プレイヤーが操るのは「穴」。
物を落とすたびに大きくなる不思議な穴を操作して、最初は石や草、そのうちイスや机、いずれは車や家まで落としていく、『塊魂』ならぬ「穴魂」なiPhoneゲームが公開されています。
『Donut County』です。
先日、アメリカのゲームの表彰『The Game Awards』の2018年度のノミネート作が発表されました。
この表彰にはモバイルゲーム部門(Best Mobile Game)があり、そこに『フォートナイト』や『PUBG MOBILE』、『Florence』と並んでノミネートされたのがこの作品です。
先に言ってしまいますと、この作品はあまり「ゲーム」という感じではありません。
「デジタルおもちゃ」といったプレイ感で、脱出ゲームのような謎解きもあるのですが、一部のシーンを除いてとても簡単です。
『Florence』と同じ、ビジュアルが評価されての選出でしょう。
ただ、デザインや演出のセンスに優れていて、こうした表彰にノミネートされるのもわかる作品。
注目されているため、今回ご紹介しておきたいと思います。
価格は600円。 買い切りゲームであるため課金・広告・スタミナ等はありません。
アメリカの個人開発者が6年におよぶ製作を続けてきた作品で、販売はビジュアル系のゲームを扱っているAnnapurna。
『Florence』や『Gorogoa』、スマホ版『Flower』もここがパブリッシュを行っています。
少し前に「穴」を操って町にあるものを落としていく『hole.io』というゲームが流行っていましたが、それとは直接関係ありません。
内容も『hole.io』が時間制のオンライン対戦ゲームであったのに対し、こちらはひとり用でステージクリア型のゲームです。
『hole.io』が『Donut County』のコンセプトを盗用したのでは? という提言がありましたが、事実関係がわからないので、ここではそれについての言及はしません。
スティックやボタンはなく、穴をスライドして動かします。
まずは紙ゴミや石ころを落として、穴を徐々に大きくしていきます。
大きくなれば箱や鞄も落とすことができるでしょう。
それによって穴はさらに大きくなり、棚や大壺、そのうち建物まで落とせるようになります。
すべてのものを落とせばステージクリア。
物の動きは物理シミュレートされており、リアルな動きで落ちていきます。
物を落とす過程でゲーム的な困難──たとえば敵が出てきて邪魔をする、といったことはありません。
制限時間もなく、スコアもありません。
ただひたすら落とすだけの、シンプルな内容。
しかし散らかっているものをポイポイ落としていくのは、それだけで楽しさがあります。
また、ステージによってはちょっとした工夫が必要になります。
穴から尻尾を出すヘビを使ってスイッチを押したり、穴に溜まってしまった水を水飲み鳥に吸い取らせるなど、仕掛けを使わないとクリアできないようになっていきます。
ただ、そこまで難しい仕掛けはなく、パズルや脱出ゲームっぽくなるのは最終ステージぐらい。
ほとんどのステージはプレイヤーを悩ませるようなものではなく、手軽に遊べる作りになっています。
ステージの合間には会話シーンが入ります。
穴の底、地下の奥深くで、落とされた人々がことの顛末について話し合いを行います……。
その会話はいかにもカートゥーン(アメリカのアニメ)的で、雑然としたもの。
正直、ワケがわからない話になったりしますが、このユニークで取り留めのないストーリーもゲームの良さでしょうか。
物語が重視されていて、全体でひとつのインタラクティブ(ユーザー介入型)デジタルアニメーション作品になっている印象です。
各ステージは数分で終わり、全20ステージほどありますが、ラストまで1時間半程度。
長さ的にも「ゲームという形態を採ったショートストーリー」という感じですね。
長く楽しめるゲームではありませんが、手軽に体験できる良作といったアプリです。
ゲームではなく、デジタル絵本を見るつもりで購入する方がよいかもしれません。
実際、“完全な子ども向け”というわけではありませんが、親子で楽しめる作品だと思います。
そうしたアプリにはお金を出し辛い人も多いと思いますが……。
今年の「Best Mobile Game」にノミネートされているぐらいなので、演出や「見せ方」に優れています。
ビジュアル系のゲームが好きな人なら、満足できる作品でしょう。
Donut County
「穴」を操って物を落とす変わり種ゲーム
・物理ゲーム
・開発:Ben Esposito(アメリカ、個人)
・販売:Annapurna Interactive(アメリカ)
・iOS版600円、Steam版1320円
文/カムライターオ