「ミリオンダウト」というスマホゲームをご存知だろうか。トランプゲームの定番「大富豪」と「ダウト」のルールを組み合わせた、2015年の年末にリリースされた新感覚のゲームだ。とっつきやすく簡単なルールにもかかわらず、シンプルなのに奥が深いこと、かわいらしいデザイン、1プレイ1~3分と気軽に遊べることなどから、幅広い年齢層の人気を集めている。
そんな誰でも気軽に無料で遊べるミリオンダウトだが、興味深いことに、どうやら雀士やポーカーのプロといった、頭をフルに使うゲームが好きな人たちから熱烈な支持を集めているようなのだ。
そこで電ファミでは、ミリオンダウトを愛するトッププレイヤーに各界から集まってもらい、座談会を企画することにした。
集まってくれたのは、『科学する麻雀』著者のとつげき東北氏をはじめ、ポーカーで世界一になったプロポーカープレイヤー・木原直哉氏、テレビ番組などで活躍するクイズ王・古川洋平氏、FX一本で食っているプロトレーダー・マイケル氏など、そうそうたるメンバー。しかも全員が「暇さえあればプレイしている」というヘビーユーザーだ。
いったいこのシンプルなゲームの何が、彼らをここまで惹き付けるのだろうか? 大ヒットアプリ・ミリオンダウトの魅力を開発者・ぷりけつ氏を交えて探ってみた。
「ゲームにおける実力と運の比率とは?」、「トッププレイヤーが勝ち続けるために必要な素質」、「ポーカーも麻雀も実は心理戦ではない」など、頭脳ゲームの一流プレイヤーにしか語れない領域へと話が広がっていった。
【ミリオンダウトのルール(簡易版)】
★基本は「大富豪」と同じ
★大富豪との大きな違いは、以下の4点。
1. カードを裏向きにして出すことができる
例えば、場にKがあり、手札がAと3の場合、次の3つの出し方ができる。
・表向きでAを出す
・裏向きでAを出す
・裏向きで3を出す
2. ダウト要素がある
3. 勝ったとき(自分の手札をゼロにしたとき)の得点 = 相手の残りの手札の枚数
4. 手札が11枚以上になると 「バースト」となり、負けが確定する
※より詳しいルールはミリオンダウト公式攻略ウィキを御覧ください。
取材、文/透明ランナー
各界から最強プレイヤーが集結!
――今日はスマホアプリ・ミリオンダウト【※】の魅力を語るということで、ミリオンダウトを愛するヘビープレイヤーの皆さんに集まっていただきました。まずは自己紹介からお願いします。
※ミリオンダウト
大富豪とダウトを掛けあわせたゲーム。2015年12月よりAndroid版、ブラウザ版、iOS版アプリが順次リリースされ、1万ダウンロードを突破している。実際のトランプを用いてプレイすることも可能であり、これまでにリアルでの大会も開催されている。
ぷりけつ氏:
ミリオンダウト開発者の、ハンドルネーム「ぷりっぷりのおしり」です。みんなからはぷりけつって呼ばれてるのでそれでお願いします。10代のときにミリオンダウトを考案し、友人とやっている会社から、2015年の年末にスマホアプリとしてリリースしました。
とつげき氏:
とつげき東北です。麻雀の理論研究をしています。2004年に麻雀を体系的なアプローチから考察する『科学する麻雀』を出版し、ベストセラーになって現在シリーズトータル37刷までいきました。
学生時代に麻雀を数万局ほどやりまくって、それが高じて研究に走ったという感じです(笑)。現在は公務員としての顔も持っています。
古川氏:
プロクイズ作家の古川洋平です。クイズ一本で食っている珍しい人間です。テレビのクイズ番組で問題を作成したり出演したりしています。
「パネルクイズ アタック25」【※1】と「クイズタイムショック」【※2】の高校生大会で優勝し、大学生のときは学生による早押しクイズNo.1決定戦「abc」【※3】で3連覇しました。現在はクイズ制作会社カプリティオの代表を務めています。
※1 パネルクイズ アタック25
1975年よりテレビ朝日系列で放送されている視聴者参加型のクイズ番組。番組開始以来、児玉清が司会を務め、当番組の顔となっていたが、2011年の氏の逝去を機に司会は交代。現在は俳優の谷原章介が司会を務める。
※2 クイズタイムショック
1分間12問のクイズに何問正解することができるかを競うクイズ番組。起源は1969年から1986年まで放映されていた番組に求められるが、人気番組ゆえに、現在に至るまでにたびたびリメイクがなされている。近年では、中山秀征が司会を務めている。
※3 abc
2003年にスタートした、大学4年生までの学生対象とする早押しクイズ大会。2017年3月には15回目の開催を迎え、過去最多となる727人の参加者を数えた。
木原氏:
ポーカーのプロをやっている木原です。大学在学中には将棋部に所属しつつ、バックギャモン【※】のプレイヤーとしても活動し、囲碁も麻雀も……と、頭を使うゲームをいろいろやってきました。ゲーム好きが高じてポーカーのプロになった感じです。
2012年の第42回世界ポーカー選手権大会で、日本人選手としては初めて世界選手権で優勝しました。そのときの賞金で約50万ドルいただいたんですが、当時のレートだと3900万円くらいで、今のレートだと5600万円くらいなので、一番損な時に勝っちゃったんです(笑)。今日はよろしくお願いします。
※バックギャモン
2人で遊ぶボードゲーム。サイコロを用いて盤上の15個の全ての駒を順に動かしていき、全ての駒を先にゴールさせたほうが勝利となる。バックギャモンは、その原型を古代エジプトに求められるという説もあり、日本にも同様のゲームが7世紀ごろに伝来したと言われている。
マイケル氏:
マイケルと申します。もともと木原さんと一緒にポーカーをやっていたんですが、ちょっと自分の中で限界を感じたので、FX【※】に移行して、ここ6、7年くらいFXやってます。一応FX一本で食っています。
※FX
「外国為替証拠金取引」のことで、Foreign eXchangeの略とされる。各通貨の為替レートの変動を利用し、両替しながら利益を出していく投資の一種。
木原氏:
マイケルさんとはポーカーのスタートがほぼ一緒で、彼は元々自分よりずっと先にいってたんですよ。
ぷりけつ氏:
それにしても、FX一本で食ってるなんてすごすぎますね!
――皆さんどのくらいミリオンダウトをやりこんでいるんですか?
とつげき氏:
私は家に帰ったらそのまま深夜12時半くらいまでやって寝る、という生活です。たぶんこれまでに5万戦くらいやってるはずです。
ミリオンダウトには「初心者指導貢献度」という、どれだけプレイしたかにだいたい比例する指標があるんですけど、それで1位になったこともあります。
木原氏:
……とつげきさん、本当に働いてるんですか(笑)?
とつげき氏:
一応公務員ですから(笑)。去年の末、正月休みとあわせて有給休暇を取ったんですけれども、17連休ずっとミリオンダウトしてました。「今日はイヴミリオンダウトだ」「今日はクリスマスミリオンダウトだ」……って、ずっとやってましたね。
マイケル氏:
そりゃ貢献度高くなりますよ(笑)。
古川氏:
私のクイズの弟子が「私は古川さんをクイズで尊敬してますけど、それに負けない、いや勝るくらいの天才がいるんだ」と、そうして紹介されたのがとつげきさんだったんです。『科学する麻雀』を読んでこの人めちゃくちゃ頭いいなと思っていた頃に、とつげきさんがハマっているゲームということでやってみたのがミリオンダウトだったんですよ。
それで私もハマってしまって。最近はクイズの仕事が忙しくてあまり触れていないですが、ハマっていたときは仕事の移動中もずっとやっていて、とにかくすごい試合数こなしてました。
木原氏:
みんなすごいな。なんか自分が場違いに思えてきた……(笑)。
僕の場合は、2015年の12月26日にミリオンダウトのリリース記念のオープニングイベントがあったんです。そこにとつげき東北さん、ボードゲーム好きで有名な勝間和代さん【※1】、将棋ソフト「Ponanza」開発者の山本一成さん【※2】と一緒に呼ばれて、トーナメントを戦ったのが、ミリオンダウトとの出会いです。
勝間和代が若きトランプ氏に挑む――ボードゲームから学ぶ「お金ほど人間を幸せにするものはない」
※1 勝間和代
経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授。活動は多岐に及び、経済学や資産運用を始めとして、経営や子育てについてなど、これまでに50冊以上の著作を数える。ボードゲームの愛好家としても知られ、ボードゲームカフェのプロデュースもしている。2015年には麻雀のプロ資格を取得した。
※2 山本一成
1985年生まれの、コンピュータ将棋ソフトウェア・Ponanzaの開発者。Ponanzaは、2013年の第二回電王戦第二局で佐藤慎一四段に勝利し、現役のプロ棋士に公の場で勝った史上初の将棋ソフトとなった。
ぷりけつ氏:
その記念すべき第一回大会で優勝したのが木原さんです。まだ戦術も確立されてない、混沌としている時期に、まさに才能で勝利した感じでしたね。
木原氏:
その第一回大会の様子をニコニコ動画で見返してみると、初見の割にまともなプレイしてたなって思います(笑)。
古川氏:
その動画は私も何回も見ました。ちなみに、男3人は主に手札を見てたんですけど、勝間さんだけは相手の顔をじっと見て「ダウト!」ってやるんですよね。あれは真似できないですね。
マイケル氏:
私もその動画を見て始めました。初期に6000試合くらいやって、そのあと半年くらいやってなかったんですが、友達からリアルのミリオンダウトの大会に誘われて、やっぱり面白いなと思ってまた再開しました。多い日は一日200試合くらいやりますね。
ぷりけつ氏:
ミリオンダウトはオンラインだけでなく、リアルの大会も月に1、2回やってるんですよ。五反田の勝間さんのボードゲームカフェ「THE WINWIN」【※】などで開催しています。
明日18時からミリオンダウト大会です!
— カフェ&ボードゲーム winwin五反田 (@winwingotanda) July 14, 2017
リプライ、HPの予約フォーム、電話にて参加受付中!
ルーキーから達人まで和気あいあいと楽しめます(∩´∀`)∩ pic.twitter.com/FDyYD9g1FT
※THE WINWIN
勝間和代氏の全面的なプロデュースのもと、2016年3月に五反田にオープンしたボードゲームカフェ。麻雀、将棋、人狼、トランプ、モノポリー、人生ゲームなどをはじめとして、さまざまなボードゲームが用意され、利用者は自由に楽しめるようになっている。定期的にゲームの試遊会や大会も開催されている。
――いやあ、みなさんガチでミリオンダウトに取り組んでいることがわかりました(笑)。
かわいいデザインは実は…ミリオンダウト開発秘話
――ではまず開発者のぷりけつさんに、どうしてこのミリオンダウトというゲームを思いついたのかをお聞きしたいです。
ぷりけつ氏:
私が10代のとき、福本伸行作品、とくに『賭博黙示録カイジ』【※】がかなり好きで、「ゲームって改造していいんだ、新たにルールを作っていいんだ」ということを学んだんです。
そのころ麻雀をよくやってたんですけど、麻雀って運の要素が意外と強くて、「試合回数をかなり重ねないと実力出ないな」「駆け引きがあるようで実はないな」と思っていました。そんなこともあって、もっと駆け引き要素があるゲームを作りたいと思ったんです。
――「限定ジャンケン」【※】みたいなやつですね。
※限定ジャンケン
変則じゃんけんの一種で、上述の『賭博黙示録カイジ』にて登場するギャンブルのひとつ。
ぷりけつ氏:
で、駆け引きといえば「嘘」だろと。
嘘をつき、それを見破ることをコンセプトにしたゲームを作りたい。そして新しいゲームを広めるためには、学習コストを下げるために、既存のゲームを一部取り入れたい。そこで「大富豪」【※1】と「ダウト」【※2】を組み合わせれば、それが実現できるんじゃないかと思いつきました。
※1 大富豪
トランプゲームの一種。地域によって「大貧民」とも呼ばれ、通常は3人から6人程度でプレイされる。ゲーム開始時に配られた手札を早くなくすことを競う。数多くのローカルルールがあることも特徴である。
※2 ダウト
トランプゲームの一種。各プレイヤーが順番に手札を1枚ずつ裏向きで場に出し、最初に手札を場に出し切った者が勝利を収める。通常、AからKまでのカードを順番に出していくが、裏向きであるがゆえに嘘をつくことも可能である。プレイヤーが嘘をついていると思ったら、「ダウト」とコールし、その真偽を確かめることができる。
――「大富豪」のルールは多くの人の脳にインストールされてるので、新たに覚える手間が少ないということですね。
ぷりけつ氏:
その通りです。それがもう10年以上前の話なのですが、仲間内や友達同士でやたらウケがよかったので、「これをいつか世に出したいな」とずっと思いながら生きてきて、自分でプログラミングを学んでリリースしたという次第です。
――なるほど、実はけっこう歴史があるんですね。かわいらしいデザインなのも親しみやすくていいですよね。
ぷりけつ氏:
よく言われます(笑)。まあ予算がけっこう制限されてたからなんですけど、実は私の妹が描いたんですよ。
一同:
えー!
とつげき氏:
それは知られざる情報ですね。
――細かいルールを組み上げる際は苦労されましたか?
ぷりけつ氏:
たとえばミリオンダウトの特徴として、「11枚でバースト【※】する」というルールがあります。これって実は直感でぱっと決まったんですけど(笑)、脳内プレイしてみた結果、終盤でダウトが入りまくると枚数が増えすぎて収集がつかなくなるので、バーストルールは入れたいと思っていました。
しかも後から気づいたんですけど、スマホにぴったりなんですよ。枚数が多くなりすぎるとスマホの横幅に入らない。うまく噛み合ったので「これが正しいルールなんだ」と思いましたね(笑)。
あと、初期手札を何枚にするかでしたが、これも直感で7枚にしました。一応テストプレイで6枚とか8枚とかやりましたけど、まあ7枚が1番いいというところに落ち着きましたね。
とつげき氏:
ぷりけつの直感、頼りになるな(笑)。
ゲームにおける「実力と運の比率」とは?
――ここまで制作者のぷりけつさんにルールについて聞いてきました。こういったルールがうまくいってワンプレイ1~3分くらいに収まっているわけですが、このプレイ時間についてはプレイヤーの皆さんとしてはどう感じていますか?
古川氏:
スキマ時間にできるのが魅力的です。移動中ずーっとプレイしちゃう。ちょうど一駅ぶんですしね。
とつげき氏:
ちょうどいいですね。早くに実力が収束して結果が出るのも魅力になってると思います。
麻雀やってる人がミリオンダウトにハマる理由の一つとして、麻雀ってテンポが遅いゲームなんですよ。4人に1回しか自分のターンが回ってこなくて、しかもほとんどの場面で切る牌は決まっている。攻めていく場面ってあまりないし、正直暇な時間が多いんですよね。ある程度上手くなるともう作業ゲーというか。
――なるほど、たしかに麻雀はそうかもしれないですね。
とつげき氏:
それに対してミリオンダウトは、1対1なので自分のターンがすぐ来るし、しかも毎回ある種の攻めの要素があるので、飽きないんですよね。
マイケル氏:
ポーカーでいうヘッズアップ(1対1)ですね。
――とつげきさんのようにミリオンダウトにはまってしまうユーザーがたくさん生まれるのは、試合数がたくさんこなせて、早く実力が収束するというのもあるんでしょうね。
ぷりけつ氏:
実はそこには、回転数を速くして、とにかく試合数をたくさんこなせるようにしないといけないという、制作者の信念があるんです。
――といいますと?
ぷりけつ氏:
よく「麻雀の運と実力の比率は何対何か」という話がありますが、とつげき東北さんのホームページで「そんなの試合数と独立に定数で与えられるはずない」みたいなことを言っていたのが印象的で。
木原氏:
ポーカーでも運と実力の比率についてよく聞かれるんですけど、そんなの1kgと1mを比較するようなものですよね(笑)。
まあ、聞いてる人は難しい話を聞きたいわけじゃないので、もし聞かれたら「同じくらいかな」って答えちゃいますね。
マイケル氏:
私も世間向けの答えを言ってしまうことが……(笑)。
とつげき氏:
一般には3対7とか2対8とか言われてますけど、そんな単純な話じゃない。しっかり統計を取ったうえで、試合数をたくさんこなさないと、はっきりと言えないんです。そういう意味ではとにかく試行をハイスピードで重ねられるミリオンダウトは魅力的ですね。
――なるほど、そこが麻雀など他のゲームに比べて魅力的な点のひとつと言えるわけですね。麻雀との違いで言えば、ミリオンダウトって簡単そうに見えて、実は一手目の幅がかなり広いですよね。麻雀は初手はほぼ切る牌は決まっていますし。
ぷりけつ氏:
そうですね。ミリオンダウトの場合は多次元的というか、表にするか裏にするか、ペアを出すのか、嘘をつくのかなどを連続的に考えていくので、選択肢がたくさんある。それを正解らしきものにしていくところに、難しさがあるんですよね。
とつげき氏:
麻雀だったらやることが一意に定まることがわりと多いんですけども、ミリオンダウトにはそういうのがない。自由度が高いというところは、なかなか面白い。例えば、初手でいきなり裏4枚出すこともできる。「革命」ですよね。
大抵は本物じゃないんですけど、普通はそんな大胆なウソはつかないので、悪い手札の時で、相手がこちらを信じている場合、ウソ革命を通したりできます。
――初手ウソ革命、すごいですね……。みなさんはどういう理論を持って、膨大な選択肢から手を選んでいるんですか?
マイケル氏:
私は終わりから逆算してやっていますね。どうやって上がったら一番きれいで効率いいかを考えて、残ったきれいじゃないカードがいつ処理されるかを考えて、その逆算にたどり着くように一手目を打つ感じです。
木原氏:
私もどこでダウトをするか、どこまでこられたら降りるか、みたいなことは常に考えてますね。
古川氏:
私は最近人狼の番組にもよく出演するんですが、人狼は駆け引き100パーセントな一方、ミリオンダウトには確率計算の要素も入っていて、非常にバランスがいいんです。人狼好きな人はハマるんじゃないでしょうか。