2024年9月19日、18年前に発売された初代がリファインされた『デッドライジング デラックスリマスター』(以下、DRDR)が発売となりました。
本作は、大量のゾンビが押し寄せる大型のショッピングモールを舞台に、主人公であるフリージャーナリストの「フランク・ウェスト」の3日間を描くアクションゲーム。グラフィック面の一新や日本語吹き替えでのフルボイス化など、様々な要素が強化および追加されている正にデラックスなタイトルとなっています。
筆者自身も先日、本作を先行プレイさせていただいたのですが、そのデラックスな完成度の高さに度肝を抜かれることとなりました。
そして、あまりにも本作にドハマりしてしまい──、メールインタビューの機会をいただく運びとなりました。
今回インタビューしたのは、『DRDR』プロデューサーの川田 将央氏、 オリジナル版ディレクターの河野 禎則氏、 オリジナル版および『DRDR』アートディレクターの高松 聡氏 、『DRDR』ディレクターの村井 亮介氏の3名。
「なぜ18年もの時を経て初代『デッドライジング』をリマスターするに至ったのか?」から、本作に登場する魅力的なサイコパスの誕生、そして先日SNSで話題になったDLC衣装の数々についてなど、本作のファンならば気になる質問にお答えいただきました。
※本稿には『デッドライジング』、『デッドライジング デラックスリマスター』のネタバレが一部含まれます。
ジャーナリスト「フランク・ウェスト」や、本作に登場するユニークなアイテムの数々はこのようにして生まれた
──今回、初代『デッドライジング』をリマスターするに至った経緯とはどのようなものなのでしょうか?
川田 将央氏(以下、川田氏):
カプコンは多くのIPを保有していますが、最近リリースできていないタイトルも多く、様々なタイトルを再起動させることは我々の課題だったりします。
しかしながら、ゲーム開発も期間の長期化やコストの増大などリスクが上がってきており、プロジェクトを立ち上げるのもハードルが高くなっています。
そのような状況から、過去IPから優れたゲームデザインのタイトルを現代風にアレンジを施した「デラックスリマスター」の企画を立ち上げ、今回のデッドライジングの選択に至りました。
第1作の発売は18年前のタイトルとなりますが、河野や高松のようにオリジナルの制作に携わったスタッフもカプコンにはまだ多く在籍しており、立ち上げにあたっての問題点の把握や目指すべき方向性の設定もスムーズに行えたと思っています。
なんといってもゲーム画面を埋め尽くさん限りのゾンビが登場するそのインパクトは、現在においても通用するものと予想していましたが、開発が進んでいく中で確信に至りました。
──リメイクと表現しても差し支えないほどの出来映えになっていると感じました。デラックスと銘打っているとはいえ、あえて本作のタイトルに“リマスター”という言葉を用いた理由をお聞かせください。
川田氏:
敢えて“リマスター”という言葉を用いたのは先に述べたとおりですが、最近はリメイク開発もずいぶんハードルが上がっているように思います。場合によってはレベルデザインの再構築や素材の刷新が必要だと思いますし、ゲーム体験にも新たなアレンジが必要になると思います。
『バイオハザードRE:2』のリメイクが素晴らしかったのは、ゲームデザインを刷新したうえでオリジナルにあったゲーム体験を覆すことなく、多くのファンの期待に応えることができたことです。
これは結果として会社の期待以上の成果を生み、業界においても今や理想的なリメイクタイトルの代表といえるでしょう。
──なぜジャーナリストという職業を主人公にしようと思ったのかをお聞かせください。ジャーナリストという職業を主人公にしよう」という発想が先だったのか、それとも「スクープを撮影するゲームを作ろう」という発想が先だったのかも気になります。
河野 禎則氏(以下、河野氏):
やはりゲームとして一番面白いのは「圧倒的に大量のゾンビを前に、どう生き残るか……」です。
なので、ゾンビアウトブレイクがすでに起きた場所に主人公が飛び込んでいくというのが理想となります。
そんな場所にいくとしたら、軍隊、警察、そしてジャーナリスト。
軍隊、警察と言えば、カプコンのもう一つのゾンビモノである『バイオハザードシリーズ』と、ちょっと似たような感じになってしまいます。
なので、スクープを求め飛び込んでいくジャーナリストにしました。事件の真相を追う……という形でストーリー展開しやすいですしね。ジャーナリストといえばスクープなので、カメラで色々撮影できるシステムを入れたのですが想像以上にいい感じでした。
ただゾンビと戦うだけでなく、そこで起きる人間ドラマに注意を払い、記録していく……。
色々なものを撮影して、評価するというシステムを作るのは大変でしたが、撮影という行為を通して記憶に刻まれていく感じがよかったと自画自賛しています。
──本作は舞台となる大型のショッピングモールにちなんで、様々な種類のアイテムが登場しますが、登場するアイテムの数々はどのようにして決定されたのでしょうか?
やはり「マネキンだったらゾンビくらいは倒せるかな……?」などといった、イメージトレーニングが行われていたりしたのでしょうか。
河野氏:
倒す……というよりも、何を使ってゾンビと遊ぶと楽しいかを考えました。殺傷力重視にしてしまうと、殺伐とした感じになってしまいますからね。
もちろん、バールのようなものや、スコップ、スレッジハンマーのような、ゾンビと戦う時の定番となる日用品は入れるとして、お皿やCD、宝石、フライパンのほかに魚など、そんなもので戦えるの?みたいなものを採用していきました。
ショッピングモールにはさまざまな商品があるので、チョイスには困りませんでした。
ちなみに一番のお気に入りは「シャワーヘッド」です。
ゾンビの頭に突き刺すとシャワーヘッドから大量の血が噴き出すのですが、血があまり出ないと逆に凄惨な感じになってしまいます。
しかし、非現実的な量を噴き出させたら嘘っぽくなり、笑える感じになったかな……と。不謹慎ですが(笑)。
北米のE3ショーに出展した時、現地の人たちが大笑いしながら遊んでくれたのはいい思い出です。
──もし、ご自身がフランクのような状況に陥ってしまったとして、本作に登場する武器の中から選ぶとしたら、真っ先に何を手に取りますか?(刀や銃火器のような本来の用途が戦闘向けの物以外でお願いします)
村井 亮介氏(以下、村井氏):
いきなりゾンビパニックに放りこまれても、たぶん現実を直視できなくて楽観視してしまうのと、割と守銭奴な性格なので、まずはこっそり宝石(Gems)を拝借すると思います。(良くないですけどね!)
フランクは豪快に宝石をバラまいてゾンビを転ばせるのですが、自分だともったいないと惜しんでいる間にゾンビの餌食になりそうです……(笑)
──本作の公式HPは「ウィラメッテ・パークビュー・モール」を紹介する、言わば来場客向けに誂えられたもののような作りとなっており、かなり凝ったデザインになっていると感じました。
開発チームの中で、人気のあるロケーションなどがあれば教えてください。
高松 聡氏(以下、高松氏):
今作は原作をベースに「よりビリーバブル」で「より映える」世界観を目指しています。エントランスプラザはより現実的に、特にパラダイスプラザは海のリゾート地風にデザインを盛っています。
またRE ENGINEの光源処理による夕焼けや、夜景の電飾の雰囲気もおススメです。小ネタですが、守衛室の生存者達が使う小部屋は日毎に寝袋や生活用品が増えて行きます。
ゾンビ映画さながらのスリリングな体験も、ゾンビ映画のお約束をぶっ壊すこともできる
──本作は繰り返しプレイすること、いわゆる「強くてニューゲーム」を想定して開発されていると感じました。
本作の仕様上、ゲーム開始直後のフランクが弱い時期(Lv1の状態)と、繰り返しプレイしてフランクが強くなった時期が存在しているかと思われますが、フランクの成長状態に応じ、意図して楽しみ方を用意された部分などもあるのでしょうか?
村井氏:
ご推察の通り、レベルが低いうちはフランク自身が生き残ることもままならない状況ですから、生存者に出会ったとしても助けられないこともざらで、さながらゾンビ映画のような死と隣り合わせのスリリングな体験が味わえるようになっています。
その一方でレベルを上げて、モール内で起きる出来事やエリアの繋がり、アイテムの知識を身につけることで、完璧なタイムスケジュールでゾンビやサイコパスを片っ端からなぎ倒してあらゆる生存者を救出していくという、ゾンビ映画のお約束を自ら破壊するようなプレイもできるようになっていきます。
このようにプレイを通じて苦闘の苦しさが無双のカタルシスへ転じていくのが、今作の大きな魅力だと思っています。
──もしも引継ぎなしの状態でエンディングを目指そうとした場合、開発チームの目線から見てコツなどがあればすこしだけ教えてください。
村井氏:
3日間ヘリポート(開始地点)で過ごしていてもエンディングは迎えられるので、こうするのが正解というものは実はないのですが……。
強いて言うなら、人助けはフランクの精神面のみならず、肉体面での成長にも繋がりますので、生存者を見かけたら積極的に守衛室までエスコートすることをお勧めします!
──登場するキャラクターについてどうしてもお伺いしたいことがあるので、ここで個人的な質問をひとつだけさせてください。
カプコンさんのホラーゲームに登場する金髪美女たちが毎回どストライクなんです。本作に登場するジェシーなど、金髪美女に対するこだわりや描く秘訣などがあれば教えてください!
高松氏:
魅力的な女性キャラクターはグロテスクなゲームの世界観をより引き立ててくれます。
ただホラー演出はユーザーに身近で体感的であるほど効果が高いので、人物の設定も単なる造形の美しさだけではなく、肉のたるみや髪の乱れ、ニキビや日焼け痕などの、より生っぽいリアルな情報も加味しています。
あとは……好みですね(笑)。
意識したのは「フランクに人を裁かせない」こと。魅力的なサイコパスたちの誕生
──本作には「サイコパス」と呼ばれる個性豊かな敵キャラクターたちが登場します。
一口にサイコパスと言っても、本作には根っからの悪人や、悲劇的な事件に巻き込まれたショックで豹変してしまった者など様々な人物が登場しますが、彼らを描く際に最もこだわっている部分などがあればお聞かせください。
河野氏:
ゾンビものの醍醐味は日常が非日常になるところです。ですので、現実の世界に居そうな人たちを登場させました。
元は凄くいい人だったのに、過度なストレスで心や理性を失くしてしまった人。元から自分勝手で人を殺すことなど何とも思っていない人や、無法地帯になったことを幸いとし、元より心のうちに抱え込んでいた殺人欲求を満たす人など様々です。
気をつけていたことというと、「フランクに人を裁かせないこと」です。
身に降りかかる火の粉は払うのだけど、相手を悪人だと断罪し、処罰することはしない……。
むしろ相手に対し、悲しみ、とまどい、哀れみを感じたりしています。
フランクに止めを刺させたくなかったので、基本的にサイコパスは自滅して死んでしまう……といった感じにしました。
ゲームではどのボスキャラもサイコパスという呼び方をしていますが、本来の意味合いでの″サイコパス″的なキャラクターは、スナイパー父さんと長男や、婦人警官。あとは脱走犯くらいで、他は元々善人だった人や普通の人が多いです。
オリジナル版ではスナイパー父さんと長男だけでなく、弟も倒さなければいけませんでしたが……。今回のデラックスリマスターでは、弟は倒さなくてもOKに修正しました。
弟は家族に巻き込まれただけの可哀そうな子なので、修正することが出来てよかったです。
──日本語の吹き替えを担当された方の演技も相まって、特に印象に残ったサイコパスはピエロの「アダム」だったのですが、吹き替えのキャストを選出するにあたってのこだわりなどはあったのでしょうか?
村井氏:
吹き替えのキャストはオリジナル版の英語の演技のテイストを出すことを念頭に置いて選出しています。
特にアダムを始めとしたサイコパス達は、インパクトのある言動の中にもゾンビパニック下で狂気に支配されてしまった悲哀を滲ませる演技に仕上がっていますので、ぜひプレイを通じて楽しんでいただければと思います。
SNSでも話題になった″あのコスチューム″の数々はこのようにして生まれた
──デッドライジングと言えばユニークな衣装の数々ですが、DLC衣装を選出した際はどのような理由でコラボ先の作品が選ばれたのでしょうか?
川田氏:
過去IP掘り起こしの意図も含めて、今作では過去タイトルとのコラボ割合を増やすことにしました。更にコスプレ感を強調できるキャラを選択したかったので、並べると少し異様な陣容ですね。
気が付けばネタ枠が多くなりましたが、日本ではロックマン系、海外ではバイオ系(のネタ枠)が非常に受けていたように思います。個人的にはモールのマスコットである蜂をデザインした衣装がかわいくて無駄にデカくて気に入っています。
──作に登場するDLC衣装はまさかの『ロックマンエグゼ』でした。今回あえて『エグゼ』が選出された理由などがあればお聞かせください。
川田氏:
昨年販売した『ロックマンエグゼ アドバンスドコレクション』のプロデューサーを担当した際に、エグゼファンのパッションが非常に高かったことが印象的で、忘れられなかったからです。
当時エグゼを遊んでくれていた人たちなら、あらためてデッドライジングも遊んでくれるかもと思いましたし、改めてエグゼの濃密な世界観や洗練されたデザインなどに感銘を受けて今回の採用を決めました。おかげさまで、熱斗くんの衣装はネットでも大変評判(?)でしたね。
──最後に、オリジナル版からのファンの方々と、デラックスリマスターから本作に初めて触れるというユーザーの方々に向けてメッセージをお願いいたします。
村井氏:
まず、シリーズを愛し支えてくださったすべてのファンの皆様に、心から感謝いたします。
皆様の長年のご声援のおかげでこうしてデッドライジングを新しい形でお届けする機会を頂くことができました。
今作はグラフィックの一新やフルボイス化に加えて一部新要素の追加をしており、オリジナル版のファンの皆様にも新鮮な気持ちでお楽しみいただけますので、ぜひプレイしてみてください。
そして、初めて今作を知ったユーザーの皆様へ、今作はゾンビゲームの先駆けにして金字塔でもあるデッドライジングに各種リファインを行い、面白さはそのままに遊びやすくプレイできるタイトルとなっています。
この機会にぜひ、ジャーナリストのフランク・ウエストとしてゾンビがひしめくショッピングモールでの72時間の取材をお楽しみ下さい!
約18年前、オリジナル版となる初代『デッドライジング』が産声を上げました。リマスター作品となる『デッドライジング デラックスリマスター』においても、ファンの期待に応える熱量とクオリティで現代に蘇ったということが、今回のインタビューを通して感じることができました。
今回お伺いできたエピソードの中でも、特に印象に残ったのは河野氏が語った「フランクに人を裁かせないこと」というこだわりについてでした。
筆者が実際に本作を遊んでいる間は(生き残るために必死なのもあって)全くそんなことは考えずにプレイしていたわけなのですが、お話を伺った際にあまりにも自然と腑に落ちたのです。たしかにフランクは彼らを裁くのではなく、人間らしく「悲しみ、とまどい、哀れみ」を向けていました。
オリジナル版を丁寧にリファインするだけではなく、想像の斜め上をいくDLCなどで大いにファンを湧かせる本作。当時の思い出ごとリファインされたような本作を、筆者もまだまだこれから遊び尽くしていこうと思います。