『モンスターハンター』といえば日本でその名を知らない人はほとんどいない超有名アクションゲームだ。そんな『モンハン』シリーズをJRPGの形に落とし込んだのが『モンスターハンターストーリーズ2 ~破滅の翼~』である。
しかし「落とし込む」とは言っても、それを実際に実現させるのは並大抵のことではない。本家『モンハン』のケレン味のあるハンティングアクションの魅力を、どうやってRPGの形にしたのだろうか。
『モンスターハンターストーリーズ2』が導き出したその答えは、「ジャンケン」だった。
それだけ聞くと不審に思われるかもしれないが、「痛すぎる被ダメージ」や「どのモンスターも中ボスぐらいの強さを誇る」といったさまざまな要素が複雑に絡み合うことで、本作は「確実に勝てるジャンケン」とでも呼べるような斬新なバトルシステムを確立している。
確実に勝てるジャンケンなのに、毎回のバトルで「頭を使って勝つ」プレイを要求されるという、非常に面白いバランスとなっているのである。
本稿ではそんな『モンスターハンターストーリーズ2』の魅力を、バトルシステムに焦点を当てて紹介していこう。
「確実に勝てるジャンケン」なのになぜ面白い!?
前述したように、『モンスターハンターストーリーズ2 ~破滅の翼~』(以下、『MHストーリーズ2』)のバトルシステムは、簡単に言ってしまえば「ジャンケン」そのものだ。
ただし、コツさえつかめば「確実に勝てるジャンケン」になっているのが本作の最大の特徴であり、最も面白いところである。
なぜ確実に勝てるのかというと、本作では基本的に「相手モンスターは同じ手を出し続ける」という仕様になっているからだ。たとえば相手モンスターが初手にパワーで攻撃したなら、その後も確実にパワー攻撃を出し続ける。
バトル中にモンスターが怒ったり状態が変化したりすれば、繰り出す攻撃のタイプも変わるが、基本的にはモンスターが一度出した手を覚えさえすれば、判断をミスしない限りは確実にジャンケンに勝ち続けることが可能である。
ただし、「確実に勝てる」とはいっても一筋縄ではいかない。
プレイヤーが選択できるのは主人公の行動のみで、バトルに参加するオトモン(仲間モンスター)は自動で攻撃対象と攻撃タイプを選択する。そのため、オトモンは常に同じ手を出し続けるわけではないので、オトモンそれぞれの性格を加味してパーティを組む必要があるのだ。
それに加えて、「攻撃対象」の存在がより戦略性を引き立てる。
たとえば、このバトルでは相手モンスターの「ルドロス」とオトモンの「ドスファンゴ」の間に青い線が結ばれているが、これは互いに互いを攻撃対象として選んでいる「真っ向勝負」が発生していることを意味する。このときに初めて、前述したジャンケン勝負が行われることになる。
さて、もう片方の「ロアルドロス」には青い線が発生していない。このとき、ロアルドロスが取りうる行動は以下の3つだ。
1.「スキルを使って全体攻撃をしようとしている。」
2.「パワーをためる、味方を回復するなど攻撃以外のスキルを使おうとしている。」
3.「ドスファンゴを攻撃対象として、パワー・テクニック・スピードのいずれかの攻撃をしようとしている。」
プレイヤーが攻撃対象として狙われている場合は、モンスターとプレイヤーの間にオレンジ色の線が発生する。ただし、オトモンが狙われているかどうかは青い線の「真っ向勝負」が発生しているときしかわからない。
つまり、この状況ではドスファンゴがロアルドロスに狙われているかどうかはわからないのだ。もしロアルドロスがパワーに強いスピード攻撃を仕掛けていたら、ドスファンゴは大ダメージを負ってしまう。
このバトルでは相手モンスターと初めて遭遇したときだったため、繰り出す手が表示されていないが、一度モンスターと戦えば次にどの手を出すかはわかるようになる。こうして、少しずつ「確実に勝てるジャンケン」を組み立てていくのが本作の基本的な戦い方となる。
ジャンケンと一口に言っても、ただ運に任せて当てずっぽうを続けるのは面白くないし、かといって考える余地が全くないジャンケンも退屈だ。しかし、本作ではその塩梅を上手くコントロールすることに成功していると言えるだろう。
前作『モンスターハンターストーリーズ』のバトルシステムもジャンケンだったのだが、この「モンスターが同じ手を出し続ける」という仕様は本作から導入されたものだ。ジャンケンから運という「揺らぎ」を無くすことは、自身の予測や判断が「運に裏切られる」という事態を無くすことでもある。
一見ジャンケン本来の魅力を損なっているようにも見えるが、遊んでみればそれがいかに杞憂であるかが分かるはずだ。そこにはえもしれぬ爽快感があり、全ての攻撃を回避しながらモンスターを討伐する「プロハン」的な感覚をRPGで体験できるようになっている。
「痛すぎる被ダメ」が生む守りの駆け引き
それでも「確実に勝てるジャンケンなんてヌルゲーなんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれない。
しかし、このゲームに関してはまったくそうではない。なぜなら、モンスターの攻撃一発一発が尋常でないくらい「痛すぎる」からだ。バトルでの被ダメがあまりに痛すぎるため、プレイヤーは毎回「確実に勝てるジャンケン」をどう組み立てるかを考える必要がある。
つまり、本作のバランスは、「確実に勝てるジャンケン」だからこそ、ジャンケンに勝つことを前提として作られているのだ。
先ほど例に挙げたバトルの結果を見てみよう。
プレイヤーはパワー攻撃を選んで攻撃対象にルドロスを選択。バトルが始まると、ロアルドロスはドスファンゴを狙ってパワー攻撃を繰り出してきた。
そしてドスファンゴとルドロスの真っ向勝負の結果はというと……。
あいこ。共に痛み分けとなった。
ここでドスファンゴの体力に注目してほしい。なんと、ロアルドロスのパワー攻撃一発とルドロスのパワー攻撃一発だけで、「あいこ」にも関わらず半分も体力が削れる結果となってしまった。もしルドロスとの真っ向勝負で負けていたら……と思うと恐ろしい。
この結果を見ればわかるとおり、本作のダメージは一発一発がとてつもなく大きい。例に挙げたルドロス・ロアルドロスはいわゆる「ザコ敵」に相当するのだが、体感としては普通のRPGでの「中ボス」並みの強さに感じられるのだ。
威力の高いスキルを使ってど派手に殴り合うバトルも魅力的だが、このゲームにおいては「火力に頼ってゴリ押し」を試みるのは悪手でしかない。
バトルを制するには、まず「守り」の意識を徹底することが求められる。
そこで重要になってくるのが、「ダブルアクション」と「絆技」だ。
ダブルアクションとは、要するに「2人以上でジャンケンに勝つこと」だ。オトモンとライダーが同じ対象を選んだ上で真っ向勝負に勝つと、相手の攻撃をキャンセルし一方的にダメージを与えられる。
もうひとつの「絆技」は、起死回生の必殺技である。オトモンとの絆ゲージがマックスになると「ライド」というアクションが行えるようになり、ライダーの体力が全回復、オトモンの体力もライド時点でのライダーの体力分だけ回復する。
これだけでも破格の性能を持つライド状態だが、このライド状態のときにのみ撃てる「絆技」を使うと、絆技の攻撃対象になったモンスターは全ての行動がキャンセルされる。絆技が全体攻撃となるオトモンであれば、無条件に相手の行動を1ターンスキップできるため、不利な戦況もひっくり返すこともできる。
この相手モンスターの理不尽とも言えるダメージは、プレイヤーに「頭を使って勝つ」ことを否応なしに要求してくる。
そしてこれこそが、『MHストーリーズ2』の面白さのエッセンスだ。
モンスターを入れ替え、武器を入れ替え、最適解を導いてもなお防ぎきれないダメージ。そこで気づく「絆技」の素晴らしさ。
各モンスターそれぞれに存在する絆技の演出は、緊張感漂うバトルの中である種清涼剤のような役割を果たしており、ライド状態や絆技自体の性能も相まって、プレイヤーに「いける!」という高揚感を与えてくれるのだ。
これは正真正銘の「JRPG」だ
私はいわゆる「脳死で勝てる」ようなバトルが苦手だ。ただ攻撃コマンドを連打するだけで倒せてしまうバトルは、どうしてもある種の「作業感」を感じてしまうからだ。
しかし、このゲームにおいては、無意味なバトルや「ザコ敵」は存在せず、適当に攻撃ボタンを押せば勝てるということは絶対に起きない。
「JRPG」的なターン制バトルの本質的な面白さとは、本作が示して見せたように、やはりこうして「いかにプレイヤーに頭を使わせるか」という部分にあるのではないかと思う。その点においては『MHストーリーズ2』は、私にとってはまさに理想の「JRPG」と呼べる作品だった。
さらに、本作はバトルに関するインターフェイスもきちんとモダンに仕上がっている。バトルスピードは最大3倍速にまで調節できるほか、『マザー2』で弱い敵と戦闘画面に入るときのように、一瞬でバトルを終わらせることができる「一掃攻撃」というシステムまで搭載されている。
これらは「クリア後に使うことができる」というものではなく、シナリオ中どこでも、ラスボス戦ですら使用可能だ。こうして格下相手とのバトルやレベル上げ作業などのストレスを軽減してくれる気配りのおかげで、ひとつひとつのバトルの重みが大きいにも関わらず、とても遊びやすくなっているところも本作の大きな魅力のひとつだ。
『MHストーリーズ2』は一見クラシカルなRPGに見えても、そこには今まで見たことのない要素が随所に散りばめられている。この『モンハン』だからこそできた革新的な「JRPG」を、ぜひとも一度味わってみてほしい。