毎年横浜で開かれていたCESA主催、ゲーム開発者向けの技術講演であるCEDECだが、今年はコロナウィルスの影響もあり初のオンライン開催となった。二日目である9月3日(木)に行われた「カービィUIでおもてなし!「ゲームとプレイヤーを繋ぐUI」を目指して」とセッションでは、今年で40周年を迎えるハル研究所のスペシャリスト UIアーティストである伊藤晴香氏とリードUIデザイナーの剣持紫氏のお二人による、デザインの中でも目立ちにくいUIという部分のゲームにおける重要性の高さと実際のデザイン手法の講演が行われた。
取材・文/rate-dat
講演内では5つのトピックで、「星のカービィ」シリーズが目指しているUIのあり方と、UIデザインの基礎、実際にシリーズでの事例を用いてどのようなUIデザインの手法をとっているのかの説明に加え、実際に開発に用いられている内製ツールの紹介が行われた。
最初のトピックでは、伊藤氏から「このUIは使いやすいのかを考えることがよいUIの近道」と考えていると評した上で、ゲームにおけるUIの立ち位置と役割は「プレイヤーとゲームを繋ぐこと」とまとめている。UIが優れていればスム-ズにユーザーを導くことができ、ゲームの世界に簡単に飛び込ませることが出来ると説明した。
そのため使いやすいUIとは「情報を上手く扱っている」ことが重要で、UIデザインとは情報を「扱い」「整理」する仕事とまとめられていた。
2番目のトピックでは「ゲーム全体の流れで考える」という項目では、仕様書から実際に作ったらゲームと合わなかったり、画面上で情報が埋もれてしまうという現場にありがちなハプニングに対し、全体の流れが見えていないことを挙げており、カービィチームでの実際の対処例と、どういった思考で対処しているかの説明がメインとなった。
カービィチームでは仕様書を前にしたとき「仕様を読み解き、ゲーム全体の流れで考える力」と前置きした上で、デザインを行う際にUIチームで仕様書を見た後、プランナーと打ち合わせをし、実際に使用されるシーンや他に表示される情報を考え、整理することで違和感のないUIやUIアニメーションも考えやすいと説明した上で、(実際に表示される)UIの外側に目を向け、前後のつながりやゲーム全体の流れに与える影響を考えることが大切だとまとめられていた。
3番目のトピックでは剣持氏から前述2つのトピックで話されていた機能の部分や、使いやすさと対極である「遊び」や「世界観に沿ったデザイン」のバランスの難しさに対しての実例の説明が行われた。
機能性を突き詰めるとシンプルになりがちである故、決まった法則に縛られない遊び心のあるデザインはやりすぎるとプレイヤーが見ているだけの過剰演出になるので、アート出身の剣持氏は「グラフィックを強化したいあまり、毎回さじ加減に悩む。」とも漏らしていた。
実際に遊び心のあるデザインとして「星のカービィ スターアライズ」の難易度選択を皮切りに、一見して違いが分かると視覚的に分かる工夫を行っている他、『カービィファイターズ』のようにハル研究所内ではグラフィックフォントと呼ばれるここぞという場面で用いられるリッチな選択メニューは、豊富なゲームモードを際立たせていることや、ユーザーを飽きさせずに末永く遊んで貰う工夫としてカービィシリーズではよく行われている手法として紹介された。
情報を正確に伝える大切さはUIデザインの根底にあると前置きしつつ、時には型に捕らわれない発想で作られたグラフィカルなUIは作品の魅力をダイレクトに伝える事ができる表現方法であるとまとめられていた。
4番目のトピックでは伝統と挑戦という前述のトピックを根底にした、近年のカービィシリーズの目指すUIの方向性が展開された。
伝統の部分では近年のカービィシリーズのUIのコンセプトは作品により違いはあれど、全て「あたたかさ」で統一することを心がけられている。これはキャラクターなどの見た目で「可愛い」と思われがちではあるが、シリーズは骨太のアクション作品が多いためゲーム性と世界観と乖離しないように気をつけていると説明された。
幅広い年齢層のプレーヤーが多いため、難しそうと思わせない工夫やコントラストの差をきつくしないなど、ユーザーを思いやる気持ちが「あたたかさ」のあるデザインであり、遊んでいただくユーザーへのおもてなしの心がUIチームでは伝統とされ、進化されてきたと評されていた。
反対に挑戦と銘打たれ、継承されてきた世界観だけでなく、時代の流行やゲームハードに応じたデザインの事例も紹介され、「星のカービィ トリプルデラックス」では制作当時ではタッチするデバイスが増えてきたこともあり、タッチの気持ちよさなどが求められたためiOS7以前のメインデザインなどに代表される「スキュアモーフィックデザイン」と呼ばれる一目見てボタンと分かるような質感の強いボタンデザインを行ったと説明が行われた。
また、『星のカービィ スターアライズ』ではHD機ならではの可愛くなりすぎないように苦心したフラットデザインやモーショングラフィック、どのような年齢層にも清潔に移る色使いやロード画面の工夫など、実際のゲーム画面の動画を用いて説明が行われた。
最後のトピックでは実際に開発で使用されている内製開発ツールの紹介のほか、ファイルの管理、デバッグROM段階でフォントの表示文字数をあらかじめ視認することで、ローカライズの手間を削減する事例が大きく紹介された。
また、本項目はカービィのUIデザインとは別軸の話ではあったが、「具体的で実践的な情報を伝えたい」という両氏のご厚意によりセッションの最後に設けられたもの。チームとして開発環境を改善した上で、よりよいUIデザインを行うためにもっと時間を費やしたいという思いがあるとまとめられていた。
最後に、UIはユーザーや開発者からもその仕事や細やかな気配りがあまり意識されることはなかったが、この講演で、UIの注目が高まることでUIの奥深さや重要性、開発者間の活発な情報のやりとりやUIの発展が行われることを望むと締められていた。
セッションの最後で行われた質疑応答では、「グラフィックフォントのローカライズもカービィチーム内で制作されている」と語られたときには会場チャットが大きくザワついたのが非常に印象的であった。