テストプレイ至上主義
──こうした「切り捨てる判断」が、本作の濃密な体験と結びついている気がしますので、もう少し掘り下げさせていただけますか?ほかに、開発中に大幅に切り捨てた要素はありますか?
生高橋氏:
開発終盤でのテストプレイを経て、難しいステージをメインステージから排し、難易度を大幅に下げたことも、関係しているかもしれません。
あのテストプレイが、本作の完成度を左右する決定打となりました。
──さらに具体的に教えてください。どのような変化があったのでしょうか?
はちのす氏:
現在は高難度な「隠しステージ」となっているエリアの一部が、当時はメインルートに組み込まれていたんです。
生高橋氏:
テスターの方々から「このまま製品版になったら無理だ」、「疲れる」といった切実なフィードバックをいただきました。特にこだわっていたラストステージですね。制作者としては、最後だからこそ手応えのある難問を詰め込みたくなってしまうものなんです……。

──たしかにクライマックスですから、難しくしたいという欲は出ますよね。
生高橋氏:
本作のラストステージは、獲得した知識の「総復習」となっています。当初は総復習にくわえて、さらに難しい応用問題を連続して配置していたのですが、はちのすさんから「総復習だけでいいのではないか?」と提案をもらいました。
そこで思い切って難問を切り捨てて、自分の想定よりもかなり難度を下げて作り直したところ……これがすごく、ちょうどよかったんです。あのまま発売していたら、今のような歯切れの良い終わり方は、実現できなかったと感じます。
はちのす氏:
これがなければ、本当にコアな層にしか響かない、非常に難解なゲームになっていたと思います。
──作り込んできたものをバッサリ捨てられる、潔い決断力のルーツになった体験に何か心当たりはありますか?簡単に身につけられるものではないように思います。
生高橋氏:
そうですね……私は「テストプレイ至上主義」なんです。
遊んでくれた人の反応がすべてだと思っています。どんなに自分が「面白い」と確信していても、反応が悪ければそれはダメだ、という考え方が専門学校時代から叩き込まれています。それがルーツになっているのかもしれません。
──なるほど。専門学校での経験がルーツにあると。
生高橋氏:
専門学校の授業では、作ったゲームを目の前で遊ばれ、その場で点数と感想をつけられて、授業の評価も決まるんです。
──自分の作ったゲームに、目の前でですか……?
生高橋氏:
はい。あの訓練のおかげで、客観的なフィードバックを迷わず受け入れられるようになりました。
──「プレイヤーの反応がすべて」という姿勢は、一見すると作家性を抑え込むようにも思えてしまいます。ですが『Öoo』からは確固たる作家性を感じるのですが、このふたつはどう両立させているのでしょうか?
生高橋氏:
テストプレイを見越して最初から自分を抑えるのではなく、まずは作家性をフルに出して作品を作っています。
そのうえで、テストプレイを通じて受け入れられない部分だけを削っていくんです。最初に思いきり出しているからこそ、削った後にもしっかりと作家性が残るのだと考えています。
──「まずは作家性を出し切り、テストプレイで削る」というプロセスなのですね。本作ではいつ頃からテストプレイを繰り返していたのでしょうか?
生高橋氏:
実は、開発中盤までは外部の方ではなく、はちのすさんとつよみーさんにテストプレイをお願いしていました。
──開発メンバーだと仕様を知りすぎていてテストにならない、ということはないのでしょうか?
生高橋氏:
そこがすこし特殊で、おふたりにはあえて仕様を秘密にした状態で遊んでもらっていたんです。
「こういうパズルを作ったから、こういう素材を作って」と指示するのではなく、いきなりゲームを渡して「テストプレイして」とお願いするんです。そうして実際に体験してもらうことで、私がやりたいことが正しく伝わっているかを確認する。ちょっと不思議なコミュニケーションですよね。
はちのす氏:
素材を作る側としても、いきなりプレイヤーとして放り込まれるので、まっさらな気持ちでプレイできました。

生高橋氏:
ただ、開発が進むにつれて私たちもゲームに慣れてしまい、難易度の感覚が麻痺しそうになるのですが……はちのすさんには「記憶が消える」という特殊能力がありまして(笑) 。
以前クリアしたはずのギミックでも「どうやるんだっけ?」と新鮮に詰まってくれるんです。その反応を見て「ああ、ここは初見だと伝わりにくいんだな」と修正の指針にできました。
はちのす氏:
前やったはずのギミックでも「これ、本当にやったっけ……?」って(笑)。
生高橋氏:
文面で仕様を伝えるよりも、体験を先に共有して、そこからそれぞれの仕事を考えてもらう。このプロセスがあったからこそ、言葉のない本作において、音も絵も「体験」と密接にリンクしたものになったのだと思います。
ミニマルさの源は、「使い回し癖(ヘキ)」だった
──ここまで、ゲームになる素材を生み出す「偶然」を愛する姿勢と、それらを切り捨てる決断力について伺ってきました。「残った要素」の扱いについても、非常にストイックなこだわりを感じるのですが、いかがでしょうか。
はちのす氏:
生高橋さんの根本には「あらゆるものを使い回し、最小限の構成要素でゲームを作る」という強い美学、哲学があると思うんです。
──本作はパズルの仕組みから画面構成にいたるまで、徹底してミニマルですよね。生高橋さんの公式サイトにも「一つの仕組みをむしゃぶりつくすような設計が好き」と記載があります。
はちのす氏:
はい。まず、パズルの仕組み自体、アクションは「爆弾を爆発させる」だけという、極限まで削ぎ落とされたものですよね。
グラフィック制作においても、私への最初のオーダーは「使い回せるパーツにしてほしい」というものでした。
──具体的には、どのように「使い回し」を実装されたのでしょうか?
はちのす氏:
草のパーツを、1マス置けば低い草、2マスなら高い草、天井に置けばツルに見える……というデザインにしました。
生高橋氏:
たぶん……癖(ヘキ)ですよね(笑)。
ひとつの要素が複数の役割を兼ねている状態が、本当にもうたまらなく好きなんです。

──それは作家としてのロマンによるものですか? それとも開発上の実利でしょうか。
生高橋氏:
両方ですが、自分でプログラムを書くことも大きいと思います。要素を増やせばそれだけプログラムや音楽、イラストなどの素材を用意する手間が増えますが、使い回しができれば効率的です。
また、インディーゲームの作家として、大手作品とボリュームで戦うのではなく限られたリソースを使い回す「工夫」で勝負するという感覚が開発を通じて形性されていきました。
はちのす氏:
本作にエンディングロール以外の文字が存在していないのも、この「要素を最小化する」という価値観に起因していると思うんです。

──構成要素を絞ることで、機能美と開発効率を両立させているのですね。
生高橋氏:
僕、ドット絵が好きなんです。特にちっちゃいドット絵。
ドット絵は小さければ小さいほど、1ドットに込められた情報量と意味が増えますよね。私のレベルデザインもそれと同じで、「解像度が低い」んです。
──「解像度が低い」とはどういうことでしょうか。単に画質の話ではないですよね。
生高橋氏:
先ほど、「本作では地形と解き方が結びついている」という話をしましたよね。あのように、ひとつのブロックが「足場」であり、同時に「パズルのヒント」でもあるというように、ブロックひとつに複数の意味を詰め込んでいるんです。これって、ドット絵が小さくなるにつれて、1ドットあたりの持つ情報量が増えていくのと、似ていると思うんです。
構成要素が少ないからこそ、ひとつひとつに込められた意味が濃くなる。「1ブロックに多くの役割を持たせる」ことが好きなので、むしろ広大なマップを自由に作るようなレベルデザインになると、できなくなってしまうんです。
──むしろ1点あたりの情報密度を極限まで高めるための手法になっている、ということですね。
つよみー氏:
その美学は音楽にも徹底されていて、じつは本作のBGMは、同じメロディを異なるステージで使い回しているんです。
生高橋氏:
ひとつの要素で全然違う雰囲気を味わえるっていうのが、大好物なんです。
BGMは、『Tower of Heaven』【※】という作品のBGMに影響を受けています。同じメロディなのに、ぜんぜん違う印象を受けるんです。
※『Tower of Heaven』…2009年に公開された、フリーの2Dアクションゲーム。ステージを進むごとに進行報告などを縛る「ルール」が追加され、それを破るとゲームオーバーになる。
はちのす氏:
この「使い回し」を徹底的に追求した結果、ゲーム全体のデータ容量も、50メガバイト程度で収まっています(笑) 。
「爆弾イモムシ」を音へ翻訳したサウンドデザイン
──先ほど、BGMでもメロディを使い回しているというお話がありました。ひとつのメロディを軸に据えつつ、本作独自の「音」をどのように構築していったのでしょうか?
つよみー氏:
大前提として、パズルというゲーム体験が「主」であり、音楽はそれを支える「従」であるという主従関係を絶対視しています。
制作時は、すでに完成していたイモムシのデザインを起点に、「イモムシらしい音色やメロディとは何か」、「鳥の体内らしい響きとは何か」をひとつひとつ積み上げていきました。
その結果、音楽も自ずと『Öoo』というゲームのためだけに特化したものに仕上がって、唯一無二のサウンドになったと思います。
──具体的に、イモムシらしさ、鳥の体内らしさの要素はどんなところに現れていますか?
つよみー氏:
いちばんは、音色です。シンセサイザーを使って、独特のうにょうにょとした質感を表現しました。特に第1ステージのメロディに耳を澄ませていただくと、そのニュアンスを感じてもらえるはずです。
それから、先ほどもお話しした使い回ししているメロディーです。たらららららら〜♪と半音で上がっていく動きで、イモムシがノソノソと動く様子を表現しています。
生高橋氏:
そんな意図があったとは……!今の今まで知りませんでした(笑)。

──SE(効果音)についても伺わせてください。本作の爆弾の音は、無機質な爆発音ではなく、どこか弾力のあるかわいらしい音が印象的です。「爆弾イモムシが爆発している」という説得力のある音ですよね。
つよみー氏:
それは、生高橋さんのディレクションによる力が大きいんです。
生高橋氏:
とにかく「かわいくしてください!」とオーダーしていました(笑)。昭和のアニメに出てくる煙の「ボワン」という音をイメージしてほしい、と伝えたんです。
つよみー氏:
レトロゲームのようなサウンドで作ると、もっとトゲトゲしい感じになるんですが、生高橋さんのディレクションを踏まえて、シンプルな爆発音に丸みのある音を足すことで、あの独特の質感をデザインしました。
──言語が削ぎ落とされている分、パズルを解いたときなどのSEには、プレイヤーを「褒める」ような役割も求められるのではないでしょうか。音の情報量についてはどう考えられましたか?
生高橋氏:
私からは、思考を邪魔しないようSEは「最低限の情報量にしてほしい」と伝えました。特に移動音や爆弾の音は、プレイ中常に鳴り続けるものなので、主張しすぎないことが大切です。
ただ、アイテムを獲得した際やひらめいた瞬間の音など、ゲームの鍵となる重要な局面では、しっかり主張する音を作っていただきました 。
──制作過程では、ディレクターの生高橋さんとサウンドのつよみーさんの間で、どのようなやり取りがあったのでしょう。
生高橋氏:
「メロディを使い回したい」という大きな方針以外は、基本的に丸投げでした(笑)。私は音楽の専門知識がないので、「お願いします!」と信頼してお任せするスタイルです。
つよみー氏:
何をアップしても、おふたりから「最高ですね!」とポジティブな反応が返ってくるので、すごくモチベーションを上げていただきました。
──パズル部分に没入するための環境として音楽が鳴っているわけですよね。没入と世界観を伝える、そのバランスの取り方はどのように考えられているのでしょうか?
つよみー氏:
制作では世界観からアイデアを広げていき、パズルの邪魔にならないよう、リズムが際立ちすぎる場合は音を長く丸いものに差し替えるなど、徐々にゲームデザインに寄せていく調整を繰り返しました。
はちのす氏:
本作はエリアごとに背景もBGMも違うので、先に私が描いた背景を見て雰囲気を感じとってもらって、BGMも作ってもらうという順番でしたね。
つよみー氏:
そうですね。はちのすさんのグラフィックから、すごくインスピレーションを受けたんです。
第4ステージって、ちょっと赤っぽくてカクカクしていますよね。これを見たときに、はちのすさんに「これは何をイメージしたんですか?」と聞いたら「ヴェイパーウェイヴです」という答えが返ってきたんです。

「ヴェイパーウェイヴ」は視覚的な美学だけでなく、音楽のジャンル名でもあったんですね。僕は初めて聴くジャンルだったので、BGMにも真似して取り入れてみました。グラフィックからインスピレーションを受けたからこそ、こうした新しい挑戦もできたんです。
──たしかに、終盤の雪を思わせるようなステージでは、ピアノやストリングスが響く美しいアレンジが入りますね。
つよみー氏:
ラストステージの一歩手前ですね。最後に向けて盛り上げていく直前の「嵐の前の静けさ」を意識して、あえて綺麗めなサウンドに振っています。
全体の構成として、緩急のサンドイッチになるように意識していたんです。
はちのす氏:
それも初めて知りました……! 音の面でもそこまで考え抜かれていたんですね。

ゲームだからこそのギミックと噛み合う、「ゲームらしい」グラフィック
──いま、サウンドでも「緩急」についてのお話がありましたが、グラフィックでも緩急を意識されていましたか?鳥の体内という設定でありながら、後半は部屋のような人工的なモチーフが登場したりもしますよね。
はちのす氏:
基本的には「寒色系のステージの次は暖色系」というように、視覚的な変化をざっくり決めていきました。
鳥の体内という設定なので、胃や腸のような生命らしいモチーフを軸にしていたのですが、それだけではマンネリ化してしまいますよね。
そこで、あえてヴェイパーウェイヴ風の人工的なステージや、家具のある部屋のような体内らしくないステージを挟み込みました。これが、グラフィック面での「緩急」ですね。

──「鳥に食べられる」というプロローグから始まり、体内を進んでいくという、どこか生命の無常さを感じる世界観も印象的です。この設定はどのように決まったのですか?
生高橋氏:
デザイン面というよりは、「言葉を使わずにプレイヤーに目的を伝えたい」という目標が先にありました。
マリオでいえば「ピーチ姫を助けに行く」くらいわかりやすい動機が欲しかったんです。主人公がイモムシなら「鳥に食べられてしまい、脱出を目指す」という展開にすれば、説明がなくてもゴールが明確になります。
無常に感じられる部分はたぶん、はちのすさんのデザインによるところだと思います。
はちのす氏:
そうですね。ポップな中にどこか不穏さを感じさせる、私好みのエッセンスを2割ほど隠し味として入れています。『ホロウナイト』や『アドベンチャータイム』の影響が大きいです。
──イモムシのかわいらしくも淡々とした存在感も特徴的ですよね。虫っぽい無意識感というか。
生高橋氏:
最初は私が笑っている表情のラフを描いていたのですが、はちのすさんがデザインした段階で「真顔」になっていたんです。でも、その方が淡々としていて意外とかわいいなと。
はちのす氏:
常ににっこり笑っているのも不自然かなと思い、しれっと無表情に変えさせてもらいました(笑)。
なぜ爆弾イモムシなのか?
— NamaTakahashi(生高橋) (@namatakahashi) March 9, 2024
爆弾を複数使う遊びを思いつく
↓
爆弾の所持数をUIで表示するのやだなぁ
↓
ヨッシーの卵みたいに後ろについてきちゃえばいいんじゃね?
↓
なんかイモムシみたい!
爆弾イモムシ爆誕!#Öooo pic.twitter.com/fxg1Xo2umn
──本作では「鍵の代わりに虫」「扉の代わりにカエル」が登場するなど、ギミックも徹底して「生き物」がモチーフになっています。これにはどのような意図があるのでしょうか?
はちのす氏:
「先に進むには鍵が必要」という生高橋さんのアイデアを、より本作の世界観に馴染むよう「虫を捕まえて、カエルに食べさせると道が開く」という形に膨らませていきました。
生高橋氏:
前作が生き物のいない静的な世界だったので、今回は「寂しくない世界にしたい」という思いがあったんです。
なので、はちのすさんに「デザインはぜんぶ生き物にしてほしい」とオーダーしたんです。これは前作との対比を作り、進捗感を感じてもらうためでもあります。

──虫をカエルに食べさせると、羽が散る演出が入りますよね。無常でありながら、演出で「先に進めるようになった」ことがわかるというか。
生高橋氏:
あの食べた後に「羽」が落ちていくエフェクトは、私が追加したんです。
私にとってエフェクトは、画面上で何が起きているかを正しく伝えるための情報です。テストプレイでは、ハエを食べさせたことに気づかない方もいたため、必要最低限の視覚情報としてくわえました。

──アートとレベルデザイン(地形)は、どのように両立させたのでしょうか?
はちのす氏:
本作のアートの方向性として、あくまで私のアーティストとしての自己表現を出すのは控え、「ゲームのための絵」として描いています。
ですが初期案では、土や草の質感をリアルに描き込んだ複雑な背景を提案していたんです。絵を作る側としては、有機的で「マス」の境目もわかりにくい、なだらかなデザインにしたかったんです。
ですが、自分自身もテストプレイを経て、現在のようなミニマルな形に落ち着きました。
──なるほど、それは一体なぜでしょうか?
生高橋氏:
本作では、地形と解き方が結びついていますよね。
開発後半のテストプレイを経て、視認性が何より重要だと気づいたんです。デザインをリアルにしてしまうと、地形が「ステージの形」ではなく「イモムシを取り巻く世界」になってしまって、プレイヤーが地形を覚えられなくなってしまうんです。
ですので、「リアルさを抑えてほしい」と僕からリクエストしたんです。

はちのす氏:
実際に、私もテストプレイをしてみたところ、本作は「ゲームらしい嘘」が面白い作品だと分かったんです。
例えば、「爆弾を虫の真横に設置してから爆発させ、虫を壁に押し込んで壁抜けさせる」というテクニックがあるんですが、これって現実では絶対にありえない事象ですよね(笑)。
であれば、現実を再現するリアルなアートよりも、パターンの組み合わせで「マス目」がはっきり分かるアートの方がいい。プレイヤーが地形を図形として記憶して、知識と結びつけやすいような、アイコンとしての絵の方が、本作には相応しいと考え直しました。
──アーティストとしての自己表現よりも、あくまで「ゲームのための絵」に徹したと。
はちのす氏:
はい。背景でストーリーを語る「環境ストーリーテリング」のような手法もあえて控え、エリアが変わったことを示したり、アクションの違いを明確に示すためのデザインに注力しました。
例えば、背景に埋まっているドクロは、あくまで絵として寂しくならないように置いたものです。

生高橋氏:
でも、意外とラストには幽霊なんかも出てきましたよね(笑)。スタート地点の家にも、お父さんとお母さんの肖像画みたいなのがあったり。
はちのす氏:
入れ込めるところにちょっとだけ、ギリギリできる抵抗を挟み込みました。(笑)。
イモムシの家は、ベッドと花瓶と椅子とテーブル……といったような、最低限の構成要素でデザインしています。

プレイする前より、自分自身が少しだけ「賢くなった」と感じてほしい
──大胆な切り捨てによる引き算と使い回し、偶然を形にするためのストイックな開発体制ですね。そうして研ぎ澄まされた本作を、これからプレイする方、あるいはすでにクリアした方へメッセージをお願いできますか?
はちのす氏:
そうですね。私からは……アートはあくまで「ゲーム体験」を支えるために描きました。ですので、まずはこのゲームそのものを全力で楽しんでもらいたいです。それだけです!
つよみー氏:
私もまずは心ゆくまで楽しんでいただきたいのですが、あえてサウンド面に注目するなら、ひとつのメロディが形を変えて何度も登場する点です。
生高橋さんの「ひとつのメカニクスを使い倒す」という手法にインスピレーションを受け、音楽もひとつのメロディでどこまで振り幅を作れるかに挑戦しました。2周目をプレイされる際は、ぜひその変化にも耳を傾けてみてください。
生高橋氏:
音楽を気に入っていただけたら、サウンドトラックもぜひ!
──生高橋さんからは、いかがでしょうか?
生高橋氏:
僕の中のテーマを最近見つけられたのですが、それは「自分が強くなること」なんです。
ゲーム内のキャラクターのレベルが上がることではなく、遊んでいるプレイヤー自身が、経験を通じて強くなっていくこと。
本作も、知識を得ることで解けなかった謎が解けて、自分自身が少し「賢くなった」ような感覚を味わえるゲームになっています。その、プレイヤー自身の成長という快感を、ぜひ体験してほしいなと思います。
(了)
今回の取材を通じて終始感じられたのは、開発チーム3人の間に流れる、穏やかで和気藹々とした空気感だった。
しかし、その柔らかな語り口の根底には、驚くほど強固な「美学」が貫かれている。
「面白さ」のために迷わず切り捨てる決断力、計算し尽くされたロジックの隙間にあえて「偶然」を呼び込む遊び心、そして1マスの地形に複数の意味を込める、偏執的とも言える「使い回し」への愛。
本作の濃密なパズル体験を形成する一端を、誠実でユニークなエピソードの数々から感じることができた。
本作には、感動的な長編ドラマも、複雑なステータス画面も存在しない。そこにあるのは、パズルの「解けた!」という瞬間の喜びだけを、不純物をひたすら取り除いて抽出したような体験の濃縮還元だ。
物語ではなく、自らのひらめきという体験によって刻まれる、たった2時間の忘れられない旅。プレイする前より、自分自身が少しだけ賢くなっているような気がする。
その何物にも代えがたい快感を、ぜひひとりでも多くの人に味わってほしい。






