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「やっぱ楽しいわ」鈴木達央が語る、フリー転身後と20年間の役者人生。

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「芸は盗め、でも物真似はするな」

──この後にお聞きしたいことと思っていたのが、まさにそのテーマでした。年齢とキャリアを重ねていくなかで演じやすくなったことや、当時は先輩として尊敬した人たちの年齢に自分が近付いていって、はじめて見えてくるようなことはご自身のなかであったりしますか?

鈴木さん:
うーん、それはまだ見えてないですね。21年やっていて、ようやく「ちょっとだけ引っかかったな」という感覚はあります。ボルダリングで指を引っかけるところにやっと行けた、みたいな。

それを一番感じたのが、2023年12月に放送した『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-Rhyme Anima+』ですね。
僕が演じている「開闢門鬼哭」のオーディションを受けたとき、先輩方がたくさんいらっしゃっていて。そのなかで、「やっと手にかかったな」と思えたことがひとつ。

あとは、『範馬刃牙』。僕は「柴千春」を演じているんですけど、2回目の登場シーンで刃牙に喧嘩を売らなきゃいけなかったんです。
それは「花山薫」という千春が信頼して尊敬して、魂を預けているような人からのお願いで「喧嘩を売って来てくれないか」と言われたからで、そうお願いされたら行くしかない。
そのために刃牙さんに「喧嘩しませんか」と。そのとき、今まで自分の中でやってこなかったようなアプローチをさせてもらって。

それを出したときに「ああ、やっと次の一歩に行けたな」と。自分がまごまごしていたところから、ようやく抜け出せた感覚がありました。でも同時に、「抜け出せた」ということは「ここから長いぞ」、ともすごく思うようになりました。

──近年の作品でも、ご自身の変化を実感されているんですね。

鈴木さん:
はい。すごく思い出深く残っている話だと、昔『聖闘士星矢Ω』をきっかけに水島裕さん(昴 役)や緑川光さん(光牙 役)と仲良くさせていただくようになったんです。

『聖闘士星矢Ω』はそういった関係がたくさん生まれた作品でもあります。そのときに榊原良子(メディア 役)さんもいらっしゃったんです。

「やっぱりめちゃかっこいいですね。グッと来ました」って僕が言ったら榊原さんは「まだまだなのよ。せっかく戦う作品なんだから私も、殴り合いがしたい」、「早く戦わせてくれないかしらねー?」とおっしゃられていて(笑)。

しかも、その後に榊原さんに「僕も年齢がまだまだ若造なので、榊原さんが出てらっしゃった作品を見ているんですけど。すでにもうたくさん戦われてるじゃないですか。それでもまだそういう風に思うんですか?」って聞いたんです。

──役者人生の今後に活きるご質問ですね。

鈴木さん:
そうしたら「年をとると技術経験は絶対に上がっていくから、できることが増えていくの。でも最近気付いたけど、できることが増えた変わりに、あのころの熱量や向こう見ずさみたいなフレッシュさが上手く出なくなった。だから、今はそれをもう一度出せるようになるのが目標」とサラッとおっしゃって。

その言葉が、今も稲妻のように記憶に残っていますね。
戦いができて当たり前の世界で、一周どころか二周回って、過去の自分が敵。
しかもそれをまだ越えようとしている。榊原さんのレベルでそれなんだって。

『Zガンダム』のハマーン・カーンなんて、ずっと録っているじゃないですか」と言っても、「聞き直したら、たまに悔しいと思っちゃうのよね」って。

──えっ!?

鈴木さん:
でしょう? ウソだろ!? って(笑)。

そんなことを当時聞いてしまっているので、自分が21年そこそこやったことなんて、なんとも思わないなって思うんです。

声優・鈴木達央インタビュー:フリー転身後、20年間の役者人生_010

──なるほど。そういえば、鈴木さんはもともと『特攻野郎Aチーム』を見て声優を志したんですよね?

鈴木さん:
はい。そうですね。羽佐間道夫さんや安原義人さんはやっぱり最高です。

安原さんはゲイリー・オールドマンの吹き替えでは欠かすことができない人だし、僕も今でもゲイリー・オールドマン主演のドラマなどを見たときに「なんでこのニュアンスが出るんだろう」とか「この声がパッと出るのはやっぱりすごいな」と思うんです。
しかも、当時と今って収録の仕方も全然違うはずなんですよ。本当にすごい。

ですので、僕は「まだまだ頑張ってます」とは胸を張って言えないんですよ(笑)。

──他にも、鈴木さんが若い頃に先輩や芝居を教わった方から教えられたことで、印象に残っていることはありますか?

鈴木さん:
養成所で教わっていた師匠の話が印象に残ってますね。

「日々の積み重ねというものが役に出る。それが役者なんだぞ。だから役者はなるものじゃないかもしれない。自分が思う役者像はこうだから覚えておけよ」と言われたことがあります。

でもこの話、僕はずっと意味が分からなかったんですよ。
「何でそんなこと言われるんだろうな」って。日々を生きていて、それが役になると。でも、役って「演じなきゃいけないもの」じゃないですか。

でも、今になってその言葉の意味が理解できた気がしています。随分前に言われたことでも、今になって気付くことってたくさんありますよね。

──今、実際にご自身の後に続く後輩にバトンを渡すという感覚はありますか?

鈴木さん:
後輩にバトンを渡しているというよりも、「このバトンをお前なりに作ってみなさい」という感覚はありますね。

当時、よく言われたのは、「芸は盗め、でも物真似はするな」という言葉なんです。
「物真似はしても物真似になるだけ。ただ、芸を盗むのは自分のものになる」ということをすごく口酸っぱく言われました。

自分がもらったバトンに対しては、「お前がここから背骨を作っていかないといけないんだぞ」と言われたことがあります。
鳥海浩輔さんや諏訪部順一さんといったお世話になっている先輩にも、そうやって教えていただきました。

「同じようにバトンの形は渡してやれるけど、自分で作ってごらんなさい」と。
この価値観が大事だと思いますね。

これは改めて感じていることですが、声優という職業のあり方も変化した状況で、柔軟に対応して、何かをやろうとしている後輩たちはすごいと思いますね。

──確かにこの10年で、声優業界を取り巻く環境も大きく変化した印象があります。

鈴木さん:
もちろん、芝居の話ではもっとキャリアを積んでこだわらなければいけないポイントもありますし、職人中の職人からの指摘や役者として乗り越えるべき課題はたくさんあります。

ただ、もう少しフラットに見た時に感じるのが「みんな、すごいな」って。

うーん、ちょっと違うか。「誰がすごい」とか「誰が優れている」とかではなくて。
その人にしかない個性や魅力はみんなに絶対あるし、それはこの記事を読んでいる方にも言えることだと思っていて。

ただ、それが社会に出たときに「突出して見えるか、見えないか」だけだと思うんです。

──考えさせられる話ですね。

鈴木さん:
何かに迷ったときは、改めて「自分のいいところってどこなんだろう?」ってちょっと立ち止まって考えるのもいいんじゃないかなって。

──鈴木さんって「いつからか、後輩の面倒見がすごく良くなった」と耳にしたことがあるのですが、何かきっかけがあったんでしょうか?

鈴木さん:
一番のきっかけになった後輩は島崎信長くんです。

それは、彼がとっても頑張っていたから。でも、別に今や俺なんかと比べ物にならないぐらいすごい役者になっていますから(笑)。

前に居た事務所の後輩だと、松岡禎丞くんですね。この2人は大きいかな。

少し違う方向で言うと、当時の事務所の子会社に所属していて、今は僕と同じように個人で頑張ってる村瀬歩くんもそうですね。
彼は頑張って何かを吸収しようとか、変わるためにどうしたら良いのか、といったことに対してとても真摯だったんです。

そんな姿勢を見て、自分ができることはしてあげたいなって。

声優・鈴木達央インタビュー:フリー転身後、20年間の役者人生_011

「いちばん光を当てたい人はボーカリストのタツさんですからね」

──これは鈴木さんの歌をずっと聴いてきた身として、興味と願望を込めた質問になります。これからチャレンジしたいことの中に、アーティスト活動は含まれていますでしょうか?やっぱり“アーティスト・鈴木達央”を望まれる声はすごく多いと思うんです。

鈴木さん:
実は、朗讀劇『極楽牢屋敷』の照明さんが、昔うちのバンドで照明をやっていた人だったんですよ。「タツさん、今日は明かりを付けますよ」って言ってました(笑)。

その人は「アーティストでボーカルをしている鈴木達央」しか知らないんですよ。
だから「芝居をしているところは初めて見ます」って。終わった後に、「どうだった?」って聞いたら「なんか意外とやりますねぇ」って(笑)。

──役者の鈴木さんを初めて見て、新鮮に感じたんでしょうね(笑)。

鈴木さん:
あはは(笑)。そんな彼が「最後にひとつだけ良いですか?」と、こんなことを言ったんですよ。

「タツさんのことは、どうしてもボーカリストとしてしか見れないんです。今日は役者・鈴木達央に照明を当てたけど、いちばん光を当てたい人はボーカリストのタツさんですからね」って。

「何かあったらいつでも行きます」とも言われて、「なんて言葉を出してくるんだ!?」と思いました(笑)。

声優・鈴木達央インタビュー:フリー転身後、20年間の役者人生_012

──それは……すごい。ちょっともう惚れてしまいますね。

鈴木さん:
「この野郎!」って感じですよ(笑)。正直、すごく嬉しかった。

──ありがとうございます。ここで皆さんには“アーティスト・鈴木達央”の復活の可能性はゼロじゃないよ、とお伝えしたかったので。

鈴木さん:
100%言えることは、「ゼロではない」ということです。

皆さんが僕に思っている希望や願望はひとしきり全部叶えたいと思っています。その上で、想像もしていなかったことにもチャレンジしたいなって。

これはボーカリストとしても言葉にしていたのですが、みんなで楽しめる場を作ることが僕の役目。そのために必死に頑張ることが僕の仕事だって。

この理念は何ひとつズレず、変わりません。楽しいことをやりたいですから。

──鈴木さんに対して、今だったらそういった声をどんどん聞かせてほしいということですね。

鈴木さん:
そうですね!ありがたいです。

そういえば、ハッシュタグを見たときに芝居の話より歌の話の方が多くて(笑)。それもそれで面白いなと思って。

言ってしまえば、自分のソーシャルメディアの自己紹介が全てなんです。
僕、プロフィールに“声優”って一言も書いてないですから。

──今、確認したら確かに書いてないですね。

鈴木さん:
「声の人です」って書いています。

芝居や歌。朗読、配信など声でやれることだったら僕はなんでもやりたい。そんな人です。だから、“声の人”なんですよ(笑)。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
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