星新一のショートショート『おーい、でてこーい』には、石ころから産業廃棄物に、古い恋人の写真か犯罪の証拠物件まで、捨てたいものなら何でも飲み込んでくれる「穴」が登場する。
その結末を知っていればぞっとしてしまうが、もし実際にそのような穴があったら、人は何かを捨てたり、入れたくなってしまうのかもしれない。
まさにそのような「穴」の魔力(?)をコンセプトにした『Donut County』は、「穴」を操作してあらゆるモノを吸い込み、パズルを解いていくユニークなアドベンチャーゲームだ。
『Donut Country』は『The Unfinished Swan』(2012年発売)や『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』(2017年発売)などを手がけてきたロサンゼルス在住のインディーゲームクリエイター、ベン・エスポジート(Ben Esposito)氏の新作となる。
同氏は美しいトゥーンシェイディングによる表現を得意としており、本作でもその手腕をいかんなく発揮している。
パブリッシャーは同じくロサンゼルスのAnnapurna Interactive。
同社がリリースした『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』と『Gorogoa』は、ゲーム開発者によるGDCアワード2018 (Game Developers Choice Awards)にて、それぞれベストナラティブ賞(Best Narrative)、ベストモバイルゲーム賞(Best Mobile Game)/革新賞(Innovation Award)に輝いているため、名前を知っているゲーマーは大勢いることだろう。
『Donut Contry』のゲームシステムは、「穴を操作してモノを落とす」というシンプルなもの。しかし穴は、モノを吸い込み落とすたびに少しずつ大きくなっていく。
穴はモノを落とすだけでなく、吸い込んだモノを組み合わせてさまざまな効果を得たり、逆に吸い込んだモノを発射することでパズルを解くこともできる。
あるいは、目につくモノを手当たり次第に飲み込んで、ドーナツカントリーの住人の平和な暮らしを破壊してもいい。
なお、『Donut Country』での穴は『おーい、でてこーい』に登場する穴のような仕組みにはなっていないのでご安心を。
本作のストーリーは、動物たちの住む「ドーナツカントリー」が、リモコン操作の「穴」を用いてガラクタを収集するアライグマたちによって支配されていた……というところから始まる。
プレイヤーはそのアライグマたちの一員である「BK」となり、穴を操作していく。だがある日、BKは自分の操作している穴に落ちてしまう。
地下999フィートの穴底で、以前に穴に落ちた友人「Mira」やドーナツカントリーの住人の要求に応えていくことになる。
トレーラーでは「穴(hole)」にかけたコミカルな会話が展開されており、ベン・エスポジート氏のユニークなセンスが伺える。
BK:A donut without a hole is called a NUT.
「穴のないドーナツなんてキ○タマだよ。」
文字通りに読むと、“donut”から“穴”のある「d」と「o」を除けば“nut”となる。そして、“nut”は第一に“木の実”を意味するが、俗語では“キ○タマ”を指す。
いずれにせよ、どちらにも“穴”は含まれないという、上手い洒落になっている。
ほかにも、“This story is full of holes.(この話は穴だらけだよ。)”とのBKの発言に対して、Miraが“Your brain is full of holes.(あなたの脳みそはスカスカね。)”と切り返すなど、ウィットに富んだメッセージも『Donut Conutry』の魅力のひとつと言えるだろう。
『Donut County』の対応機種はプレイステーション4・PC・iOSの3種類。発売予定日は2018年8月28日、価格はプレイステーション4版で12.99ドル、iOS版で4.99ドルとなっている。
残念ながら、現時点で日本語はサポートされていない。トレーラーで展開された会話のように、ジョークや洒落を織り交ぜたテキストに満ちていることから、翻訳は一筋縄ではいかないだろう。
とはいえ、「穴を操作してモノを落とす」というシンプルなシステムのため、プレイ自体に支障はない。
『塊魂』のような、無数のオブジェクトを飲み込んでいく快感が味わえるのか、いまから発売が楽しみだ。