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『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は、いかにして雄大な蝦夷地の自然を描くのか?一画面に“万単位”のアセットで北の大地を表現、PS5の性能を存分に活かす【アートディレクターインタビュー】

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2025年10月2日、『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の発売が間近に迫っている。

本作は、2020年に発売された『ゴースト・オブ・ツシマ』の続編にあたる。前作は13世紀、「元寇襲来」の時代の対馬の物語を描き、日本文化や時代劇への大きなリスペクトが高い評価を受けた。

前作から変わって『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の舞台は1603年の蝦夷地(北海道)の羊蹄山周辺。ちょうど江戸幕府が開かれたころ、まだまだ未開であった北の地で、ひとりの女武芸者「篤」が家族を殺された復讐を果たしに行く物語が展開される。

まず目を見張ったのは、まだ未開拓な部分の多かった蝦夷地に広がる雄大な自然をイメージして作られた風景だ。トレーラーを見るだけでも、画面いっぱいに広がる植物や野生動物たち。戦闘シーンでは時代劇ばりのアクションが見られる。

いったい、どのようにしてこのビジュアルを表現しているのだろうか?

今回は、本作のアートディレクターであるサッカーパンチスタジオのJoanna Wang氏にインタビューを実施。アート面やキャラクター設定などを中心に、『ゴースト・オブ・ヨウテイ』を成立させているこだわりや意気込みをうかがった。本作に興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。

取材・文/なからい
編集/TsushimaHiro


──本作におけるアート面において、とくにこだわったポイントを教えていただけないでしょうか。

Joanna Wang氏(以下、Wang):
本作は、未開拓の蝦夷地を舞台としています。

当時は日本の本土も非常に大きな変動期にありましたが、蝦夷地には北の果てならではの野性的な部分や、広大な景色という要素があるんです。

それを踏まえて、本土よりもさらに深みのある森であるとか、長い川、そして厳しい冬の光景などは、非常に表現のしがいがあるところだと思っていました。

今回一番こだわったポイントとしては、その広大さをプレイヤーのみなさんに感じていただくために、“自然の美しさや野性味、まだ未開拓な蝦夷地というところを表現する”ということです。ここにはとてもチャレンジ感やワクワクした感情を覚えていました。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_001
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

──前作『ゴースト・オブ・ツシマ』と比較して、本作でアート面において大きく変更されてあり、もしくは追加された要素はありますか?

Wang氏:
存在します。「フィールドに生えている花の上を走ることでスピードが上がる」という仕様もその一環で、こうした要素を追加することで、ゲームプレイの自由度を強化することができたと思っています。

ほかにも、馬で駆けながらジャンプをしたり、川の中を走ったりすることでもスピードアップすることができます。こういったところに野生の広大さを感じていただければと思いますね。

──前作には、目的地までの道のりをゆるやかに吹く風が導いてくれる「誘い風」が実装されていましたが、本作でも引き継がれるのでしょうか。 継続されるのでしょうか。

Wang氏:
「誘い風」のシステムに関しては『ゴースト・オブ・ツシマ』から強化して引き継いだものになりますが、今回はマップを作る上で新たなスタイルを試しました。

全体としてのアートスタイルはキープしながら、今回は今までやってきたことの続きにチャレンジしたという形になりますね。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_002
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

──『ゴースト・オブ・ヨウテイ』には、ほかにもどのようなロケーションが存在するのでしょうか。

Wang氏:
本作の蝦夷地には「十勝ヶ峰」や「石狩ヶ原」のように大自然が広がっている地域もあれば、「石狩城」のように人工的な建造物が聳え立つエリアがあります。

場所によってさまざまなアイデンティティがありますので、ぜひ自らの手で探検していただければと思います。

──前作は当初PS4用タイトルとして発売されたのに対し、今作はPS5専用ゲームとして開発されました。それによって可能となった表現などはありますか?

Wang氏:
今作の非常に広大な景色を描く上では、今までよりさらに遠い距離を詳細に描画する必要がありました。繊細な遠景を表現することができたのは、PS5ならではだと思っています。

本作では、ひとつの画面でも万単位のアセットが表示されることになります。葉っぱや雪、灰や霧などがリアルタイムでロードされて表現されるのも、PS5だから可能なことでした。

ほかにも、DualSenseコントローラーの性能を活かして、戦闘中に武器がぶつかり合う音や、三味線の音もコントローラーを介して聞こえるようになりました。

また、今回新しく追加したシステムで、ボタンひとつで篤の幼少期の回想シーンに遷移したり、そこからまた現代に戻るというものがありますが、こちらもPS5ならではの技術で可能になったところです。

あとは、雪の表現も特徴的ですね。今作では、雪の中を歩くとちゃんと足跡が残ったり、近くの木に積もった雪がキャラクターの上に落ちてきたりするんです。こういった表現も今作で可能になったポイントになります。

日本の書道アーティストとコラボして筆文字を描くミニゲームも表現

──本作には篤が自身の家族の仇である「羊蹄六人衆」の名前を自身の帯に筆文字で書くミニゲームが存在しますが、これはどのような意図があって導入したのでしょうか。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_003
(画像は『Ghost of Yōtei』 蝦夷地の怨霊トレーラーより)

Wang氏:
とにかくプレイヤーが篤のストーリーにより感情移入・共感できるようにするためです。彼女の戦うさまだけでなく、そうした人間味を感じられるための工夫を加えているんです。

そういった点は、ストーリーの各所で訪れるギミックでさらに感じていただければと考えています。たとえば、墨絵を描くシーンでは彼女が父親のことを思い出しますし、三味線を演奏するシーンでは母親との繋がりを感じられる要素になっています。

ほかにも本作にはミニゲームがたくさんあるのですが、たとえばキノコを拾うシーンは弟との繋がりを思い出したり。「銭弾き」というミニゲームもまた、母との繋がりや思い出という面から、ゲームプレイを通して篤のストーリーをより感じてほしくて加えたものになっていますね。

例に挙げていただいた「仇の名前を帯に書く」というシーンに関しては、日本の書道アーティストにご協力いただきました。実際に彼女が漢字を書いている様子をゲームに落とし込んで、それをプレイヤーがタッチパッドで体感できるんです。

こうした日本の古い文化を、タッチパッドのような最新技術を通してプレイヤーのみなさんとシェアできるということは、とても喜ばしいことです。

“一匹狼”の女武芸者の宿命を服装の色彩で表現

──前作では境井仁(さかいじん)という男性の武士が主人公でしたが、本作で篤のような女性を主人公にしたのにはどういった経緯があったのでしょうか?

Wang氏:
私たちのこれまでのゲームを見ていただければわかると思うのですが、サッカーパンチでは「キャラクターのオリジン(出自)を描く」というところが大きなテーマのひとつになっているんです。

そのうえで、今回は篤というキャラクターの中に新たなチャンスやチャレンジを感じました。

彼女は非常にユニークなキャラクターで、一匹狼でありながら、非常に強い武芸者でもあります。彼女のようなキャラクターはあまり他のゲームでは見られませんよね。

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(画像は「Ghost of Yōtei – State of Play Gameplay Deep Dive | PS5 Games」より)

──「女性の復讐者」というキャラクターを描くにあたって、ビジュアル面で意識した点はありますでしょうか。

Wang氏:
アート面から言いますと、各キャラクターのビジュアルにはそれぞれのストーリーが表現されているんです。たとえば「今までの過去」であるとか「この先どういう旅を経験するのか」といったことですね。

篤に関しては、彼女の黄色いコスチュームはイチョウの樹をモチーフにしたものになっています。彼女の生家に生えていたイチョウは、羊蹄六人衆に家族が襲われた際に彼女が串刺しにされてしまった樹でもあります。

それは、常に彼女の過去の傷やトラウマの比喩でありながら、同時に彼女の強さの象徴でもあるんです。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_005
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
また、彼女は羊蹄六人衆の名前が書かれた帯を下げていますが、こちらも彼女のこれからの旅を示唆しているようなところがあります。

こういったところを全て含めて、彼女は非常にユニークで特別なキャラクターになっていくだろうと思っていました。

──ユニークなキャラクターといえば、トレーラーでは篤がオオカミと共に並びたつシーンが見られますが、この組み合わせはどのように発想されたのでしょうか。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は“万単位”のアセットが雄大な自然美を描く。【アートディレクターインタビュー】_006
(画像は「Ghost of Yōtei – Announce Trailer | PS5 Games」より)

Wang氏:
オオカミに関しては、篤と重なる部分があるんです。

というのも、篤自身も「一匹狼」ですし、寂しくひとりで広大な蝦夷地をさまよっていますから、オオカミは彼女の象徴のようなところがあるんですよ。さらにオオカミは、篤と自然の繋がりのシンボルでもあります。

しかも、そのオオカミは決して篤のペットではない。あくまで野生の動物として描かれます。それと同じように篤もゲームプレイを進めるにつれ、少しずつ自分の群れを作り始めるようなところがあるんです。

なので、オオカミたちは彼女の成長を象徴するものであったり、彼女を表現するためのひとつのツールとして取り入れたような形になります。

──もっとお話を聞きたいところですが、時間になってしまいました。本日は、お忙しいところありがとうございました。

Wang氏:
こちらこそ、ありがとうございます!(了)


この度、アートディレクターのJoanna Wang氏にお話を伺ってみて、あらためてサッカーパンチスタジオの作品に対するビジュアル・アート面においての確かなこだわりがあるのだと感じさせられた。

もちろん本作はフィクション作品であり、前作『ゴースト・オブ・ツシマ』も現実の対馬で綿密な取材を実施しつつも、実名を用いた地名をゲーム内に登場させ、四季折々の風景が楽しめるフィクションが取り入れられていた。本作にも、没入感を際立たせるための作り込みがあるようだ。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』は、2025年10月2日にPS5で発売予定。1603年の雄大な自然が広がる蝦夷地を駆けまわり、家族の仇を追う復讐の旅をぜひ体験してみてほしい。

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集・ライター
MOTHER2でひらがなを覚えてゲームと共に育つ生粋のゲーマー。 国内外問わず、キャラメイクしたりシナリオが分岐するTRPGのようなゲームが好き。『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳に参加し、『バルダーズ・ゲート3』が日本語化される前にひとりで全文翻訳してクリアするほどRPGが好き。 『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台となった対馬のガイドもしている。 Xアカウント(旧Twitter)@Tsushimahiro23

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