総統は文化祭をサボる輩の理論的正当性のためにゲームを作ったようです
──話は少し戻りますが、歴史シミュレーションゲームって、政体が文字ひとつで変わるんですよね。「共和制から、立憲君主制に変わりました」とか。シュールです(笑)。
グルッペン:
そこを脳内補完するのが楽しいんですよ。パッと政体は変わりますが、イデオロギーは同じであることも多い。ロシア帝国からソビエト連邦のように、イデオロギーが変わるととんでもない変わりかたをしますが、イデオロギーがいっしょなら、政体が変わってもあまり変化はありません。イデオロギー自体が転換すると脳内妄想が捗りますね。
──そもそもいまは、「イデオロギーというものが世の中を支配していて、それが変わりうるものなんだ」ということが見えにくいですよね。ゲームの中ではいとも簡単に変わったり、思考実験では「このように変わったとしたら」とできる一方で、現実のイデオロギーや政体はそう簡単には変わらない。いまイデオロギーはどうなっているんでしょうか。
グルッペン:
「イデオロギーとは何ぞや」という議論はさまざまありますが、極めていい加減に表現すると、「哲学を政治的にした」ものです。いま、イデオロギーは自由主義がほかのイデオロギーを圧倒し、淘汰してしまっています。今回私が作った『RPGツクール』の作品(『異世界の主役は我々だ!』)は、そのイデオロギーのひとつ手前のものなんですよ。
──ひとつ手前。
グルッペン:
イデオロギーの手前の“考えかた”の段階ですよね。制度もそうですが、制度の上位には論理があります。哲学は思想です。思想はイコール論理であり、制度となります。つまり思想の表れとして制度があります。
──それが『HoI』だと政体の形になると。
グルッペン:
この国だってそうでしょう。それは鉄の掟。この地球のルールです。だから考えかたなので、レーニン【※1】の段階じゃなくてマルクス【※2】の段階の話です。マルクスは実践もありますが。ヒトラーとニーチェが妥当なのか? いやむしろヒトラーとニーチェ妹【※3】か。それはさて置き、哲学は、基本的にイデオロギーが構築される前提となる考えかた、物の見かたです。我々のいる自由主義社会の中にも、いろいろな見かたがあります。今回の『異世界の主役は我々だ!』の中で提示しようとしているのは、ベンサム【※4】的な功利主義ですね。もうひとつがロールズ【※5】。それからニーチェ、カント【※6】、ノージック【※7】、そしてマルクスです(笑)。
※1 レーニン……19世紀末~20世紀のロシアの革命家。反政府思想の中でマルクス主義に出会い、活動を開始。1917年のロシア革命を主導し、ソビエト連邦とソ連共産党の成立に貢献。指導者となった。
(画像はWikipediaより)
(画像はWikipediaより)
(画像はWikipediaより)
(画像はWikipediaより)
(画像はWikipediaより)
(画像はWikipediaより)
──なんか授業で聞いたことがあるような人ばかりですね。
グルッペン:
これらの考えかたは、いまでも完全に使えるんですよね。マルクスも、マルクス・レーニン主義まで行くとわけがわからなくなってきますが、マルクスの段階までだと、物の見かたとしてけっこう使えるので。働きながら、「あ~オレ、搾取されてるな~」とか。あとはベンサムの話を聞いて、「オレは効用を最大化するように行動しないとな」などですね。
──わかったような、わからないような(笑)。
グルッペン:
ニーチェ先生の話を聞いて、「もう誰にも関わらないでおこう」という態度もありですね。ニーチェ先生に掛かると、「世の中の秩序は弱者によって作られている!」となります。『異世界の主役は我々だ!』は、これらの物の見かたをたくさん紹介しているゲームです。これらを見て世の中を憂いた人たちから、もしかしたら資本主義、自由主義に代わる新しいイデオロギーが生まれるのかもしれない(笑)。
──思想シミュレートRPGということでいいのでしょうか。
グルッペン:
そういう形ですかね。マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』【※】のような、“現実社会で使える思想詰め合わせ”みたいなものです。あれに近い、少々ひねくれたバージョン。もうちょっと世の中が憎い芸風をしているバージョンですね。
※『これからの「正義」の話をしよう』……ハーバード大学教授のマイケル・サンデルによる、正義をめぐる人気の哲学講義“Justice”を書籍化したもの。「金融危機、経済格差、テロ、戦後補償といった、現代世界を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした哲学・倫理の問題が潜んでいる」(内容紹介より)。これらを古から現在にいたる哲学者たちの物の見かたを追うことで解説していく。
(画像はHayakawa Onlineより)
──学生の時分に出会ったらハマりそうです。
グルッペン:
中高生ぐらいが染まると危険な感じがします(笑)。「親や教師が教えてくれるイデオロギーとは、また違った考えかたが世の中を支配しているんだよ」というものなので、高校は卒業してから見てほしいかな。社会に出ると、社会のほうが完全に正しいとわかるので。
──第一話はどんなものを目指したのでしょう?
グルッペン:
今回で目指したのは、先ほど申し上げた“文化祭、めんどくさい”と言っているような人たちに理論的正当性を与えることです。
──理論的正当性(笑)。どんな理論が?
グルッペン:
「他人から「これをやれ」と口出されたとき、聞く必要があるのか」という疑問に答えたいからです。日本人の多くは、「まわりがやってるから自分もそうしている」という人ですよ。「自分はこう思うから、こう行動する」という人は少ない。その「自分はこう思うから、こう行動する」という見本を昔の人は大量に作っているんですね。それをひとつずつ紹介していくゲームです。うまく自分の行動に理論的背景を付けていただきたいと。
──これをやればサボれると(笑)。
グルッペン:
そうです。これをやれば自分がサボるための理論が与えられます。
──危険ですねえ(笑)。
グルッペン:
社会秩序を乱してやろうと(笑)。イデオロギーが忘れられたつまらない世の中になってしまったので、もう一度イデオロギーを復活させたい。これが私の目的でございます(笑)。
──最終的にはグルッペンさんがおもしろがれるような世の中に変えていくんですね。
グルッペン:
そうでなくても、何か精神的支柱や哲学を持って行動するのは正しいと思いますよ。そうあったほうが人生を楽しめると思いますので。いろいろ学んで「これは正しい」と思える何かを見つける。そういう体験の共感というか……まあ、要するに仲間を増やしたいんですな(笑)。
──いまは哲学という模索よりも、性急に結論を求めている人が多いような気がします。
グルッペン:
まさしくそのとおりです。成功など、まわりが作った仮想現実じゃないですか。幻想です。いろいろありますが、「親の言うことを聞きなさい」から始まり、「浮気をしてはいけない」など、封建的な秩序がまだまだいろいろと残っていると思うんですよね。その中で、「それは本当に正しいのか?」と考える行為は必要です。この世に存在する制度や評価の多くは、エリートが大衆を操縦するために作ったものだったり、逆に能力のある人間に嫉妬した人たちが、その能力を発揮するのを制限し、平均化するために作ったものだったりします。浮気の禁止とかそうですよね。凄い制度ですよ。アレがダメというのはおかしい。アレは自分に配当が回ってこなくなるから平均化しようとしているわけですから。
──(笑)。そうした昔の人々の思想が詰まったゲームを、本当は中高生にプレイしてほしいと。
グルッペン:
中高生にプレイしてもらって……「文化祭に行かない」という判断を(笑)。
──文化祭に行かないでニコニコを観ようと(笑)。
グルッペン:
それ! それですね。動画を観たら、今度は“RPGアツマール”を活用して、生産者側に回ろう、そういうことですね(笑)。
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