原作ファンの思いを守りつつ、どこまで変えていくべきなのか
寺田氏:
ただ、『Fate』シリーズが『FGO』で新たなファン層を迎え入れるのを見ていると、やっぱり変えていくべきところはあるなぁ、というジレンマが常にあるんです。『Fate』もかなり長く続いているシリーズですよね?
奈須氏:
『Fate/stay night』のPC版が2004年です。13年……まだひよっ子です。
寺田氏:
十分長いですよ。
いや、僕らにはシリーズものをやるがゆえの苦悩と苦労もあるんですよね。新規の人がなかなか入りにくいという状況で、新しいことをやろうという発想は当然あるんですけど、『スパロボ』の場合はまず、原作の設定があるので。
『スパロボ』シリーズの固定概念を破壊するみたいなアイデアだって、それが上手くいくかどうかは置いておいて、ネタ自体はいろいろとあるんです。マジンガーZにガンダムの武器を持たせるとか。でもそれは思いつかないんじゃなくて、やらないんです。キャラクターゲームとしては、原作ファンの思いを決して無視してはいけない。それをやりたかったらオリジナルでやりなさい、と言われるだけの話ですからね。名だたるロボットアニメの原作を作られた人たちへのリスペクトとして、越えてはいけない一線は守っていかないと。
そこが『Fate』だと、アーサー王なんてそもそも性別が違うじゃないですか(笑)。
奈須氏:
エジソンもライオンですから(笑)。
寺田氏:
それはすごく上手いというか、スゴいなぁって思いますよね。
――『スパロボ』では原作のキャラクター性を忠実に守って登場させている一方で、いま仰ったように『Fate』の場合は「顔がライオン」みたいに、元になった英雄の個性をあえて崩してくるところがあると思います。そうやって崩す時のポリシーというか、バランス感覚はどう意識されているのですか?
奈須氏:
そこは先ほど言った、拡大解釈の楽しさですね。たとえば元になった神話では、「クー・フーリン【※】はゲイ・ボルグという槍を持っている。この槍は必ず敵の心臓に刺さって、破裂させたと言われている」みたいな、たった2行しかないんですよ。ということは逆に言えば、この2行を守ってさえいれば自己流の解釈もアリなのでは、と。
だから近代の偉人をサーヴァント化するのには、ずっと反対だったんです。なぜかというと、キチンと歴史が残っているから。『FGO』では英霊の人数が増えたために、そのタブーを犯しているんですが。
※クー・フーリン
アイルランドに伝わるケルト神話の英雄。影の国の女王スカサハの元で武術と魔術を修行し、彼女から魔槍ゲイ・ボルグを授かったと言い伝えられている。『Fate/stay night』ではランサークラスのサーヴァントとして召喚されるほか、『FGO』ではランサーに加えてキャスターとしても登場する。
それに対して神話の英雄たちは、ホントにそれぞれの神話で好き放題言っている“設定”の陳列なので、それを守りつつ拡大解釈すれば、絶対に面白いはずだと。その思考の跳ね方が、ユーザーさんにとっては刺激になるだろうと思ったんです。そのうち「その考え方はなかった」、「オレだったらこう考える」というのが波及していって、ユーザーさんの中で「ボクの考えた最強サーヴァント」みたいな遊びもできるだろうと。
だから崩しているというよりは、神話の中のシンプルな記述を「こうしたら面白いよね」と、プレゼンしていると言ったほうがいい。その上で、どんなマイナーな英雄でも英雄である以上は絶対にリスペクト、尊敬の念を忘れてはいけない。「語られるに値する人物だった」という核をキチンと決めて、その範囲で英雄に活躍してもらっています。
「シャアをエヴァに乗せてくれ」(庵野)→「エヴァは14歳しか…」→「あっ」
――さきほど、「マジンガーZにガンダムの武器は持たせない」といったように、『スパロボ』であえてやっていないことがあるとおっしゃっていましたけど、ほかにどんなものがあるんですか?
寺田氏:
シリーズの枠を越えたパイロットの乗り換えは、難しいですね。アムロ・レイというパイロットがマジンガーZを操縦できるのか? ということを考えた場合、これは僕の勝手な解釈ですけど、人型機動兵器の操縦に長けたアムロなら、操縦できると思うんです。でもそれは突き破ってもいい壁なのかと聞かれると、正直言って迷いがあります。
やれば面白いとは思うんですよ。だって、ゲッターロボのイーグル号、ジャガー号、ベアー号に、いろんなキャラが乗っていたら、面白いに決まっていますから。
奈須氏:
アムロとシャアとハマーン【※】がゲットマシンに乗っていたら、それは絶対に楽しい!
※ハマーン
ハマーン・カーンのこと。『ガンダム』シリーズの登場人物で、『機動戦士Ζガンダム』で初登場。しばしば悪役の立場として描かれるが、カリスマ的な女性政治家でパイロットとしても非常に優秀。『スパロボ』でも、最強レベルの女性パイロットとして登場することが多い。
寺田氏:
これをギャグの方向に振ってしまうのか、それともシリアスな方向に振るかというのは、両方あるんですね。ピンチのシチュエーションを作り、アムロとシャアとハマーンがたまたまそこにあるゲッターロボに乗るしかないという状況を、キチンと話の流れとして持っていけば、納得してもらえる可能性はあると思うんです。
ただ、分離する時にシャアやハマーンに「オープンゲット!」と言わせるのかどうか、そこは悩みます(笑)。ちなみに僕なら言わせたいですね(笑)。
奈須氏:
そこまでお膳立てすれば、1話限定とかならアリじゃないですか。でも、そうやって物語上の段取りをつけても、版元さんから「わかりますが、ダメです」と言われてしまったら、スタッフさんたちが一生懸命作ったものが、すべて無に帰してしまうわけですよね。たしかにそこは踏み込めないなぁ。
寺田氏:
原作のイメージを崩すことは、原作スタッフに許可が得られない限りはできないので。
庵野秀明監督にお会いしたことは20年ほど前に一度しかないんですが、その時に庵野監督から「2つお願いがあるんです」と言われて。まず1つ目は「シャアをEVA弐号機に乗せてほしい」と。「でもエヴァンゲリオンは14歳しか乗れない設定ですよね?」と聞き返したら、「あっ!」って(笑)。
2つ目は「ブライトさんが碇シンジを修正してほしい」と。こちらは『スーパーロボット大戦F』【※】で実際にやりました。「親父にもぶたれたことないのに」とシンジが言って、横で見ていたアムロが微妙な顔をするっていう(笑)。とはいえこれも、庵野監督からOKをもらっていないとできなかったので。
その縛りを外さないとダメだという考え方もあるとは思うんですけど、僕らとしてはその一線は必ず守りますという姿勢で、25年間やってきたので。自分たちのオリジナルじゃないですから。
奈須氏:
目の前に絶対美味しいとわかっているケーキがあるのに、それにナイフを入れられないのはツラいですよね。
寺田氏:
さっきのゲッターロボに乗る話だって、マジメにちゃんと作れば、すごく面白いとは思うんです。でも、そこまではいかずとも、クロスオーバーの接点を見つけていって、上手くいったなと思うものもありますから。
個人的に言うと、『スーパーロボット大戦α』でアスカがEVA量産機に袋だたきに遭っている時に、スーパーロボット軍団が助けに来るというのは、最初からやろうと思っていました。原作の映画を見ていて「頼むから誰か助けに来てよ!」と思っていたので。ただそれも、IF展開とはいえ、原作の流れを変えてしまっていいのかという葛藤がありました。
奈須氏:
でも『スパロボ』シリーズでは、この場面にたとえばアムロがいた場合、アムロならきっとこうするよね、というのを絶対に外さないですよね。だからこそ安心して見ていられるんです。
自分は最新作の『スーパーロボット大戦V』をまだプレイできていないんですけど、知り合いのライターさんから、「今回の『V』は超面白いから早くやれ」と言われていて。「だって『クロスアンジュ』【※1】のエンブリヲ【※2】を、いろんな作品の女性陣が全員で説教するんだぞ」と(笑)。たしかにアイツの前に各作品のヒロインがいたら、絶対にそうするよなぁって。
誰もが願っているシチュエーションを実現して、そこにこのキャラクターがいたらそうするよね、というのをキチンと守っているからこそ、『スパロボ』は最高に気持ちいいんです。
※1 クロスアンジュ
2014〜2015年に放送されたTVアニメで、正式タイトルは『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』。ミスルギ皇国の第一皇女から一介の兵士へと身を堕としたアンジュは、機動兵器パラメイルを駆りドラゴンと戦うことになる。『スーパーロボット大戦V』で、『スパロボ』シリーズに初参戦している。
※2 エンブリヲ
『クロスアンジュ』に登場する、全てが謎に包まれた美青年。世界各国の為政者を言葉巧みに操り、意に沿わぬ者は冷酷に切り捨てる一方で、見初めた女性たちを次々と籠絡していく。そのアクの強い個性は、『スパロボV』でも作品の枠を超えて発揮されることになる。
『スパロボ』の戦闘アニメは現状でもまだブレーキを踏んでいる
奈須氏:
『スパロボ』の見どころをさらに言うと、マジンガーZのブレストファイヤー【※】が、毎回バージョンアップするんですよ。今回こそはこれ以上のものはないだろうと思っても、次回作ではそれを必ず超えてくるんです。
原作のテイストのまま、今のユーザーの目で見ても満足できるものにするコンバート能力が、『スパロボ』の戦闘アニメはとにかく素晴らしくて。スタッフさんがめちゃくちゃセンスのある絵コンテを切って、それをあくまで2Dの絵で再現するという技術が凄まじいんですよね。
※ブレストファイヤー
マジンガーZの胸部から発射される、摂氏3万度の超強力熱線。
寺田氏:
マジンガーZに関しては、原作の戦闘演出をどうアレンジするか毎回悩みどころですね。
でも、フィン・ファンネル【※】もそうです。原作の戦闘演出はだいたい再現してきたので、そこからどうアレンジを加えるか、担当者が四苦八苦しています。
※フィン・ファンネル
「ファンネル」とは、遠隔操作によってオールレンジ攻撃を行う小型ビーム兵器のこと。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でアムロ・レイが操縦するνガンダムは、メガ粒子砲を搭載したファンネルを6枚装備しており、これが「フィン・ファンネル」と呼ばれている。
奈須氏:
フィン・ファンネルは兵器としてはシンプルで、小型機がヒュンヒュン動いて細いレーザーを出す、というところから発展できない。なのに毎回派手になっていくので、このフォーマットでどこまでいくんだろうと、楽しみにしていますが。
――戦闘アニメーションを担当されているスタッフのみなさんは、どういった経歴なのでしょうか。ゲーム業界のグラフィッカーの方々ですか?
寺田氏:
そうですが、アニメ業界にいた者も何人かいますね。
奈須氏:
『FGO』の戦闘も2Dのアニメなので、ユーザーさんが何度も見たくなるような戦闘アニメを目指したいのですが、まだまだ“想像の範疇”から出られない。でも『スパロボ』は毎回、ユーザーの想像を超えているものをポン、とお出ししてくれるからたまらないです。ワクワクさせるってこういう事だな! って。
寺田氏:
まぁでも、時間も予算も決まっているので……本来やりたいと思っていることに比べると、まだブレーキを踏んでいるんですよ。
奈須氏:
アレでですか!?
寺田氏:
まだいろいろと出来ることはあるんですが、そこでアクセルを踏み抜いちゃうと、間に合わなくなってしまいますから。『スパロボα』の時に、いろんなものを踏み抜いてしまったので。
奈須氏:
『スパロボα』の戦闘アニメ、当時の水準から見たら衝撃的だったですからね……ホントに夢が詰まっていた……。
――『スパロボ』の戦闘アニメは他のシミュレーションやRPGの戦闘と比べて、明らかに一線を越えていますよね。
寺田氏:
でもその結果、演出が冗長になってしまうケースもありますから。1回見たらカットされるものに対して、そんなに心血を注ぐ意味はあるんですか、と言われたこともありますし……。
奈須氏:
ラスボスの攻撃で40秒とか50秒とかになっちゃうと、自分もラスボスの攻撃を楽しむために1回は見るんだけど、あとはショート版になってしまいますね。でもその“たった1回”の為にラスボスの演出はあるんだと思いますよ。だって、長かった旅の終わりに待っているものなんですから、最高の“力”を見せてもらわないと。
寺田氏:
アニメのムービーでも1回見て終わりのケースがあるので、こちらとしても別に、戦闘アニメを何回も見てほしいというわけではないんですけど……。そこはジレンマですね。
――戦闘アニメが毎回豪華になっていくのに合わせて、スタッフの人数も増えているのでしょうか?
寺田氏:
増えてはいますけど、そこまで多いわけではないですね。職人芸ですから。
以前は「2Dグラフィッカーはもういらないです」と言われたこともあったんですが、スマホのゲームのおかげでドッターが足りない【※】というケースもありますからね。
ただ、開発の面で言うと、個人的にはコンシューマゲームよりもスマホの運営系のほうがキツいですね。僕も『X-Ω』で携わっているんですけど、「これが週刊連載の恐怖か!」と思いました。
奈須氏:
スマホゲームは本当に毎日が締切ですからね。自分たちはまだ2年ぐらいですけど、これを3年、4年と続けている他のスマホゲームのスタッフさんの体力、管理能力は凄まじいものがあると思います。
――ゲームの作り方自体も、コンシューマやPCのゲームとスマホでは異なるのでしょうか?
奈須氏:
それはユーザーさんのゲームに対する姿勢が、コンシューマとスマホではそもそも違うので。
コンシューマだと、ユーザーさんが最初からごちそうを食べるつもりで、大きな画面で腰を落ち着けて遊ぼうという気持ちになっていますよね。一方で、スマホは生活と一体化しているので、よりコンパクトに、より早く、よりライトに、というのをユーザーさんが求めている。
……そこまでわかっていながら、『FGO』は「それはそれとして、キミたちの時間を1時間いただこう」という形式をとっています。先ほどトライ&エラーの話をしましたが、今の形式のまま、そこにかかる面倒さを緩和できればと思います。
ゲームに「難しさ」を求められない時代に
――やはり、奈須さんも現代のユーザーが、ゲームをプレイする行為に覚えている「面倒さ」を気にしているんですね。
奈須氏:
『FGO』も『スパロボ』も、ゲームというのはユーザーさんが時間と神経を集中して、トライアンドエラーを積み重ねていった結果、成功を得るというペースで作っていますよね。
でも『FGO』で、ユーザーさんから「なんでこんな面倒なシステムなんですか?」というお便りを頂いて驚きました。スマホで遊ぶユーザーさんにとっては、ゲームというのは一切ストレスがあってはいけないのだと。これは自分の感覚が古かったんだ、と反省しました。
一方、最近の『スパロボ』を遊んでいると、サクサク進んで楽しいんだけど、昔の『スパロボ』にあった「えーっ、40分かけたのにブラッド・テンプル【※】を倒せないの!?」といったひりついた感覚はどうしても減っているように思えます。そのあたりの点については、どうお考えですか?
※ブラッド・テンプル
1984〜1985年に放送されたTVアニメ『重戦機エルガイム』の劇中には登場しないが、設定のみ存在するヘビーメタル。『第4次スーパーロボット大戦』では終盤のマップに登場し、かなりの強敵としてプレイヤーの前に立ちはだかる。
寺田氏:
それはもう、おっしゃる通りですね。ゲームというのはある程度ストレスを溜めて、それを解放することを繰り返すものだと思うんです。全てのゲームにそれが当てはまるとは、思っていないですけど。
ストレスだけを与えると「作業ゲー」と言われてしまうので。だから「最初から最強のゲームモードを作りましょうよ」と言われたりもしていますし、スマホであればオートプレイで進むようなものも作るべきかもしれないとは思っています。
でも、そもそも『スパロボ』の根幹はマニアックなゲームなんです。25年前に「お前たちのそんなマニアックなゲームなんて、売れるわけがない」と言われて、それに対して「なんだと!?」って立ち向かっていった。そのコアを貫いて、『スパロボ』にしかできない楽しみを追求していくべきではないのか、とも思うんです。
たとえばシリーズを重ねるごとに、コン・バトラーV【※】の武器が減っていくんですよ。昔は武器の項目だけで、3ページぐらいあったのに。
※コン・バトラーV
『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976〜1977年放送)に登場する巨大ロボット。作中の南原博士によって開発された。超電磁の力でそれぞれパイロットの搭乗する5機のバトルマシンが一体となり、さまざまな武器や必殺技を駆使して、敵であるキャンベル星人と戦う。
奈須氏:
ありましたねぇ!
寺田氏:
「武器の宝庫」と言われたコン・バトラーVの武器が、やがて2ページになり、1ページになって。たしかに、実際に使うのは超電磁ヨーヨーとツインランサーと超電磁スピンぐらいかもしれないですけど。僕もコン・バトラーVの武器は全部使ったことがないです(笑)。戦闘グラフィックはチェックしていますけどね。
でも、普通は使わない武器まで入れるのが本来の『スパロボ』なんじゃないの、って思うんです。そういうムダが好きだった、みたいな話を今でもスタッフとしていますね。
――この話、もう少し続けてもいいでしょうか。というのは、これは現代のゲーム開発における最も重要な問題の一つだと思うんです。そこに『FGO』や『スパロボ』のような人気タイトルがどう向き合っているのかを、ぜひ知りたく思います。