コンボがとにかく決まる『ANTHEM#9』は、当初「コンボゲーにしたくなかった」。パブリッシャーとの打ち合わせの中で磨かれた“開発者自身も気付いていない”ゲームの魅力
——koedaさんと集英社ゲームズがタッグを組まれて制作を進めていく中で、印象に残っている出来事や、振り返ってみてゲーム性に関わるターニングポイントとなったエピソードがあればお聞かせください。
koeda氏:
いちばんは「コンボ」ですね。私は当初、本作をあまり「コンボゲー」にしたくなかったんです。
制作の際に参考としていたゲームが「詰将棋」的なおもしろさでデザインされており、自分もそちらに慣れていたため、「ダメージ計算が複雑なコンボボーナスなどもってのほかだ!」という考えでした。
ただ、プロトタイプを集英社ゲームズさんにお見せしたときに、「コンボがうまくつながったときが気持ちいい」という意見が多く、私も気づいていなかった魅力に気づくことができたんです。
最初は半信半疑でしたが、仕様を修正し、いろいろな方にチェックしていただいたり、イベント出展の反響を確認していくうちに、「コンボ」を主軸にするという方向性に決めて正解だったな、と感じるようになりました。
森田氏:
koedaさんがお話されたように、「本作のいちばんの尖りは何か?」と考えたときに、そこはやっぱり“コンボ”だったんです。「コンボをいかにして気持ちよく体験してもらうゲームにするか」というテーマでひたすらブラッシュアップを進めていったのが印象深いです。
「コンボを気持ちよくする」と口で言うのは簡単ですが、実現するためには「数値的なうまみ」と「視覚的なうまみ」の両軸が必要です。

そこで、koedaさんと合宿を行い、コンボ倍率の設定や“ジェムキープ”という次ターンにジェムを一定数持ち越せる仕様、さらには“オールキャンセルボーナス”という敵スキルを全キャンセルすることで追加スキルが発動する仕様などをいっしょに考えていきました。
コンボの矢印が飛んでいく演出も、もともとは入っていなかったのですが、コンボで画面を埋め尽くす絵作りを時間をかけて練り上げていったんです。
——「コンボ」が魅力的な本作における、おふたりのおすすめのビルド(デッキ)をそれぞれお聞かせください。
koeda氏:
全部です! と言いたいところですが、ベニのフルチャージ軸です。

ベニはジェムと引き換えに様々なバフを得る「ジェムチャージ」という能力があります。さらに、ある特殊な条件下でジェムチャージを行うと、追加発動する特殊な性能を持ったスキルも存在します。
これらをうまく組み合わせることで実は1つもジェムを選択せず敵を倒すことも可能なんですね。パズルを解いてるみたいで楽しいです。
ぜひ私と一緒に縛りプレイを楽しみましょう(笑)。
森田氏:
私も「全部試してみてよ!」と言いたいところですが、ファニーのトリガー軸ですかね。
私はとにかくコンボの高みを極めたいタイプの人間で、ファニーならそれができるんですね。「○○バレット」なるブレスをセットし、それを「○○トリガー」というスキルを使用することでセットしたバレットを追加発動させてコンボを積み重ねる軸になります。
ファニーにはほかに「集中」というステータスがあって、スタックさせていくことで配られるジェムもジャラジャラ増えていくので、これらの合わせ技によって見たこともないコンボ画面ができ上がります。脳汁体験待ったなしです(笑)。

自分には絵が描けない。だからこそ、できることで「人の目を惹く」。市場調査を10年続けたkoeda氏ならではの戦い方がゲームに独自性を与えた
——本作をプレイしていて、色の使い方、キャラの造形、UIデザインなど、ゲームの「ルック」の部分に強い独自性を感じました。デザイン、アートで意識されたところをお聞かせください。
koeda氏:
まず前提として、自分は絵が描けません。そのうえで「人の目を引くUIを作るにはどうしたらいいか?」を考えたときに、いまのデザインしか答えがなかったのです。
さきほど森田さんからの話にもありましたが、『ANHTEM#9』のUIは、大部分が直線で構成されてます。曲線はほとんど使ってません。これは私が直線しか引けないからです。色もベタ塗りしかできません。グラデーションやレイヤーを多数使うようなリッチな表現はできません。せいぜいトーンを載せるくらいです。
そうなったときにヒントになったのがアメコミのスタイルでした。アメコミを図書館に読みに行ったり、実際にAmazonで購入し、枠や色、フォントの使い方を参考にしました。
ほかにもゲームやアニメの大好きな作品たちから影響を受けました。
また、幼少期に親の影響でビートルズの『イエローサブマリン』という楽曲のMVを、テープが擦り切れるほど繰り返し見ていたという過去があります。当時から変わった世界観や色遣いに心を惹かれていたのだと思います。
——koedaさんは10年以上、市場調査と分析を続けてきたとのことですが、現在のインディーゲーム市場をどう分析されていらっしゃいますか? また、その市場の中、本作はどこに勝ち筋を見い出していらっしゃるのでしょうか?
koeda氏:
これはデベロッパーとパブリッシャーで視点が異なると思いますので、私は個人開発者としての目線でお答えします。
私は、現在のインディー市場を「とてもおもしろい」と感じています。ゲームの数も増えましたし、いろいろな趣向を凝らした挑戦的なゲームが競い合うように出てきて、年々おもしろさが増してきています。
ゲーム市場に対して、私個人としては危機感は抱いてません。ゲーム全体におけるインディー市場のシェアが拡大すれば、その分自分に回ってくるチャンスも増える。そういう風に考えているので、「みんなが協力して一丸となって、もっとインディーを盛り上げていこう!」という気持ちになっています。
あまりタイトル間での競争という意識も持っておりません。インディーファンって、好きなジャンルのゲームだったら「AかBか迷ってAにする」じゃなくて「AもBも買う」でしょう?
なので、みんなでおもしろいゲーム作りまくって、積みゲーが増えて悲鳴を上げるインディーファンをニヤニヤ眺めていたいなと思っています。
森田氏:
私はインディーゲーム市場を「何が跳ねるか本当に読めない市場だなあ……」と思っています。悲観的な意味ではなく、何が跳ねるかわからないからこそ、ゲーム的なお作法に真面目に従う必要がないので、やりたいことを詰め込むだけ詰め込めるのがインディーゲームの強みです。
個人の作家性がそのまま作品の色になりますし、クオリティに直結する。いっしょに制作していても純粋に楽しいですね。そのうえでそういった制作過程を応援してくださる方をどれだけ味方につけられるか、が勝利の鍵だと思っています。
本作にはDiscord公式サーバーがあるのですが、集英社ゲームズとしてひとつのタイトルに対し、専用サーバーを開設するのは初の試みでした。いざ開設してみると、ものすごい熱量で遊んで応援してくださるユーザーさんが入ってきてくれましたし、我々よりも遊び尽くしてさまざまな意見を寄せてくれています。
こうした熱量の高いユーザーさんの中にはご自身で配信をされていたり、有力な配信者に対しての発言力がある方がいたり……。とにかく自分がいまアツいと思っているゲームを波及させる力を持っていらっしゃるんです。
近年のヒット作を分析していると、とある配信を皮切りに急速に跳ねたというタイトルはたくさんありますし、こうしたチャンスを手繰り寄せるためにもコミュニティ形成が何より重要だと考えています。
ローグライトというジャンル的に見ても非常に熱量の高いユーザーさんに振り向いてもらいやすいですし、そうしたユーザーさんの意見にきっちり耳を傾けて向き合っていくことに勝ち筋を見出しています。
——最後に『ANTHEM#9』を購入された方、この記事で興味を持っていただいた方へ、本作の魅力も含めて、それぞれメッセージをお願いします。
koeda氏:
『ANTHEM#9』は「ゲームは好きだし、考えるのも好きなんだけど、決してうまくはないから、高難度はちょっと……」という、自分のような方にド刺さりするゲームかと思います!
YouTubeには『ANTHEM#9』のデモ配信をしてくださった方々の動画がたくさんありますので、まずはそちらを見てみてください! そして、「これ自分でもできるかも?」と思っていただけたらぜひお手に取っていただけますと幸いです!
森田氏:
『ANTHEM#9』は見たことのないコンボ体験が味わえるゲームです。とてもキャッチーな謳い文句ですよね。でも遊んでみるとコンボを極めるには戦術の組み立てが重要であったり、カジュアルだけど奥深さも併せ持つ、そんな唯一無二のタイトルになっています。
そして、『ANTHEM#9』はひとりのクリエイターによる個人開発作品であり、デビュー作です。すごくないですか?(笑)
ちなみに、私もプロデューサーとして初プロデュース作となり、新人どうしのタッグです(笑)。
ですので、気になった方はぜひ手にとって遊んでみてください。同時に、koedaさんというルーキーを応援してくれたらたいへんうれしいです。よろしくお願いいたします!!
初めての本格的なゲーム制作がコンテストで大賞を受賞し、集英社ゲームズという力あるパブリッシャーを射止めたkoeda氏と『ANTHEM#9』は、傍目にはまさにトントン拍子、あまりにもスムーズで順調だった道のりのように見える。
だがその裏側では、長く胸中に抱き続けた「ゲームを作りたい」という情熱があり、その情熱に突き動かされた10年以上におよぶ市場調査があり、さらに「自分にはできないこと」を受け入れ「自分にできること」で戦ってみせるという、戦術の妙があった。
ゲーム業界は、「努力が必ず報われる」という場所ではない。パブリッシャーとして『都市伝説解体センター』などを世に送り出し、インディーシーンを大いに盛り上げた集英社ゲームズ。その一員である森田氏にすら「何が跳ねるか本当に読めない」と言わしめる、底知れぬフィールドなのだ。
初ゲーム開発、初ゲームプロデュースのタッグが仕掛ける『ANTHEM#9』は、どのような評価を受け、どのような成果をあげるのか? 『ANTHEM#9』が放つ、その美しいきらめきを、ぜひプレイして体感してみてほしい。
『ANTHEM#9』は2月5日よりSteamにて発売中だ。
