「最初に触れた『ポケットモンスター』って何だった?」
この質問は、『ポケモン』世代のゲーマー同士の雑談ではよく出てくる話題だろう。
1999年生まれで今年22歳になる、いわゆるZ世代ど真ん中である筆者が最初に体験した『ポケモン』は、もちろん『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』(以下、ダイパ)だ。
ダイパ発売から1年後の2007年当時、筆者は小学2年生で、学童に預けられていたこどもだった。小学1年生から4年生までが混ざって遊ぶことが普通の学童では、学年間で触れる作品に違いが現れにくい。
特別にゲーム機の使用が許される夏休みには学年問わずダイパで対戦をしていたし、ダイパのアニメもしょっちゅう流れていた。
ゆえに、2007年〜2009年頃の千葉のあの学童で『ポケモン』と言えばダイパのことだったし、『ポケモン』というビッグコンテンツへの入り口も同じくダイパだった。その証拠に今でもアニメ主題歌の『Together』は空で歌えるし、今ゲームが好きでもそうでなくても同じ年代の方にはそんな人も多いと思う。
今思えば、「HP」や「こうげき」といった能力、あるいはタイプ相性といったゲームの基本的な概念も、ダイパが教えてくれたのだ。
本稿では2時間の先行プレイを通して、ゲーマーではなくひとりの子どもとしてダイパに触れていた筆者の視点から、リメイク作『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』が持つ、大人なら誰でも共感できるノスタルジーとその魅力について迫っていきたいと思う。
■当時を思い起こさせる踏襲された演出と、新たな魅力を持って蘇るあのときのトレーナー
2画面だったニンテンドーDS対応ソフト『ポケモン ダイヤモンド・パール』では常に下画面に表示されていた「ポケッチ」は同作において印象的な要素のひとつ。
『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』(以下、『ポケモン BD・SP』)では、Nintendo Switchが2画面でない関係上右上に小さく表示されているものの、Rボタンで呼び出したり大きさを調整したり、非表示にすることが可能だ。
細かいポイントだが、Nintendo Switchのボタンを押すと機能が切り替えられるのではなく、Nintendo Switchの画面の中の「ポケッチについているボタン」を押すことで機能が切り替わることも懐かしさを感じさせるポイントとなっている。もちろん「ピロッ!」というあの効果音も何回だって聞くことができる。
「ジムバッジケース」も、本作の思い出の中ではポケッチと並ぶほどに大きなウェイトを占める要素のひとつだろう。キラキラが2つ出るまでタッチペンで画面を擦って、透き通ったドレミファソラシドの音階を楽しむあの体験は『ポケモン ダイヤモンド・パール』をプレイしたほぼ全ての人の記憶に刻まれている。
残念ながら今回テーブルモードでのプレイは未体験となったため断言はできないものの、プレイ中に確認したところケースに入っているバッジが曇っていたため「ジムバッジを磨く」というギミックも再現されている確率は高そうだ。
通行に邪魔な木を切る「いあいぎり」や、ファストトラベルが可能な「そらをとぶ」といった便利なひでんわざは、そのわざを持つポケモンを手持ちに入れていなくても使用可能になり、遊びやすさはモダンなものに。
しかし、ひでんわざ使用時の演出は完全に再現されていた。たった3秒程度の一瞬の演出でも、改めて現代のグラフィックで再現されているのを見るとワッ!と沸き立つような喜びがあった。
さらに戦闘開始時の草むらを掻き分けた先にポーズを決めた対戦相手がいる、という演出もバッチリ再現されている。バトル開始後もアングルが固定されたままの『ポケモン ダイヤモンド・パール』とは異なり、バトル中はさまざまな角度からポケモンバトルをダイナミックに映し出すマルチアングルが採用されたことで本作に「ライブ感」が加わり、より手に汗握るバトルが楽しめる。
また、対戦相手となるトレーナーの表情が非常に魅力的なことも特筆しておきたい。画面に大きく顔が写る「寄り」のシーンではイキイキとした表情や揺れる髪の毛で、全身やバストアップの姿を写しだす「引き」のシーンではキャラクター性が垣間見えるユニークなリアクションによってトレーナーの魅力が爆発している。これはぜひモニターなどにNintendo Switchを繋いで大画面で体感してほしい要素だ。
BGMに関しては、先行プレイをした限りでは非常に強く印象に残るようなアレンジはなされていないように感じた。もっとも長い時間聴いていた、そしてこれから聴くことになるであろう野生のポケモンとのバトルで流れるBGMも、メインのメロディがシンセサイザーで今聴くとどこか懐かしさを感じさせるものになっている程度で、元の楽曲の魅力やノスタルジーを損なうことなく本作に熱中できそうだ。
■おもちゃっぽさを押し出す要素たちで童心に帰る
リメイク作である本作の大きな特徴といえば、『ポケモン ダイヤモンド・パール』のグラフィックを再解釈した2頭身のキャラクターたちだろう。これらはリメイク元を踏襲しただけのデザインにも見えるが、一部ロケーションでの画面をよく見ると画面端がボカされる加工がされており、ミニチュア感を演出しているようにも思えた。
バトル時に登場する等身サイズのモデルをそのまま使用せず、わざわざ2頭身のモデルを用意している。これによってリメイク元のバトル時にのみ等身のデザインが見れるシステムを再現しつつも、ゲーム全体を通して「人形遊び」のような雰囲気を楽しむことができる。
『ポケットモンスター ソード・シールド』にて採用されていたジャケットやパンツ、スニーカーなどアイテムごとの着せ替えとは異なり、『ポケモン BD・SP』ではアイテムをコーディネートとしてまとめた固有の「スタイル」を選ぶ形での着せ替え方式となった。
先行プレイ時に確認できたのは数種類だったものの、それぞれバックプリントまで作り込まれたものとなっているうえ、しっかりと2頭身のモデルにもこの着せ替えが反映されるのだ。
プレイヤーの分身であるトレーナーはプレイ時間を増すごとに愛着が湧いてくるが、自分の選んだ「スタイル」に身を包んでいる、デフォルメされたトレーナーが小さな世界を軽快に走り回っているのはとってもキュートだった。
手持ちのポケモンをひろばに出してやり一緒にかけっこをしたり、話しかけたりといった交流ができる「ふれあいひろば」では、カメラの操作が可能なことも大きなポイント。
ミニチュアになった自分とポケモンを大きく写したり、反対にマップの大きさと自分たちのサイズ感の違いを楽しんだりと、スクリーンショットとSNSでの共有を前提とした絵作りの楽しさに人形遊びの楽しさが加わっていた。
■「ボールデコ」機能で「オシャボ」選びがもっと楽しく
『ポケモン』にはメジャーなバトルのほかにも色違いのポケモンを探したり、捕まえやすさでなくかわいらしさやポケモンに合っているかどうかで捕まえるボールを選ぶ「オシャボ」と呼ばれる楽しみ方がある。
今作では、後者の「オシャボ」にフォーカスを当てた「ボールデコ」という機能が存在する。
モンスターボールにはさまざまな種類があり、「重さ」が重たいポケモンが捕まえやすくなる「ヘビーボール」や同じ種類のポケモンで性別が違うと捕まえやすくなる「ラブラブボール」などさまざまで、これらはその効果にくわえてポケモンがボールから出てくるときに固有のエフェクトが光るという特徴がある。
ボール自体のデザインとこのエフェクトを自分好みのもので統一したり、各ポケモンにマッチさせたりするという楽しみ方が「オシャボ」だ。
「ボールデコ」ではボールの見た目は変更できないものの、細かく区切られたグリッドにエフェクトをシールとして貼り付けていくことができる。円を描くキラキラや花びら、スモークなどの色とりどりのシールを選んで貼り付けていく作業は『ポケモン』としては新鮮な体験ながらも、「シール」というアイテムやそれをペタペタ貼り付けるという「シール遊び」の要素が相まって思わず童心に帰ってしまう。
この機能は「ボールデコ」というネーミングから、コロナ禍で人気を博した「トレカデコ」という文化をほうふつとさせる。
これはアイドルやキャラクターなど自分の「推し」の写真(トレカ)を入れた透明のケースをシールでデコレーションする、という遊びだ。このトレカデコに適したリボンの形のシールなどが韓国から伝わり、現在では100円ショップ・セリアにもリボンやビーズといったデザインのシールが並んでいる。
『ポケモン ダイヤモンド・パール』を踏襲した演出が直撃世代のノスタルジーを刺激しているならば、これらの数々の要素は誰もが子ども時代に経験した「遊び」を想起させることで、直撃世代以外にも普遍的なノスタルジーを提供している仕組みだと言えるだろう。
■地下大洞窟に凝縮された魅力
筆者が今回の先行プレイで、もっとも熱中した要素は「地下大洞窟」内の「カセキほり」だった。ストレートな『ポケモン』らしくない、壁に埋まった「たからもの」を探すパズルのようなゲーム性が久々に触れると新鮮で、ついついのめり込んでしまった。
「地下大洞窟」は、地上にいるときに「たんけんセット」と使うことでいつでもどこでも潜ることができるダンジョンのような場所だ。「カセキほり」にくわえて、「ひみつきち」「ポケモンの隠れ家」の3つの要素を楽しむことができる。
先述した「カセキほり」では、広範囲を掘ることができるハンマーと細やかに発掘ができるピッケルのふたつを使い分けて、地中に埋まる「たからもの」を探すことができる。そして「ひみつきち」では、お宝のひとつである「ポケモンの石像」を飾って自分だけの空間を作ることができるのだ。
また、『ポケモン BD・SP』では新たに「ポケモンの隠れ家」が追加された。地底湖や海底火山、岩石地帯といったさまざまな隠れ家に、ロケーションごとに異なるポケモンが登場する。
どの隠れ家にどのポケモンが登場するのか、どれほどの種類が存在するのかは2時間のプレイではわからなかったものの、ひとつひとつの隠れ家は広大とまではいかないが、とても広い「地下大洞窟」のマップとその中にいくつも「隠れ家」があることから、多くの種類のポケモンが登場することが推測できた。
一番遠い行動範囲といえばせいぜい「隣の駅のショッピングモール」だった子どもが、『ポケモン ダイヤモンド・パール』を通せば地下という外界から隔絶された場所を冒険し、さらにそこに自分だけの空間である「ひみつきち」まで持てる。
それが当時の筆者にとってどれほどワクワクする要素だったことか!
この「子ども時代のワクワク」を呼び起こさせる要素として「地下大洞窟」はとても魅力的な要素のひとつであるほか、本作のやり込み要素としてボリュームのある仕上がりであることが期待できた。
■大人になった「子どもたち」にプレイしてほしい
本稿を執筆しながら、18〜22歳くらいの世代にとって手放しに「うわー!懐かしい!」と喜ぶことができる初めての大きなコンテンツは『ダイヤモンド・パール』かもしれないな、とふと感じた。
もちろん、本作を構成するどの要素も、今の子どもたちから見ても遜色なく受け入れられるものであることは間違いない。それでもやはり、いまや大人になったかつての「子どもたち」にこそ是非プレイしてほしい、と強く思う。
『ポケモン BD・SP』には、その名のように輝く思い出やワクワクを呼び起こさせる要素がぎっしりと詰まっている。
今では当たり前となったことへのトキメキを忘れない、そんな気持ちにさせる『ポケモンダイヤモンド・パール』、『ポケモン ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』で共通となる、しかし10年の時を経たセリフを引用して本稿を締めくくりたいと思う。
「かがくのちからってすげー!
いまじゃ むせんを つかって せかいの ひとびとと あそべるんだと」