石板(カミノイシ)を通じておこなう、悩ましくも面白いコミュニケーション。『カミとミコ』は「失敗がおもしろいゲーム」
── SCRAPが本格的にビデオゲームを手がけるのは今回が初めてになるのですか?
加藤氏:
「初めてです!」と言いたいんですけど(笑)、ここまで動きのあるゲームではないにせよ、謎解きアドベンチャーゲーム的なものは作っています。本格的なゲームですと、任天堂さんと手がけた『リアル脱出ゲーム×ニンテンドー3DS 超破壊計画からの脱出』【※】があります。
※『リアル脱出ゲーム×ニンテンドー3DS 超破壊計画からの脱出』……2015年9月発売。SCRAPと任天堂が合同で開発したニンテンドー3DS用タイトル。あらかじめイベント時間の予約を取ったうえで、最大6名の参加者と合同でオンラインプレイが可能だった。

── あ、覚えています。オンラインによる6人同時プレイが可能な、かなり時代を先取りしていたタイトルですよね。
加藤氏:
ほかには、Web版リアル脱出ゲームの『REGAME』【※】。オンラインでマッチングして、世界中の人が集まって謎解きを行うというゲームですね。
「それでは第1回、『REGAME』スタートです!」と僕が生放送で言ったらすぐにサーバートラブルが起こったという思い出もあって(笑)。そこから3時間。ひたすら謝り続けました……。
※『REGAME』……「リアル脱出ゲーム」をオンライン上で体現した、60分制限の中でWeb上の謎を解く体験型ゲーム。「ホーンテッドハウスからの脱出」と称したイベント第1弾は約4000人を動員した。

── (笑)。『カミとミコ』の謎解き要素に関しては、どのように構成されていかれたのでしょうか。
加藤氏:
『カミとミコ』では、プレイヤーがミコに閃きを与えるのですが、「言葉が通じない相手に何かを伝える」ことになります。その際、こちらにある選択肢は「石板(カミノイシ)」しかないんですね。この石板を組み合わせて、ミコに「あ! これはこういうことを言っているのね」という閃きを与えるのですが、プレイヤーは「これでわかるだろう」と行動してもミコが閃かない場合、「じゃあもっといい方法があるはず、いい答えがあるはずなんだ」と考え続けることになります。

加藤氏:
大事な工程としてふたつのフェーズがあって、ひとつは「何を閃いてもらうべきなのか」をプレイヤー側がまず閃かなくちゃいけない。そしてふたつ目は、「ミコに閃いてもらうためにはどういう指示を出せばいいのか」を思いつかないといけない。ふたつ目のフェーズは、石板を見て「これとこれの組み合わせだ!」となるシーンが多ければ多いほど、謎解きとしては本来いいんですけれども……。
じつは、その比率を下げているというか、プレイヤーには何回も失敗してほしいんですよね。失敗を重ねた結果、じわじわと正解に近づいていって「これってこういうことなんだ。じゃあ、この世界ではまだこれは早いんだ」といったことに気づきながら正解にたどり着く……。これは赤坂さんの言葉なんですけど「失敗がおもしろいゲームでもありたい」というのが『カミとミコ』のコンセプトのひとつなんです。
失敗のテキストがめちゃくちゃいいんですよ。失敗パターンがゲーム中で2000通り近くあって、赤坂さんがすべてのテキストを書いてくださったんです。だから、全部の失敗パターンにミコの息遣いが入っているんです。
「失敗したときのパターンを全部自分が書いたほうがおもしろい」約2000通りのテキスト執筆を自ら志願した赤坂先生
── 失敗したときのミコのリアクションも、ものすごく豊富ですよね。実際にプレイしていて「全パターンが見たい!」と感じましたから。
赤坂先生:
カミノイシが真面目なものばかりで、じつはボケるヒマが意外となくて……。無理やり組み合わせてボケていくという(笑)。
加藤氏:
開発の最終盤で「うんこのカミノイシは入れられないですか?」と赤坂さんが言ってきたり(笑)。いずれにしても謎解きという観点で、単純なシステムで奥深いものを作りたかったですし、システムが物語上きちんと100パーセント連動するというのが今回やりたかったことです。それが『カミとミコ』の謎解きシステムとしての根幹ですね。
──失敗テキストも赤坂先生が全部書かれていたというのは本当に驚きですが、それは加藤さんからお願いされたのですか?
赤坂先生:
僕が言い始めたやつです(笑)。
加藤氏:
僕はむしろ止めました(笑)。
赤坂先生:
「僕にできる仕事は何か」と考えたときに、テキスト部分ならばプログラム的にも干渉しないと考えて、「じゃあ失敗したときのパターンを全部自分が書いたほうがおもしろいだろうな」と。そこなら力になれるかも、と思ったんです。
加藤氏:
「これ、全部書くので」と赤坂さんから提案いただいたときには、ほかのお仕事などの状況からお忙しいのがわかっていたので「本当にアナタがいまやる仕事はそれなんですか?」みたいな気持ちになりました(笑)。
赤坂先生:
さすがに2000通りのテキストを書いているときは、ほかの仕事は落ち着いていたので大丈夫です(笑)。
加藤氏:
ただ、それは本当にありがたかったですし、そのおかげで物語の深みというものは、本当に極限まで深まったなと思います。しかし、すさまじい量でしたね。
ミヤザキ氏:
「はい」、「いいえ」の分岐パターンのこだわりもすごかったですよね。「はい」、「いいえ」の選択肢があり、「はい」を選んだら物語が進むシーンで、ふつうですと「いいえ」を何度選んでも、リアクションは同じものが返ってきますよね。
でも『カミとミコ』では、「いいえ」を選んだときのリアクションに大量のパターンが用意されていて、違うリアクションが返ってくるんですよ(笑)。
赤坂先生:
やりましたっけ、そんなこと(笑)。
ミヤザキ氏:
やっていただきました。「1回だけリアクションがあるけど、あとはシステム的に同じのが返ってきちゃう」だとガッカリしちゃいますが、毎回違う返答があると「お、こんなところまで作り込んでいるな」とゲーマーとしてはなりますよね。
「火」から始まる人類の発明史100万年と、それらの発明を生み出す「謎」が、ゲームの大枠を形作った
──ちなみに、100万年の時をかけるという点は、赤坂先生からのアイデアだったのですか。
加藤氏:
「世界創世」というキーワードが最初に赤坂さんから出てきたので、その言葉の中に「時代を経て発展していく」ということは内包されていたのかなと。当初から、そこのコンセンサスは取れた状態で企画が始まっています。
──レベルデザイン的にも、最初に火が生まれるところからスタートするというのはわかりやいと感じました。「あ、これをやっていけばいいのね」というのが自然と理解できたので。
赤坂先生:
火も作品のテーマになっていったというか、本当にいいところから始められてよかったと思います。いろいろな要素、偶然に救われた作品でもありました。
── 物語で取り扱う時代は、どのように選定されたのでしょうか。
赤坂先生:
そこは話し合った気もしますが……僕がホワイトボードにプロットを書いたときにすでにそうなっていたのかもしれませんね。ただ、終盤の時代は当初から定まっていました。
加藤氏:
「人類における重要な発明とは?」みたいなものは文献も調べました。『カミとミコ』の企画書を書いたのは3年以上前なんですけれど、わりと出始めのChatGPTに聞いたりすることを延々とやっていました。とにかく緻密に情報を集めていましたね。
火から始めるっていうのは最初から決まっていて、「火よりも前の発明のことはいったん置いておこう」となったので、火の謎が最初にできたんですよね。いきなり雷を落とすだけで火がついちゃったらそれは謎でもなんでもないから、火をつける対象を手に入れるために「枝のカミノイシを手に入れる、集める」というのを最初にやる。
でもそれだけだと集まらなくて、「「風で落とす」というアクションを入れる」、「じゃあ天候も入れなくちゃいけない」、「カミノイシはこのくらいの頻度で使わなくちゃいけない」という謎解きのインターフェース、入力の大まかな流れができあがっていきました。そこからは、「火を見つけたときのよろこび」と同じような体験を1個ずつ作っていく、少しずつ拡張するというふうに作っていったんです。
── 赤坂先生が、いちばん筆が乗った時代、シナリオの見どころを教えてください。
赤坂先生:
肉を食うミコですね(笑)。「人類で初めて焼肉を食べた人間」、これがいいなって。何かをクリアすると周りのキャラクターが褒めてくれる演出ってけっこうありますけど、ミコはそこに血肉を通わせたかったんです。細かいところを気にして、なるべくうさん臭くならないように気をつけて書いています。そんななかでも、僕はミコが肉を食っている顔がとくに気に入っています。
── プレイしていてそこはめちゃくちゃ「かわいい!」と感じました(笑)。
ミヤザキ氏:
あのシーンは、じつはすごい回数のリテイクをいただいてできあがったものなんです。
赤坂先生:
書いていて楽しかったところでいうと、わりと全部書いていて楽しかったですね。ミコは毎回違う表情をしてくれるキャラクターでもあるので、飽きることがあまりなかったです。
── ご自身のキャラクターがドットで描かれるというところで意識されたことはありますか?
赤坂先生:
イベントイラストのような、表情で勝負するときは、とことんドアップにしてあげようっていう意識がありました。ドットって引きの絵になると表情が読めなくなっちゃうので、メリハリの付け方を意識しましたね。いざ引きの絵を見たときに「思ったよりも引きだったな」って思うこともありましたが(笑)。
加藤氏:
ドットだともう点みたいになっちゃいますからね。
── ビデオゲームという媒体でシナリオ・キャラクターを描くうえで、これまで赤坂先生が手がけられてこられたマンガやアニメとは、作り方や考え方を変えられたのですか?
赤坂先生:
そうですね。『カミとミコ』は特殊な作品で、ミコの独りしゃべりのウェイトが大きいんです。マンガで独りしゃべりのシーンが続くと編集から怒られることがあって、「なるべく掛け合いで話を進める」みたいなロジックがあるんですね。
一方で、ゲームはひとりで進むものが多いじゃないですか。それこそ『ドラゴンクエスト』の1作目は基本ひとりですし。ゲームは独りしゃべりが許されるロジック、文化だと思っていて。そのなかでもミコの独りしゃべりがおもしろくなるように、コメディとしての性質も持ち合わせたかったので、長く聞いていても飽きないようにする工夫はがんばったつもりです。
ミコが会話する相手はプレイヤーのみ。しかも直接会話するのではなく、カミノイシを使うという特殊な方法です。でもそれってじつはいちばん密なコミュニケーション、真実のコミュニケーションでもあると思うんです。そういった「ミコとプレイヤーのやり取り」は大事なところなので、意識して書いています。





