まずは、下の画像を見て欲しい。……これ、なんだと思いますか?
答えは『転生したらスライムだった件』の「巻物」。全長180cm、職人による手作り仕上げで、制作にかかる期間は1~3ヵ月ほど。状態によっては100年も綺麗なまま保存できるという。す、すごい……。
「『転スラ』大好きな人が作った特注品かな?」と思いきや、これがれっきとした売り物なのだ。一般で販売されており、約5万円と値段は張るが、誰でも購入することができる。
こうした異色の「アニメ×伝統工芸」グッズを大マジメに制作しているのがイービストレード株式会社。ラインナップには『進撃の巨人』の「掛け軸」(こちらも約5万円)などが並んでおり、伝統工芸というブランド、そして価格を見ると、素人目にもどことなく高級感を感じさせるところがある。
しかし、「5万円もするアニメグッズ、本当に売れるのかな……?」と思った方も多いのではないだろうか? そこで実際にお話をうかがってみたところ……
「反響が良いのと、実際に商品が売れるというのは違っていて……」
「5日間で30万人ぐらい来場する展示会に持って行って、反応はすごくいいんですが、実際には思っていたほどは売れなかったんです」
「『180cmもする巻物なんて、どこにどう飾ったらいいんだ』ってよく言われますよ(笑)」
……意外にも、気弱な返答が返ってきた。
とはいえ、「アニメ×伝統工芸」というテーマがキャッチーなのは間違いない。そして続けて話を聞いていくと、この企画の根っこには古くから続くイービストレードの“チャレンジ精神”があったのだ。
というわけで、今回はこの「アニメ×伝統工芸」グッズブランドである「ULTICO(アルティコ)」担当者の宮本氏と百瀬氏にくわしくお話をうかがってきた。どうやら「ギラギラのトランプ」に「クネクネのDVD」など怪しげなグッズを手がけてきた過去もあるそうだが、まずは本題の「どうして伝統工芸でアニメグッズを作ったんだろう?」というところから聞いていきたい。
「アニメ×伝統工芸」という異色のグッズ。どうしてその組み合わせになったんですか?
──イービストレードさんは「アニメ×日本の伝統工芸」グッズを制作されているということで、過去に見たことがない、大変面白い試みだと思います。さっそくですが、どういった経緯でこの組み合わせが生まれたのでしょうか?
宮本氏:
もともと弊社はOEM【※】でアニメグッズを受託生産する事業を行っていたのですが、昨年の夏頃に「自社ブランドも立ち上げよう」ということで企画が始まりました。
※OEM:メーカーが他企業の依頼を受けて製品を代わりに製造すること。
──かなり最近ですね。
宮本氏:
はい、アニメグッズ事業としてはかなりの後発組なんですよ。それだけに、「グッズと言っても今さらどんなものを作ろうか」という問題があって……。
今まで受託事業でアニメグッズを作ってきていましたから、同じ枠組みだとすでにさまざまな会社さんが取り組まれていて、人気コンテンツともなればほとんどすべての形態のグッズが出ている、というのがわかっていたんです。
いろいろとアイデアを出すなかで最終的にたどり着いたのが「伝統工芸品」です。ニッチなゾーンを狙うことで、新しく生み出せるものがあるんじゃないかという狙いもありました。
──おっしゃる通り、似たような商品が沢山ある中で、「アニメ×伝統工芸」というのは非常に個性的で、それが刺さっている部分があると思います。
そもそもの話としては、「アニメを題材にしよう」というのと、「伝統工芸をグッズにしよう」というのと、どちらが先にあったのでしょうか?
宮本氏:
先にあったのはアニメの存在ですね。我々が元々行っていたOEM事業では、出版社さんや映画関係のお客様が多く、日常的にアニメグッズに携わっていました。そこから伝統工芸というアイデアに繋げていったという形です。海外展開も視野に入れていたので、そのあたりの相性も良いのではないかと考えていました。
──実際に商品化されているタイトルが非常に著名なものばかりだったのも驚きました。『転スラ』も、『進撃の巨人』もそうですが、国内のみならず海外でも知名度の高い作品を取り扱われていますね。
宮本氏:
オリジナルブランドというのは我々としても初めての試みだったので、なるべくインパクトのあるタイトルを選びたかったというのがあります。
それに、「『進撃の巨人』のグッズです」って言うと、海外でもいちいち説明する必要がないんですよ。知名度の低いタイトルだと、作品のことから説明しなければならないため、そういった手順を省きたかったという事情もあります。
──現在は掛け軸、屏風、巻物という3アイテムを展開されていますが、この3種類にはすんなり決まったのでしょうか?
宮本氏:
すんなりとはいきませんでしたね。最初に思いついたのはお箸やお皿といった、より身近なものだったんですが、それでは少し弱いだろうということで。
こちらもインパクトを重視して、最終的に掛け軸や屏風といったラインナップになりました。
バズりはしたけど売上には繋がらず……こだわりが故の大変さも
──「アニメ×伝統工芸」という斬新な企画ですが、実際の反応はいかがだったのでしょうか?例えば、アニメ会社さんや版元さんに最初にお話を持っていった時などは。
宮本氏:
伝統工芸品を実際にデザインして持っていったら、みんなびっくりしていましたよ。「なにこれ、すごい!」といった感じで、すごくインパクトはあったみたいです。
他社さんで似たような例もなかったので、グッズを作るためのライセンスも比較的早めに取得できました。
──企画時のウケはとてもよかったんですね。実際に商品を発表して売り始めた時も、やはり反響は大きかったのでしょうか。
宮本氏:
反響はすごかったですよ。ただ、反響が良いのと、実際に商品が売れるというのは違っていて……
──なるほど、「バズりはするけど」みたいな。
宮本氏:
そうなんですよ。日本の伝統工芸品ですから、海外ウケもいいんじゃないかと思って台湾に持って行ったことがあるんです。 5日間で30万人ぐらい来場する展示会に持って行って、反応はすごくいいんですが、実際には思ったよりも売れませんでした。10本とか、そのレベルですね。
他にはアメリカにもアプローチしたのですが、結局、一番売れているのは日本ですね。
──失礼ながら、単価が高いっていうところもネックになっているんでしょうか。
宮本氏:
それもありました。いままでグッズを直接販売するという経験がなかった中で、「良いものは高くても買われるだろう」という目論見だったのですが、なかなかうまくはいかない、というのが現状です。
──実際に購入されている方というのは、どういった層の方が多いのでしょうか?
宮本氏:
年齢層で言うと少し高く、30代や40代の方が多いですね。そのあたりも踏まえて、マーケティングの方も工夫していかなければならないと思っています。
──伝統工芸ならではのこだわりのポイントというのはあるのでしょうか?ひとつひとつ手作りということで、同じ商品でも少しずつ仕上がりが違うといったような……
宮本氏:
イラスト部分に関しては印刷で表現していますから、そこまで変わらないと思います。
ただ、例えば巻物でしたら、生地には「京金襴」という反物を使っているので、巻物の両端の、切れ目の部分の絵柄は全部変わってきますよね。
こだわりの部分で言うと、そういった「生地には『京金襴』を使おう」とか、「巻物を入れる箱は桐箱にしよう」といったところにはこだわっています。
屏風の場合は、前面にイラストが見えるわけですが、背面には金箔を散りばめてみようとか。
──それは、すごいコストがかかっていますね……! 伝統工芸は作るのにとても時間がかかるイメージがあります。そういった面でも難しさはあるのでしょうか。
宮本氏:
ライセンスやデザインなど、すべての前提条件がクリアされて、そこからひとつの商品が出来上がるのに1ヵ月かかります。
そもそも、前段階の「色校正」の見本を作るのにも1ヵ月かかるんです。その後版元さんから「ここはNGなので作り直してください」と言われたら、そこから更に1ヵ月かかります。
そういった時間的な難しさは最初に直面したところで、人気絶頂の時に企画を開始した作品が、いざ商品を売り出す時になったらブームが下火になってしまっていた、ということもありました。
──なるほど、そう考えるとすごいチャレンジをされていると感じます。普通こういった企画って、ビジネス的にはなかなかGOサインが出づらいですよね。ちなみに、一番売れている商品はどれになるのでしょうか?
宮本氏:
一番売れているのは巻物ですね。ただ、巻物は180cmもあるので。「どこにどうやって飾ったらいいんだ」ってよく言われます(笑)。