礒部さんが解釈した「渋谷」が作られているのが『レナティス』というゲーム
──『レナティス』そのものについては、平野さんと神藤さんはどのような第一印象をお持ちになりましたか?
平野氏:
どうですか、神藤さん。「相当やっとるな」以外にどのような印象を受けましたか?
神藤氏:
……「相当やってるな」と。
平野氏:
同じじゃないですか!(笑)
神藤氏:
渋谷を舞台にしたゲームはたくさんあると思うんですが、各作品がそれぞれに解釈した「渋谷」を作っているので、礒部さんが『すばせか』にリスペクトがあったとしても、礒部さんが解釈した「渋谷」が作られているのが『レナティス』というゲームだと思うんです。
そこに僕らが作ったものが融合したら、面白いことが起きるだろうなというのが、第一印象としてありました。
野村氏:
まあ、ここまで素直に真正面から熱意をぶつけられているわけですから、成功してほしいと思うのは人の心として自然じゃないですか。
もし邪(よこしま)な気持ちがあれば、こんな風に正面から門を叩いてこないと思うんです。
──やはり、真正面からというのは珍しいケースなんですか?
平野氏:
そうですね。弊社でもあまり聞かないですね。
野村氏:
ストレートで素直なところがいいなと思いましたね。
──なるほど。街の景色って5年10年でけっこう変わっていくものなので、『新すばせか』と『レナティス』の渋谷にも違いがあるかと思います。監修をされているときに何か感じた部分はありますか?
平野氏:
『新すばせか』と『レナティス』って、街の景色だけでなく、そもそもの印象が結構違うんですよね。
『新すばせか』は明るい、昼間の渋谷のイメージで、『レナティス』はどちらかと言うと夜の渋谷のイメージ。さらにその中で、アニメティックな表現をしている『新すばせか』と、フォトリアルに寄せている『レナティス』という違いが大きく出ているかなと思いながら見ていました。
──昼と夜の違いですか。礒部さんとしては、夜の渋谷を描いてみたいという意識があったんでしょうか?
礒部氏:
『レナティス』に登場する魔法使いは抑圧されていて「人に素顔を見られてはいけない、陰に生きる存在である」というコンセプトがあったからですね。この設定があるので、『レナティス』は魔法使いが動く夜がベースになっています。
──渋谷を舞台とする『レナティス』と『新すばせか』では、どちらも実在店舗がゲームに登場していますが、お店の許可をいただくのは大変な作業かと思います。許可を取るための方法といったご相談は、礒部さんからスクエニさんにしたりはしたんでしょうか?
礒部氏:
最初のころは平野さんに、店舗の許可取りについていろいろ相談させていただいていました。
平野氏:
ただ、最終的には『レナティス』のほうが『新すばせか』よりも多くの店舗を実名で出していらっしゃいますから、礒部さんの頑張りだと思いますよ。
礒部氏:
『レナティス』のころと『新すばせか』のころでは、そもそも渋谷の建物やお店の数が全然違うので、一概に比較はできないのですが、そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。
ただ、そこについては、開発チームのみんなに協力してもらったので、僕以外の人たちの頑張りが大きいです。
平野氏:
『レナティス』であれだけのお店に許可を取るのは本当に大変だったろうと思います。
ゲーム制作の原動力は「みんなを喜ばせたい」気持ち
──続いては、礒部さんのパーソナルな部分についてお伺いできればと思います。礒部さんのゲーム作りにおける原動力というものはどこにあるのでしょうか?
礒部氏:
小さいころから、おもちゃを買わなくても「自分で作ればいいじゃん」と思っていました。自分で作ったものを友達に見てもらう、遊んでもらうことが楽しくて、今振り返るとその楽しさがモチベーションになっていたんだと強く感じます。
──そんな礒部さんの創作における芯の部分は、どういったものなのでしょうか?
礒部氏:
そうですね、僕が人生を通じて感じてきたのが、「個性を出したくても出せない人たちが一定数いる」ってことなんですよね。出る杭は打たれるみたいな。
今回の『レナティス』のテーマやコンセプトもそうなんですけど、「みんな個性を出していいんだよ、派手なことしていいんだよ」というのが軸としてあるのかなと思います。
あとは……やっぱり暗ーい感じの雰囲気が好きっすね。僕は陽キャに憧れてこの見た目になった陰キャなので。
一同:
(笑)。
──ちなみに、野村さんに初めてお会いしたときのき礒部さんは今と同様にピンク色の髪だったんですか?
礒部氏:
……だったと思います。
──となると、野村さんは驚かれたんじゃないですか?
野村氏:
『レナティス』にシナリオライターとして参加してる野島(一成)さんがX(旧Twitter)で「会うたびに髪の色が違う」って言ってたから、驚きはしなかったですね。
神藤氏:
確かに、リモート会議のたびに髪色が違ってた気が(笑)。
──礒部さんの髪の色は知れ渡っていたんですね。野村さんにもお伺いしたいのですが、野村さんのゲーム作りに対しての原動力はどういったところにあるんでしょうか?
野村氏:
真面目な話をすると、作りたいものって若いころからいっぱい積み重なって溜まっていくんですけど、ゲームってどう頑張っても形にするまでに数年かかるじゃないですか。
だから、アイディアの方が多い状態になるんですよ。今はそれを一生懸命消化していってるところです。
そして、クリエイティブな活動を続けている根本にあるのは「相手を喜ばせたい」という気持ちですね。
学生時代には授業中にマンガを描いて友だちに読んでもらったり、休みの日に紙にすごろくみたいなゲームを作って学校に持って行ったり。「自分の作ったもので、誰かが喜んでくれる」ということそのものが好きでした。
現代が舞台のゲームを作るからこそ「作りものでウソなのが嫌」
──せっかくなので、ゲーム制作にあたってのインプットについてもお聞きしたいのですが、礒部さんはどのように情報を取り入れているのでしょうか?
礒部氏:
「ここから吸収するんだ!」という意識はなく、日常的に「これ使えそうだなとか」というものがあったらメモをするようにしていて、日々ストックを増やしています。
野村氏:
映画はよく観ます。今日も観てきましたよ。
──ちなみに、今日は何をご覧になったんですか?
野村氏:
今日は『ミッション:インポッシブル/ ゴースト・プロトコル』でした。
──どのようなジャンルをよくご覧になるんでしょう。
野村氏:
色々と観ますね。いちばん好きなのはホラーです。ほとんどのサブスクに入ってるんですけど、どのサブスクでもホラーは沢山観てますね。
礒部氏:
おお。ちなみに何がいちばん好きですか?
野村氏:
とにかくずっと観ているから、タイトルをまったく覚えていないんです。家でDVDを整理してたら、同じタイトルが3本出てきたこともあったり(笑)。
覚えている範囲だと『フッテージ』かな。基本的には、POV系のフェイクドキュメンタリーが好きなんです。
礒部氏:
ああ~! いいですね!
野村氏:
最近は『トンソン荘事件の記録』なんかも観ました。
──フェイクドキュメンタリーがお好きなのには、何か理由があるんですか?
野村氏:
自分が作るゲームは現代が舞台になっていることが多くて、そこにも繋がるんですが、作りものでウソなのが嫌なんですよ。
この世に怖いホラー映画ってないんです。自分は「作り物だな~」と思いながら見てしまうので、何も怖くないわけです。
だから、フェイクドキュメンタリーのリアルっぽい感じが、求めているゾクゾク感を得られるんですよね。最近だと、『呪詛』とか『女神の継承』も凄く良かったな。
礒部氏:
日本のテレビ番組なんですけど、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』ってご存じですか? 一見するとバラエティ番組なんですが、じつはその先に衝撃的な展開が……という番組なんです。
僕はバラエティ番組だと思って見ていて驚いたんですが、面白かったですね。
野村氏:
へぇー……。今、そういう番組だってオチを知っちゃったけど……。
一同:
(笑)。
ゲームを作り続けるなら「クリエイティブのことだけを考えたほうがいい」
──礒部さんが野村さんにお会いした時、どのようなお話をされたんでしょう?
礒部氏:
そうですね……僕がゲームクリエイターを目指すきっかけになったのが『キングダム ハーツ』でした。自分の人生におけるキーパーソンと言いますか、憧れであり尊敬している野村さんですので、緊張して挨拶以上の踏み込んだ会話ができませんでした(笑)。
なので、アイスブレイクの意味合いもかねて、まずは、いちファンとして『FINAL FANTASY Versus XIII』をプレイしたかったという想いを伝えてみました(笑)。
僕自身、野村さんがクリエイターとしてどのような考えを持っていらっしゃる方なのかすごく気になっていたので、お話のなかで少しでも野村さんのお考えを感じ取れたらいいなと。
野村氏:
あの時は、そういうゲーム作りに関する話は全然しなかったですよね? 「意外と話しやすいでしょ?」って話をしたくらいだと思います。
──(笑)。野村さんから「話しやすいでしょ?」とは言われても、礒部さんは相当緊張されていたんじゃないですか?
礒部氏:
はい、緊張してました……。
──礒部さんにとって野村さんは、子供のころから憧れたレジェンドゲームクリエイターなわけですから、緊張もしますよね。ところで礒部さんって今おいくつなんですか?
礒部氏:
31歳です。
──お若いですね。皆さんから見ると、礒部さんのような若いゲームクリエイターはどのように見えるのでしょうか。
神藤氏:
やっぱり、バイタリティーはものすごいと思いますよ。
野村氏:
自分自身をふり返ってみても、30代がいちばんパワーが出ていましたからね。礒部さんにとってここから10年が大事になるのではないかと思います。
──野村さんが30代が大事とお考えなのは具体的にどのような理由からなのでしょう?
野村氏:
20代でいろいろと経験を積んでいると、30代のころには力がついていますから。そして徹夜できる体力もある。自分はもう老後ですから徹夜は無理です(笑)。
平野氏:
老後というにはまだ早くないですか?
神藤氏:
我々はもう定年間近ですからね。
野村氏:
「定年までゲーム何本作れる?」って状態だからね。30代は体力や熱量もあるし、これまでに自分が見てきたこと、経験してきたこともある。だから、一番濃密に作りたいものに取り組めるんじゃないかな。
──礒部さんのような若手クリエイターの方に「これはやっておいたほうがいい」というアドバイスがもしあればお伺いしたいです。
野村氏:
邪(よこしま)な感情が入りだすと、いいものを作れなくなっていっちゃうので、クリエイティブのことだけを考えたほうがいいです。
「クリエイティブを第一にしてやっていくんだ」という気持ち、「自分の実力で証明してやろう」と思い続けることが大事なんじゃないかと思います。
礒部さんには『レナティス2』を作っていただきたい
──本日はコラボに関係あるお話からないお話まで、いろいろお聞かせいただきありがとうございました。それでは最後に『レナティス』コラボを楽しみにされているファンの方に向けて、ひと言ずつお願いします。
神藤氏:
「渋谷」という街はゲームによって様々な描かれ方をしていて、『新すばせか』は「僕らが渋谷を作るとこうなる」を突き詰めたタイトルになっています。
僕自身としては「礒部さんが作った渋谷ってどういうものだろう?」ってところに興味があるので、早く『レナティス』を遊びたいですね。
『新すばせか』ファンの方々は、『レナティス』の渋谷に『新すばせか』の渋谷がどう絡んでいるのかを楽しみにしていただけたらなと思います。
平野氏:
僕はもうすでに『レナティス』本編とコラボ部分をちょっとだけ触らせてもらっているんですが、「これなら皆さんに楽しんでいただける」という内容には仕上がっていると思います。『レナティス』が気になっている方々は、そのまま期待して貰って良いと思いますね。
野村氏:
今回のコラボは、礒部さんの熱量から始まって、それを受けて我々もできることはすべて協力させてもらいました。中途半端なつもりでやってないというのは分かっていただけると思うので、これが世界中で受け入れられたらいいなと願っております。
『すばせか』ファンが『レナティス』を楽しんでもらえるといいですし、逆に『レナティス』から『すばせか』に興味を持ってくれる方がいたら嬉しいですね。
平野氏:
そうですね。『すばせか』シリーズも是非遊んでいただけたら!
礒部氏:
今回のコラボに関しては、皆さんにご協力いただいたおかげでメーカーの垣根を超えて、いいものを作り上げることができたと思いますので、非常に感謝しています。
『すばらしきこのせかい』という凄く面白いタイトルのいちファンとして、ファン代表として、こういう展開があれば嬉しいよねという思いで今回コラボさせていただいたので、それを楽しんでいただきつつ、ぜひとも『レナティス』で楽しんでいただけたらなと思います。
野村氏:
あとは、この作品がうまくいったら、礒部さんには『レナティス2』を作っていただきたいですね。そうすれば、もっといいことが起きるかもしれません。
──今回のコラボを受けて、野村さんの正面玄関を叩くクリエイターの方が増えそうだなとも感じますが、野村さんはどう思いますか?
野村氏:
自分がいる間にどんどん叩いてください。定年後のことはわかりませんが(笑)。
一同:
(笑)。
平野氏:
先ほど礒部さんの年齢のお話がありましたけど、31歳という年齢でプロデューサー兼ディレクターを務めて、これだけ熱意を持って弊社に声をかけてきてくれるというのは、本当に珍しいと思います。
遠慮されてるクリエイターの方もいらっしゃるかもしれないんですけど、やっぱりそういう意味で礒部さんは貴重な人材だなと。
礒部氏:
ありがとうございます!
──先ほどの野村さんの話にもありましたが、お金や地位だけでなく「いいものを作る」ことを追及して、いいゲームを作り続けていただきたいですね。
野村氏:
……まあ、お金は大事ですけど(笑)。
一同:
(笑)。
──それは誰も信じないと思います(笑)。本日はどうもありがとうございました!(了)
『レナティス』と『新すばらしきこのせかい』。家庭用ゲーム同士がメーカーの垣根を超えてのコラボが実現した裏側には、礒部氏の『すばらしきこのせかい』、ひいてはスクウェア・エニックスのタイトルに対する熱く濃い情熱があった。
その素直すぎる思いに、野村氏をはじめとする『新すばらしきこのせかい』開発陣が応える形で進められた今回のコラボは、『すばせか』ファンにとって「こういう展開があれば嬉しい」が詰められたものになっているという。
しかしながら、今回のコラボではスケジュールの都合で実現できなかったこともあるとのこと。少々気が早い気もするが、もし続編『レナティス2』の制作が実現したなら、今回以上に濃密なコラボを提案し、実現してくれるのであろう。
そういった意味でも、『新すばらしきこのせかい』とのコラボはもちろん、熱き思いでレジェンドクリエイターたちの心をうごかした若きクリエイターが世に送り出す『レナティス』に大いに期待したい。
撮影協力:渋谷ソラスタ スカイラウンジ