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「トラウマゲー」「任天堂らしくないゲーム」──『ファミコン探偵倶楽部』に込められた、鬼才・坂本賀勇氏の“音で空気を操る演出術”の原点

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 任天堂のゲーム。そのように聞かれて、あなたならどのようなものを想像するだろうか。

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 『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』『どうぶつの森』に象徴される、遊び心満載で、幅広い年齢層が楽しめるもの。それが真っ先に浮かぶかもしれない。
 「よい子の任天堂」などという言葉も脳裏に浮かぶだろうか。
 
 そんな任天堂のゲームの中で、非常にらしくなく、「トラウマゲー」とまで畏怖される作品が存在する。その名は『ファミコン探偵倶楽部』。1988年、ファミコンディスクシステム用ゲームソフトとして発売されたテキストアドベンチャーゲームだ。

 なぜ『ファミコン探偵倶楽部』は任天堂らしくないゲームなのか。
 ひとつに「遊び」よりもストーリーゲーム全体の流れを「味わう」ことに焦点を当てるゲームデザインを基本としていることが挙げられる。
 
 ふたつに本作は任天堂随一の”ニッチ傾向強め”なクリエイター、坂本賀勇(さかもと よしお)氏が原作、脚本、そして監督を務められた作品であること。坂本氏と言えば、代表作の『メトロイド』シリーズに象徴される通り、『マリオ』や『ゼルダ』などの任天堂のイメージとは真逆の雰囲気、魅力を持つ作品を多く手掛けている人物だ。

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坂本賀勇氏
Official GDC – originally posted to Flickr as Game Developers Conference 2010 – Day 3, CC 表示 2.0, リンクによる

  また、坂本氏が手掛けた『メトロイド』シリーズは、恐怖心を煽る演出が語り草になっている。突然部屋に閉じ込められてボスとの戦闘が始まる、主人公サムス・アランの分身が背後から彼の者が突然現れて迫ってくる展開がその象徴である。さらに無音にする、おどろおどろしい楽曲に切り替えるなど、音楽と効果音を巧みに活かし、場面に適した空気を作り上げることも、件の演出における大きな特徴になっている。

 恐怖心を煽る演出は『マリオ』、『ゼルダ』などにも一部存在するが、それらとは全く異なるプレイヤーの感情を大きく揺れ動かし、おどろおどろしい空気と共に実感させるもの。そんな演出術の始祖にして原点が『ファミコン探偵倶楽部』なのだ。

文/シェループ


ストーリーとゲームの流れを味わう”任天堂らしからぬゲーム”

 『ファミコン探偵倶楽部』は、1988年発売の第1作『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』、1989年発売の第2作『ファミコン探偵倶楽部PARTⅡ うしろに立つ少女』の計2作がファミコンディスクシステム向けに発売された。

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(画像はAmazon | ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者 前編【ファミコン ディスクシステム】 | ゲームソフトより)

 また、1998年には『うしろに立つ少女』のリメイク版がスーパーファミコンで発売。当時、コンビニエンスストア『ローソン』で展開されていたスーパーファミコンソフトの書き換えサービス『NINTENDO POWER(ニンテンドウパワー)』向けの新作として展開された。さらにその1年前、1997年には『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』なる新作が、スーパーファミコンの衛星データ受信サービス『サテラビュー』向けに配信されている。2021年現在、プレイ手段は皆無に等しいと言われる幻の作品である。

 本記事は『消えた後継者』と『うしろに立つ少女』に焦点を当てるため、『雪に消えた過去』についてはこれ以上詳しく掘り下げないが、豆知識として頭の片隅に入れておいていただければと思う。

 改めて2作の話題に移ろう。ゲーム内容は共に主人公の探偵助手の少年に扮し、用意されたコマンドを選びながら関係者への聞き込み、怪しい場所の調査を行いながら、ストーリーを進めていくテキストアドベンチャーである。

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 『消えた後継者』は、崖から転落して記憶喪失になってしまった探偵助手の主人公が、恐ろしい伝説が語り継がれる村で起きた、財閥当主の不審な死の真相に迫っていくストーリーが展開。

 続く『うしろに立つ少女』は『消えた後継者』から数年前、探偵助手として歩み始めた頃の主人公が遭遇した、とある女子高生の殺人事件と、彼女が通っていた学校で噂される怪談との関連に迫るストーリーが描かれる。

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 2作共通の特徴がストーリー、ゲームの流れを”味わう”ゲームデザインだ。複雑な謎解きなどのゲーム的な要素を抑え、ドラマや映画を鑑賞する感覚でストーリーとゲームの流れゆく様を楽しむ作りになっている。そのため難易度も低い。進行に行き詰まっても、コマンドを総当たりすれば必ずストーリーもゲームも進んでいく程度に”ゆるく”なっている。

 こうしたゲームデザインになった背景は、2003年に太田出版より刊行された「CONTINUE Vol.10」、124~144ページ掲載の坂本氏のインタビューに記載されている。

「当時のアドベンチャーはストイックすぎるというか、犯罪の痕跡をシラミ潰しに探して、情報が得られるまで迷うものでしたね。それだと、お話がボケるし、テンポも悪くなる。僕としては、ゲームの流れを楽しんでもらいたい。面白い部分を、ドラマチックに楽しめるほうがいいんじゃないかと思いまして。」

(『CONTINUE Vol.10』138ページより一部引用)

 また、Nintendo Switch向けのリメイク版が発表された「Nintendo Direct 2019.9.5」において坂本氏は、本作のことを「テキストアドベンチャーの仕組みを使った、インタラクティブな映画のような新しいゲーム」と称している。
 まさに「ゲームの枠組みでドラマを楽しむ」ような、挑戦的な試みだと言えるだろう。ストーリーよりもゲームシステムなど、遊びを重視する任天堂としては、非常に”らしくない”特徴を持つゲームになっている。
 実際にスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』の発売当時、その公式サイトにおいて開発者自ら(恐らく坂本氏と思われる)「任天堂らしからぬ」と言及している。

 そして、肝となるストーリーも任天堂らしくない。前述の通り、作中の根幹となるのは殺人事件。そこに恐ろしい伝承、怪談の噂が大きく関わってくる、サスペンスホラーとも称せる内容になっている。ゆえに登場人物が無残な死を遂げたり、怪奇的な出来事が起きるなど、思わずゾッとさせる展開が目立つ。

 

 サスペンスホラーなら、それらの存在も当たり前と言えるかもしれない。
 だが、『ファミコン探偵倶楽部』が「トラウマゲー」とまで畏怖されたのは、一連の出来事や展開を”空気”と共に紡いでプレイヤーの興味を惹きつけ、恐怖心を奮い立たせるよう作り込まれていたのが大きいだろう。

“ムード”、“間”、“伏線”、“コントラスト”を駆使し、空気を操る演出術

 その”空気”を生み出していたのが音楽、効果音と言った音響表現だ。

 伝承、噂にまつわる出来事でおどろおどろしい楽曲を流す、人が誰もいない場所では風、虫の鳴き声、時計の針と言った効果音だけを鳴り響かせるようにする。
 そのような場面に応じた空気、”ムード”を作ることを徹底しており、それが作中で起きる様々な出来事の印象を一層、強いものにしている。また、会話の流れに応じて楽曲を止める”間”を作り出す工夫も随所で徹底されている。それまで流れていた音楽が急に止まるからこそ、空気がピリッとし、「何かが起こるのでは!?」との緊張感が膨れ上がる。

 『ファミコン探偵倶楽部』の演出は、そういった状況に応じてプレイヤーの心を掴む技法に長けていた。また、このことがストーリーとゲームの流れを”味わう”ゲームデザインにもアクセントを与えている。

 前述の通り、本作は行き詰まっても、コマンドを総当たりすれば必ずストーリーが進む。裏を返せば単調な操作に終始する訳だが、空気が揺れ動き、それに応じた不気味な出来事が襲い来るため、段々とコマンドを選択するなどの行為にも恐怖による躊躇いが生じてくる。「選んだら何か起きるのでは?」「怖いものが見つかるのでは?」という具合にだ。実際、その期待(?)に応えるかのような仕掛けも用意されており、一度経験すればますます、進めることへの恐怖が募っていく。

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 さらにストーリーも波瀾万丈な展開が紡がれていく。事件の新事実判明、新しい関係者の登場はまだ序の口。調査が伝承と怪談の深部に迫るにつれ、姿の見えない”誰か”の動きが確かめられるなど、不気味で思いもしない展開が起きるようになって空気も張り詰め、緊張感が高まっていくのだ。
 その瞬間を狙って大きな事件が起きる。それも、プレイヤーの心が落ち着いた時を狙うかのように。
 
 こういった恐怖心をより大きくする、小さな”伏線”を散りばめる構成により、「進めやすいはずなのに怖い」という奇妙な手応えが表現されている。
 得体の知れない伝承、怪談の噂を背景にしているからこそ、その調査(ゲーム本編)が順調に進むゆえ、逆に「何か起きるかもしれない」との不安が募る。そして、その不安が間違いないものだと思わせる展開が起きたり、「もう何もないだろう……」と安心した瞬間、真の恐怖が襲いかかってくる

 そこに音楽と効果音など、音響表現が効果的に活用され、追い討ちをかける。 
 さらに当時のグラフィックの表現的な制約もそれらに貢献する。現場の風景や登場人物などのディティールは現代のゲームほど精微ではないが、それが逆にプレイヤー側に想像と補完の余地を残している。それが”得体の知れない気味悪さ”を生み出し、場面ごとの印象と怖さを倍増させるのである。

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 『ファミコン探偵倶楽部』がなぜ、「トラウマゲー」とまで畏怖されたのか。その理由にはこうしたプレイヤーの心を弄ぶ構成や、それを最大級に印象的なものにする音響表現を活かした演出の巧みさがあったのは、ほぼ間違いないものと言えるだろう。
 
 『ファミコン探偵倶楽部』で坂本氏が確立したこの演出術に関し、氏は2010年開催のGDC(Game Developers Conference)の基調講演において、“ムード”“間”“伏線”“コントラスト”と自ら言語化している。
 この特徴をより短くまとめるならば、「空気を操る演出術」と言えるだろうか。
 
 元々、坂本氏は音響表現に対して強いこだわりを持つ人物だ。たとえば『スーパーメトロイド』の時には、任天堂公式ガイドブック記載のインタビューで「ことばで物語を語るのは簡単なんです。でも、それでは空気は伝わりません。僕はゲームの空気は絶対サウンドだと思ってるんですよ。(※任天堂公式ガイドブック『スーパーメトロイド サムス・アランの2時間59分』95ページより一部引用)とのコメントを残しているほどだ。

 GDCの講演によれば、氏がそうした確信を得るに至ったのが『うしろに立つ少女』だったという。実際、『うしろに立つ少女』では『消えた後継者』よりも音響表現による恐怖を煽る演出が強化されており、スーパーファミコンのリメイク版ではサンプリング音声も用い、オリジナルのファミコンディスクシステム版をより洗練させた”空気”を作り出していた。
 
 坂本氏の代表作、『メトロイド』シリーズでもその経験は活かされている。取り分け、『ファミコン探偵倶楽部』で培われた経験が最も発揮されているのは2003年発売の『メトロイドフュージョン』だろう。

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 『メトロイドフュージョン』はシリーズで初めて、言葉によるストーリー表現を解禁した作品で、常に次の目的地が示されるナビゲーションシステムの存在もあって、シリーズ初心者にも遊びやすい作りになっている。

 そのため、『メトロイド』にしては珍しく探索で迷うことが少なく、比較的スムーズに進む……のだが。相応にその途上では沢山の障害が待ち受け、プレイヤーを翻弄する構成が敷かれている。それはまさしく『ファミコン探偵倶楽部』の”味わう”ゲームデザインとストーリーの流れを『メトロイド』流に踏襲したものと言える。

 加えて、作中では最強状態の主人公サムス・アランを模した強敵「SA-X」が見えない所から妨害工作を仕掛けてきたり、突然背後に現れて迫ってきたりなど、恐怖心を煽る要素と演出も多い。「SA-X」以外にも、エレベーターが急に停止するイベントや、会話の途中で音楽が無音になる演出もある。ますますもって『ファミコン探偵倶楽部』の面影がチラつく限りだ。

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 『メトロイドフュージョン』に限らず、坂本氏の携わった『メトロイド』シリーズには恐怖心を煽る演出、仕掛けが多い。それらの演出が確立された原点が『ファミコン探偵倶楽部』と思うと、メトロイドシリーズは遊んだことがあるけど、『ファミコン探偵倶楽部』は全く遊んだことはない、知らなかったという人も興味深く感じるかもしれない。
 
 ここまで「トラウマゲー」としての『ファミコン探偵倶楽部』の見所を触れてきたが、同作はテキストアドベンチャーとしても名作との呼び声が高い。特に常に緊張感とおどろおどろしい空気が保たれ続けるストーリーは2作共に長時間、釘付けになってしまう訴求力に秀でている。
 また、ただ怖いだけでなく、『消えた後継者』、『うしろに立つ少女』共に登場人物達の関係性に迫ったドラマは胸を打つものになっている。その詳細は言及しないが、見ればトラウマゲーであると同時に名作と言われる『ファミコン探偵倶楽部』の真骨頂を知ることになるだろう。
 
 そんな『ファミコン探偵倶楽部』だが、初代『消えた後継者』から数えて約30年ぶり、スーパーファミコンのリメイク版『うしろに立つ少女』からなら23年ぶりNintendo Switch用ゲームソフトとして復活を遂げることになった
 
 この寝耳に水がすぎる報せには、当時遊んだプレイヤーであれば大層驚いたことだろう。また、当時を知らない世代なら「これが任天堂のゲーム?」との思いを抱いたりしたかもしれない。

 当初は2020年の発売が予定されるも、諸事情で1年延期する形になってしまったが、Nintendo Switch版が初お披露目された「Nintendo Direct 2019.9.5」から1年半、満を持しての発売を迎える。

リメイク版は新作、幻の作品の復刻に繋がる”伏線”となるのか?

 Nintendo Switch版『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』は、「原作のテイストを損なうことなく、現代のアドベンチャーゲームとしてお楽しみいただける『ファミコン探偵倶楽部』(※「Nintendo Direct 2019.9.5」の坂本氏のコメントより一部引用)」とされている。

 それにちなんでグラフィック、音楽は現代の水準に改められ、さらに台詞の全てがフルボイス化される。また、発売日が報じられた2021年2月の「Nintendo Direct 2021.2.18」においては、主要な登場人物に留まらず、背景などにいるモブキャラクターたちにもアニメーションが付くことも明らかにされている。

 まさかの復活となった今回のNintendo Switch版だが、一番の注目は初リメイクとなる『消えた後継者』だろう。原作のディスクシステム版ではセリフ以外に影も形もなかった登場人物に立ち絵が追加されたり、写真を始めとする小物が具体的に描写されるなど、大幅なパワーアップを遂げていることが公式サイト、紹介映像などの情報から確かめられる。

 また、立ち絵の追加などはスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』でも行われていたもの。その路線を継承した23年越しの(リメイクとしての)続編というのも興味深い。

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(画像はファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女 紹介映像 – YouTubeより)

 原作では進め方次第では会えず、立ち絵もなかった「熊田医院」の看護婦。このようにリメイク版ではその姿が描かれる。(2枚目は紹介映像より引用)

 何より、『消えた後継者』は原作の坂本氏が「空気を操る演出術」を確立していない頃に誕生したものである。確立していなかったオリジナル版においても、『消えた後継者』の演出は大変おどろおどろしいものに仕上がっており、中でも殺人が発生した際に流れる楽曲、伝承が現実のものと疑われ始める頃より流れる曲の不気味さは語り草になっている。
 
 とはいえ、後発の『うしろに立つ少女』に比べると楽曲数は少なく、一部容量制限による苦肉の策も見られた。今回のNintendo Switch版は当時とは比べ物にならないほど容量が増えたので、その辺の強化が図られるのは確実だろう。
 実際、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』では複数の新曲が追加された経緯もあるので、オリジナル版以上にパワーアップした「空気を操る演出術」を楽しめるだろう。『うしろに立つ少女』で独自の演出術を得た今の坂本氏が手掛ける『消えた後継者』。見逃せない限りだ。

 プロモーションでも展開されている通り、フルボイス化も大きなトピックである。ボイスが採用されるのは幻の作品『雪に消えた過去』以来であると同時に、その『雪に消えた過去』でシリーズのヒロイン、橘あゆみを演じた声優の皆口裕子氏が本作でも続投されるのだ。当時を知る世代にとっては、これ以上なく嬉しいサービスと言えるだろう。
 
 また、かねてより自身が出演するラジオ番組などで『ファミコン探偵倶楽部』の新作を熱望していたことで知られる、杉田智和氏の参加も注目点だ。

 ちなみに筆者は主人公の探偵助手役である緒方恵美氏に注目している。緒方氏と言えば『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ役で知られるが、実はスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』には同作の小ネタ、繁華街のある店に「レイちゃん」「アスカちゃん」なる女性がいるとの場面があったのだ。今回、なんと「シンジくん」が登場してしまった訳だが、果たして件の場面はそのままなのか、あるいは現代のネタに置き換えられているのか。その場面での反応も含め、目が離せない限りだ。

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余談だが、オリジナルのディスクシステム版では別の人物の名が当てられている。

 だが、『うしろに立つ少女』に関してはフルボイス化に難色を示す当時のプレイヤーも多いだろう。なぜなら、『うしろに立つ少女』には『消えた後継者』には無かった、怖い話題に移行するとテキストを刻む効果音が変わり、緊迫した空気が作られる演出があったからだ。さらにボイスが無いからこその”驚き”を秘めた、とあるモブキャラクターも存在した。それもあって、ボイスの採用には否定的な声が出るのも無理はないだろう。
 実際、フルボイス化によってこれらは犠牲になっている可能性が疑われる。だが逆に、これをどのように補っているのか?そのように考えれば、良くも悪くも注目される部分だろう。

 かくして、久しぶりの復活を果たす任天堂らしからぬ名作にしてトラウマゲー『ファミコン探偵倶楽部』。令和の今、いかなる衝撃を当時の世代から、今の世代に遺すのか。オリジナル版当時より定評があり、後の『メトロイド』に引き継がれた演出術はどれほどの進化を遂げているのか。ここしばらく珍しい、任天堂らしからぬシックな雰囲気を持ち合わせた本作を楽しみ、その魅力を再確認してみよう。

 そして、このリメイク版発売をきっかけに、幻の『雪に消えた過去』の復活、並びに完全新作にまつわる展開が起きることに期待を寄せたいものである。

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著者
「トラウマゲー」「任天堂らしくないゲーム」──『ファミコン探偵倶楽部』に込められた、鬼才・坂本賀勇氏の“音で空気を操る演出術”の原点_014
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop

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