いま読まれている記事

人生のローグライク。日々の生活、笑いと郷愁、心の葛藤をRPGにした作品を、改めて取り上げたい【スマホ名作紹介:ヒュプノノーツ】

article-thumbnail-190920c

 人生という名の長い道。子どもには子どもの苦労があるが、成長と共に待ち受ける葛藤と日常はいつまでも単純ではなく、夢は現実に薄められていく。
 そんな人の生き様を、一本の道を歩き続けるローグライクRPGで表現した、笑いとノスタルジーのゲームがある。
 『ヒュプノノーツ』だ。

人生のローグライク。日々の生活、笑いと郷愁、心の葛藤をRPGにした作品を、改めて取り上げたい【スマホ名作紹介:ヒュプノノーツ】_001

 2015年に公開されたスマホアプリで、新作というわけではないが、プレイヤーの心を揺さぶり、強い印象を残す作品だ。
 風変わりなシステムに加え、その物語の描かれ方はあまりに独特で、類似のゲームは他にはない。

 電ファミニコゲーマーはコンシューマーとPCのゲームが中心であるため、ご存じない方も多いと思うが、スマホゲームユーザーの間では今でも語られることの多い作品だ。
 周知させたい名作であるため、この場にて改めて取り上げさせてもらいたいと思う。

 物語は主人公の男性の元に「DPD」と呼ばれる枕のような装置が送られてくるところから始まる。
 ”Dream Play Device”、それは「夢」を見させる装置。

 夢と言っても、不思議の国を冒険できたり、東京の大学に入れたり、魔法少女が出てきたりはしない。いや、魔法少女は出てくるのだが。
 彼が見た夢は、子どもの頃の日常。
 誰しもの幼少期と変わらない、遠き日の記憶である。

 ゲームの舞台は、ただ一本の道だ。できることは「進む」か「戻る」のみ。
 進めば「距離」が増え、戻れば減る。そして「時間」も減っていく。
 制限時間内に一定の距離に達すればクリアだが、進んでいれば敵が現れる。

 最初に現れるであろう敵は、なんと……ピーマン、そしてニンジン!
 「好き嫌いする子は悪い子!」のメッセージと共に、幼少時代の主人公にダメージを与えてくる。
 そう、子どもにとってピーマンとニンジンは、苦々しい敵なのだ!
 「俺は生まれつきピーマン大好きチルドレンだった」という人も、ここでは嫌いになっておいて欲しい。

 緑黄色野菜を克服しながら進んでいけば、今度はハチや毛虫が現れる。そのうちガキ大将も登場する。
 つまり距離は成長であり、幼子が少年になっていく過程が描かれる。

 敵だけでなく、様々な「試練」も発生するだろう。
 最初は積み木やすべり台。いずれ三輪車になり、ジグソーパズルになる。
 少年には 力・自信・運動・知恵 の4つの能力があり、すべり台は自信で、ジグソーパズルは知恵で乗り越える。
 これらの試練の達成でも、少年はたくましくなっていく。

 しかし、ただ進むだけでクリアできるほど人生は甘くはない。
 むしろ最初のうちは、蓄積するダメージであっという間に倒れてしまうだろう。実際「難しい」という声は多い。
 倒れても夢から覚めるだけなので、また新たに出発すれば良いのだが、レベルや強さは初期状態に戻ってしまう。

 ではどうするのか? 進むのが辛いなら、戻れば良い。
 進むほど手強い敵や試練が出てくるので、ほどよい場所を行ったり来たりして経験を積むのだ。

 夢から覚めた自室の画面には「作戦を練る」というコマンドがある。
 そこでは遭遇済みの敵と試練の、出現距離を見ることができる。
 その数値は正確なデータではなく、実際に遭遇した地点が書かれているに過ぎないが、危険な敵や有利なイベントがどの辺りで出てくるのか、過去の結果を元に推察することができる。
 それを見て、どこで稼ぎ、どこを走り抜けるのか、プランを立てておくと良い。

 常に戦ってばかりでは、すぐに倒れてしまうだろう。
 強い敵、厄介な相手からは逃げることも必要で、そうしたものを経験から学んでいく展開は、ローグライクらしいと言える。

 進んでいると、たまに「魔法少女マッチのお店」という、場違いな露店に遭遇するだろう。
 ここでは道中で手に入れたお金で、買い物をすることができる。
 回復アイテムの駄菓子、装備アイテムであるおもちゃの他に、お金さえあれば「流し斬り」や「昇り龍」といった必殺技も購入できる。
 いきなり「昇り龍」ってなんだと思うが、主人公は少年だ。中二的で黒歴史的な何かだろう。

 また、プレゼント用のアイテムを魔法少女に贈ることで、好感度を上げて品ぞろえを良くすることができる。
 この好感度は次回以降に引き継ぐことができるので、若干だが攻略しやすくなっていく。

 第一章をクリアすると…… 詳細は省くが、展開が大きく異なる第二章へと移る。
 ここでの主人公の能力は、希望・意地・悲しみ。そこでは幼少期にはなかった葛藤が描かれる。
 アイテムには「甘えたい気持ち」や「心の弱さ」などがあり、手に入れるとむしろ能力が下がる。これらを捨てることで、意地が上がる。

 さらに進めば社交や技術が必要になってくる。
 もう幼い頃のように、単純な身体能力や根拠のない自信では、試練を乗り越えられなくなる。
 ただ、得られる”お金”は増えていくだろう。

 簡素な見た目で、イラストも素朴だが、一度やればそれがゲーム内容にマッチしていることがわかるはずだ。
 そこには派手ではないからこその良さがある。
 ヒューマンドラマの作品だが、笑える要素も詰まっていて、展開に意外性もあり、退屈な内容ではない。

 ゲームとしても歯応えがあり……むしろゲーマー向けの難易度なので、しっかりRPGやローグライクとしての楽しさがある。
 少し人を選ぶ難易度だが、人生は簡単ではないということだろう。
 それに難しい方が、長く楽しめ、達成感も増すはずだ。

 人の営みを描いた、大人にこそプレイして欲しい作品。
 こんなゲームもあると言うことを、多くの人に知って頂きたい。

ヒュプノノーツ

人生をローグライクRPGで描く、心を揺さぶる異色作

人生のローグライク。日々の生活、笑いと郷愁、心の葛藤をRPGにした作品を、改めて取り上げたい【スマホ名作紹介:ヒュプノノーツ】_010
(画像はヒュプノノーツ – AppStoreより)

・ローグライクRPG
・石乃浦骨董店(日本)
・アプリ無料、アイテム課金あり

文/カムライターオ

【あわせて読みたい】

多忙な人にこそスローライフで息抜きを。海外版『牧場物語』といえる大ヒット農場運営ゲームのモバイル版【レビュー:Stardew Valley】

 ブラック企業で社畜となっていた主人公は、亡くなった祖父の手紙を読んだ。それは田舎の古い農場で、新たな生活を始めることを勧めるものだった……。荒れ果てた農地を開拓し、畑で作物を育て、牧場や果樹園も運営しながらのんびりした農村での生活を満喫する、大ヒットのスローライフ・シミュレーションゲームがスマホにも移植されています。『Stardew Valley(スターデューバレー)』です。

著者
人生のローグライク。日々の生活、笑いと郷愁、心の葛藤をRPGにした作品を、改めて取り上げたい【スマホ名作紹介:ヒュプノノーツ】_011
『Ultima Online』や『信長の野望 Online』、『シムシティ4』など、数々のゲームのファンサイトを作成してきた。
iPhone 解説サイト『iPhone AC』を経て電ファミニコゲーマーのお世話に。
シューティングとシミュレーションが特に好き。

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ