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なぜ『ゴッド・オブ・ウォー』がゲームアワードを獲得したのか? めんどくさい開発者たちによる2018年のゲーム(いまさら)総ざらい座談会【岩崎啓眞・島国大和・hamatsu・TAITAI】

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『Detroit: Become Human』の一回性

hamatsu氏:
 『Detroit: Become Human』(以下、『Detroit』。2018年5月25日発売)ってやりました?

島国氏:
 「みんなが褒めそうなゲームだな」と思いながらやりました。

TAITAI:
 僕も結構やりました。

岩崎氏:
 ハマりにハマって、まだ周回プレイをしていますよ。最初は全部の分岐をやらなくていいゲームだと思ったんですが、ハマるにつれて全部見たくなるんですよね。ふつうマルチシナリオといったら、「変わるのはこれくらいかな」と予想がつくじゃないですか。ところが『Detroit』は突き抜けて変わる。分岐を経てまた本流に戻るどころか、驚くほどシーンが分岐し続ける。

島国氏:
 そんなにやり込んでませんが、そこまでですか。

TAITAI:
 『Detroit』って、宣伝文句で「あなたの物語です」と言っているように、プレイが周回前提でなく一回性の作品という売りかたをされていますが、実際にはその驚くほどの分岐の差異もゲームとしての売りであって。するとリプレイして遊びづらい作りが少し気になります。一方で、一回性のものだとすると選択しなかったことへの心残りが積もる。

島国氏:
 そのへんはいかにもアメリカのゲームっぽいですね。

hamatsu氏:
 選択をミスるとあっさり殺しにきますからね。

島国氏:
 TAITAIさんと似たようなことを、昔、未発売の『白夜に消えた目撃者』を作ろうとしていたころ、堀井雄二さんが言っていましたね。アドベンチャーゲームで選択肢が分岐するものを作るとき、「選択肢は思いっきり変わるんだけど、選択を誤った場合はプレイヤーをすぐ殺して失敗と教えてあげれば、不快感がなくなるんじゃないか」と。

岩崎氏:
 『Detroit』というゲームは、構造的に選択肢の中に失敗がないというのが基本的な考えかたではあるんですよね。
 TAITAIさんのいまの話もそうですし、電ファミのイシイジロウさんへのインタビューで、「全員が生きのびる選択がトゥルーエンドと人は感じてしまうのでは」という言いかたをされていたのもそうですが、それはアドベンチャーゲームを日本的な視点で見過ぎかなと思うんですよ。

『Detroit: Become Human』は日本のアドベンチャーゲームの文法に興味がない──イシイジロウ氏が感じた葛藤と、自身の限界

TAITAI:
 でも用意された分岐の多さを考えるとリプレイはしたくなりますね。たとえばその昔『この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO』(以下、『YU-NO』。オリジナルは1996年12月26日発売)というゲームがありましたが、あの時代ですでに選択肢のルートをフローチャートにして任意で戻れるようにしてたじゃないですか。あれはリプレイ性がすごく強い。

島国氏:
 作り手としては、「リプレイ性を上げると、選択することの重要性が下がってしまう」という考えかたなんでしょうね。

hamatsu氏:
 どちらかというとフリーシナリオを標榜した『ロマンシング サ・ガ』やそちらの方向なんでしょう。

TAITAI:
 それにしても、岩崎さんが「全部を見る」というプレイスタイルで、しかも褒めているというのが意外です。岩崎さんなら文句を言いそうじゃないですか(笑)。

一同:
 (爆笑)。

岩崎氏:
 いやいや、僕もリプレイ性は低いと思いながら周回しているんですよ。
 ハマったきっかけは、普通にプレイしたら酷いエンディングになり、「もう少しマシな終わりがあるだろう」と思って分岐するところからやり直したら、驚くほど展開が変わるのが判ったから。そこまで展開が変わるのが想像できなかったから、ほかも見てみたくなって。
 普通に考えたら死ぬキャラクターが、選択肢次第で最後まで生き延びたりする。驚きますよね。

島国氏:
 僕も良さげなエンディングを探してやり直していたんですが、気合いを入れて画面を見ないといけないゲームなので3回目くらいで疲れてしまって。

hamatsu氏:
 ボケっとしていると、あっというまに死んじゃいますよね(笑)。

TAITAI:
 展開が膨大に分岐する前提があるゆえに、初回や2回目のプレイのドキドキ感は、ほかのアドベンチャーゲームとは違う緊迫感をもたらしますね。
 そうやってトータルとしてはすごいものだし面白いんだけど、細かな不満が残るんです。「不正解はない」という考えも解りますが、その一方でQTEがあって、やっぱり失敗したりするのは納得いかない(笑)。

岩崎氏:
 『Detroit』のQTEは意味を持たせているところがエグいよね。QTEを使って死なないキャラクターを殺したりすると、意外な展開のあと、じつはそれがさらに伏線になったりして。

hamatsu氏:
 『Detroit』には「まだイケるの?」みたいな気持ち良さがありますね。隠し部屋にいったつもりが隠し世界だったような。

島国氏:
 これは岩崎さんが『Detroit』の良さを語れば語るほど、「なぜ『YU-NO』のようにしなかったのか」という話になっていきますよ(笑)。「それだったら見られたほうがいいじゃない」って。
 もう何周かやるかなあ。

──『Detroit』はネタバレが怖くて書けないことが多すぎて……。

島国氏:
 触れないと語れないゲームですね。

hamatsu氏:
 そういうゲームって、いまの世の中では不利な感じがありますね。どちらかと言うと、ネタバレを知っていようがいまいが面白いゲームが、語られて広まって有利ですね。

プレイステーションVRの2本

TAITAI:
 プレイステーションVRの『Déraciné(デラシネ)』(2018年11月6日発売)などはまさにそうで、いいゲームなんだけど、語るとネタバレになるから誰も語れない。

島国氏:
 『シン・ゴジラ』『カメラを止めるな!』などの映画は、「いい作品なのでみんなネタバレしないようにお勧めしよう」という空気でしたよね。ゲームもああなればいいのに。「とにかくやれ」みたいな。

──『Déraciné(デラシネ)』の良さを、ネタバレしないように語っていただけますか?

TAITAI:
 『Déraciné』は、「古典アドベンチャーをVRでやるとどうなるか」というもので、VRを使った仕掛けに出会って「ああ、なるほど」となるものです。

──すると丁寧に作ってある感じですか?

TAITAI:
 丁寧というよりは、ある種の一発ネタだけど。

──やっぱり踏み込んでは語れませんね……。同じプレイステーションVRだと、岩崎さんが『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』(以下、『ASTRO BOT』。2018年10月2日発売)をSNSで褒めていましたね。

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島国氏:
 『ASTRO BOT』はよくできていましたね。

TAITAI:
 評判がすごく高いですね。でもパッと見は、VRっぽくない画面ですね。

岩崎氏:
 VRゲームだと主観視点にしたくなるんだけど、『ASTRO BOT』はTPS、TPSというかプラットフォームアクション(足場を飛び移るようなアクションゲーム)にしたのがいいんだよね。

hamatsu氏:
 自分が『マリオ』におけるジュゲム視点になっている感じ。

岩崎氏:
 そう、ジュゲムとしてプレイに参加するんですよ。

島国氏:
 PS4のコントローラーの機能をよく使っているゲームだと思います。

岩崎氏:
 基本の操作は普通のプラットフォームアクションで、ゲームとしては難しくないけど、VRであることをフルに駆使して、フィールドに目的のアイテムを隠しているんですよ。たとえばステージ開始直後、前に道があるので進みたくなるけど、ふと振り返ると隠しているものがあるとか。

 とにかくプレイヤーの「覗き込み」を多く使うゲームですね。一見進めなさそうなところでも、下を覗き込むと足場が見えて、「なるほど!」とキャラクターを飛び降りさせたりできる。そういうレベルデザインがよくできたゲームです。

島国氏:
 あの主観で世界に潜り込む感じは、『レディ・プレイヤー1』みたいですよね。体験版の時点でよくできていたので、本編を楽しみにしていたら、すごいたくさん要素を詰め込んできた。こういうものは一過性で作れませんから、相当ユーザーテストをしたと思うんですよね。VRのサードパーソン視点のゲームの敷居を上げてしまったので、この先現れるタイトルは大変そうです。

──『ASTRO BOT』のためにPSVRを持ってない人は買ってもいい?

岩崎氏:
 僕は買ってもいいと思います。『ASTRO BOT』と 『Farpoint』『Rez』を買っておけば人生幸せになると思います。

開発者号泣の『レディ・プレイヤー1』

hamatsu氏:
 いま話に出た『レディ・プレイヤー1』って皆さん観ました?

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一同:
 観ました観ました。

島国氏:
 「あれが本当に面白いのって、ゲーム開発者だけじゃないか」とちょっと思ったりしていて。

──そうですか? 楽しみましたよ?

島国氏:
 ネタバレになるので詳しく書けないと思いますが、最後の開発者のセリフ。あんなの開発者としては泣くしかないじゃないですか。ともかく本当に感情移入するしかなかった。シャイで自分からは動けないんだけど技術力はある。冗談も下手で女の子にも奥手。そういう人物が最後に泣かせにくるわけですよ。

 ゲーム開発者やゲームライターさんなどには刺さるところが多そうだなと。一般の方はわりとポカーンじゃないかという気がしていましたが。

hamatsu氏:
 ふつうに喜んでいましたよ? もうちょっと地雷を踏んでくるのかと思ったら。さすがスピルバーグ。
 ほかにもスピルバーグ以外の人が撮ったら、「ガンダムとか何を勝手に使ってんだ」など地雷になりそうな部分も、スピルバーグなら「まあいいか」となる。

 僕の個人的な考えですが、スピルバーグってスゴく「ルールっぽい」映画を撮る人ですよね。昔からいわゆるゲームっぽい映画を撮る人だなと思っていました。

 『激突!』も理由は説明せずに、「追いかけっこで殺しに行くから」というワンルールで撮り切っている。『ジョーズ』も「海に入ったら鮫がくるよ」というルール。
 『インディ・ジョーンズ2』は全体的に好きじゃないともメイキングなどで言っているんですが、唯一、密閉された部屋にでトゲトゲの天井が降りてくる演出は好きだと言っていて。

 スピルバーグっておそらく一定のルールに人を押し込めて、そのさまを眺める映像が大好きなんですよね。

島国氏:
 『インディ・ジョーンズ』のときはテーブルトークRPGのように、「この危機はどう乗り越えるか」ってスタッフたちとディスカッションしながら作ったという話ですからね。

hamatsu氏:
 有名な岩が転がってくるシーンも「速く走らないと死ぬ」というルールを設定して、それを映像化しているわけで、ゲームとスピルバーグって根本的に相性がいいんでしょう。
 同時期に『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』も観ましたが、あれは出版のシステムというかルールを描く映画でしたし。

──『レディ・プレイヤー1』のどんなシーンがよかったですか?

hamatsu氏:
 『シャイニング』オマージュのシーンもすごくよかったですが、僕はレースシーンがいちばん好きですね。

島国氏:
 あれは『シャイニング』を観ていない人が観ても解りませんよね。「ネタ振りが足りないだろう」というところは他の映画からネタでしたから。
 それからイースターエッグとか、「いま、『Adventure』の話をして誰がついてくるのかな?」と思うじゃないですか。

岩崎氏:
 『Adventure』がAtari 2600の実在したゲームだって知らない人が多いんじゃないですか?

hamatsu氏:
 知らない人でもそれなりに観れますよ。『シャイニング』を知らない人は、あのシーンは本当にポカーンだったと思いますが(笑)。

岩崎氏:
 あとこの映画内のVRは、技術的にできたらスゴいですよね。オバケですよね、完全に(笑)。

『レディ・プレイヤー1』のVRワールド「オアシス」は、現時点で構築するにはどのくらい難しい? ゲーム開発者視点で考えてみた【「島国大和のゲームほげほげ」第4回】

島国氏:
 通信量で死んでしまいますね。
 それにしても『レディ・プレイヤー1』といい『ピクセル』といい『シュガー・ラッシュ』といい、このところゲームの映画が当たっていますね。『ピクセル』は期待してなかったけど面白くて良かった。

──ゲームの映画が最近多いのは、撮っている人たちがそういう世代だからですかね?

島国氏:
 作り手がそういう世代で、観る側もそういう世代だから、売れかたが読めるんでしょうね。『シュガー・ラッシュ』などは顕著で、各地域向けのキャラクターを差し込んだりなど、綿密なマーケティングをしていますし。

TAITAI:
 映画ではないけれど、『ソードアート・オンライン』なども魔法を撃つことに対して、ハイファンタジーの世界として描くのではなく、いまは「ゲームの世界です」と言ったほうが説得力に繋がっているし、フックになっているところもあると思う。

hamatsu氏:
 架空のウエスタンの世界でAIが自我に目覚める『ウエストワールド』というアメリカのテレビドラマもそうですが、ゲームの題材ってじつはああいう「人間とは」という根本的なテーマにしやすいんですよね。

一同:
 はいはい。

hamatsu氏:
 さらに『ウエストワールド』を観て『RDR2』と『Detroit』を一緒にやっていると、わけがわからなくなってくるんですよね(笑)。

一同:
 (笑)。

表裏一体の『カメ止め』ワンカット撮影と『RDR2』シネマティックモード

hamatsu氏:
 映画ついでですが、『カメラを止めるな!』は観ました?

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(画像は映画『カメラを止めるな!』公式サイトより)

島国氏:
 はい。あれはよかったですね。でも何を言ってもネタバレだから、語りにくいんですよね。

hamatsu氏:
 ここは大丈夫だろうと思いますが、あのストーリー部分というか冒頭のワンカット撮影部分って、「ゲーム的、とくに3Dの『ゼルダ』や『スパイダーマン』に近い三人称視点のゲーム的だな」って思いました。それが『RDR2』のシネマティックモードと対照的で。
 映画でゲームっぽいことをしようとすると『カメラを止めるな!』のワンカット撮影のようになり、ゲームで映画っぽいことをやろうとするとシネマティックモードになる。

島国氏:
 あ-、はいはい。

hamatsu氏:
 シネマティックモードって、あれをやると、「急に向かい側に来た人がドーンとぶつかる」とか、シネマティックモードをオンにしてなんとなく会話する様子を観ていたら、急に崖に転落したりする弊害がある(笑)。
 そもそも映画におけるカット割りって、人間が持ち合わせているはずの方向感覚がいとも簡単に失われるんですよ。それはどうしても映画が根本的に解決できない呪縛のようなもので、「方向」や「方角」と映画的表現の相性の悪さを最近よく考えています。

 そこをどうにかしたいとき、じつはカメラが主要キャラクターの背後から追従していくタイプのワンカット撮影ってけっこう有効で。『カメラを止めるな!』のワンカット撮影をずっと観ていると、あの撮影場所の構造がなんとなく解り始める。
 「あ、あそこを右に曲がるとアレがあったな」とか。

──ああ、思い当たります。

hamatsu氏:
 2014年に公開された『バードマン』という映画も、冒頭と終盤以外ほぼ1カットで、かつ話が劇場で展開しますよね。あれも観ていると、だんだん「あ、いま楽屋へ戻っているな」、「あ、あそこを進むとステージに出ちゃう」なんて、判ってくるんですよ。
 そういう土地感覚というか空間の感覚が、次第に自分の中にできていくことが、後になって面白さにも繋がる映画でした。

島国氏:
 映画の場合は「イマジナリーライン【※】は絶対に超えません」など、映画的な文法をとりあえず押さえているのでそこまで迷いませんが、ゲームのムービーシーンって、その文法を押さえないカット割りをする人がたまにいます。ゲームの序盤でそれをされると「あ、このゲームは……」とツラいんですよね。

※イマジナリーライン
たとえば映画中の対話シーンで、話者ふたりのあいだに引かれる想像上のライン。カットの切り替えをするとき、カメラがこのラインを越えると位置関係などに混乱をきたしやすくなる。移動するものの移動方向の延長線上にも引かれる。

岩崎氏:
 そういえば『Detroit』はカット割りがあるのに、ツラくなかったな。

島国氏:
 あれはイマジナリーライン厳守だとか、カメラが寄るときのルールなど映像表現のルールをちゃんと守っているんです。だからイライラしませんね。

hamatsu氏:
 ゲームって、北とか南とか方位が表現できるんですよね。初代の『ドラクエ』なんてまさに「はなす>きた」だったわけで。でも映画で北を意識する必要がある機会なんてほとんどない。

島国氏:
 それはわかりにくいので表現しないんでしょうね。スタジオジブリなども上下などしか表現しないでいる。まあそうですよね。判らないもの。

hamatsu氏:
 黒澤明は確か『七人の侍』でそれをやろうとしたらしいんですよ。だから、あの映画にはいっぱい地図が出てくる。でも「あの村のセットって気合が入ってんなー」とは思うんですが、あの村であっちに行くと山があってなんて、やっぱり判らないんですよね。

──下の広場と、野武士のやってくる方向ぐらいでした。

hamatsu氏:
 そう。それに近いことを『太陽の王子 ホルスの大冒険』で宮崎駿さんも高畑勲さんとやろうとしたらしいんです。ですが宮崎さん的にはイマイチだったという。そこでつぎに何をしたかというと、『カリオストロの城』で上下を表現した。

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(画像はAmazon.co.jp | 太陽の王子 ホルスの大冒険 [DVD] DVD・ブルーレイ – 平幹二朗, 市原悦子, 東野英治郎, 三島雅夫, 永田靖, 大方斐紗子, 横森久, 大塚康生より)

 上下なら上が空で下が地面とだたいたい決まっている。つまり映画は上下なら表現できる。じゃあジョージ・ミラーが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でやったのは何かというと、走りっぱなしにすること。そうすると前と後ろが表現できる。

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(画像はAmazon.co.jp: マッドマックス 怒りのデス・ロード(字幕版)を観る | Prime Videoより)

 そういうふうに、映画でも、工夫次第である程度の方向が表現できるんですが、ゲームってじつはデフォルトで方向が表現できる。メディアとしては地図に近いものがあるんですよね。
 その地図をゲーム化するとどうなるかというと、『ポケモンGO』になると。

──なるほど!

hamatsu氏:
 映画でもそういう方向や土地勘の感覚を表現しようとすると、『カメラを止めるな!』や『バードマン』になります。どちらの映画もゲームをことさら意識した作品という訳ではありませんが、体験の質が、根本の部分においてゲームに通じるものがあるんじゃないかと思っています。黒澤明や宮崎駿もまた映画というメディアで「方向」の感覚、つまりはゲーム的な感覚を表現しようとして悪戦苦闘した表現者なのではないかなと。

島国氏:
 映画は、「どうせ上と下しかわかんねえや」、「だからこれ以上要らない」と理解して削いで、「ここだけあれば判るし面白いし、意味も通じる」というところにちゃんと落としていく必要があるんですよね。

ジブリと『ドラゴンボール』と『NARUTO』は日本のアイコン

岩崎氏:
 宮崎駿で思い出したけど、『二ノ国II レヴァナントキングダム』(2018年3月23日発売)が発売されていますね。

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『二ノ国II レヴァナントキングダム』
(画像はバトルシステム | ゲーム紹介 | 二ノ国II レヴァナントキングダムより)

 最近、海外の友だちに日本の絵を描くアーティストを紹介してくれと言われ、何人か紹介したんですが、向こうがなかなかピンと来てくれなかった。
 そこでしばらく考えて浮かんだのが『二ノ国』。『二ノ国』って、日本ではそこまで図抜けた評価がされていないけど、海外では2018年のゲーム・オブ・ザ・イヤーにも名前が挙がるくらい評価されているよね。

島国氏:
 なるほど、ジブリテイストってやつですね!

岩崎氏:
 そう。「だったらこの人はどう?」とジブリっぽいイラストが描ける人を紹介したら、もうえらく喰いつかれて(笑)。

──なるほど。

島国氏:
 日本人にとってジブリは、すごいんだけど「そういうものだ」という普遍的なものになってしまっているので、そういうときにあまりピンとこないんですよね。
 けれどジブリっぽいものって、海外にとっての日本のスーパーアイコンとなっていますよね。

岩崎氏:
 そう。「海外から見ると、ここにものすごく強い日本テイストを感じるんだな」と驚きました。『ドラゴンボール』と『NARUTO』とジブリというものが、海外の人にとっては、ある種、浮世絵と同じような日本のアイコンになっている。

hamatsu氏:
 新作映画『ドラゴンボール超 ブロリー』も完全に海外向けだと言われていますよね。『ドラゴンボール』は、じつは中南米でも売れていたという。『聖闘士星矢』などもそう言いますよね。

島国氏:
 アメリカ人にはよく『犬夜叉』について聞かれますね。「アレが終わったって本当か?」って(笑)。

TAITAI:
 高橋留美子ってことですか?

島国氏:
 向こうのネットワークで繰り返し放送されていたんじゃないですかね?

岩崎氏:
 日本で聞くクールジャパンって、どうしても「いま日本でウケているものが何なのか」という話が多い。ところが実際にフタを開けてみると、ふつうのアメリカ人たちに刺さるのは、そのジブリだったりゲームだったり、要は最先端でなくマスなものですよね。

島国氏:
 だから『ペルソナ』が向こうでウケたのは私もびっくりしたんですよ。「刺さるんだ、これ?」って。でも、みんながああウケるわけじゃない(笑)。

『Nintendo Labo』はチュートリアルがすごい

岩崎氏:
 『Nintendo Labo』(第一弾が2018年4月20日発売)って2018年だったのか。

TAITAI:
 『Nintendo Labo』は語りづらいな(笑)。プロモーションはすごかったですね。面白そう感が伝わってきました。

hamatsu氏:
 組み立ての説明がものすごいよくできていますよ。

島国氏:
 説明書のわかりやすさランキングの1位くらいにいるんですけど。

hamatsu氏:
 言っちゃうと『Nintendo Labo』は微妙な感じになったかもしれませんが、任天堂のことだから、あの技術をまたどこかで使ってくるだろうとは思います。

岩崎氏:
 唯一文句を言いたいのは、「組み立てたらデカくなってしかも戻しようがない」こと。だから片付けるのが難しいんだよね。なんとかしてほしかったなと(笑)。

hamatsu氏:
 パッケージも見るからに大きいし、持つと「重っ」みたいな(笑)。

島国氏:
 初めて見たときは本当に感心しましたよ。「よくできてるなあ、子どもでも組み立てられるなあ」と。ロボットにしても操作系の割り切りかたがいいし、そもそもこのジャイロセンサーがそこまで精密ではないのに、ちゃんと成立するところまで作り上げるあたりとかですね。

『Gガンダム』や『パシフィック・リム』に熱狂した人ほどNintendo Laboは触るべき!“ロボットToy-Con”はコントローラーの革命だ!!

岩崎氏:
 あれは考え抜いてますよね。
 じつはいちばん面白いのは公式サイトの文章で、「これでわかるだろう」とユーザーテストをしたら全然わかってもらえなくて、「必死になって直していった」と書かれていたのを読んで、「これは間違いなく本当だろうな」と思った。

島国氏:
 ユーザーテストは本当に怖いですよ。

hamatsu氏:
 今後、あの説明の技術と経験を応用して、別の何かを作ってくるんじゃないかなって気がします。

──あのチュートリアルを応用して何になりそうでしょう?

島国氏:
 たとえば「チュートリアルが全部動画で見れますよ」というタイトルがありますが、「ゲームの中で教えてくれよ」と、そんなことは求めていないわけで、そういう部分に応用されていけばいいですね。

『オクトパストラベラー』は、別の世界線上のRPG

hamatsu氏:
 『オクトパストラベラー』(2018年7月13日発売)は、やりましたよ。面白いです。

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『オクトパストラベラー』
(画像はHD-2D | ABOUT | OCTOPATH TRAVELER(オクトパス トラベラー) | SQUARE ENIXより)

岩崎氏:
 序盤がいちばん面白い。8人全員集まると大きな話が展開するのかと思ったら、そうではなかった。
 でも僕は「作った人は偉いな」と思っていて。というのも、ゲームデザイナーはゲームのバランスがぶっ壊れることがすごく怖いもの。なのに、試みのために意図的にそれを許容したから。

島国氏:
 でもあれは売り切り型のゲームだからの勝利ですよ。そのバランス取りをオンラインゲームでやったら死にたくなりますよ。「俺は毎月これのバランス取るの?」って。

岩崎氏:
 僕は踊り子が敵を“誘惑”できると聞いてそれで始めましたが、その誘惑がめちゃくちゃ強い。確率で成功するんですが、この率が思いのほか高く、とんでもなく強いキャラクターを平気で連れていけるし、ボスも一撃なんです。
 ほかにもフラグを管理しているようなNPCとも戦えてしまうところも、このゲームはすごい。

hamatsu氏:
 戦って倒せるんですか?

岩崎氏:
 倒せます。すると入れないはずの場所に入れるんですよ!

──中には何かが用意されているんですか?

岩崎氏:
 本来なら入れないハズの場所に入れてですね、手に入らないはずの武器が手に入ったり。

hamatsu氏:
 たぶん作っている人は僕と同年代くらいだと思いますが、『FF』や『ドラクエ』が登場したころの、1作目や2作目あたりの「ちょっとバランスが取り切れていないところこそ面白い」というような人たちが、ちゃんと計算して作っているなと思いました。

TAITAI:
 解りますね。

島国氏:
 売り切り、買い切りのゲームならではですね。ゲームの解像度がわりと低めに作ってあるので、何が起きてもゲラゲラと笑って許せてしまうところがある。
 たとえばこれをソーシャルにして、毎回毎回ドット絵のキャラを作ってそれが本当に売れるかと言ったらちょっと怖くなり、「もうちょっと解像度を上げようか」みたいなことをみんなで言い始める。

岩崎氏:
 そこもよく考えている。コストの問題もあると思うけど、キャラクターはドットにしておいて、アニメーションなどもあえてすごく凝っているわけではないんだよね。

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hamatsu氏:
 そうですね。そのくらいで充分というか、「面白さのコアの部分だけが取り出せれば充分」という割り切りかたもうまい。言ってしまえば『スパイダーマン』寄りの抽出が効いている。

 あとフィールドコマンドがこのゲームのキモですね。それによりそのへんに立っているキャラクターたちのほとんどが仲間になったり、獣はとりあえず捕まえられたりなど、世界の自由度というか、世界への接しかたが変わるゲーム。
 『FF』の“ぬすむ”コマンドが、それがあるがゆえに全モンスターが戦うだけでなく盗む対象になり得るというところに面白みを感じた人が、それをフィールドに持ってきたりしたんだろうと思います。

TAITAI:
 今年(2018年)の九州CEDECの最後の講演が『オクトパストラベラー』についてのもので、そこで語られていたのが、いまのような話でした。

 まずレガシーのRPGのようなものを期待しているユーザーさんがいっぱいいる。そういう人たちが想像するシステムや要素があるわけで、だからアイデアを取捨選択するとき、「その想像の延長線上にあるものは盛り込むけど、ないアイデアは盛り込まない」ということを最初に決めたらしく。
 だから街の人と戦ったり誘惑したりなどは、hamatsuさんの言うように本当に昔の『FF』の感じや延長線上にあるんです。
 そのうえでいままでにない新しい驚きや要素も足す。そのへんのさじ加減がうまいんですよ。

hamatsu氏:
 なるほど。「RPGはこういう方向に進化してほしかったな」感を出しているんですね。『FF』がプレイステーションになって『VII』が出て、あれはあれですごかったけど、「それとは別のシステム寄りの進化をしてほしかった」というところを突いたんですね。

TAITAI:
 そこでまったく違う「なんとかシステム」のようなものを乗せると、「いやそういうのじゃなく」となってしまう。30代半ばのディレクターさんということで、若いし優秀な方なんだろうなと思います。

hamatsu氏:
 あのフィールドコマンドって対象を一部のキャラだけにしちゃうと、とたんに魅力が落ちるもの。あとから入れるのはたいへんで、とりあえず話せるキャラにはほとんどコマンドが実行できるということは、相当根本から考えていないと実現できません。

 『ポケモン』が魅力的な理由のひとつは、現れたモンスターが「全部仲間に入れられる」というところであって、そこが部分的だった『ドラクエV』は、「このモンスターはダメなんだ……」みたいな気持ちになることがありました。

岩崎氏:
 全部に対して同じことができるのは楽しいよね。だからゲームは結果的にめちゃくちゃになるんだけど(笑)。

hamatsu氏:
 「こいつは?」、「こいつは?」と想像が広がるのは楽しいです。

TAITAI:
 『ゼルダ』で、草を斬ってルピーが出てきた瞬間に、草むらすべてが探索要素になるのと同じ期待感ですね。

hamatsu氏:
 そうですね。「全部イケるんだ!」と思った瞬間に、つぎの村へ行って「こいつらは全員、何を持ってんだ?」、「仲間になるのか?」というふうに期待感が膨らむんですよね。

 少し話がズレますが、『グランド・セフト・オート』(以下、『GTA』)の『III』ははフィールドの人とは話せないけど、誰でもぶん殴れるわけですよ(笑)。「だったらコイツもぶん殴ってやれ」となる。
 『GTA』って自由度が高かったというか、自由度の方向を変えた。それを「自由度が高い」とみんなが表現したんですけど、じつはフィールドに点在するNPCと「話す」という行為については、じつは自由度を削っているゲームだった。

 ちなみに『RDR2』は誰とでも話せるんですよね。「オウ」、「オウ」みたいな挨拶をしたり、敵対したり。
 『GTA』で会話をそぎ落としてまで暴力に焦点を当てたゲームを作っていたRockstar Gamesが、ついに『RDR2』で、削ぎ落としたはずの「会話」をするゲームに戻ってきているんですよ。まあそれがいいか悪いかは置いておいて。

島国氏:
 何でもできるゲームを作りたかったんでしょうね。ひとつの夢ですからね、何でもできるゲームは。

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