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ゲーム制作メンバーが自分以外蒸発してしまうも、ブラック企業に勤めながらひとりで8年かけてゲームを完成させた『アクアリウムは踊らない』作者の波乱万丈すぎる半生を語ってもらった

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やっぱり、ユーザーの反応を見るのが一番楽しい

──続いては橙々さんのモチベーションの源泉についてお聞きしていきたいです。ゲーム制作や配信含む橙々さんの活動のなかで、一番テンションが上がるのはどのタイミングなのでしょう?

橙々さん:
やっぱり、ゲームを作る際に「こういうふうに引っかかってほしい」と思って入れた仕掛けにまんまとプレイヤーがハマっているのを見たときですね。

私は『アクおど』の実況をよく見るのですが、その瞬間を見ると「作ってよかったぁ~~~っ」となります(笑)。

──ちなみに、まんまとハマってしまった反応の中でも印象に残っている配信者さんはいらっしゃいますか?

橙々さん:
誰かなあ……。いっぱい見ているので、特定の方を挙げるのは難しいのですが、にじさんじの健屋花那(すこやかな)さんの実況です。

狙い通りのポイントで「ギャー!」と叫んでくれて「しめしめ……」と愉快だった記憶があります。

──狙い通りのポイントとは?

橙々さん:
ゲーム冒頭で雰囲気がガラッと変わるタイミングがあって、手形が出るギミックがあるんです。

ある場所を通過しようとすると、手形がバーッと出てきて「ギャッ!」というリアクションを誘う仕掛けになっています。

健屋花那さんは大好きなライバーさんなので、「ウフフ♡」とニヤニヤして見ていました(笑)。

──ユーザーさんの反応を見た時が一番たまらない瞬間なんですね。

橙々さん:
たまらないですね! みなさんノリがいいのもあって、ゲームに限らず、X(旧Twitter)で新情報を出したときにもすごく盛り上がってくれるんですよ。

その喜んでくれる反応を見ては「フンフンフン……(愉悦)」ってなっています(笑)。Nintendo Switch版の発表PVのコメント欄は今でも見返しちゃいますね。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_013

『アクおど』の知名度が上がったターニングポイント

──一緒にゲームを作っていた友人たちの蒸発、ブラック企業で働きながら並行してゲーム作りと、過酷な状況のなかゲーム制作に取り組んでいた橙々さんですが、『アクおど』ヒットに繋がるターニングポイントがあるとしたら、思い浮かぶ出来事はありますか?

橙々さん:
私がガラッと変化を感じたのは、電ファミニコゲーマーさんの記事ですね。

これは本当に本当で、「友人4人に蒸発されて8年かけてひとりで作ったゲーム」という内容で書いてくださった記事が、SNSで1万RPを超えて、数万いいねがついていて……。

友だちからも「すごい騒がしいことになってるよ!」と連絡がきたくらいなんです。『アクおど』の名前が一気に広まったのはこの記事がきっかけだと思います。

──そういっていただけるとは……。ありがとうございます。

橙々さん:
いや、これはマジですよ!?(笑)

当時は話題になりすぎて「こんなことになっちゃうのぉ~!?」と驚きがすごかったです。その直後に、『アクおど』がリリースされて、2日で10万ダウンロードを突破したのを見てさらに「ウ”ワ”ァ”ァ”ァ”なにこれ~~~~!」という状態でした。

──インディーゲームがいきなり10万ダウンロードはすごいですよね。

橙々さん:
本当ですよね! 最初は数字が間違っているのかと思いました。

──当時、深夜に原稿のチェックをお願いをして、即レスポンスをいただいたのを覚えています。あの時は、丁寧にご対応していただきありがとうございます。夜遅くにすみませんでした……。

橙々さん:
覚えてますよぉ~~! とんでもないです。本当にありがたかったです。あの……「命救われました」って感じです。

──そんな大げさな(笑)。そういっていただけて光栄です。ほかに、モチベーションに大きな影響があったことってありますか?

橙々さん:
やっぱり、実況ですね。前編が出た時に、にじさんじの愛園愛美ちゃんや、クリス(『アクおど』の登場人物)の声優のたみやすともえさんなど、多くの配信者の方にプレイしていただけたんです。

私は配信者としても活動しているので、配信者の方の気持ちが少しはわかるのですが、前編だけで続きがまだ出ていないゲームを実況配信するのはけっこう勇気がいることだと思うんです。

それでも、みなさん実況してくださっているのを見て、「完全版が出たらきっとまた配信してくれるに違いない! がんばろう!」と気合いが入りましたね。

──ゲームを待ってくれている人がたくさんいることは、モチベーションにも繋がりますよね。ちなみに、話題になってプレッシャーに感じたことはなかったんでしょうか。

橙々さん:
ぜんっぜん、プレッシャーは感じませんでしたね!

キャラクターへの愛着の話になるのですが、「うちの子が活躍するんですから、期待しててよ」というのがモチベーションなので、プレッシャーというよりもゲーム制作の楽しみがさらに増しました。

アニメ化の話はあるのか、次回作の構想はどうなのか、ぶっちゃけ聞いてみた

──橙々さんのゲーム制作にまつわる環境は8年前と今とではガラリと変わっていると思います。 最近のゲーム制作に関して、ご自身としてなにか感じる部分はありますか?

橙々さん:
基本的に、自分のこだわりたい部分や、ゲーム開発じたいはひとりでやらせてもらっているので、状況としてはほとんど変わっていないんですね。

ただ、Nintendo Switchに移植する際に、データを移植する際は元のツクールのデータを知っているのが私だけなので、チェックの時はすごく怖かったです。私が見逃したら終わりなので(笑)。

──というと、データの移行やNintendo Switch版の開発や修正含めて、橙々さんがおひとりでされているってことですか?

橙々さん:
いえ。私がツクールで元データを作ったものを、フロンティワークスさんやGotcha Gotcha Gamesさんにデータをお渡しする形で進めていきました。チェックについても私だけではなく、デバッグ会社の方にもご協力いただいています。

ただ、こだわりというか表現について「初めての人はわからないけど私は気づく」という部分は私が気づくしかないので、そこに関してはすっっっごく気をつけて見ていました。

──まだ気が早い気もしますが、次回作にも期待しちゃいます。5月14日の配信で、橙々さんがホタルイカ漁にチャレンジした際に、「次回作にはホタルイカのクリーピーをギャルで登場させようか」と、検討する話をされていましたよね。

橙々さん:
はははっ(笑)。はい、していました。

──“「クリーピー」が出現する次回作”ということは、『アクおど2』的な作品を作られているってことで間違いないですか?

橙々さん:
次に作るものを『アクおど』の過去編にするのか、完全な新作にするのかはまだ決めてはいないんですけど、今後もなにかしらゲームが出ると考えていただいて差し支えはないです。

──おっ……いいですね。すでに次回作の構想は固まっているんでしょうか。

橙々さん:
タイミングがあったら作りたいと思っているのは、2本くらい用意しています

──2本もあるんですか⁉

橙々さん:
『アクおど』の過去編と、ドクターとコウペンくんの話と、純粋な続編と、あと完全新作で1本……。

──2本どころじゃなくなっていますね(笑)。

橙々さん:
はい(笑)。現状だけで4本くらい作りたい作品が頭の中にあって、(次に作る作品を)どれにしようかなと思っています。

──次回作の方向性については迷い中だと。橙々さんは2020年から「アクおどのアニメ化が目標」と言っていましたが、じつはアニメ化の計画が進行中っていうことはないんですか?

橙々さん:
一応その、いろいろな企業の方から「アニメ化とか……」みたいなお声はいただいているんです。

ただ、いまはまだ具体的な計画は立っていない状態なので、これからがんばりたいと思っています。

──おおっ。そういう声が実際に出ているというのは、期待しちゃいますよね。

橙々さん:
がんばりたいです! これだけ「アニメ化、アニメ化」と口にしてきたので、これからもまだまだ言っていこうと思います。

個人ゲームクリエイターには、ぜひゲームを完成までこぎつけてほしい

──私は『アクおど』発売前から橙々さんをウォッチさせていただいているんですが、橙々さんを見ていて思ったことがあるんです。『アクおど』の完全版がリリースされた際には、ご自身の公式サイトなどでグッズを販売しており、ゲームじたいは無料なんですが、ファンがちゃんとお金を落とせる部分を用意している点はしっかりしているというか、ある種の“賢さ”があるなって思っていたんですよね。

橙々さん:
ふふっ。ありがとうございます(笑)。

──ゲームを完成させるだけで満足せず、コミカライズ版の連載決定や多くの人を巻き込んだうえでNintendo Switch版の発売にもたどり着いていて、あらためて振り返っても率直に「すごいな」と。そこで、橙々さんと同じように個人でゲームを作っている方に向けて、、橙々さんからメッセージがあれば、ぜひお聞きしたいと思ったんです。

橙々さん:
そうですね~……私はもともと複数人でゲームを作ろうとして失敗している身分なので、偉そうなことは言えないんですけど……。

私は8年かけてゲームを作ったわけではなく、手が止まっちゃった時期があった結果、完成まで8年もかかってしまったんです。でも、8年かかっちゃったけど……作りきることはできました。

ですので、人生はいろいろあって、手を止めちゃうこともあると思うんですが、それでもまた再開して完成までこぎつけてほしいですね。休んでもいいけど、やめないでほしいなって思います。

──印象に残っている出来事として、橙々さんの配信で「天国と地獄を舞台にしたゲームを作る」とコメントする高校生のリスナーがいましたよね。

橙々さん:
ありがたいことに、「私(橙々さん)に影響を受けてゲーム制作を始めました」と言ってくださる方がいらっしゃって。

じつは私自身、そういう人をチェックしているんです。みなさんがんばって作っているので、「よし、あと7年がんばれ。ここから長いぞ」と思いながら、ひそかに応援しています(笑)。

──8年かかる前提なんですね(笑)。では、インタビューの定番になるんですけども、今後の展望とファンの方へのメッセージをいただけますでしょうか。

橙々さん:
まだ、『アクおど』アニメ化という目標はブレていないので、アニメ化するまではがんばろうと思っています! ですので、ぜひアニメ化まで応援していただけますと嬉しいです。

Nintendo Switch版も発売になります。声優さんの演技が本当に素晴らしいんです! 自分が作ったゲームなのに、感動して泣いちゃいました。

──取材に際してプレイさせていただきましたが、めちゃくちゃよかったです。エンディングもすばらしくて……良質な映画を見た後のような満足感がありました。

橙々さん:
そうなんです!!!!!!! 映画を見たような満足感を得られるくらいパワーアップしている作品になっていると思います。

私はいつも、みなさんが実況してくださったり、感想を寄せてくれたりするその反応を見るのをいつもすっごく楽しみにしているので、ぜひぜひ感想をくださると嬉しいです。強めに……強めに言っておきます! 感想くれると嬉しいです!!


『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_014

橙々さんとはSNSでは間接的な交流はあれど、こうしてお話するのは初めてだったが、実際に話してみると本当に「話しやすい人だな」という印象を受けた。愛嬌があって、周りの人が笑っているのを見るのが本当に好きで、ゲームだけでなく作者さんまで多くの人に親しまれているのも納得である。

もうひとつ受けた印象は、「ずるい人だな」というものだ。

『アクおど』がここまで人気になった理由を聞いてみたところ、橙々さんが自覚して仕込んでいたのはフタを開けてみればほぼゲームのみ。あとは橙々さんの天然の魅力が多くの人を魅了した、という話になってしまう。

かつて、フランスの哲学者ルネ・デカルトは「疑いは知のはじまりである」と言った。

インタビューが終わった今だから読者のみなさまに言えることだが、じつは、筆者は橙々さんが「本当はすべて計画だった」パターンであることをまだ“5%”ほど信じている。

さまざまな不幸エピソードを笑いに変える特殊能力者であり、完全版のリリースから“1年”で、多数のグッズ展開をはじめ黒沢ともよさん含むプロの声優陣が参加するドラマCDの発売(橙々さん自身もヤドカリ役で肩を並べ声優デビュー)、ポップアップショップを新宿にオープン、ファッションブランド発足。電撃マオウでのコミカライズ版の連載開始、Nintendo Switch版の発売決定……あまりにも、できすぎている

「すべて完璧である可能性5%未満…しかし、フリゲ業界の中では一番何かを感じさせた…おまえは完璧すぎる」と猜疑心を抱いてしまうのだ。むしろ、そうであったら、と思う。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_015

もちろん、そこに至るまでは約8年分の血と汗と涙と、橙々さんのファンの方々のパワーがあったからこそ到達できた領域だと思う。

橙々さんの道のりは想像を絶するものであり、才能や天性だけでここまで人気の出るものではない。そこはゲームメディアのライターとして素直に称賛すべきだし、クリエイターとしてすこぶる尊敬している。

ただ、本人は無自覚かもしれないが、自ら配信を行い宣伝し、実況配信に顔を出してDMも送る挨拶回りの徹底や声かけって……ぶっちゃけてしまうと“普通に営業”だからだ。認識してもらうことに関しては徹底していて、「100%声をかけてもらって」と堂々と言えるのがこの人なのだ。

それはずるい、ずるいと思う。実際、自分も『アクおど』の記事化にあたって自分から橙々さんに声をかけてしまっているので、その営業は成功しているのだが。

まさに天然のアイドル……これが真実であれば、橙々さんは本当の意味でのアイドルとなるだろう。だが、そうでなければ、「(知ってもらうための)仕込みはすでに終わっている、あとは発信しながら待つ」という“勝利の方程式を識る人”だ。

パターン1(TsushimaHiroの主観からみた橙々さん)
・実況・配信向けに用意周到な仕込み満載なホラーゲーム(事実)
・それに伴って、営業周りや根回しを済ませているという夜神月級の計画性
・自分を売り込むポイントとニーズを理解しており、それを出すタイミングも完璧
・いろいろな意味で、あまりにも用意周到すぎる。

パターン2(インタビューで話した橙々さん)
・実況・配信向けに用意周到な仕込み満載なホラーゲーム(事実)
・無自覚のまま、いつの間にかパブリッシャーがついてNintendo Switch版も発売決定
・とくに何かを仕込んだつもりはなく、作品が好きだしみんなの反応見るのが好きだからやっていたこと。
・つまり天然のアイドル。自覚せずともみんなに好かれてしまう野生のアイドル

もしかしてこれ、『アクアリウムは踊らない』ARG(代替現実ゲーム)編が始まってる……?

Nintendo Switch&Steamに向けた『アクアリウムは踊らない』Special Editionは8月1日にダウンロード版がリリースされる予定。

10月30日に発売されるパッケージ版の特典で個人的におすすめなのは、フロンティアワークス公式ショップから買える限定版封入特典の「音の鳴るおもちゃ(全10パターンの橙々氏録り下ろしボイス入り)」なので、気になった方はぜひ特設サイトを見てほしい。

『アクアリウムは踊らない』作者・橙々さんインタビュー:波乱万丈すぎる半生を聞いてみた_016

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ライター
MOTHER2でひらがなを覚えてゲームと共に育つ生粋のゲーマー。 国内外問わず、キャラメイクしたりシナリオが分岐するTRPGのようなゲームが好き。『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳に参加し、『バルダーズ・ゲート3』が日本語化される前にひとりで全文翻訳してクリアするほどRPGが好き。 『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台となった対馬のガイドもしている。 Xアカウント(旧Twitter)@Tsushimahiro23
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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