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『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は、いかにして雄大な蝦夷地の自然を描くのか?一画面に“万単位”のアセットで北の大地を表現、PS5の性能を存分に活かす【アートディレクターインタビュー】

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2025年10月2日、『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の発売が間近に迫っている。

本作は、2020年に発売された『ゴースト・オブ・ツシマ』の続編にあたる。前作は13世紀、「元寇襲来」の時代の対馬の物語を描き、日本文化や時代劇への大きなリスペクトが高い評価を受けた。

前作から変わって『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の舞台は1603年の蝦夷地(北海道)。ちょうど江戸幕府が開かれたころ、まだまだ未開であった北の地で物語が展開される。

本作の主人公は女武芸者の「篤」。幼少期に家族を殺された彼女が、16年もの修練を経た後にその仇である「羊蹄六人衆」と呼ばれる謎の集団に復讐を果たしていくというのが主なストーリーだ。

本稿に先立ち、筆者は本作の先行プレイを体験させていただいたのだが、プレイを始めてまず印象に残ったのは、蝦夷地の景色の美しさと、そこで繰り広げられるオープンワールド体験の充実感だ。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_001
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

名峰・羊蹄山を抱く北海道の平原は、ただ馬で駆けているだけでも気持ちが良いし、ついつい寄り道をしたくなってしまう楽しさがある。そのうえでいわゆる“ゲーム的な不自然さやストレスを極力感じさせない作り”で、非常に快適度が高く、没入感を削がれない形に仕上がっている。

そして、その寄り道をした先ではキャラクターの新たな一面を垣間見ることができる。たとえば、主人公の篤は「復讐者」であると説明したが、彼女はただの冷酷な殺人鬼などではなく、その裏に隠れた人情味にあふれる性格や、過去のトラウマと向き合いつつも懸命に戦い抜こうとする姿勢などが丁寧に描写されるのだ。

美しく爽快なオープンワールドの蝦夷地の上で紡がれる、思わず感情移入を誘われるようなキャラクター描写。本作は全体を総合して、フィクションとしての強度や説得力が非常に高いゲームだと感じた。

今回はそんな本作のアートディレクターであるサッカーパンチスタジオのJoanna Wang氏にインタビューを実施。アート面やキャラクター設定などを中心に、『ゴースト・オブ・ヨウテイ』を成立させているこだわりや意気込みをうかがうことができた。

取材・文/なからい
編集/TsushimaHiro

※記事内の画像は、SIEからゲーム環境の提供を受けています。また、記事内に使われている画像は開発中のものです。


蝦夷地の雄大な自然が美しい『ゴースト・オブ・ヨウテイ』。PS5用ソフトになったことでグラフィック面も前作からパワーアップ

──今回のインタビューに先立ち『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の先行プレイをさせていただいたのですが、まずは本作で印象的だったアートや演出面についてお聞きしたいと思います。

まず目を惹かれたのは、平原に敷かれた花の道についてです。本作では、地面に咲いている花畑の上を馬で走るとスピードアップするという仕様がありますよね。そのうえで、それらが各地のランドマークを道のように繋げていることで、ガイドのような役割も果たしています。

花々の見た目の美しさに心を奪われた一方、1600年当時、未開拓の蝦夷地の冒険をするというゲームプレイのうえでも、道しるべとしてうまく作用していることに関心したんです。

ほかにも、こちらは前作の『ゴースト・オブ・ツシマ』にもあった要素ですが、次の目的地へ向かって風が吹くことで方向を示してくれる「誘い風」が続投していますね。

こうした点において、前作と比較して「ここはアートとして守ろう」と思った箇所であったり、本作の花の道のシステムのように「ここは変えよう・追加しよう」と考えた箇所についてお聞かせ願えますでしょうか。

Joanna Wang氏(以下、Wang氏):
おっしゃるとおり、本作は未開拓の蝦夷地を舞台としています。当時は日本の本土も非常にエキサイティングな変動期にありましたが、蝦夷地にはそれとも少し違う、北の果てならではの野性的な部分や、広大な景色という要素があるんです。

それを踏まえて、本土よりもさらに深みのある森であるとか、長い川、そして厳しい冬の光景などは、非常に表現のしがいがあるところだと思っていました。

今回一番こだわったポイントとしては、その広大さをプレイヤーのみなさんに感じていただくために、自然の美しさや野性味、まだ未開拓な蝦夷地というところを表現するということです。ここにはとてもチャレンジ感やワクワクを覚えていました。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_002
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
また、北海道という場所自体も今までゲームの舞台としてはあまり取り扱われていなかったということもありました。そのなかでたくさんのストーリーを語るというところにもポテンシャルを感じて作っていきました。

アート面や技術面においてはチャレンジングな試みもたくさんあったのですが、蝦夷地という広大なフィールドを探検する中で、プレイヤーには非常に自由度の高いプレイをさせてあげたかったんです。「花の上を走ることでスピードアップする」という仕様もその一環で、こうした要素を追加することで自由度を強化することができたと思っています。

ほかにも、馬で駆けながらジャンプをしたり、川の中を走ったりすることでもスピードアップすることができます。こういったところに野生の広大さを感じていただければと思いますね。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_003
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
ゲーム中の蝦夷地には「十勝ヶ峰」であるとか、「石狩ヶ原」のように自然が広がっている地域もあれば、「石狩城」のように人工的な建造物のエリアもあります。場所によってさまざまなアイデンティティがありますので、そういったところを探検していただければと思います。

「誘い風」のシステムに関しては、『ゴースト・オブ・ツシマ』から強化して引き継いだものになりますが、今回はマップを作る上で新たなスタイルを試しました。

全体としてのアートスタイルはキープしながら、今回は今までやってきたことの続きにチャレンジしたという形になりますね。

──前作は当初PS4用タイトルとして発売されたのに対し、今作はPS5専用ゲームとして開発されました。それによってできるようになった表現などもあるのでしょうか。

Wang氏:
そうですね、おっしゃる通りです。今作の非常に広大な景色を描く上では、今までよりさらに遠い距離を詳細に描画する必要がありました。その上で繊細なレンジを表現することができたのは、PS5ならではだと思っています。

今作ではひとつの画面でも万単位のアセットが表示されることになります。葉っぱや雪、灰や霧などがリアルタイムでロードされて表現されるのも、PS5だから可能だったことですね。

ほかにも、DualSenseコントローラーの性能を活かして、戦闘中に武器がぶつかり合う音や、三味線の音もコントローラーを介して聞こえるようになりました。

また、今回新しく追加したメカニックで、ボタンひとつで篤の幼少期の回想シーンに遷移したり、そこからまた現代に戻るといったシステムがありますが、こちらもPS5ならではの技術で可能になったところです。

あとは、雪の表現も特徴ですね。今作では、雪の中を歩くとちゃんと足跡が残るんですよ。そして時には近くの木に積もった雪がキャラクターの上に落ちてくるなどと、こういった表現も今作で可能になったポイントになります。

ギミックやビジュアル、設定など、綿密に練られた演出たちがキャラへの感情移入を高める

──本作の冒頭では、篤が家族の仇である「羊蹄六人衆」の名前を自身の帯に書くシーンがありますよね。篤は筆で帯に名前を書いていくのですが、プレイヤーはDualSenseコントローラーのタッチパッドをなぞることで、筆文字を書くというギミックになっています。

このシーンは特に印象的で、まさしくビジュアル・そして篤とプレイヤーの体験が融合した素晴らしい演出だと感じました。

それ以外にも、本作では篤が三味線を弾いたり絵を描いたりと、戦闘シーン以外の「人間らしい部分」も多く描かれていますよね。そうしたある種の映画的な演出というのは、どういったところを意識して作られていったのでしょうか?

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(画像は『Ghost of Yōtei』 蝦夷地の怨霊トレーラーより)

Wang氏:
狙いとしては、とにかくプレイヤーがより篤のストーリーに感情移入・共感できるように、彼女の戦うさまだけでなく、そうした人間味を感じられるための工夫を加えているんです。

そういった点は、ストーリーの各所で訪れるギミックでさらに感じていただければと考えています。たとえば、墨絵を描くシーンでは彼女が父親のことを思い出しますし、三味線に関しては母親との繋がりを感じられる要素になっています。

ほかにも本作にはミニゲームがたくさんあるのですが、たとえばキノコを拾うシーンは弟との繋がりを思い出したり。「銭弾き」というミニゲームもまた、母との繋がりや思い出という面から、ゲームプレイを通して篤のストーリーをより感じてほしくて加えたものになっていますね。

Wang氏:
例に挙げていただいた「仇の名前を帯に書く」というシーンに関しては、日本の書道アーティストとコラボをして、実際に彼女が漢字を書いている様子をゲームに落とし込んで、それをプレイヤーがタッチパッドで体感できるというものになっています。

こうした部分は私たちにとって特別なシーンで、こうした日本の古い文化を、タッチパッドのような技術を通してプレイヤーのみなさんとシェアできるということには喜びを感じました。

──私自身、先行プレイを通じて体験した篤のキャラクターは大変印象的でした。家族を殺されたか弱い少女が本土での16年にも及ぶ過酷な修練を経て、武芸者として仇討ちをしていくストーリーが非常に魅力的に感じたんです。

前作の『ゴースト・オブ・ツシマ』は境井仁という男性の武士が主人公でしたが、本作で篤のような女性を主人公にしたのにはどういった経緯があったのでしょうか?また、「女性の復讐者」というキャラクターを描くにあたって、演出面などで意識した点はありますでしょうか。

Wang氏:
私たちのこれまでのゲームを見ていただければわかると思うのですが、サッカーパンチでは「いろいろなキャラクターのオリジンストーリーを描く」というところが大きなテーマのひとつになっているんです。

そのうえで、今回は篤というキャラクターの中に新たなチャンスやチャレンジを感じました。

彼女は非常にユニークなキャラクターで、一匹狼でありながら、非常に強い武芸者でもあります。彼女のようなキャラクターはあまり他のゲームでは見られませんよね。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_005
(画像は「Ghost of Yōtei – State of Play Gameplay Deep Dive | PS5 Games」より)

Wang氏:
さらに今回はゲーム内で彼女の幼少期を体験することもでき、もちろん現代の大人になった篤を体験することもできます。

本作はいろいろな幼少期のトラウマが背景となった復讐劇ではありますが、その中で彼女がさらに成長していくというストーリーを描くことができそうだと感じたので、それが彼女を選んだ理由になります。

アート面から言いますと、各キャラクターのビジュアルにはそれぞれのストーリーが表現されているんです。それはたとえば「今までの過去」であるとか「この先どういう旅を経験するのか」といったことですね。

篤に関しては、彼女の黄色いコスチュームはイチョウの樹をモチーフにしたものになっています。彼女の生家に生えていたイチョウは、羊蹄六人衆に家族が襲われた際に彼女が串刺しにされてしまった樹でもあります。それは常に彼女の過去の傷やトラウマの比喩でありながら、同時に彼女の強さの象徴でもあるんです。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_006
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
また、彼女は羊蹄六人衆の名前が書かれた帯を下げていますが、こちらも彼女のこれからの旅を示唆しているようなところがあります。こういったところを全て含めて、彼女は非常にユニークでスペシャルなキャラクターになっていくだろうと思っていました。

──篤に関してほかに印象的な点で言うと、「蝦夷地のオオカミを救出するクエスト」に関してです。本作ではストーリーの端々で、羊蹄衆の「オオカミ狩り」の被害を受けたオオカミたちを助け、羊蹄衆に対して共闘するシーンがありますよね。

羊蹄衆に家族を殺された篤と、自分たちの同胞を狩った羊蹄衆に恨みを抱くオオカミたち。似たような境遇の彼女らが共通の敵に対峙する構図は、個人的にスタジオジブリの『もののけ姫』を彷彿とさせました。

本作における「狩りの被害にあったオオカミたちと、家族を殺された復讐者」という組み合わせのインスピレーションは、どのようなところから発想されたのでしょうか?

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_007
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
オオカミに関しては、篤と重なる部分があるんです。というのも、篤自身も「一匹狼」ですし、寂しくひとりで広大な蝦夷地をさまよっていますから、オオカミは彼女の象徴のようなところがあるんですよ。さらにオオカミは、篤と自然の繋がりのシンボルでもあります。

しかも、そのオオカミは決して篤のペットではない。あくまで野生の動物として描かれます。それと同じように篤もゲームプレイを進めるにつれ、少しずつ自分の群れを作り始めるようなところがあるんです。なので、オオカミたちは彼女の成長を象徴するものであったり、彼女を表現するためのひとつのツールとして取り入れたような形になります。

──もっとお話を聞きたいところですが、時間になってしまいました。本日は、お忙しいところありがとうございました。

Wang氏:
こちらこそ、ありがとうございます!


「キャラを動かしているだけで楽しい」という評は、好評価のアクションゲームにはしばしば用いられる表現だ。本作『ゴースト・オブ・ヨウテイ』も、「馬で駆けているだけでなんだかワクワクする」「あそこにはなにがあるんだろう?」といった、ゲームならではの素朴な一人称体験を大切に作られていると感じた。

冒頭にも少し述べたが、本作のプレイではパッと見た時の蝦夷地の美しさに心を奪われ、そこからスムーズにストーリーやキャラクターなどの詳細な部分に感情移入していくことができる。

サッカーパンチスタジオは綿密な取材を元に作品を作ることで知られるが、もちろん本作はフィクション作品であり、蝦夷地の地形やキャラクターの造形には脚色も含まれる。そのうえでなお、これだけの説得力や没入感を成立させているその一端には、アートや設定面における周到なこだわりがあるのだと感じさせられた。

1603年の蝦夷地を駆けまわり、家族の仇を追う復讐の旅。美しくドラマチックな時代劇体験をぜひご自身でも味わっていただければ幸いだ。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は、2025年10月2日にPS5で発売予定だ。

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集・ライター
MOTHER2でひらがなを覚えてゲームと共に育つ生粋のゲーマー。 国内外問わず、キャラメイクしたりシナリオが分岐するTRPGのようなゲームが好き。『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳に参加し、『バルダーズ・ゲート3』が日本語化される前にひとりで全文翻訳してクリアするほどRPGが好き。 『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台となった対馬のガイドもしている。 Xアカウント(旧Twitter)@Tsushimahiro23

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