『重戦機エルガイム』は、あの「3作」に影響を与えている?
寺田氏:
まぁ、今のところ「行き着くところまで行った」ロボットアニメは『イデオン』『トップ』『エヴァ』が有名どころだと強い気がしますね。
森住氏:
ちなみに僕は『重戦機エルガイム』【※】が外せません。
これも語るとすごい長くなるんですけど……(笑)。
李氏:
おぉ! 『エルガイム』も好きですよ!
とりあえず、ガウ・ハ・レッシィが良い。
森住氏:
レッシィはいいですよね。レッシィにしてもアムにしても、『エルガイム』はお色気シーンも印象的です。ちなみに僕は、前半のレッシィが好きですね。後半になると髪を切っちゃうから……(笑)。
ただ、逆に「髪を切る」ことがダバとの決別を意味してもいるので、設定的には良いですよね。そして髪の毛を切ると薄緑のセクシー要素も増えてくるから、そこも良い!
※「重戦機エルガイム」
1984年から放送されたロボットアニメ。原作と総監督を富野由悠季氏が務め、キャラクターデザイン・メカニックデザインを永野護が務めた。作中に登場する「ヘビーメタル」といった魅力的なメカニックデザインなどを含め、今もなおファンに愛される作品となっている。
森住氏:
『エルガイム』は「立身出世を夢見て出てきた若者が、実は王家の血を引いていて……」というサクセスストーリーに見せかけつつ、いろいろなところで政治的な問題に巻き込まれるのが面白いです。しかも、敵味方すべてのキャラクターの行動原理が、全部「男女関係」なんですよ(笑)。
男は女のため、女は男のために戦っているんです。本当に全員!
『エルガイム』はこの行動原理がビックリするぐらい統一されていて、レッシィなども「愛が故に」裏切ったりするんですよね。このままでは自分の好きな男を助けられないから、あえて袂をわかち、軍を引き連れてまた戻ってきたりする。
李氏:
ラスボスも男女関係ですよね。偽物のポセイダル(ミアン・クゥ・ハウ・アッシャー)も、本物のポセイダルが好きだからあんなことをしていたという。
森住氏:
そう、本物のポセイダルが裏切ってしまったがゆえに、綻びが生じるんですよね。
そこからのラストバトルでエルガイムMk-Ⅱがボッコボコに壊されてしまって、「もうダメだー!」と思ったところで、アムが初代主人公機のエルガイムMk-Ⅰに乗ってくるんです。そこからMk-ⅡのフロッサーでMk-Ⅰに乗り込み、Mk-Ⅱのバスターランチャーを掴んで飛び立つシーンにもう「ウオオオオオ──!!」と大興奮しました。
一番最初の機体かつ旧式でラストバトルに向かい、エネルギーの残量的にもランチャーは一発しか撃てない。その最後の一発を放って墜落していくまでの一連のドラマは、未だに僕の中では「ロボットアニメで一番感動したシーン」ですね。
寺田氏:
あれはエルガイムMk-Ⅰに乗り込むことで「ヤーマン王朝の遺産とも言えるヘビーメタルでポセイダルにトドメを刺す」という設定的な意味合いをクリアしつつ、しっかりMk-Ⅱのバスターランチャーも使っているのがすごいと思います。
大体のロボットアニメって前期主人公機は後期主人公機より目立たなくなりがちですから、それを打ち破ってるのも上手いですよね。言うても『重戦機エルガイム』の主人公機は、「エルガイムMk-Ⅰ」ですから。
あとは、君がよく言う「サブタイトル」ね……。
森住氏:
そう、最終話の「ドリーマーズ アゲン」ね!
『エルガイム』は1話のサブタイが「ドリーマーズ」で、最終話が「ドリーマーズ アゲン」と被せるような形になっているんです。要するに、1話では「夢見る若者たちの物語」という意味だった「ドリーマーズ」という言葉が、最終話の頃には意味が変わっているんですよね。そのサブタイの美しさ!
この「最初のタイトルが、最後にもう一度来る」という演出そのものが好きで、後に僕が関わったゲームでそれを真似した演出があったりします(笑)。あれは完全に『エルガイム』の影響ですね。
──森住さんは相当『エルガイム』の影響を受けているんですね。
森住氏:
そうなんです。そして、『エルガイム』は「ダバが誰を選ぶか」という点でもビターエンドになっています。この終わり方は、後の富野監督の『∀ガンダム』『ブレンパワード』『キングゲイナー』に影響がある……というか、この3作って全部『エルガイム』の要素が入っていると思うんですよ。
それこそ『∀ガンダム』【※】のラストは、僕の目から見ると『エルガイム』のラストと同じなんです。その上で、『エルガイム』のラストで感じた「ここまで成し遂げた人が、そうなっちゃうの!?」という違和感を完璧に昇華させたのが、『∀ガンダム』の終わり方だと思ってます。
最後に「ロランが選んだ道」は、よくよく考えるとダバと同じ道を選んでいます。……なんだけど、ロランとダバには「待っている人」という大きな違いがあって……。これに関しては、とにかく『エルガイム』と『∀ガンダム』を見てください。意味が分かった人は僕と飲みましょう(笑)。
一同:
(笑)。
※「∀ガンダム」
1999年に放送されたテレビアニメ。総監督を富野由悠季氏が務め、メカニックデザインをシド・ミード氏、キャラクターデザインを安田朗(あきまん)氏、音楽を菅野よう子氏が務めている。主人公機「∀ガンダム」の特徴的なフォルムや、「黒歴史」という固有名詞など、今もなお多くのファンの心に残る作品となっている。
『超力ロボ ガラット』って、実は偉大な分岐点?
森住氏:
ちなみに、李社長は「今の仕事に影響を受けているアニメ」などはあったりするんですか? やっぱり『ガオガイガー』とかになるんでしょうか。
李氏:
いや……そこまでではないですね。
ただ、人格形成くらいはあるかもしれません。
寺田氏:
そっちのほうがヘビーじゃないですか!?
森住氏:
それはもうほぼ凱兄ちゃんっていうか……エボリューダーになってるじゃないですか!
李氏:
嬉しい!(笑)
ただ、中国に住んでいた私の場合は、少なくとも90年代の末期までは「ロボットアニメをリアルタイムで見る」という経験はありませんでした。だから、リアルタイムで追ってきたみなさんとはだいぶ心境が違う部分はあるかもしれないです。
そして日本のアニメが輸入されるようになってからも、「放送形態」が日本とは違ったんです。基本的に「既に日本では放送が終わったアニメ」が入ってくるから、毎週1話ずつ放送されるのではなく、1日に1話ずつ放送されたりするんです。
だから、日本では1年かけて放送されていた作品も、我々にとっては2ヶ月くらいで終了する作品だったりします。
そういう違いがあるから、日本と中国では、ロボットアニメを視聴している時に味わう時間の感覚や思考のプロセスが若干違うのかもしれないですね。
森住氏:
じゃあ、さっき話題に出た「次の放送を1週間待つ」みたいなのはあんまりなかったんですね。
李氏:
気になっても、次の放送は明日の17時ですね。
そして、当時放送されていたもので印象に残っているのは『魔神英雄伝ワタル』【※】と『宇宙の騎士テッカマンブレード』ですね。『ワタル』にハマると、大体の人がオタクになっちゃう!
寺田氏:
『ワタル』と『テッカマンブレード』は日本と中国での放送がかなりズレていて、実はあっちだとかなり人気が高いんですよね。
森住氏:
この『ワタル』の成功によって、『覇王大系リューナイト』や『魔動王グランゾート』といった、いわゆる「ディフォルメタイプのロボット」が流行り始めるんですよね。そして、ここもひとつの「世代の分かれるポイント」なのかなと。僕らと「ディフォルメが好きな世代」は、かなり明確に世代の差がありますよね。
そういうデザイン上で大きな変更が生まれた時に、世代のラインが生まれるのは結構面白いと思います。
寺田氏:
「初めて見たガンダムがSDガンダム」という世代が、まさに今の30代あたりですから。
よく「僕の初めて見たガンダムには目玉がついてました」と聞きます。
※「魔神英雄伝ワタル」
1988年から放送されたテレビアニメ。和のテイストを取り入れた独特な世界観を持ちつつ、コミカルな雰囲気のストーリーが描かれている。現在では「SD」と言われる、「顔から手足が生えたような造形」の「魔神」のデザインも特徴的。現在でも新作の展開などが行われており、ファンの熱量も高い。
寺田氏:
ディフォルメタイプロボで言うと、『超力ロボ ガラット』【※】が外せないと思います。
つい最近まで『ワタル』世代の人は、『ガラット』も好きなのだと勝手に思い込んでいたんです。でも、『ワタル』世代の人にとっては『ガラット』はひとつ前の作品だから、知らない人がいるんですよ。
僕ら世代にとっては『ガラット』がディフォルメに近いタイプのロボットだから「ガラット好きだよね?」と聞いたら、『ワタル』世代の人に「ガラット?いやわからないです」って……。
※「超力ロボ ガラット」
1983年から放送された、テレビアニメ。当時の世相などもあり、「コメディ」の側面がかなり強い作品。「ずんぐりとした体型のロボットが、長身のスーパーロボットになる」という異色のメカ描写が特徴的でもある。
森住氏:
僕はすごい好きなんですけど、『ガラット』はやっぱりマニアックですよね。
今の話を聞いて、「やっぱりガラットそういう立ち位置なのか……」と思いました(笑)。
寺田氏:
「隠しきれない 退屈に 今 WE SAY GOOD-BYE」じゃないの!?
森住氏:
「COME ON!」(カモォ~~~ンヌ)でしょ!(笑)。
「WELCOME TO THE GALATT」なのに! 来いよ!
寺田氏:
でも、個人的には『ガラット』があるから後の『ワタル』に繋がっていると思います。
あの作品は玩具的にもサンライズの「無敵ロボ」シリーズから来ている「勇者」シリーズと、『ワタル』系の偉大な分岐点なんじゃないかなと。それこそ「ガラット」は、大河原邦男さん【※】がデザインされていますから。
※「大河原邦男」
メカニックデザイナーの大河原邦男氏。『ヤッターマン』などのタイムボカンシリーズや、『機動戦士ガンダム』『装甲騎兵ボトムズ』などのメカデザインを担当し、「メカニックデザイナー」という職種を社会に認知させた伝説的デザイナー。
森住氏:
『ガラット』は、最初は『ロボコン』みたいな体型のかわいいロボットとして出てくるんですが、それが逆さまになってパーツを展開すると、一気に「ダイターン3」や「ダイオージャ」のようなスーパーロボットになるんです。しかも大河原さんがデザインされているから、その形態がすごくカッコいいんですよね。
そのギミックを駆使した「最初はコミカルな展開だったのに、ガラットが出ると急に昔のロボットアニメみたいなノリになる」というストーリーを展開していて、あれがすごい好きだったんですが……なんか途中でその路線をやめてしまって。
寺田氏:
だから『ワタル』世代の人にも『ガラット』を見て欲しいですね。ディフォルメロボ世代と僕ら世代を繋ぐ作品だと思いますので。
森住氏:
どいつもこいつもワタル!
なぜだ! なぜ『ガラット』を認めねえんだ!(笑)
寺田氏:
ただ、さっき森住君が言ったように、やはり「決定的な世代の差」は存在するんですよね。だから「僕らにとってのガンダムはSDガンダムです」と言われた時に、「そこの世代の差は否定しちゃいけないな」と強く思いました。
森住氏:
ちなみに、李さん的に「ディフォルメとリアルスケール」の違いはどうなんでしょう?
李氏:
実際、最初に触ったのはやっぱり「SDガンダム」だと思います。
「ガチャポン戦士」とか。
寺田氏:
やっぱり! これからは、ディフォルメがリアル等身になる「ガラットタイプ」の時代が来るかもですね。
森住氏:
え? 『ガラット』ってなんですか?(棒読み)
寺田氏:
だからあれは「偉大な分岐点」だって言ってるんだよ!!
一同:
(笑)。
寺田氏:
それこそ『ガンダムビルドダイバーズトライ』にも、ディフォルメの機体が登場していますからね。
李氏:
しかもリアル等身にも変形するし。
森住氏:
「ガラットタイプ」だ……!
やっぱりいろんなところに『ガラット』は息づいてるんですよ……!
──近年の作品だと、『グランベルム』もディフォルメタイプのロボットでしたよね。
寺田氏:
『グランベルム』は一部変形もしつつ、ずっとディフォルメタイプのロボットでしたね。
森住氏:
そうなると、『装甲騎兵ボトムズ』【※】の「AT」はリアルタイプなのか、それともディフォルメっぽいなにかなのかが、ひとつの議題として上がってきますね。ATのバランスって結構神がかり的で、ガンダムのようにスラっとしたタイプではないけど、「ディフォルメ」というほど縮こまってもいない。
※「装甲騎兵ボトムズ」
1983年より放送された、テレビアニメ。アストラギウス銀河を二分するギルガメスとバララントの「百年戦争」の末期を舞台とし、ストーリーが展開される。ハードな世界観や描写に加え、兵器然とした「アーマードトルーパー(AT)」の存在など、今もなお語り継がれる作品となっている。
李氏:
ATに「SDっぽさ」を感じるのは頭がデカいだけじゃないですか?
森住氏:
そもそもAT自体が「攻撃と機動のための直立一人乗り戦車」ですから、頭の大きさはあると思います。あれから、リアルでもディフォルメでもない「ボトムズ的なスタイル」が確立されていったような気も……。
寺田氏:
その影響は確実にあると思います。まずATで「人の顔……目鼻を持ったロボットが当たり前のところに、カメラが3つあるだけ」というロボットを登場させ、その後に目鼻どころかカメラアイも存在しないロボットを『太陽の牙ダグラム』で出していますから。
森住氏:
そうだ、『ダグラム』があった。
あれはもうほとんどヘリコプターのキャノピーになっていますもんね。
寺田氏:
あの「人型から外したライン」で言うと、「キングゲイナー」【※】がすごいんですよね。キングゲイナーはあきまんさんのデザインがあまりにも秀逸で……ロボットのお約束をいい意味ですべて外しているのに、ちゃんとパッと見でカッコいいんですよ。
まず目鼻がないし、髪の毛も生えている。あれをパッと見でカッコいいと思わせるあきまんさんもすごいし、あれを動かしてカッコよく見せるアニメーションもすごい。キングゲイナーを「カッコいい」と思わせられるのは、天才の仕事だと思います。
そして、これは『ブレンパワード』【※】もそうです。アンチボディは「肩がデカい」「頭がデカい」といった普通のロボットのイメージからデザインをすべて外している上に、直立不動で飛んだりします。
森住氏:
その「直立不動で飛ぶ」のが『ブレンパワード』の面白いところですよね。
カッコよくポーズつけるわけでもなく、そのまま飾り気なく、ただ直立不動で飛ぶ。あの飛行スタイルで「これは人間が造ったロボットじゃないんだな」と感じられるんだと思います。
※「OVERMANキングゲイナー」
2002年から放送された、テレビアニメ。富野由悠季氏が監督を務め、「エクソダス」という脱出行を中心としたストーリーが展開されている。オリジナリティとスタイリッシュさを両立した「オーバーマン」のデザインや、明るくエンターテイメント性の高い作風が高い評価を得ている。
※「ブレンパワード」
1998年から放送された、テレビアニメ。富野由悠季氏が監督を務め、謎の巨大遺跡「オルファン」や生体エネルギーで動く「アンチボディ」などを、美麗に描くアニメーションが展開される。「頼まれなくたって生きてやる」というキャッチコピーも印象的。
寺田氏:
もうひとつ、あの当時に「人型から外してきたロボ」と言えば、「ビッグオー」【※】ですね。
パッと見はスタンダードなロボットに見えるかもしれないんですが、よく見ると全然スタンダードじゃないんです。なで肩だし、手もデカい。だけどトータルで見た時に、ビッグオーを「カッコ悪い」と言う人はあんまりいないと思います。
ちょっと言い方が失礼かもしれませんが、ビッグオーはひとつひとつのパーツを分解するとかなり異形のロボットなんです。ただ、すごいバランス感覚であの機体をカッコよく成立させている。「通り一辺倒のシルエットにはしないぞ」という心意気も見せながら、同時に「ただしカッコよさも絶対に外さない」と思わせてくれます。あとは、『ザブングル』のウォーカー・ギャリアもそう。
森住氏:
ウォーカー・ギャリアは元々「車」がデザインの元になってますもんね。というか、この『ボトムズ』『ダグラム』『ザブングル』は全部大河原さんデザインですね。大河原さんは本当にすごいなぁ。
この辺りの実際に存在しているヘリコプターや戦車のモチーフを加えながら、それがロボットとして成立しているデザインはすごいですよね。
※「THE ビッグオー」
1999年から放送された、テレビアニメ。物語の舞台となる街「パラダイム・シティ」で、ネゴシエイターとして働くロジャー・スミスと、「ビッグオー」という巨大なロボットの活躍が描かれる。1970年代のロボットアニメや特撮へのインスパイアが多くみられるのも特徴。
寺田氏:
そう考えると、下手をするとガンダム世代って「初めて見た戦車」がガンタンクか連邦軍の戦車の可能性が高いですよね。
李氏:
たしかに、「61式戦車」が初めて見た戦車かもしれないですね。
寺田氏:
それこそ「マゼラトップ」なんて、プラモデルを見ると中々の超兵器じゃないですか。
戦車の砲塔の部分だけが外れて、それが飛び回るという……。
森住氏:
しかも、その場でホバリングしてましたよね。カーゴを抑えてるガンダムの後ろでハモンが銃口を突きつけた時、その場で「ボボボボボ」と滞空してましたから。
……で、このマゼラトップが出てくる21話付近って劇場版とテレビ版で順序が変わっているんです。とあるゲームの脚本で「劇場版の設定を取るか、テレビ版の設定を取るか」を決める時に、微妙に時系列が違うことに気づきました。
つまり、ドムが登場するタイミングがオデッサの前後かどうかが変わってしまっていて、「今までどっちにしてたんだっけ!?」と勉強し直すハメになりました(笑)。
寺田氏:
「劇場版の思い出」で言うと、どちらかというとエンディングのスタッフロールに「マ」とだけ書かれていて、「マって誰?」と思ったのが思い出深い(笑)。
森住氏:
あー、そうそう!
劇場版はキャラが全部「苗字抜き」でクレジットされてるんですよね。アムロ・レイは「アムロ」、ランバ・ラルは「ランバ」と表記されているから、マ・クベは「マ」になっちゃったやつ(笑)。