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“GOTY含む9冠”を達成した傑作RPG『エクスペディション33』(Clair Obscur: Expedition 33)開発者が語る“JRPGリスペクト”の正体とターン制RPGの可能性

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パブリッシャーに持ち込まれるゲームの大半は「いいゲームかとてもいいゲーム」。そのなかで印象に残るのは「例外的に突出したゲーム」

──『Expedition 33』の開発の流れについてはいかがでしょうか。ここまでのお話を聞いていると「最初から確固たるビジョンがあり、そのまますべてがスムーズに進んだ」ようにも感じられますが、実際のところ、変えざるを得なかった部分や、当初の予定から方向転換した部分などはありましたか?

ギヨーム氏:
『Expedition 33』の開発の流れを振り返ると、2020年頃、一番最初にアレクシーにこの作品を見せた時は、基本的にすべてが「人間ふたりで作れる範囲」でできていました。僕にとっては「ターン制RPGを作る」ための学習プロジェクトだったので、たとえるなら“1年生の期末課題”みたいなもので、そこまでよい出来ではありませんでした。

でも、それを見たアレクシーが「十分いいから、もっとオリジナリティを出した方がいい」と言ってくれたんです。そこで、僕の頭のなかのスイッチが入りました。「もっといいものが作れる」と確信したんです。

「本当のチームで、本当のアセットを作って、ちゃんと新しいものを作ろう」と考え、当初の「アセットを雑に配置しただけの学習プロジェクト」を基盤に、すべてを作り直しました。ストーリーもリブートして、もともとのものとは別の方向で考えました。

ただし、ゲームプレイ自体はまったく変わっていません。そこは8bitの頃から、『Expedition 33』の基盤として残り続けています。

──「学習プロジェクト」を作り直したものに対して、どのような反応がありましたか?

ギヨーム氏:
2022年のGDCで、アレクシーは僕たちのゲームの変化を見て、ほんの5分で契約書へサインするように言いました。

アレクシー氏:
私たちは年間におよそ1000本から1400本のゲームを評価しています。そして、大抵のゲームは「いいゲーム」か「とてもいいゲーム」なんです。決して悪いゲームではないものがほとんどです。

でも、そのなかで強く印象に残るのは「例外的に突出したゲーム」なんです。『Expedition 33』は、「例外的」な作品でした。

傑作RPG『エクスペディション33』インタビュー:開発者が語る“JRPGリスペクト”の正体とターン制RPGの可能性_018

──ギヨームさんは「もっといいものが作れる」という思いから、オリジナリティがあり、ご自身が世に出したい作品を作るべく、さまざまに考えを巡らせたかと思います。そのいくつもの考えのなかで「これだ」というものに辿りつけた理由はなんだったのでしょうか?

アレクシー氏:
ひとつには、アートディレクションの面で独自のものを見つけたというのが大きいでしょうね。Nicholas Maxson-Francombe(ニコラス)という天才が本作のアートディレクターとして果たしたことには、あらためて大きな賞賛を送りたいです。

ギヨーム氏:
作品の方向性を決めるにあたって、僕たちは「一度も深く掘られていない時代」を模索しました。そして辿りついたのが、「フランスを舞台に、ファンタジーとシュールレアリスムを融合させる」という方向性だったんです。

ニコラスは新しいものを生み出す天才です。たとえば僕が「海の真ん中に、破滅した状態のパリを放り込んだようなバージョンを考えてほしい」と指示をしたら、彼はすぐにエッフェル塔が曲がっているコンセプトを描いてきて、それが瞬く間にアイコニックになりました。

傑作RPG『エクスペディション33』インタビュー:開発者が語る“JRPGリスペクト”の正体とターン制RPGの可能性_019
(画像はSteam:Clair Obscur: Expedition 33より)

そのコンセプトアートをもとに、今度はプレイヤーへの“フック”を考えました。フックとはすなわち「2行で説明できて、その説明を聞いただけで作品をプレイしたくなるもの」です。

そして、僕たちは「モノリス」「第33遠征隊」に辿りついたのです。

トム氏:
あと、作品の方向性が固まった瞬間で言うと、「カウンター」が実装された瞬間もあげられるかも知れません。

当初はまだ「回避の一部」としての運用でしたが、やがて「すべての攻撃をカウンターできる」という新しい試みになりました。結果として、発売後のプレイヤーから「カウンターを習得するとすごく気持ちいい」という感想をもらうなど、本作の強みになりました。

エスキエは「徹底的にナンセンス」なキャラクターとして作られた

小林氏:
『Expedition 33』のストーリーについても質問をさせてください。本作には「エスキエ」というキャラクターが出てきますよね。

僕は本作のキャラのなかでエスキエが一番好きなんですが、とてもユニークなキャラクターで、海も泳げるし、空も飛べる。日本のRPGだと船や飛行船として出てくる存在が、本作ではおおきなぬいぐるみみたいなキャラクターとして登場するんです。

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(画像はClair Obscur: Expedition 33 – Release Date Trailer | PS5 Gamesより)

しかも、エスキエはゲームの進行にあわせて能力を解放していくんですが、その解放の仕方が「石」なんですよね。石を手に入れたら能力が増える。しかも、特別な力を持った石とかではない、ただの石です。この設定は日本人だと絶対考えつかないなと思いました。

ギヨームさんにお聞きしたいのは、どういう部分からインスピレーションを得て、このエスキエというキャラクターを生み出したのかということです。もしかして、ああいうキャラクターはフランスでは珍しくないんでしょうか?

ギヨーム氏:
僕たちが最初に考えたのは「飛空艇をゲームに登場させよう」ということでした。それも、ただの飛空艇ではなく、生きているように感じられる飛空艇にしたかったのです。

『Expedition 33』はキャラクター数自体が多くないので、パーティに新しいものを加える機会が多くありません。だから、飛空艇自体を「会話できるキャラクター」にしようと考えました。

その後、「どうやってパワーアップさせるか」を考えました。エスキエは常にナンセンスな存在である必要があったので、“ものすごくバカっぽい要素”を加える必要がありました。そして、「岩」というのは世界でもっとも基本的なものであることから、「岩を拾うことで強くなる」というのがもっとも適していると感じました。

さらに、ストーリーの終盤では「岩がエスキエに力を与えているのではなく、エスキエ自身がその岩を好きだから、モチベーションがあがっているだけ」だということが明かされます。つまり、「徹底的にナンセンスにする」ということを狙って、エスキエというキャラクターは生み出されたのです。

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でも、忘れてほしくないのは、エスキエは意味不明なキャラクターですが、非常に賢い存在でもあるということです。

それから、もうひとつ。これは完全なネタバレになりますが、エスキエは「ヴェルソが子供時代に描いた存在」です。だから、子供っぽさを感じさせる必要がありました。「岩を集める」というのは、子供がよくやることですよね。だから、その設定にも非常にマッチしていると感じました。

小林氏:
まさに、そこがすごくうまいと思いましたね。最初に見た時は「意味わかんないキャラだな」と思ったんですが、「子ども時代のヴェルソが考えたから、こういうキャラなんだ!」という、設定によって言動に説明のつく部分が非常によかった。

フランソワ氏:
「フランスのクリエイターは本当にクレイジーなものを作る」というのはよく言われますが、僕たちからすると「日本のクリエイターも同じようにクレイジーな作品を作っている」んです。そして、それが僕たちにとって大きなインスピレーションとなっています。もちろん『エンダーリリーズ』も、そのうちのひとつです。

なので、『エンダーリリーズ』を作った小林さんが僕たちにそれを言うのは、なんだか面白いですね。

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小林氏:
あと、ギヨームさんにお聞きしたいんですけど、シエルとルネだとどっちが好きですか?

ギヨーム氏:
どちらも僕の子どもみたいなものなので……。

小林氏:
僕はルネが好きなんです。でもそれはアジア人的なルーツを共有してそう、という理由ではなくて、終盤のシーンでルネが胡坐をかいて座る仕草をするんですが、それがすごくカッコよかったんですよ。

僕だけじゃなく、僕の周りの人も含めて、あのシーンを見てみんなルネが好きになったんです。

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(画像はSteam:Clair Obscur: Expedition 33より)

ギヨーム氏:
なるほど、あのシーンで。ありがとうございます。

もちろん、僕にも好みはありますが……ノーコメントです。絶対に言いません(笑)。

ゲームを取り巻く流行りと廃りに影響され過ぎず、「自分たちが遊びたいゲーム」を追求するという道

トム氏:
『Expedition 33』のストーリーは、非常にニュアンスに富んでいて、複雑さを持っています。多くのプレイヤーがこの作品の物語部分に共感を抱いた理由は、そこにあるのではないでしょうか。

僕たちの生きている社会は、SNSなどの影響もあり、二極化され、単純化されてしまっています。その結果「本当に複雑で、多面的なアート作品」に触れる機会がどんどん減っているんです。

『Expedition 33』は、まさに現代において触れる機会の減った複雑さを持っているからこそ、多くのプレイヤーがキャラクターやその背景、なによりゲーム全体の世界観に強く引き込まれて、何十時間も夢中になって遊んでくれるのではないかと思います。

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──確かに、『Expedition 33』の物語は「子供でもわかるように」という形ではなく、ある種の“割り切り”を感じます。日本のRPGはどうしても、子供向けを意識して、シンプルなストーリーになってしまいがちなので、そこも違いと言えそうです。

ギヨーム氏:
そうですね、僕たちは日本のRPGから多くのインスピレーションを得ましたが、物語や脚本に限っては、ゲームからの影響はそう大きくありません。

むしろ映画やドラマなどから強く影響を受けていて、だからこそほかのゲームとは異なる手触りになったのかもしれません。

トム氏:
僕たちが大切にしているのは、「プレイヤーが教養を持っていることを理解している」というリスペクト精神です。ゲームを楽しむ人たちは、建築やアート、ファッションなど幅広い分野にも情熱を持っています。

だからこそ、ゲーム以外のクリエイティブ分野からも広くインスピレーションを得た上で、プレイヤーの社会的な背景や、多様な趣味嗜好にふさわしい作品を提案する必要があると思います。

──最後に、まとめ的な質問をさせてください。世界が変化している、というお話がありましたが、ゲームもまた、変化を続けてきました。

最初期のゲームは言語依存、文化依存の少ないものが、それゆえに世界へと広がっていき、やがて技術の進歩によってゲームはより豊かな表現力を手に入れ、その分だけ作り手の言語や文化に依存したゲームも増え、国や文化圏ごとに異なる流行が生まれました。

一方で、最近はSteamや、映像であればNetflixのような巨大プラットフォームのなかで、特定の言語や文化に深く根差した作品が、むしろ世界的にヒットする事例も見られます。

『Expedition 33』もまた、ギヨームさんの個性や、フランス的な感性といったもののユニークさが、世界で受け入れられたケースではないかと思いますが、そういったゲームを取り巻く環境の変化に対して、ゲーム制作者としてどのように向き合っているのでしょうか?

ギヨーム氏:
僕たちは、あくまでも最初の作品と同じことを繰り返すだけだと思います。「こういう流れだからこうしよう」と環境を気にしすぎるのではなく、自分たちにとって真実味があり、本物だと感じられる、「自分たちが遊びたいゲーム」を作る。それだけです。

フランソワ氏:
ギヨームの発言にすこし補足をすると、そもそもほとんどの人は「自分が何を欲しているか」を分かっていません。それを知っているのは、「自分が欲しているもの」にすでに出会った人だけです。

だから、「他人が何を欲しているのか」という答えのない問いを考えるよりも、自分が正しいと思うことをやるのが重要だと思います。

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──アレクシーさんはどうでしょうか。パブリッシャーとして、ディベロッパーとはまた違う見方がありますか?

アレクシー氏:
パブリッシャーとして、最初に私たちが求めているものは「誠実さ」と「本物らしさ」です。つまり、クリエイターが自身の経験や語りたい物語など、プレイヤーに体験させたいメカニクスを作品としてしっかり落とし込むことが重要です。

次に重視しているのは「ゲームという枠の外からインスピレーションを得ているかどうか」です。これまでのゲーム業界は、どうしても“内向き”に、同じゲーム業界のなかからの影響を受けがちでした。

しかし、実際にはデザインというものが普遍的で、音楽、アート、建築など、あらゆる分野に共通しています。だからこそ、ほかの創造的な領域に関心を持つ人は、本当に面白いものを作り出せるのです。

そして最後に、「卓越したプレゼンテーション」を持つゲームです。ゲームという作品は、最終的にプレイヤーへとコントローラーを渡すことになります。つまり、素晴らしい物語や映像、音楽などがあっても、それらをプレイ体験として接続できていなければ意味がないのです。

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私たちが取り扱い、成功を収めてきたゲームは、すべてこの条件を満たしていました。『Expedition 33』は本当に素晴らしい物語と深いテーマを持ちながら、同時に卓越したプレイフィールを持っていました。

『Shifu』もそうで、ディレクター自身が15年に渡ってカンフーの修練をしていたという体験をゲームとして再現しており、ゲームプレイという面で非常に手ごたえがある作品です。

『Pacific Drive』も多層的な体験を提供してくれましたし、最近では『REMATCH』のように、まるで本当にサッカーをしているかのように感じられるゲームまで登場しています。

──「誠実さと本物らしさを持つ」、「幅広い分野からインスピレーションを得ている」、そして「それらのアイディアや工夫をゲームプレイへと接続する」。この3点こそが、ゲーム制作を成功に導く鍵ということですか。

アレクシー氏:
その通りです。

──ありがとうございます。

小林氏:
あの、すいません。最後にひとつだけギヨームさんに聞きたいんですけど……。

一同:
(笑)。

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小林氏:
『Expedition 33』のなかで、建設中のカジノが出てくるじゃないですか。

結局ゲーム中は最後までカジノは完成しないんですが、これはもともと「建設中のカジノ」として出す予定だったんですか? それとも、開発の都合などで、途中で取りやめにしたんでしょうか?

ギヨーム氏:
ノーコメントです。(了)


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いかがだっただろうか。ギヨーム氏が語ってきた「JRPGリスペクト」とは、必ずしも自分のプレイしてきた日本産RPGを再現することではない。

むしろ、そのプレイ経験をもとに組み立てた「面白いゲーム」のビジョンと、自身のパーソナリティから生じる「独自性」を組み合わせ、“まったく新しいゲームを作る”という試みそのものであったように感じられる。

そして、その試みが見事に成功を果たしたことは、筆者を始めとして『Expedition 33』をプレイした多くの方にとって自明であろう。

ギヨーム氏の想いに賛同しともに素晴らしいゲームを作り上げたSandfall Interactiveのメンバーの語る制作時の様子や、パブリッシャーとして常によりよいゲームを求めるKepler Interactiveのアレクシー氏の考える「よいゲームの条件」など、今回のインタビューでは非常に貴重なお話をお聞きすることができた。

本来ゲーム制作の現場にいなければ感じられないような臨場感あふれるインタビューとなったのは、Binary Haze Interactiveの小林氏が同席してくれたことと、決して無関係ではあるまい。

日本とフランス。距離も文化も離れた両国ではあるが、今回のインタビューでも分かるように、面白いゲームを作りたい、そのゲームを世に知らしめたいという、ゲームクリエイターたちの情熱は瓜ふたつだ。

今後も、両スタジオが素晴らしいゲームを我々の元へ届けてくれることは間違いないだろう。
遠からず聞こえてくるはずの、新たなる傑作の産声に期待しながら、本稿を締めくくることにしよう。

改めて、ゲーム・オブ・ザ・イヤー受賞、そして「9冠」達成おめでとうございます!!!

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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