画がバンバン上がるようになっているじゃないですか。あれで例えば、有名な配信者さんの動画に出ているポーンが自分のポーンであったりすると嬉しくなりませんか?
──それは確かにそうですね……!嬉しくなると思います。
平林氏:
前作が発売された10年以上前は中々ないことだったと思いますが、今ならそういうことも起こり得ますよね。それこそ「電ファミニコゲーマーのポーンも借りてみて!」なんて打ち出していただくこともできるんです。
伊津野氏:
前作の時はスクリーンショットだけで、ゲーム実況の配信者さんも今ほどメジャーな存在ではありませんでしたからね。だからこそ、今作のポーンにはそのあたりの夢があると思います。「ああ、俺のポーンが実況者の○○さんと一緒に冒険している!」とか「あの動画に出てるの、俺のポーンだ!」って盛り上がるのは、すごく楽しいだろうなと思いますね。
ときには思い通りに動いてくれないからこそ「親の顔が見てみたいわ~」と記憶に残る
──そのような個性付けに特技、ポーンに対しての愛をより注げる要素を入れて強化しつつ、パーティメンバーに関しては前作と同じ4人で増員はされていませんが、その辺りには何か理由があったのでしょうか。
伊津野氏:
これは分かりやすく、4人パーティがベストバランスなんですよ。自分自身と自分が100%操れるポーンの影響力が、パーティーのおよそ6割。残りの4割が他人のポーンによって与えられる影響力……という塩梅がちょうどいいんです。
プレイヤー自身とメインポーンの影響力が強くありつつ、他人から借りたサポートポーンの影響が一定あることによって、パーティ全体としては自分の思った通りに寄りながらも、少し思い通りとは言い切れないところもあるというか。そういう絶妙なバランスを取るのに、4人が一番いい人数なんです。
──すべてが思い通りにいかないからこその楽しさがあり、それがあるからこそのドラマが生まれるというわけですね。
伊津野氏:
そうです。そもそも、言ってしまえばポーンのAIを自分の100%思うがままに動かす方が簡単なんですよ。要はロボットのように作ればいいだけですから。AIはプレイヤーよりもゲームの中のパラメータが見えていますから、答えを全部知っていますからね。
でもそれをやってしまうと、ただの召使いロボットになっちゃうんです。そうじゃなくて、例えるなら「友だちのお子さんを預かって、遊園地に遊びにいく」ような感じにしたかったんですね。それで、そのお子さんが遊園地で思いもしない行動を取ったりするのを見て、「親の顔が見てみたいわ~」って思ってしまうようなものです(笑)。
だから、完全には思い通りに動かない方がむしろ愛おしかったり、感情移入できるんですね。そういう体験を目指していますから「いかにしてポーンの個性を際立たせるか?」というのが本作のAIをつくる上で重視したポイントです。「思い通り動いてくれる」とか、「賢い」といった面は意図して抑えている感じなんですね。
──確かに体験としても「○○さんのポーンをあずかったら、こんな大変なことになった!」となる方が、強く思い出に残りますよね。
伊津野氏:
その通りです。ポーンに限らず、「他人に話したくなる体験を作ること」は今回の『ドラゴンズドグマ 2』でも、ものすごく大切にしているところなんです。
平林氏:
自分のメインポーンはもちろん愛を注ぐ対象ですし、自分にとってはサポートポーンでも、他の誰かにとってはメインポーンとして愛を注がれている対象なんですね。
その愛を注がれたポーン同士を見せ合いっこしたり、「ちょっと借りてみてよ」「貸してよ」っていうコミュニケーションの発生がゲームの楽しみへと繋がっていくのが、前作からキープされているコンセプトのひとつなんです。
──お話を聞いていると、開発スタッフの皆さんは「発売後にどんな風に広がっていくのか」をすごく楽しみにされている印象があります。
平林氏:
本当にそこが今回の勝負どころですね。
伊津野氏:
まだ公にしていない仕込みもいっぱいありますから。ユーザーさんがどんな反応を見せてくれるか、すごく楽しみです。
平林氏:
2月1日に放送された「State of Play」で紹介されていましたが、例えば「竜憑き」というポーンにかかるステータス変化の要素もあるんですよ。
『ドラゴンズドグマ』のストーリーでは、“竜”という存在が大きな役割を果たしています。それが「竜憑き」としてポーンの貸し借りにも影響してくるんです。要素としてはスパイスのようなものですかね。美味しい肉も、コショウを一振りするとさらに美味しくなるじゃないですか。「竜憑き」はそういう立ち位置で、今作ならではのものになっています。
伊津野氏:
実は「竜憑き」は前作の時点で企画としてあったんですけど、最終的に省かれたんです。なので今回、やっと実現できたという感じです。
平林氏:
詳しい変化の仕組みは今の時点では言えないのですが……。今作のポーンという存在を描くにあたり、力を込めて制作した要素のひとつですね。
名曲「死闘の果てに」はアレンジ版を収録。前作の音楽に差し替えられるサウンドセットもあり前作ファンも嬉しい
──ストーリーに関しては今回、前作とは関連性を持たないパラレルワールドの設定になっていますが、前作の続きとしなかったのは、今作で初めて『ドラゴンズドグマ』を遊ばれる方を意識した考えからなのでしょうか。
伊津野氏:
世界のルールは前作と同じです。たくさんある並行世界のひとつ、前作の横隣りにあるような感じの設定ですね。
平林氏:
大まかな仕組みは同じなんですよ。どうして前作から引き継がなかったのかと言いますと、前作の世界とはプレイヤーの皆さんの中で完結していった世界なんですね。初代『ドラゴンズドグマ』には、皆さんの数だけ答えがあったはずなんです。
そこを我々が無理矢理立てつけてしまいますと、どこか歪みが起こってしまうユーザーさんがいるんです。なので今回はパラレルとして、あらためて楽しんでいただけるのがベストであると判断しました。
──なるほど。ストーリーに関しては、前作で小説家としても活動されている森橋ビンゴ【※】さんがシナリオ担当として参加されていましたが、今回の『ドラゴンズドグマ 2』にも引き続き、森橋さんが参加されているのでしょうか?
※森橋ビンゴ:『東雲侑子』シリーズ、『この恋と、その未来。』(ファミ通文庫)などを代表作とする小説家兼ゲームシナリオライター。現株式会社ナインストーリーズ代表取締役。カプコン在籍時代に『デビルメイクライ2』、『デビルメイクライ3』の企画とシナリオを担当し、以降の『デビルメイクライ』シリーズ、『ドラゴンズドグマ』にもシナリオとして参加。他のシナリオ参加作品(ゲーム)では『セブンスドラゴン2020』など。
平林氏:
はい。シナリオに関しては前作に引き続き、森橋ビンゴさんに参加いただいております。
伊津野氏:
シナリオの原案に関しても、僕と前作にもシナリオで参加された池原実【※】さんが担当しています。なので、泥臭いシナリオの路線や雰囲気はちゃんと継承されていますよ。
※池原実:スーパーファミコン、PlayStationなどで発売されたRPG『ブレス オブ ファイア』シリーズのシナリオ、ディレクターを担当したカプコン所属のスタッフ。他の参加作品で『ロックマンX8』、『イレギュラーハンターX』、『ブレイドファンタジア』など。前作『ドラゴンズドグマ』でシナリオを担当。
──あと、前作と言えば音楽も「死闘の果てに」をはじめ、ファンの間ですごく評価されていましたが……。
伊津野氏:
ああ……!「死闘の果てに」は僕自身もゲーム史に残る名曲だと思っていまして、今回も「死闘の果てに 2024」みたいな感じで入っています!あと、前作の音楽に差し替えられるダウンロードコンテンツもあります。
平林氏:
そうなんです。実はダウンロードコンテンツとして、ゲーム中の楽曲を前作の曲に入れ替えられる「ドラゴンズドグマ サウンドセット」というものをデラックスエディション版の方に同梱させていただいています。
もし、前作の曲が好きであるとか、懐かしいと感じられている方がいらっしゃいましたら、そちらの方をぜひご検討いただければと思います。
伊津野氏:
気分転換として時々入れ替えていただければ(笑)。
──まさにかゆい所に手が届くように配慮されているんですね……!
伊津野氏:
やっぱり前作にも名曲が多いですから。
平林氏:
『ドラゴンズドグマ』というタイトルが、コアなファンの方がすごく多いIPであることは我々としても肌に感じていますので、その辺りの仕込みは徹底していますね。
伊津野氏:
当然、今作から始めていただいても楽しめますが、前作を熱心にプレイしてくださった方が楽しめる要素もしっかり入っていますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。