まだオープンワールドというゲームジャンルが存在しなかった時代、『シェンムー』はオブジェクトに過ぎなかったゲームキャラクターに日常という生命を吹き込み、単なる舞台装置としての実用性を超越したミラーワールドを構築した。
仮想世界によみがえった1980年代横須賀の風景は、自分が生まれた時代の追憶そのものだった。主人公への憧憬の念は、青春時代を歩む道標となった。しかし、その物語は未完のまま思い出として長い眠りにつく。
そして忘れもしない「E3 2015」の最中、およそ18年ぶりとなる続編『シェンムーIII』のクラウドファンディングが発表されてから、早くも4年が経つ。
もっとも短時間で100万ドルを集めたビデオゲームとしてギネス世界記録に認定された同作は、世界中のファンが見守る中で幾度かの発売延期を経て、いよいよ2019年11月19日に解き放たれる。旅路の途中で立ち止まったまま、大人になるまで静止していた時計が、再び動き始めるのだ。
そんな待望の発売日を前に、東京ゲームショウ2019にて『シェンムーIII』の体験版を試遊した。その後、『シェンムー』シリーズの生みの親である鈴木裕氏にインタビューを実施し、オープンワールドが主流になった現代に元祖オープンワールの新作を改めて作ることへの想いや、全11章からなる長編シナリオの行方と展望、新たなゲームエンジンを使ったゼロからの再スタートについて、時間の許す限りで話をうかがった。
取材、文、撮影/Ritsuko Kawai
体験版でよみがえる当時の記憶
『シェンムーIII』のデモ版は、物語の序盤で主人公の芭月涼(はづき・りょう)が桂林の白鹿村に到着して2日目からの開始。前作のDisc 4で出会いを果たした夢の少女、玲莎花(レイ・シェンファ)とは別行動で、「顔に傷のある胴元」という人物を探し出すまでを体験できた。
操作性やインターフェイスは、ドリームキャストの『シェンムー』と『シェンムーII』の頃とほぼ同じ。コントローラーを握った途端に手元は20年前の感覚に戻っていた。
誰にでも話しかけて、こまめに手がかりをメモ帳に記録する涼さん。気がつけばガチャガチャの前にしゃがみ込み、ひたすら景品を四次元の尻ポケットに突っ込む涼さん。それは初代シェンムーの体験版で、湯川専務を追い求めて横須賀の街を駆け回った当時の感覚そのものだった。
「顔に傷のある胴元」を探すことなど後回しだ。見つけてしまったら、十中八九そこで体験版は終わってしまう。その前に絶対確認しておかなければならないことがある。そう、ギャンブルだ。案の定、村の一角にはお馴染みの遊技場が設けられていて、落とし玉やサイコロ賭博が楽しめる。これこそ『シェンムーII』で愛用した芭月流金策法だ。今作では、『シェンムーII』で隠しイベントとして収録されていたアヒルレースならぬ、亀レースも遊べる。
こうしたギャンブルの沼に序盤から足を突っ込めるとなると、今作では涼さんの資金繰りはかなり楽になりそうだ。茶碗の中でサイコロが奏でる音色を聞くと、早速オールインしたくなってしまう。『シェンムーII』では、チンチロリンで大穴を当てて骨董屋で技書を大人買いするのが定石だった。ちなみに、初代『シェンムー』の頃は、稲さんから毎朝もらえる500円のお小遣いと、フォークリフトのアルバイトだけでやり繰りするしかなかった。
涼さんが食事をすることの重み
涼さんの賭博伝説は別の機会に話すとして、『シェンムーIII』ではついに涼さんが食事できるようになった。過去作ではコンビニでツナ缶や魚の切り身、駄菓子屋でポテチやキャラメルなどが買えたが、それらは恵ちゃんが神社で飼っている子猫の餌だったり、スピードくじの引換券だったり、観賞用アイテムにほかならなかった。
涼さんは自販機でコカコーラや缶コーヒーを一気飲みする以外では、ほとんど何も口にしたことがない。それが今作からは、バナナや黒ニンニクといった栄養価の高そうなアイテムの数々を実際に食べられるのだ。
食べ物はインベントリから使用することで、後述する散打や路上の喧嘩で消耗した涼さんの体力をもりもり回復してくれる。昔は戦闘が終わった途端に全快していた涼さんの体調が、今作では治らない。しかも体力が減ったまま放っておくと、やがて走れなくなってしまう。
果物や野菜といった食べ物は、路傍の無人市や村の商店で購入できる。いつ何時悪漢に襲われてもいいように、涼さんの尻ポケットを食い物でいっぱいにしておいた方がよさそうだ。
涼さんが店で服を買うことの重み
商店といえば、過去作にもコンビニ、駄菓子屋、質屋、骨董品店はあったが、コンビニはジークンドー女子高生と手合わせする目的以外はほぼくじ引き専用で、駄菓子屋も同様。質屋はガチャガチャの景品をセットで売れる場所、骨董品店は新たなスキルを習得するために高価な技書を購入する場所だった。『シェンムーIII』の商店では、前述した食べ物はもちろん、技書や衣装、漢方薬、置物など、何でも購入できる。
特筆すべきは、衣装が買える点だ。実家のタンスには真っ白なTシャツだけがぎっしりと敷き詰められ、香港へ旅立った後も一度だって着替えたことなんてなかった涼さんが、店で服を買えるのだ。無骨さだけに終わらない涼さんの新たな魅力を発見できそうだ。
商店では、ガチャガチャの景品に加えて、自然豊かな桂林が舞台ともあって自分で集めた生薬を売ることも可能だ。今作では、フィールドに生えているキノコや薬草といった生薬をピッキングできる。それらを集めて特定の組み合わせを完成させれば、セットに応じた価格で販売できるというわけだ。
この新要素は、ギャンブル以外の金策方法として大いに活用できそうだ。また、商店では薪割りのアルバイトもできるので、ギャンブルの軍資金を稼ぐ方法はいくらでもある。
格闘ゲームとRPGを融合したバトルモード
最後に、散打と木人、功夫といったバトル要素について記したい。散打とは、中国武術におけるスパーリングや組手を指す。これまでの作品では、実家の道場や公園、駐車場、倉庫などで技を練習して熟練度を上げられた。
今作では中国武術の猛者を相手に散打を行うことで、涼さんの体力や攻撃力を底上げできる。また、馬歩や寸拳といった木人を使って、ミニゲーム形式で鍛錬することも可能。功夫は実戦練習。ガチのバトルだ。
散打では体力を消耗せず、制限時間内であればやられることを気にせず技のコマンド入力を練習できる。しかも、指定した技のコマンドがQTEで発生するので、すばやく正確に入力することで熟練度がぐんぐん上がっていく。
ちなみに、今作では「裡門頂肘」や「外門頂肘」、「竜巻キック」といった強力な技を短縮コマンドにセットすることで、ボタンひとつで繰り出せるシステムが導入されている。功夫では、試合に勝つごとに自分の段位が上がっていき、より強い相手と手合わせできる。
バトルモードで特筆すべきは、今作から導入されたガードゲージだ。『シェンムーIII』では過去作にあった捌きモーションがなくなり、一般的な格闘ゲームのようにガードできるようになった。ガード中はダメージを受けないが、ガードゲージを消費する。当然ながら、これがなくなると攻撃を防げずボコボコにされる。ゲージは時間経過で回復する。
投げ技や関節技がなくなった喪失感
このように、『シェンムーIII』ではバトルモードがより格闘ゲームに近いデザインになり、涼さんの育成要素が加わったことでキャラクタービルドの色が濃くなった印象を受けた。ただ、筆者が唯一心を痛めたのは、芭月流柔術特有の投げ技や関節技がすべてカットされている点だ。
涼さんのサンドバッグとも言える福さんを苦しめた禁じ手「裏芭月」をはじめ、一本背負いから自分もろとも空中回転して相手を地面に叩きつける超危険技「羅刹落し」、掴みから肘打ち・肩の逆関節・ジャンプ腕ひしぎ十字固めへとつなげる芸術的なサブミッションのコンビネーション「朧無双」が再び拝めないのは、心の底から残念でならない。鈴木裕氏へのインタビューでは、その点についても触れている。
『シェンムー』の生みの親、鈴木裕氏に聞きたかった5つのこと
鈴木裕氏は、『ハングオン』や『スペースハリアー』をはじめ、世界初の体感型アーケードゲームを生み出してきたゲーム業界のパイオニア。その後、同じく世界初の3Dポリゴン格闘ゲーム『バーチャファイター』シリーズでも大ヒットを記録し、社会現象といえるほど大きな反響を呼んだ。
筆者は、鈴木氏が作ったエンターテイメントをゆりかごに育った世代だ。いわば父親のような存在。そんな鈴木氏に、大きく分けて5つの質問をした。
──『シェンムー』はオープンワールドゲームの先駆けとして、その後のゲーム業界に大きな影響を与えたと言われています。オープンワールドというゲームデザインが業界のメインストリームとなったいま、逆に『シェンムーIII』がオープンワールド文化から影響を受けている要素はあるのでしょうか。
鈴木裕氏(以下、鈴木):
『シェンムー』を開発した頃は、自由度の高い遊びを提供する上で適切なジャンルがなかったので、FREE(Full Reactive Eyes Entertainmentの略、通称フリー)と呼んでいました。
その後にオープンワールドという言葉が生まれて、お金がかかるゲームの代名詞のような存在になりました。オープンワールドは広い世界を表現できるゲームデザインであることは間違いありませんが、広いからといってプレイヤーが完全に自由になれるわけではありません。
シェンムーに大切なのは、密度と自由度です。かつての『シェンムー』では、自分のやりたいことの半分もできていませんでした。私が作りたいのはオープンワールドではなくて、自由なゲームです。特にほかのゲームから影響を受けている部分というのはありません。
──世界中の『シェンムー』ファンが待ち望んだ続編ということで、私自身を含めて過去作を遊び尽くしたプレイヤーは言葉にできないほどの喜びと期待にあふれています。一方で、『シェンムー』を知らない新たなユーザーに向けて訴求できる点はあるのでしょうか。
鈴木:
『シェンムーIII』はKickstarterから始まったプロジェクトなので、まずはバッカーのみなさんを第一に考えています。中には15年以上にわたって、「シェンムーの続編を作って欲しい」というお便りを毎年送り続けてくれたファンもいらっしゃいます。一方で、『シェンムー』のようなタイプのゲームをプレイしたことがない若い世代の人たちを意識した部分もあります。
当時と現在のゲームの大きな違いはゲームのテンポです。最近のゲームはジェットコースターのようにテンポよく進行していきます。『シェンムーIII』では、過去作にはなかった「ジャンプシステム」を導入することで、テンポよく遊びたい新世代のプレイヤーにも遊びやすくデザインしたつもりです。
それでも最近のゲームに比べたら、ずいぶんと鈍く感じるかもしれません。そういう意味では、近年のトレンドではないだろうけど、ゆったり遊べるゲームが好きな人もいるでしょうから、改めて世に出してみたいという気持ちがあります。デモ版を遊んでみていかがでしたか。45分間では全然足りなかったでしょう。
──そうですね。若干早足のプレイにはなりました。それでも古き良き時代のシェンムーファンとして、隅から隅まで堪能させていただきました。
その中で、涼さんのインベントリに過去作の中で撮られた思い出の写真の数々が、ちゃんと残されていることに気が付きました。その背景にある物語は、新規ユーザーにも伝わるような形になっているのでしょうか。
鈴木:
それ単体ではなっていません。『シェンムー』には無駄なものがたくさんあって、それが世界観を形作っています。たとえば、プレイヤーが開けられる机の引き出しはたくさんあるけど、特に何の役にも立たないものが入っていることも多いですよね。涼が持っている写真は、過去作を楽しんだ人が懐かしむために入れてあります。
──これまでの物語をダイジェストで体験できるような仕組みはあるのでしょうか。
鈴木:
もちろんそういった仕組みは入れてあります。今回の体験版ではカットしましたが、たとえば莎花との会話の中で、彼女が涼の故郷はどんな場所なのか、涼の友だちはどんな人たちなのかといった涼の過去について問いかけた時に、プレイヤーは涼の昔話から過去作における出来事や人間関係を自然な流れで理解できるようにはなっています。
涼さんは本当に復讐を果たして邪道に堕ちてしまうのか
──過去のTwitch配信の中で、鈴木さんは『シェンムー』の物語は『シェンムーIII』でも完結しないとおっしゃっていました。それは今でも変わらないのでしょうか。
鈴木:
そうなんですよね。『シェンムーIII』は発売日が決まっているので、今作では完全に終わりません。全然無理です。
──たしか『シェンムー 一章 横須賀』が発売された時点で、鈴木さんはシェンムーのシナリオについて、全11章で構成されているとおっしゃっていましたよね。さらに『シェンムーII』では二章をカットした上で、三章から六章までを部分的に収録したとか。
鈴木:
過去には16章の時代もありました。まとまった形になっているのは11章ですね。
──『シェンムーIII』を作った段階で、シナリオ全体の何パーセントくらいをゲームで描いているのでしょうか。
鈴木:
こういう話をしたことはないので、全体の何パーセントかと聞かれれば、どうでしょうね。たとえば、『シェンムー 一章 横須賀』のシナリオは40ページくらいの小説を基にしているのですが、ゲーム化した部分は4ページくらいです。そこから考えると、全体の10パーセントから15パーセントくらいでしょうか。
『シェンムー』シリーズは、原作のシナリオから自分がいくつかピックアップした部分をつなぎ合わせてゲームにしています。もし終わらせようと思ったら、後半の部分を持ってくるだけで終わったようには見えます。
──将来的にゲーム以外の媒体を含めた何らかの形で、涼さんの復讐の旅を終わらせる構想はあるのでしょうか。
鈴木:
新たなプロジェクトが始動しないことには終わらないでしょう。確かに終わらせるだけなら小説でも漫画でもアニメでも可能ですが、やっぱりゲームで表現したいという想いが強いので、やるとしたらゲームで終わらせる方法を考えます。
──その時を心待ちにしています。個人的には、涼さんが復讐の鬼として当初の目的を遂げて終わりという形ではなくて、藍帝の父親であった趙孫明と、彼を殺害したとされている自分の父親、芭月巌との因縁や過去をすべて受け入れた上で、親の仇である藍帝を赦す強さに目覚めるような、そんな結末を期待しています。
鈴木:
それについては何も言えないので、想像しておいてください。
──『シェンムー』を通して伝えようとしているメッセージとは何ですか。
鈴木:
一章の冒頭で涼の父・巌は、「愛すべき友を持て」という言葉を残して力尽きます。平たく言えば友情です。それはヒロインの莎花も含めて。最終的には、そういうメッセージを込めています。
──つまり親の仇である藍帝との間にも、戦友である貴章と同じような友情が生まれてもおかしくないかもしれませんね。そういう方向性で勝手に想像しておきます。
鈴木:
はい、そうしておいてください。
「シェンムーパスポート」の遺伝子は引き継がれているのか
──紆余曲折の末に未完の企画になってしまった『シェンムーオンライン』についてお聞かせください。当時は、PC向けのMMORPGを作るということで韓国にてベータテストまで実施されました。現在の『シェンムーIII』に該当する物語も描く予定だったのでしょうか。
鈴木:
いいえ。当時はまったく異なるものを作るつもりでした。
──逆に『シェンムーオンライン』で表現しようとしていた遊び方や、『シェンムー』の世界観を使ったオンライン要素は、『シェンムーIII』にも受け継がれているのでしょうか。
鈴木:
昔は「シェンムーパスポート」(ゲームソフトに同梱されていたドリームキャスト専用のパスポート・ディスク。インターネットを使ってランキングやアイテム交換、イベント告知など、さまざまなオンラインコンテンツにアクセスできた)を通してネットワーク機能を盛り込んでいましたが、今回は制作期間の都合もあってシングルプレイヤーのコンテンツにフォーカスしました。
──シェンムーパスポートに盛り込まれていたシェンムーワールドやミニゲームのネットワークランキング、みんなの広場、自己診断のような、本編とは直接関係ないオンライン要素もないということでしょうか。
鈴木:
ありません。将来的にネットワークランキングはやりたいという気持ちはありますけどね。現状ではYouTubeなんかで盛り上がってもらえればいいかなと思っています。
キャラクターモーションやバトルシステムはすべて作り直した
──鈴木さんが過去に手がけた『バーチャファイター2』では、中国拳法のモーションキャプチャーにキャラクターの性別にあわせた男女の老師をお呼びしたと聞いています。『シェンムー』でも、開門拳社の服部哲也さんがバトルモードのモーションキャプチャーと武術指導を担当していたと記憶しています。『シェンムーIII』では、そうした過去の技術やデータは継承されているのでしょうか。
鈴木:
昔の設定資料等は残っていますが、Unreal Engine 4の構造に合わせないといけないので、キャラクターのモーションはすべて作り直しました。『シェンムー』は『バーチャファイター』と『バーチャファイター2』のモーションをベースに作られていました。その技の数は500種類以上です。
さすがに全部をキャプチャーし直すのは難しいので、過去作にも登場した特徴的なものを150種類ほどピックアップして、『シェンムーIII』向けに撮り直しました。また、 今回は過去作でフォーカスしてきた八極拳の技はそれほど増やさず、新たに査拳や心意六合拳の専門家を監修に招いています。
──『シェンムーIII』を試遊して、投げ技や関節技といった掴みからのモーションが一切なくなっていることに気が付きました。これは伝統的な中国武術のみにフォーカスするために、あえてカットしたということなのでしょうか。
鈴木:
そういうわけではありません。芭月涼はもともと柔術の使い手なので、相手を掴んだり投げたりといったモーションは本来あって然るべきです。ただ、今回は開発における時間等の都合でカットせざるを得ませんでした。苦渋の決断です。
──『シェンムー』と『シェンムーII』はもちろん、英語音声版の『US Shenmue』も購入してやり込んだファンとして、私は芭月流柔術ならではの投げ技とサブミッションが一番のお気に入りでした。中でも「裏芭月」と「朧無双」が大好きでした。ぜひ「投げ技パック」のようなDLCで追加してください。期待しています。
鈴木:
ははは。やるなら『シェンムーIV』かなあ。その代わり、『シェンムーIII』のバトルシステムはRPGを意識している点が特徴です。まず、いろんな経路から技書を手に入れるところから始まって、それらを鍛えることで強くなっていきます。
この技書システムと経済システムがバランスよく設計されているので、プレイを続けていくうちに持ち味が出てくると思います。ぜひ最後まで遊んでみて、昔のバトルシステムと比較してみてください。
──試遊の際にも感じました。キャラクタービルドの要素を取り入れたということですね。
ちなみに「燕旋擺柳」のようなカウンター技もないのでしょうか。体験版をプレイしてみて、「外門頂肘」の仕様も少し変わっているように感じました。『シェンムーII』では、ラストシーンで突進してくる斗牛をぶっ飛ばした時のように、相手の攻撃を受け流してカウンターを浴びせる技でしたよね。そういう仕組み自体なくなったのでしょうか。
鈴木:
カウンター技をどう定義するかにもよりますが、腕を取って反撃するような演出はあります。ただ、基本的にバトルシステムはバーチャファイターをベースにした過去の『シェンムー』とは違うものなので、もしかしたら想像とは違ってくるかもしれません。
過去18年間で鈴木裕さん本人に一番聞きたかったこと
──最後に、個人的に18年間もっとも聞きたかった質問をさせてください。私は芭月涼に憧れて格闘技を学び、原崎望に憧れてカナダで青春時代を過ごしました。そんな私の人生は『シェンムー』でできていると思っています。
そして、子供の頃に遊んだ『シェンムーII』のクリアデータを、いつの日か『シェンムーIII』へ引き継ぐために、18年間ビジュアルメモリに大切に保管してきました。しかも、万全を期すために3つのビジュアルメモリにコピーしてあります。
このドリームキャスト版のクリアデータを何とかPC版『シェンムーIII』へ引き継ぐことはできないでしょうか。一生のお願いです。
鈴木:
それはちょっとごめん! 技術の発展とデータの継承はトレードオフです。それが足枷になって、新しいことに挑戦できなくなることもあり得ます。
もし『シェンムーIV』があったとしても、『シェンムーIII』のクリアデータを引き継げるかどうかすら保証できません。その時の新たな『シェンムー』では、バトルシステムをまたゼロから作り直すかもしれませんし。
──それではクリアデータはこのまま墓まで持っていきます。本日はどうもありがとうございました。
ライター/Ritsuko Kawai