中国の“闇流通”事情
──上海ではPS VRがわりと簡単に買えるんですね?
K氏:
日本にいる方からすると眉をひそめる話だと思いますが、おそらく転売目的で買いつけられたハードが大量に売られているんですよ。
日本版、ヨーロッパ版、アメリカ版、それから少量ですが香港版も。それら4地域のハードが集まるので品切れを起こさず販売されている状態なんですね。しかもその後、中国版も出て、またこれがけっこうな数があるんです。
──もしかすると世界一PS VRが集まってる都市かもしれませんね。
K氏:
そうですね。HTC Viveも上海がいちばん売れている都市ですし、何より中国そのものが世界のVR 市場の40%を構成していると言われるので。とにかくすごいVR熱です。
──(赤野)Nintendo Switchはどうなんでしょう? というのも、先日僕の友人がアメリカへ行って、10店舗探し回ったみたいなんですが……なかったんです。どこも品切れで。
K氏:
同じように集まっていますよ。毎日チェックしているんですが、いまは2350元(約38500円)の香港版が最低価格ですが、少しずつ値上がりしてきています。
ウチのメンバーも買っているので、こちらも品薄になり始めていたり。日本から届くのが流通のメインなんですが、週に25000台くらいしか入らない。ヨーロッパやアメリカが45000~50000台くらいということなので、ぜんぜん足りないんですね。
──(赤野)僕も中国にゲームを買いにきたりするのですが、ここ数年でけっこう何でも買えるようになったイメージがあります。Kさんはどう感じられていますか? けっこう古いタイプの店舗は、日本同様になくなっていますね。
K氏:
以前は日本のゲームを中国の一部のゲーマーに卸売りする実店舗が何件かあったんですが、地価がどんどん上がっているので、なくなっていますね。実店舗は元値に対して200~300元(約3000~5000円)くらい価格を高く設定しないと、場所代がかかりすぎちゃうんですよね。
ですので、いまはみんなが淘宝网【※1】で買う時代【※2】ですね。実店舗を構えていた彼らは、いまは電脳商城というところに入っており、店主たちとは長い付き合いをしているので、事前に言っておくと持ってきてくれるんですね。
※1
中国のAmazonと言える巨大Webショッピングサイト。後述の阿里巴巴が運営し、支払いは支付宝で行う。
※2 インタビュー収録後の8月4日、日本語のゲーム販売禁止に関する通知が出され、8月8日以降の購入ができなくなっている。
──発売日にですか?
K氏:
日本でも数日前にようやく店舗に入ってきているゲームが、どういうわけかほぼ同時に彼らの手元に届くんですよ。
そういうソフトがまず香港に発売日の3日前に届くようです。翌日には香港から上海に届き、それが、発売前日に我々に届くという……。
──おおう……闇流通……。
K氏:
出元はどうなっているんでしょうね。客の立場なので、買うだけなんですが。
──(笑)。たった1本のソフトを求めて皆さんで奔走して、「上海のここで売ってた」みたいな感じになってることではないんですね。
K氏:
昔はありましたよ。たとえば『モンスターハンター4』(2013・カプコン)のとき。
あれは発売日当日に手に入れたくて、みんないろいろな店に足を運んで掛け合いましたね。チャットでまだ置かれている店を教えあって、すぐにみんなで集まったりしましたね。
──中国でも上海だからできるパワープレイですね。
20代前半の若者は「日本好き」
──ところで、上海ゲーム部には、地元の人たちは参加していないのですか?
K氏:
上海の地元の子でもゲーム好きな人が参加していますよ。彼はかなり日本や中国のゲーム事情やアニメ事情、それからアイドルに詳しいですね。
──中国の子も、ゲームもマンガもアニメも区別せず楽しんでいると。
K氏:
やっぱりアニメーションが好きな方は多いですね。そう考えると日本の文化はけっこうスゴいですよね。
──ChinaJoyを見ても、萌えの文脈のコンテンツがあまりに多いので、いい意味でも悪い意味でも日本のアニメ・マンガやゲームの影響力は大きいなと感じました。
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K氏:
僕らのつぎの世代の中国の若者たちって、そういうコンテンツに触れてきているから、日本がすごく好きなんです。今後はおそらく相当仲よくなっていくんだろうと思います。
──つぎの世代の若者たちというのは、年齢層で言うとどのくらいでしょう?
K氏:
25~30歳くらいの人たちです。少し前の25~30代の人って、逆に反日感情がすごかったんですね。彼らは日本のアニメーションなどをあまり見ず、政府による教育の下に育っていたんですが、最近は都会の人たちを中心に、日本発のコンテンツに触れざるを得ないような状況になっていまして。
──切り替わりには何か原因があったんでしょうか?
K氏:
いろいろあると思いますが、中国政府が日本のコンテンツをけっこう甘めに放送し始めたという要因がありますね。たとえば『エヴァンゲリオン』なども放送されていましたから。
──『エヴァ』を25~30歳の世代の人々がどれくらいの時期に観ていたのでしょう?
K氏:
だいたい十数年前ぐらいでしょうか。2000年を超えてからです。そのときたぶん中学生ぐらいの人たちがいよいよ大人になって日本のコンテンツを好きでいる。2005年ごろに反日デモがありましたが、そのときの同世代の人たちよりも一歩踏み込んで日本のことが好きな人が多いですね。
あと最近は、けっこうご年配の方も日本に行くチャンスが多いんですね。ビザが比較的下りやすい。「爆買い」という現象がありましたが、あれで日本に行った人が、当局を通さない本当の日本の状況や日本の中国人に対する対応などを味わって、けっこう感動して帰ってくるんですね。
──2005年の反日デモは……尖閣諸島をめぐるヤツ? いや、国連安保理への日本の常任理事国入りに反対したヤツですね。感動して帰ってくるということは、中国の一般の方たちは、やっぱり日本の実情など知らないということですね。
K氏:
そのデモのころは知らされていませんでしたね。ですが私の見ている範囲では、おそらくもうみんなにバレていますね。いまは、たまたま乗ったタクシーの運転手さんにも「日本人? この前、日本に行ってきたよ」なんて話す方も多いので。
私の会社の中国の同僚も、よく「日本ってすげーいいとこだな」って言っています。いまはもうみんなが、それまでの情報と実情の違いを知りつつあるので、「もうたぶん仲悪くなることはないよ」と言っている人もけっこう多いですね。
──前回の反日運動は、当局の煽りが強かった感じでしたが、いま状況が変わって、同じように当局が反日を煽ったとしても……。
K氏:
日本のコンテンツのファンも増え、もう反日感情をなかなか喚起しにくくなっていると思います。ですから我々一般の日本人が今後やらなきゃいけないことがあるとしたら、中国からのお客さんに対して、礼儀正しく、失礼のないようにして、日本のファンを増やすという当たり前のことになるわけです。
中国人ってけっこうちゃんと見ているんですよね。見て、ちゃんと記憶を残していくので。それから拡散力も持っていて、しっかり我々の行動を見て、感激すれば日本のファンになってくれる人がいます。ですから日本人側から及び腰にならずに近づいていくのが大事なんだと思います。
── 一方で上海にいる日本人が年々減っているという話も聞いたことがあります。
K氏:
企業の脱中国シフトなどにより、2年ほど前から一気に減りました。もともと居留の登録をしているのが5万4000人くらいですね。ですから実際にいたのが7~8万人と言われていたんですが、実際にはいまはもう5万人強しかいないんじゃないかと言われています。2万数千人減っています。
それがいちばんわかりやすいのが、日本人学校ですね。上海には日本人学校がふたつあるんですが、30人でひとつの小学校のクラスがひとクラス減りました。
おそらく中学校も減っています。彼らの親はふたりですから、減った小学生の倍、親も減っているはずで、それに関連する企業が撤退しているわけですね。ベトナムなどにシフトしています。
──人口減はゲーム部の活動に影響するのでしょうか?
K氏:
たとえば上海ゲーム部にやって来る人も、以前はこの同じ時間帯に40人くらいたむろしていたのが、少し減ったりしています。ただ、そのおかげで日本の支部が積極的に活動できているので。
──あ、なるほど。帰国してからも繋がっているからですね。
上海暮らしの煩わしさと良さ
──お話を伺っていると、中学生が放課後に遊んでいるようなノリで、そのまま上海で楽しんでいる感じですね。そのノリを海を越えて持ってきた情熱がとてつもないと思います。
K氏:
海外にいると、日本人どうしで守り合う部分もあり、そういった意味で絆が深まるんでしょうね。そんな中で毎週会っていると、年齢など関係なく、兄弟や家族みたいに何でも話せるようになっていくんです。
──海外、たとえばこの上海で日本人が暮らしていくことのわずらわしさやめんどくささには、どういうものがあるんでしょう?
K氏:
たとえばいま発生しているのはビザが点数制度になった問題ですね。たとえば学歴によって「大卒だったら何点」という具合に細かく点数が振られていまして、それが60点を超えないと就労の許可証が発行されないという新しい法律が今年からできました。ここはいろいろな学歴や職歴の方が集まっているので、そのことにみんな戦々恐々としています。そういう部分はわずらわしいですね。
──以前のわずらわしさなどは?
K氏:
たとえばネットでモノを買うにしても中国語ができないと、どうしたらいいかわからなかったわけです。淘宝网のアカウントを取得するにはまず支付宝【※】のアカウントを作らなくてはなりません。支付宝のアカウントを作るには、パスポートを用意して、こちらの銀行口座を作る必要があります。
というのも、支付宝に銀行口座をいくつか登録しておかないと使えないという制限があるので。そういう情報自体をインターネットで日本語で発信するなど、ノウハウを撒いてくれる人がなかなかいませんでした。
我々としても、ここで淘宝教室を何回か催したり、そういう人を集めて、ここで解説をして直接アカウントを作ってもらってたりというようなこともしています。
──なるほど。ゲームやアニメのコミュニティでもあるけど、上海で生きる日本人としての生活コミュニティでもあるんですね。
K氏:
そういう面もありますね。チャットは基本的に24時間ずっと動いているので、誰かがたとえば「鍵をなくした」と言えば、みんなで助けるので。「このコミュニティに入っているなら困らせない」ということが、いちおうみんなのルールになっています。
──ゲーム以外のジャンルだと、上海にはどんな日本人のコミュニティがあるんでしょう?
K氏:
たとえばカラオケのコミュニティなんてのもありますね。あとは県人会系が多いです。
──上海愛知県人会みたいな?
K氏:
そうです。
──(赤野)イギリスにいたとき、たとえばドミニカの人が来たりすると、そういう人たちは野球を中心に集まったりしていましたね。
K氏:
野球のコミュニティも、2チームくらいありますね。
──野球場ってあるんですか? 日本ほど野球は盛んではないですよね?
K氏:
上海には野球場がけっこうあるんですよ。それからサッカーのチームはたくさんあります。ラグビーもあります。ラグビーはうちといっしょにこのビルでサバイバルゲームなんかをしています。
──夜のモールでゾンビゲームやサバゲ―なんて最高ですね。ロメロの世界【※】だ。何より、日本人が海外に出てコミュニティを作ろうと思うと、野球以上に、いまはゲームを中心に人が集まるんだな、というのが国民性を表していておもしろいです。
K氏:
ゾンビはいいですよねー。銃っぽいものは、じつは違法なんですが(笑)。
──(笑)。
※ロメロの世界
先日逝去したジョージ・A・ロメロ監督の大ヒット映画『ゾンビ』(1978)に始まり、ゾンビ映画で追い詰められた人々は、アメリカによくあるショッピングモールに立てこもり、豊富な食料と武器を頼りに抗戦するのが定番となっている。その裏には、生きていたときの習慣を意思なくそのまま継続するというゾンビの特性を前提に、死してなおショッピングに来る滑稽さという、過剰な消費社会へのアイロニーが込められていたりかするのだが、ともあれ「ゾンビゲーム」なる遊びをするのであれば、舞台はショッピングモール以外にあり得ない。