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「ゲーセン椅子」の現状ー需要は激減するも、今なお業者が製造・修理を続けるゲームセンターの必需品

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 ゲームセンターの必需品と言えば、もちろんゲームの筐体(ハード)や基板(ソフト)である。そして、そのゲームと常にセットで必要となるのが、プレイヤーがゲームを遊ぶ際に腰を下ろす、通称「ゲーセン椅子」【※】だ。
 ゲーセンに通い慣れている人であれば、四角い座面を四本脚で支える角椅子の形状を、おそらくすぐにイメージすることができることだろう。 

※筆者注:ちなみに、「ゲーセン椅子」を取り扱う業者では、「アミューズメント用チェアー」などという商品名で販売している。

 昔のインベーダーブーム期にあった喫茶店やホテルのゲームコーナーでは、角椅子ではなく革製の丸椅子を置いていたり、あるいは田舎の駄菓子屋であれば、瓶ジュース用のケースを椅子代わりに使用していた所もあったが、昔も今も「ゲーセン椅子」は、ゲーセンにとって必要不可欠、まさに縁の下の力持ち的な存在だ。
 筆者も客のひとりとして日々使わせていただいているのはもちろん、現場時代にもビデオゲームやキッズメダルコーナー用の備品として、いったいどれだけお世話になったことか……。

「ゲーセン椅子」の現状ー需要は激減するも、今なお業者が製造・修理を続けるゲームセンターの必需品_001
これがいわゆる「ゲーセン椅子」。昭和の時代からゲーセンに通っている人であれば、ゲーセン用の椅子と言えば、真っ先にこのデザインを想起するハズ
(取材協力:アムネット五反田店)

 しかし、今やゲームセンターは「UFOキャッチャー」シリーズをはじめとする、椅子に座らずに立ったまま遊ぶプライズゲームのオペレーション(店舗)売上高が約半分を占め、ビデオゲームを1台も置かない店舗も珍しくない。
 日本アミューズメント産業協会(JAIA)が毎年発行している、「アミューズメント産業の実態調査:報告書」の市場データを見ると、テレビ(ビデオ)ゲームのオペレーション売上高は、2017年度が508億円。2007年度の売上高は919億円なので、実に10年間で45パーセントも減少したことになる。
 また、メーカーによるビデオゲーム基板・筐体の売上高は2017年度が107億円、2007年が497億円であるから、新作ビデオゲームの売上は10年間で、何と80パーセント近くも減少しているのだ。

 と、いうことは、「ゲーセン椅子」の需要も当然ながら減っているハズ。しかも、ゲームの基板やプライズゲームの景品などとは違って、ひんぱんに入れ替えが発生しない備品だけに、もしかしたら椅子やコイン計数機などの店舗用備品類を生産・販売をしている業者であっても、すでに取り扱いを終了しているのではないだろうか?
 先日、ゲーム好きの家具店の店長が、ハンドメイドの「ゲーセン椅子」を製造・販売したことが地方紙でニュースになっていたが、今や入手が困難なアイテムとなってしまったのだろうか?

 そこで、ゲーセン用の各種備品を取り扱っている業者にお話を聞いてみることにした。

取材・文/鴫原 盛之


昔ながらの「ゲーセン椅子」の需要は、何とピーク時の10分の1以下に!

 まず初めに、とある大手業者のカタログを調べてみた。すると、昔ながらのシングル(1人掛け)四脚型の「ゲーセン椅子」は、確かに商品のひとつとして掲載されていたが、商品説明文には「在庫限り」と書いてあるではないか。
 そこで、業者に電話とメールで取材をしたところ、「今後の生産予定がなく、在庫がなくなり次第終了となります」とのことだった。

 また、すでに椅子を購入した店舗に対して、もし座面やアジャスターなどが傷んだ場合に、これらの部品が注文できるのかも尋ねてみたら、「部品在庫、代替品があれば対応可能です」とのお答えだった。
 これも要するに、「部品の再生産も予定がなく、在庫がなくなったところで取り扱いはすべて終了」ということだろう。さらに筆者は、市場規模がピークの時期に比べて「ゲーセン椅子」の需要は減ったのかどうかも尋ねてみたが、残念ながらセールスに関する質問には一切答えてくれなかった。

 ならば、取材を受けていただける別の業者を探そうと伝手をたどったところ、大阪府大東市に本社があるアミューズメント関連商品の総合商社、株式会社光新星のアミューズメント課のスタッフから「取材オーケー」の許可をいただけたので、同社の東京事務所に光の速さで突撃してお話を伺った。

 同社のスタッフによると、「ゲーセン椅子」の需要は、前述した市場規模の数字にほぼ比例しており、「現在は、2006〜2007年頃のピーク時に比べると10分の1以下ですね。ピークの頃は、SC(ショッピングセンター)への新規出店が非常に多く、ロードサイド店も業績が好調でしたので、1案件で1,000脚ぐらい売れるような案件もありましたし、たいへん忙しかったですね」とのこと。
 需要が激減した以上、在庫を常時たくさん抱えるのはリスキーなため、現在はすべて受注生産方式で、パーツ・部材類はそれぞれを製造する工場から仕入れたうえで、自社の椅子を組み立てる工場で生産してから販売しているそうだ。

 需要が減ったことで、部材を作る工場も昔に比べて減っているのかも伺ったところ、やはり今ではかなり少なくなったとのことだった。
 「以前に関連会社のほうで、椅子の鋼材を作る工場を調べたことがあるのですが、すごく減っているみたいですね。工場は昔から愛知県に多くあり、特にパイプを曲げて円形にする部材は、専用の工具を使って作るのですごく難しいそうです」(スタッフ談)とのこと。
 また、一時期とある工場で部材の価格が上がったため、久しく四角い四脚タイプの「ゲーセン椅子」の取り扱いをやめていた時期があったそうだ。

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光新星製の「ゲーセン椅子」。(商品名は「4つ脚シングル椅子」)
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「ゲーセン椅子」の座面用のカラーパレット。実はこれだけのバリエーションがあるのだ(光新星提供)

 さらに、同社スタッフから面白いかつ貴重なお話を教えていただいた。

「うちの大阪の工場では、生地の張り替えなどの修理もやっておりまして、以前は自社のものしか対応しなかったのですが、ご要望が多かったので4年ほど前から、ほかの所で作られた椅子もうちで修理を行っています」(スタッフ談)

 なんと、他社で購入した「ゲーセン椅子」の修理も対応していたのだ! 聞くところによると、海外製の安価な椅子を購入したゲーセンでは、1年ほどで溶接部分が外れてしまったり、座面の張り地が壊れてしまうので、「椅子を変えたい、修理をしたい」などという問い合わせを以前からよく受けていたという。
 また、中国で生産したものを輸入して販売する計画もあったが、利幅が小さいことがわかったため断念したそうだ。ちなみに、ゲーセン以外の店舗や、外国への需要も現状特にないとのことだった。

 では、今は昔ながらの角椅子に取って代わり、どんなタイプの椅子が人気なのだろうか?

「今は『セミダブル』と、シングル用では『エクセラ』という椅子が人気です。『セミダブル』は、最近よくあるカードゲーム用によく使われています」(スタッフ談)

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「セミダブルイス昇降式」
(画像は光新星 ゲームセンター様向け セミダブルイス昇降式より)
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「エクセラシングル椅子」
(画像は光新星 ゲームセンター様向け エクセラ シングル椅子 昇降なしより)

 さらにスタッフからは、アーケードゲーム筐体の構造的な理由から、これらの椅子が現在好まれる理由も説明していただいた。

 「カードゲームの筐体に、普通の『ダブル椅子』という2人掛けの椅子を置いておくと、椅子が大きいので出入りがしにくくなってしまうんです。でも、だからと言ってシングルタイプの椅子にしてしまうと、荷物を椅子の上に乗せたままゲームを遊ぶことができなくなってしまうんですね。
 そこで、1.5人掛けぐらいサイズでできないかということで考えて『セミダブル』を作りました。ですので、今は昔の四脚のものよりも『セミダブル』をおすすめしています。最近の筐体は、昔の椅子だと低過ぎて遊びにくいんですね。
 『セミダブル』はネジで高さを調節できるようになっていますので、お店でベストの状態にいつでも調整できます。それから『エクセラ』のほうですが、最近はメダルや麻雀ゲームなど長時間遊び続けるお客様が多いと聞いておりますので、12時間、13時間と座り続けても疲れないようにしっかり設計してあります」(スタッフ談)

 ピーク時とは比較にならないほど需要は激減してしまったが、今回の取材を通じて「ゲーセン椅子」の業者はまだまだ健在であり、今も進化を続けていることが改めてわかった。
 最後に、取材にご協力いただいた光新星のスタッフから、日頃ゲーセンで遊ぶ、みなさんへのご要望をいただいたのでご紹介しよう。

「ボタンの反応が遅いですとか、ゲームセンターにいらっしゃるお客様はいろいろ細かい部分まで気にされるようですね。もしよろしければ、その10分の1でも100分の1でも構いませんので、ぜひ椅子のほうにも目を向けていただければうれしいですね。
 例えば、座面に低反発の素材を使用したりですとか、我々のほうでもいろいろとできる部分があるのですが、お店のほうではそこまでお金を掛けるという発想があまりない印象があります。
 そこで、ぜひお客様のほうから『もっと座り心地の良い椅子が欲しい』ですとか、利便性に関するご意見をお店を通じて仰っていただけたらと思います。ご意見をいただけると、我々も開発の際のご参考になりますので」

 昔ながらの「ゲーセン椅子」も、「高さを調節できる機能を追加してほしい」「長時間座っても疲れない素材にしてほしい」など、みなさんからゲーセンを通じて要望を出せば、ひょっとしたら再び需要が復活する日がやってくるかもしれない。

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 「ゲームセンター」。1980年からスペースインベーダーの発展とともに広がっていった、アーケードゲーム機を配置する遊戯施設。一時のブームは過ぎ去り、いまではアミューズメント型の大型ゲームセンターや、マニアが楽しむような機種を配置した濃い溜まり場が中心となりつつある。

 しかし、これらの大型店やニッチ化にも当てはまらない“ただその町にあったゲームセンター”が、現在も閉店することなく運営され続けている。数少なくなったそれらの店舗は、いったいどのような人々の居場所となっているのだろうか?

 大阪市にあるゲームセンター「TVタウンゲームセンター POPEYE」(以下、ポパイ)に目を付けたのは、そんな理由からだ。

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