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ゲーム制作メンバーが自分以外蒸発してしまうも、ブラック企業に勤めながらひとりで8年かけてゲームを完成させた『アクアリウムは踊らない』作者の波乱万丈すぎる半生を語ってもらった

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不幸エピソードの数々もじつは全部計画していた? 橙々さん“根回しの天才”説を本人に直接ぶつけてみた

──じつは、今回のインタビューでどうしても聞きたいことがあって……。

橙々さん:
はい。なんでも聞いてくださいっ!

──『アクおど』って、「一緒にゲームを作っていた友人4人が蒸発してしまい」、その後に「ひとりで8年間(4000時間超の作業時間)かけて作られた」という情報が話題になることが多いと思うんです。
もちろん、ひとりで作られたのはすごいと思うのですが、完全版がリリースされる前にパブリッシャーがバックについている状況を見て、「この人、事前の根回しがえげつねぇな」って思ったんですよね。

橙々さん:
本当ですか!? 根回しがうまいって言われたのが、人生で初めてなので、すごいビックリしています。

会社員として働いているときは、根回しが下手すぎて上司からボコボコに怒られていたので……。

──え、そうなんですか? ゲーム制作はおひとりで進めつつも、橙々さんは周りの人を巻き込んでいくのが非常にうまいなあと思っていて。その根回しはいつから計画していたのか、お聞きしたかったんです。

橙々さん:
『アクおど』に関しての動きは、今のところ“100%”全部、お声がけをいただいてのものなので、自分から根回ししての結果ではないんです。

みなさん『アクおど』がすごく好きで「何か一緒にできませんか」と言ってくださる方が多い印象があります。本当にありがたいです。

ですので、自分として、計画的に営業したり、根回ししたというのは、思いつかないですね。とにかく誰かの琴線になにかしら触れてほしいと思って、いろいろ情報をばらまいてはいましたが(笑)。でも、それくらいです。

──今のお話を聞いていても“あまりにも綺麗すぎる”と言いますか……。誤解を招くことを恐れず言うのであれば、「全部狙っているんじゃないか」と思う気持ちが強くなっているんですよね(笑)。

橙々さん:
はいはい!(笑)

──「他人の不幸って蜜の味」ってよく言うじゃないですか。ですので、橙々さんが友人に蒸発された話やブラック企業に勤めていた話、SNSやYouTubeでよく語られているどん底エピソードの数々もすべて、ファンを作るために計画していたのではないかと……。

橙々さん:
私、めちゃくちゃ怖い人じゃないですか!!(笑)

友人蒸発の話も、ブラック企業の話も、残念ながら嘘じゃないんですよね……。嘘であってほしいですよ。私だって

──もしそうだとしたら「すごい人だ」と思ったんですが、やはり事実なんですね……。

橙々さん:
なんか……物心ついた時からこういう(失敗系)キャラであることは、なんとなく自覚はしていたんです。

どんなに真面目に取り組んでも、完璧にこなそうとしても、なにかやらかしてしまうんですよ! そんなふうに慌てたり、失敗したりする私を見て、みんなが笑っている……そんな立ち位置でした。なので、それに対していちいち落ち込んでいたら、生きていけないわけです。

──なるほど(笑)。

橙々さん:
でも、そういうエピソードを友だちに話すと、ニコニコ笑いながら聞いてくれるんです。私はそれが好きなんですよ。なので、SNSでもみんなが楽しんでいる姿が好きです。だからそういう話が自然と多くなっているんじゃないかなと。

──綺麗なコメントで躱されちゃいましたね。

橙々さん:
あぶねーーーーー!!!(笑)

──ありがとうございます。冗談です(笑)。みんなが笑っているのが好きで、素の状態でやってきたということですね。

橙々さん:
そうですね。「こういう流れで言えば、みんなこういう反応をくれた」みたいな、経験値は多分あります。

──芸人さんみたいな……みんなのツボをわかってらっしゃるんですね。

橙々さん:
そんな感じ! そっちに近い気がします! 「狙ってないよ!」というのは、目立つように書いておいてください(笑)

──わかりました(笑)。狙ってはいなかったにしろ、今振り返ってみて「これやってきてよかった」と思うことはなにかありますか?

橙々さん:
2019年になるんですが、30分くらいの内容の『アクおど』体験版をリリースした際に、その体験版を実況してくださった方が何人かいらっしゃって、その配信はすべて観ていました。

可能な限りリアルタイムで観に行って、コメントをしたりスパチャをしたり。配信が終わったらDMで「ありがとうございました!」とお礼を言ったりしていました。前編が完成したら、体験版を実況してくださった方全員に完成した報告もしていました。

それは純粋に(自分の作ったゲームを実況してくれたことに)うれしくてやっていたことだったんですが、そういった細かい活動を続けていたのが、今考えるとよかったのかもと思うことはあります。

──本日お話していてもすごく感じることですが、橙々さんは愛嬌がものすごいありますよね。距離感がうまいというか。

橙々さん:
意識しているというか、結果的にそうなっちゃっていることなんですが、リスナーやプレイヤーの方のことを同級生や近所の友だちのように思っているところはあります。

だから、ゲームの宣伝も「ゲーム作っちゃった! ちょっと触ってみてくれない?」と友だちにおすすめするノリですし、『アクおど』を実況してくださった方の配信にコメントを残すのも、友だちにメッセージを送る感覚に近いんです。

『アクおど』制作のなかでとくにこだわったのは「キャラクター」だった

──あらためて、なぜホラーゲーム(『アクおど』)の舞台を水族館にしたのかお聞きしたいです。キャラクターのデザインも、水兵さんっぽいですし、なにか理由があるのでしょうか。

橙々さん:
それは、水族館が怖いからですね!

──水族館が怖い? どのあたりに恐怖を感じるのでしょう?

橙々さん:
水族館のことはすっごく好きなんですけど、水族館には大きい水槽があったり、トンネルの水槽があったりするじゃないですか。あの水槽がもし割れたら……と思うと、怖くてしょうがないんです。

それに、水中にいる大きい生物を見ることじたいも怖いですね。映像でクジラの口の中を見ると「ヒッ」となっちゃうときがあります。

子どものころからずっと思っていたことなんですけど、最近それは「海洋恐怖症」【※】と呼ばれる症状だと知ったんです。

※海洋恐怖症(タラソフォビア)……海や大きな水域に対する極度の恐怖や不安を指す症状。広大な水域を見るだけでパニックになり、水に触れられない。吐き気や息切れなどの身体的な症状が現れることもある。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_008

──『アクおど』を作る際にとくにこだわった部分はどこか、教えていただけないでしょうか。

橙々さん:
圧倒的にキャラクターですね。

私は、キャラクターに2種類あるなって思っているんです。ひとつは「物語を動かすために用意されたキャラクター」、もうひとつが「そのキャラクターがどう動くかが物語になるキャラクター」です。

どちらも良いところ、悪いところがあるんですが、友人たちと作っていたゲームは「物語を動かすためにキャラクターを使う」という手法でした。

役割のために作られたキャラクターなので、その役割が終わると印象が薄くなってしまって、愛着の湧かないキャラクターになってしまうんです。それだと、キャラクターを好きになってくれる人が少ないんじゃないかと感じて、キャラクターに愛着をもっていただけるよう、『アクおど』を作りました。

──キャラクターへの愛着が大きいんですね

橙々さん:
そうですね。自分の生んだキャラクターが大好きで“『アクおど』の一番のファンは自分”だと自称しているくらいには大好きです。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_009
(画像は作者の橙々さんの公式Xアカウントより)

ゲーム冒頭の「問おう」のシーンは『Fate』オマージュなのか聞いてみた

──『アクおど』には独特な設定も盛り込まれているんじゃないですか。私が一番印象的だったのが、「心から願うことでその願いを叶えてくれるけど、代償として魂を失ってしまう」といわれる「深海の石」でした。「深海の石」の設定はどのように着想を得たのか、ぜひお聞きしたいです。

橙々さん:
アイデアのきっかけは『selector infected WIXOSS』【※】というカードゲームのアニメでした。

作中に登場するキャラが、自分の願いを叶えるシーンがあるんですけど、「本人の意図していない変な形で叶ってしまう」描写があるんです。

それは確かに願い通りなんですが、逆に願った本人が不幸になってしまうこともあって。「願いを叶えるって綺麗に聞こえるけど、自分の思っている通りじゃないように叶う場合もあるのか……」と感じたのが、「深海の石」の設定に繋がっています。

※『selector infected WIXOSS』……女子中高生の間で大流行しているトレーディングカードゲーム「WIXOSS」。そのバトルに勝ち続けると「願いを叶えられる“夢限少女”になれる」という都市伝説が信じられている世界が舞台となっている。

──なるほど。

橙々さん:
あと私、『魔法少女まどか☆マギカ』【※】がすごく好きなんです。

『まどマギ』には「ソウルジェム」があるじゃないですか。 あの設定が残酷で衝撃的だったので、うまく自分の作品に取り入れられないかと思って考えたのが、「深海の石」になります。

※『魔法少女まどか☆マギカ』……願いを叶えた代償に「魔法少女」となって人類の敵と戦う少女たちが描かれるアニメ。魔法少女になるためには、謎のアイテム「ソウルジェム」を使用する必要がある。脚本は、『Fate/Zero』『PSYCHO-PASS サイコパス』の虚淵玄氏。

──詳しいことはネタバレになってしまうため、ここでは深くお聞きしませんが、いま挙がった2作品の名前でだいたい察しがつく方は多いと思います(笑)。個人的には、「深海の石」は『Fate/stay night』に出てくる“聖杯”がモデルになっているのかな、って思いながら見ていたんですけど。

橙々さん:
あ~! 確かに聖杯も願いをかなえるアイテムですね……!?

そう考えると、物語と「願い」って切っても切れない相性を持っていますね……。名前が挙がった『ウィクロス』、『まど☆マギ』、『Fate』はもちろん『アラジン』のランプや『人魚姫』など昔から親しみのあるお話には「願い」が絡んでくるような気がします。

──作中の冒頭に、金髪の剣士(レトロ)が主人公に向かって「問おう」と語り掛けるシーンがあるじゃないですか。アングル、背景から差し込む光、シルエット的な見せかたが、まさに『Fate/stay night』のオマージュに感じたのですが、イメージして取り入れたシーンなのでしょうか。

橙々さん:
そのシーンについては、そういう声をものすごくたくさんの声をいただいています。でも、本当に意図していないんですよ!

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_010

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_011
(画像は「Fate/stay night REMASTERED」発売日決定PV」より)

──えっ、そうなんですか?

橙々さん:
そういうシーン(衛宮士郎とセイバーの邂逅)があることは知っていたんですが、そのシーンを描いたときの私は『Fate』をまだ見ていなかったんです。

のちに『Fate』のアニメを観たらめちゃくちゃそっくりで驚きました! 本当にごめんなさい!

完全に偶然かというと、そんなことある……? というくらいに似ていたので、どこかでこのシーンを目にしていた可能性はあると思います。でも、オマージュする意図で描いてはいませんでした。

人生を変えたゲームは『Ib』だった

──ここからは、橙々さんのルーツに迫っていければと思います。人生を変えたと言えるほど衝撃を受けたゲームがあれば教えていただけないでしょうか。

橙々さん:
『青鬼』や『東方Project』など今でも好きな作品はいろいろありますが、なにか1本挙げるとしたら間違いなく『Ib』ですね。

「私もこういう作品を作りたい」と思うようになった、ゲーム作りに興味を持つきっかけとなった作品です。このゲームがなかったら、多分『アクおど』も作ってないと思います。

実際にゲームを作ったことで私の人生も大きく変わってしまっているので。そういう意味でも、すごく影響は大きいですね。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_012
(画像はPLAYISMの『Ib』公式サイトより)

──『Ib』を知ったのはどのようなきっかけがあったんでしょうか。

橙々さん:
『Ib』というゲームを初めて見たのは実況動画でだったと思います。私はホラーゲームが苦手なので、実況動画を見たときに「キャーキャー」と叫んでしまって。

当時『Ib』にハマっていた友人がそれをおもしろがって、「一緒にプレイしよう」と誘ってきたんです。で、実際にプレイしてみたらドハマりしちゃいました。

最初に知ったきっかけがプレイ実況だったこともあって、自分で『アクおど』を作るときも「実況してもらうこと」を意識していたのはあると思います。

──『Ib』のどんなところに、橙々さんはそこまで惹きつけられたんでしょう。

橙々さん:
キャラクターですね。「ダークな世界観と可愛いキャラクター」のギャップがたまらなく刺さりました。私のなかでは、キャラクターが魅力的かどうかが、作品の「好き度」への影響が大きいんです。

『Ib』を知ったとき、私はよく二次創作で絵を描いていたんですが、「この作品に登場するキャラクターの絵を描きたい」と思ったのを覚えています。

──絵を描きたい……と思ったのにはなにか理由があったんですか?

橙々さん:
言葉にすると難しいんですけど、ゲームで描かれた場面以外のキャラクターの姿が見たい、そのキャラクターの意外な姿が見たい、ドット絵以外の絵柄でも見たい……など、ゲームのお話で描かれている以外のところを見たいと思ったのが大きいです。

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ライター
MOTHER2でひらがなを覚えてゲームと共に育つ生粋のゲーマー。 国内外問わず、キャラメイクしたりシナリオが分岐するTRPGのようなゲームが好き。『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳に参加し、『バルダーズ・ゲート3』が日本語化される前にひとりで全文翻訳してクリアするほどRPGが好き。 『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台となった対馬のガイドもしている。 Xアカウント(旧Twitter)@Tsushimahiro23
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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