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ゾンビに噛まれ死にゆく母親が、息子に生きる術を教えるゾンビサバイバルゲーム『UNDYING』先行アクセス版レビュー。リアルタイム進行により、“残された時間”への没入感が否応なしに味わえる

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 ゾンビの怖さとは、何だろうか。

 見た目の、腐敗した肉の醜悪さだろうか。それとも、恐ろしいほどの数で押し寄せてくるイメージか。身体の一部を破壊しても、容易には止まらない不気味さだろうか。
 それらもおそらく怖さのひとつだ。しかし筆者の考えでは、『ゾンビは「人」が姿を変えたものである』という事実こそが、ゾンビの怖ろしさを決定づけているように思える。
 身近な人間が、あるいは自分が、あの醜悪な姿になってしまうことを想像すると、とてもおぞましいものがある。
 かくいう筆者は小さいころ、そのようなイメージにつきまとわれたために、ゾンビ物を極端に恐れていた時期があった。

 本稿で紹介するゾンビサバイバルゲーム『UNDYING』におけるもっとも重要な点は、操作キャラクターである母親・「アンリン」すでにゾンビに噛まれてしまっているということだ。ゲームの中で感染は否応なしに進行していき、おそらくいずれは彼女もゾンビとなってしまう。
 そんな一見すると絶望的な状況下で、彼女は命よりも大切な息子の「コーディ」とともに生き延び、そして完全にゾンビとなってしまう前に、この世界で生きる術を彼に授けなければならない。
 本作は『バイオハザード』のようにゾンビとその元凶を打ち砕く話でもなければ、『The Last of Us』のように人類の希望の可能性を守る物語でもない。「ただ生き残りたい」という願いを抱いた、どこにでもいる親子の最後の日々を描く作品なのだ。

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 最初にことわっておくが、この物語の結末は本稿執筆時点ではまだ明らかにされていない。本作は2021年10月にアルファ版がリリースされたばかりで、プレイできるのはゲーム内時間で30日間。製品版では60日間でストーリーのすべてが描かれるとのことなので、後半をプレイできるのはまだ先のことになる。
 また、記事執筆時点では日本語化も完全とはいえないため、手ばなしでおすすめしやすいタイトルではない。しかし「親子」「ゾンビ」、ふたつの要素をあわせてしっかりとゲームとしての形を整えつつ、真正面から重いテーマに向き合う姿勢には、かなりのポテンシャルを感じた。

 なお、本作は現在進行形で細かなアップデートが行われているため、バージョンの違いによって筆者のプレイ体験と異なる場合もあるかと思われるが、その点についてはどうかご容赦願いたい。

文/久田晴
編集/実存


二重の意味で繰り広げられる時間との戦い

 『UNDYING』のゲームプレイは、マップやインベントリを開いている時を除いて、ほぼリアルタイムで進行していく。一日は朝の8時から始まり、遅くても午前1時くらいまでには眠りにつかないと、アンリンの身体が限界を迎えてしまう。
 ゲーム全体を通してリアルタイム進行、というと急かされるようで負担に感じる方もいるかもしれない。確かに、時間に追われながら少しでも効率よくプレイしようと思ってしまうのは、精神的に疲れる部分ではある。だが『UNDYING』においては、この仕様は間違いなくベストなチョイスだ。
 
 それがシビアかどうかに関わらず、「時間制限がある」という事実と刻一刻と進んでいく時計のカウンターは、プレイヤーを焦らせる。その焦燥は、自分の命の限界を感じつつあるアンリンの焦りにリンクしていく。1歩のロスを惜しみ、1時間の無駄を嘆くとき、プレイヤーの心理はアンリンに近づいている。リアルタイム進行システムは『UNDYING』が持つ没入感の鍵であることは間違いない。
 さらに、この「焦燥」のリンクを加速させるシステムがいくつか本作には組み込まれている。そのひとつが、ゲーム開始からある程度の日数が経過するとアンリンの体に表れる「症状」の存在だ。

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蝕まれていく身体を意識づける意味でも重要なシステムだ

 ゲーム上では、毎朝起きた時点で3つの「症状」が提示され、そのうちからひとつを選んでいくことになる。「糖欠乏症」「胃潰瘍」「寒冷過敏症」といったそれぞれの症状にはさまざまなメリットとデメリットが付随しており、「36時間」など一定の時間で継続する。
 マップ間の移動に制限がかかったり、水分や食事の消費量が増えたり、単純に被ダメージ量が増えたり、デメリットの効果はさまざまだ。逆にメリットにも、バックパックのスロットが増えるなど効果的なものがいくつもある。
 これらのメリット・デメリット効果はおそらくランダムに選択されているため、提示された3つの症状の効果をよく考えて、戦略を練ることが大切だ。
 さらに、後半になると症状の数は毎朝ふたつに増えてしまう。日を追うごとに継続時間も伸びていくため、徐々にアンリンのステータス画面は病気で埋まっていくことになる。
 
 なお、一部の回復アイテムによって症状を消し去ることも可能。とはいっても、毎日ひとつ、ふたつと増えていく症状を消し続けるという選択肢は現実的ではない。ある程度はデメリットを受け入れながらサバイバルをこなす必要があるのだ。
 レベルのような概念はないため、実質的には症状のメリットでアンリンを強化していくようなイメージだ。毎夜発作に苦しみ、朝には新たな苦痛を受け入れ、それでも生き続ける彼女の姿には感じさせられるものがある。

 また、ゲーム後半ではより重大な「決断」を迫られることになる。「決断」は「症状」と異なり、一度決めたら取り消すことはできない
 より凶暴に、理性を失ったゾンビに近づくか、限界まで人間らしく平静を保つのか。『UNDYING』は単なるゲームシステムを超えた圧力を持って、プレイヤーに判断を委ねる

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明解で洗練されたサバイバルシステム

 本作はサバイバルゲーム、その名の通り「生き延びる」ゲームであるが、そのハードルはそれほど高くない。管理すべきステータスはHP食料水分の3つに集約されており、どれも対応するアイテムで回復していく。

 水はマップ各地に存在する貯水槽などの採取ポイントで獲得できるほか、自宅の水道を修理することでもいくらか得られるようになる。外で採取した水は汚れており、自宅の調理場で加熱することで清潔にするというシンプルな仕様だ。
 外で手に入る水は入手するたびに減っていくが、雨の日に水量が回復する。無意味に取りすぎなければ致命的な水不足に陥ることは少ないだろう。
 ポイントとなるのは、汚れた状態の水にもいくつかの用途が用意されていること。そして清浄な水と違って劣化しないことから、あえて汚水を持ち歩いてみるのも面白いかもしれない。

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採取場所の残りの水量はゲージで表示される

 食料も基本的には外部で調達することになるが、水と違い種類がとても豊富だ。キノコウサギの肉のようなワイルドな食材から、缶詰などの加工食品まで手に入れることができる。
 ゲットした食材は家で調理することで効率的に栄養補給が可能。この際、どんな食材を混ぜ合わせてもできる料理は同じで、入れた素材の量と種類で完成品の量が変化することになる。
 また、エナジードリンクなど料理できない食べ物も登場する。効果も優秀で劣化もしないため、大切にとっておくのもよし、インベントリを圧迫しないよう使ってしまうのもひとつの手だ。
 食品と水分はどちらも時間で劣化していき、腐ってしまうと回復量が減り、HPにダメージを受けるようになってしまう。冷蔵庫で保管することで鮮度を保ちつつ、料理や食べるタイミングを考えて効率よく生き延びよう。

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コーディの飢えや渇きは吹き出しで伝えられる

 これら必須の物資とクラフトや家具の強化に必要な素材を集めつつ、各所でおこるイベントに対処していくことでストーリーは進行する。行けるロケーションはゲームの進行とともに増えていくが、マップごとに探索の程度が表示されるので訪れるべき場所は比較的わかりやすい。
 また、重量の概念がなくバックパックのスロットが持てる荷物を左右するので、こちらは早めに強化しておくといいだろう。くわえて、コーディを連れ歩くことでも持てる荷物の総量は増加する。

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アルファ版の段階でこの程度までは拡張できる

 マップ探索中にはゾンビとの戦闘も発生するが、こちらは比較的難易度をおさえたものになっていると感じた。一般的なサイズのゾンビならば、打撃で大きくひるむので連続して攻撃するのもたやすい。
 ただし、何の武器も持っていない素手の状態では攻撃することさえできないので、外に出る際はしっかりと武装しておこう。

 特に優秀なツールとして、木の伐採ができる「斧」が挙げられる。マップで木材を効率的に収集しつつ、ほどほどに火力を出せる武器としても運用できるので、バックパックのスロットを節約できる。
 また、筆者が見た中では唯一の銃器であるハンドガンもさすがの高性能。薬莢とガンパウダーで弾薬をクラフトできるが、こちらは家の作業台ではなく特定の場所の設備を必要とする。

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アンリンの戦闘力はなかなかに高い

 武器にはそれぞれ攻撃回数が耐久度として設定され、壊れてしまうと攻撃が行えなくなる。修理は分解を行える台を1段階強化することでできるようになり、残り耐久値に応じた素材が要求される。探索に出る前にはできるだけ耐久に余裕を持たせておきたい。

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作業台をアップグレードすると分解にくわえて修理や強化もできるように

 また、しゃがんでステルスモードに切り替えることでゾンビとの戦闘を避けることも可能だ。画面中央上部に表示されるインジケーターに注意し、発見されないよう動き回ることができる。ただし、ステルスモードのままではアイテムの回収ができないため、結局資源を得るには戦った方が早いことが多い。
 ステルスモードの有効活用としては、距離を取ってからしゃがみ、追跡を切りながらゾンビを1体ずつおびき寄せるという運用が非常に心強い。複数を同時に相手するとコーディに被害が及びやすいので、時間に余裕さえあれば各個撃破を心がけると回復アイテムの節約にもなる

息子「コーディ」の成長していく姿

 『UNDYING』において育てるのは主人公たるアンリンではなく、息子のコーディだ。最初こそゾンビに狙われるたびに怯えすくみ、自分ひとりでは何もできないような存在だが、成長するにつれて非常に頼もしい息子へと変化していく。
 コーディを育てるには、いろいろなことを「彼自身」にやらせることが重要だ。コーディのスキルは収集クラフト戦闘の3種類に分かれており、アクションによって経験値がたまっていく。また、自分が収集やクラフト、戦闘を行う姿を見せることでも成長する。
 育てていくと自分では見つけられないアイテムを発見したり、分解の際に追加でアイテムを入手してくれるなど、サバイバルの効率を大きく向上させてくれる。

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釣りをするコーディ。魚が釣れるとは限らない

 残念ながら、アルファ版の段階ではスキルの最終段階にはロックがかかっており、コーディの能力を最大限まで育てることはできない。しかし、序盤に苦労しながらも彼を連れまわすことは決して無駄にはならない

 もちろん、時には彼を守るために探索を途中であきらめたり、自分が攻撃を受けなければならないこともあるが、成長した彼はそれ以上のものを与えてくれる。

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多くの部分で「コーディィ」になっているのはご愛嬌

 ゲーム各所ではコーディとの触れ合いも楽しめる。自宅のソファでハーモニカを吹いたり、サバイバルに関する本を読んだりといったひと時は、まさに「親子」のあたたかい様子を眺めることができる。家から1歩外に出れば絶望的な状況下だからこそ、彼らふたりの時間の輝きが大きく増すのだろう。

 そのほかにも、コーディが初めて攻撃を受けたときや、目も当てられない凄惨な現場に出くわしてしまったときなどでも会話イベントが発生することがある。
 ゲーム的には正しい選択肢を選び、彼を落ち着かせるポイントなのだが、やはり本作の残酷な世界を年端も行かない子どもに見せつけるのは心が痛む。プレイヤーが「親」の立場なこともあり、なんともやるせない気分を味わうことになる。

 筆者がもっとも心苦しくなったのは、先へ進むためにゾンビではない人間を殺さなくてはならなくなったシーンだ。
 もちろん気まぐれや暇つぶしに殺したわけではない。あちらも武装していて、攻撃を仕掛けてきたから戦い、殺した。しかし、息子の目の前で殺人を行ったことには変わりはない。コーディに「あの人たちはゾンビじゃないよ、ママ」と語りかけられたときの答えに詰まる感触は、何とも忘れがたいものだ。

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小さな子どもにはあまりに辛い現実がのしかかってくる

直感的なシステムが王道なストーリーに没入させてくれる作品

 このように『UNDYING』は「死にゆく母親と息子」という重いテーマをもつサバイバルゲームだが、システム的には非常に取っつきやすい。戦闘は基本的にクリックするだけで充分であり、ステルスもさほど難しくない。維持すべきステータスはHP、食料、水の3種類のみで、回復の方法も直感的だ。
 本作には目を見張るような、斬新な、独創的なシステムが盛り込まれているわけではない。しかし裏を返せば、誰でもプレイしやすいレベルでサバイバルゲームに求められるポイントを抑えているともいえる。物資のやりくりをしながら少しずつストーリーの進行を目指して探索の幅を広げていく感触は、確かな達成感を与えてくれる。

 もちろん、難点がないとは言えない。アルファ版ということもあり、イベントの数はさほど多くない。アイテムが密集していると拾いにくかったり、コーディが狭めの通路を通ろうとして引っかかるなど、部分部分で不満を感じることもあった。

 しかし、ともすればあまりにベタと思われそうな「ゾンビ」「親子」というテーマであるが、真正面からそれを描こうとしているスタンスがにじみ出ている作品であるのは間違いない。また、そのテーマに従い、しっかりとプレイヤーを引き込むゲーム作りができているところが、Steamレビューなどで好評を得ている理由なのだろう。
 『UNDYING』で描かれる物語はベタかもしれないが、それでも筆者は大いに価値を感じた。ベタも、丁寧に描かれればそれは王道と言って差し支えない。『UNDYING』は現在のところ、その言葉に従うだけのものを持っているというのが筆者の結論だ。

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ほんのわずかな優しい時間がとても輝く

 今は何よりも、「製品版をプレイしてエンディングが観たい」という気持ちでいっぱいだ。開発元のVanimalsが、アンリンとコーディの旅路の果てにどんな結末を用意するのか。我々プレイヤーは、最後にどんな思いを抱くことができるのか
 Steamストアページの記載によれば、本作のリリース時期は2022年の初頭を目標としているそうだ。この親子の行く末を見届けられる日が待ち遠しくてたまらない。

【プレゼントのお知らせ】

『UNDYING』Steam版コードを3名様にプレゼント!

ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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