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ひたすらオーソドックスな作りなのになぜ面白い? 2Dゼルダ+ソウルライクな『Death’s Door 』はあらゆる要素を徹底的に磨き上げた「正統派」な逸品だった

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 「オーソドックス」という表現はゲームを評価するときによく使われる単語だ。本来悪い意味ではないはずだが、そこにはどうしてもポジティブでないニュアンスが見え隠れする。
 可もなく不可もない、置きにいった感、新鮮味のなさ……。「新しい体験」が尊ばれるゲームの世界では、手放しで褒めるときにはちょっと使いにくい言葉かもしれない。

 しかし、オーソドックスという言葉は本来「正統的」という意味を持つ。この言葉を冠されたゲームは、これまでの作品が生み出してきた誰もが面白いと感じる要素を引き継いだ「正統的」なゲームであるべきだろう。

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 これから紹介する『Death’s Door』は、そういった意味でとてもオーソドックスな、インディー製のアクション・アドベンチャーだ。『ゼルダ』+ソウルライクアクションないまどきな作りだが、あらゆる部分が徹底的に磨き上げられた一級品。
 FC時代から現代まで引き継がれてきた「正統的」なゲームの面白さを十二分に感じさせてくれる。

 作り手の「目新しさなんか必要ない、オレたちが面白いと思っているのはこれだ!」という声が聞こえてきそうな内容だ。
 ただ、ここまで奇をてらわない質実剛健な作りのゲームを、メジャータイトルとして現在の市場で売り出すの難しいかもしれない。インディーだから実現した(おかげで価格も超お手頃!)、オーソドックスを極めた一作といえるだろう。

文/ヤマダマサミ


『ゼルダ』的な謎解きはクリアの快感を追求

 『Death’s Door』はDevolver Digitalから、2021年7月20日にPCおよびXbox Series X|S/Xbox Oneで発売、11月23日にPS4、PS5、Nintendo Switchで発売された。

 開発はインディゲームスタジオのAcid Nerve。ボス戦のみで構成された高難易度2Dアクション『Titan Souls』を開発したことで知られ、イギリスのマンチェスターを拠点にMark Foster氏、David Fenn氏の2名で活動するスタジオだ。今作ではゲームデザインやプログラミング、シナリオ、音楽は前述の2名が担当、アートデザインなどのビジュアル面で数名の外部スタッフが関わっている。

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 プレイヤーはリーパー(死神)のカラスとなり、寿命などで死すべき者のもとへ赴いて「ソウルを刈り取る」仕事をこなすことになる。ちなみにカラスというのは、そういった名を持つ何者かではなく、正真正銘鳥類のカラス。

 つぶらな白い目でひょこひょこと歩く姿は可愛らしく、羽を振るって剣で戦う姿もなかなかユーモラスだが、リーパー協会本部から課せられるノルマをこなすために出勤し、仕事を終えれば上司に報告してタイムカードを押す、労働者の悲哀を背負ったカラスだ。

 このカラスが数々の仕掛けと敵が待ち受けるダンジョンに挑み、最深部に潜む「ソウルを刈り取る」ターゲットであるボスを倒すというのが、このゲームの基本スタイル。

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 ダンジョンの探索、仕掛けの謎解き部分は、FCやSFCの『ゼルダ』的な作り。
 弓矢、炎、ボム、フックショットといった呪文を駆使してダンジョン内に張り巡らされた仕掛けの謎を解き、ボスへのルートを切り拓いて行くこととなる。

  仕掛けの謎解きの難易度自体は、やや簡単よりといえるかもしれない。ひとつのダンジョンに出現する仕掛けの種類は少なく、一度解き方が分かってしまえばそのパターンのくり返しで次々と攻略できてしまう。

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 ただし、ダンジョン内の探索と仕掛けの謎解きが上手くリンクしている配置となっているのが特徴だ。

 サクサク仕掛けをクリアできる快感と新たなエリアへ進める快感がダイレクトにつながっているので、ゲームを進めるのが非常に気持ちいい。

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 また、クォータービューのカメラアングルが引きで俯瞰的なため、フィールドの視認性が良く仕掛けを見落とす場合が少ない。マップも高低差を上手く使って構造を理解しやすく作られているなど、ストレスを感じずにゲームを進められる工夫も随所に見られる。
 中盤以降になると謎解きとアクションが融合した仕掛けが増やし、攻略を単調にさせないなど作りに抜かりはない。

自身の成長を実感できるソウルライクなバトル

 バトルの部分は、いわゆるソウルライクな作りになっている。
 主人公のカラスのアクションは剣による通常攻撃と溜め斬り、回避用の前転、前転中に攻撃で出せる回転斬り、それに前述の呪文という基本通りの組合わせ。

 敵の出現位置や動きはきっちりパターン化された「覚え型」で、死ぬとチェックポイントから再出発。ただし、死んでもデメリットはなく、その辺はマイルドな作りだ。

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 操作性はクイックで、単純にキャラを動かしてバトルしているだけで気持ち良さを味わえる。難易度は、個人的には難しすぎず簡単すぎない絶妙なバランス。アクションゲームそれほど慣れていない人にとっては難しい部分があるかもしれないが、敵の出現場所と動きを覚えれて根気良く対処すれば、必ずクリアできる難易度になっているはずだ。

 初見では「え、これ難しくない?」と感じる敵も多いが、何度か戦い動きのパターンをつかめば、わりとあっさり倒せてしまう。数分前と比べて自分が明らかに上手くなった、強くなった、という実感が得られ、心地よい満足感を味わえる。

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 一点注意したいのが、カラスの攻撃には近年のアクションゲームではわりと当たり前に標準装備されている追尾機能がないこと。

 また、攻撃時にカラスが前方へ踏み込むため、いわゆるガチャ押しで雑に戦っていると空振りが増え、その隙をつかれて反撃を受ける場合が多くなる。ゲームが進むほど「偶然勝てた」ような状況はなくなり、自分の意図通りに敵を処理した必然の勝利が要求される。

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 各ダンジョンの最後に待ち受けるボスモンスターたちも、初見ではとてつもなく強く感じることも多いが、動きや攻撃のパターンを覚えて対処することで攻略可能となる。
 また、それぞれのダンジョン探索やザコ敵とのバトルで覚えたアクションの総決算的な部分もある。これまでに積みあげた経験を駆使したバトルは単純に楽しく、自分自身の成長をダイレクトに実感できる。「ソウルライクのアクションは、もともとそういうものだろ」という意見はごもっともだが、それをしっかり味わわせてくれるのだから最高だ。

ストーリーやアートワーク、音楽も抜かりなし!

 リーパー(死神)のカラスは、仕事のノルマで刈ったソウルを何者かに奪われてしまう。それを追いかけるうちに、天寿を越えて生き続け自然の法則を超越したジャイアントソウルを持つモンスターとの戦いに巻き込まれる……というのがゲームの導入部分。
 ストーリーは主人公がリーパーということもあって、「死ぬことの意味」に迫るシリアスな内容だが、全体のノリは童話的でユーモアも溢れているので、それほど重くはならない。

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 キャラのセリフなどは少なめで、前情報を仕入れずにゲームを始めると、序盤は目の前で起こっているのが何の話かさっぱり分からないのだが、断片的な情報を得ていく内に、霧が晴れていくように世界の全ぼうが見える、という作りになっている。

 しかし、その見えてきた世界もじつは……な二転三転する展開もあり、興味が尽きない高水準な内容だ。

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 アートワークも画面をご覧になれば分かるように素晴らしい。
 各ダンジョンのグラフィックは、共通するひとつの雰囲気に包まれている。廃墟とはいかないまでも、住人たちが去り、時計の針がとまったような、ある種の静けさ。
 その雰囲気がゲーム全体に漂う、上品な美しさをかもし出している。しかも、ゲームを進めて行くとわかるのだが、その雰囲気にしっかりストーリー的な意味がある点も注目だ。

 クレイアニメ風の質感を持ったキャラクターの造形も素晴らしく、可愛らしくもヘンテコな姿をしたキャラたちがくり広げる、要所要所の寸劇にも注目してもらいたい。

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 もちろん音楽も良い。多くの曲がタイトル画面で流れるメインテーマのアレンジな点もポイントが高い。

 ダンジョンではゲームの各エリアの世界観に沿って雰囲気を盛り上げる環境音楽的な比較的落ち着いたアレンジに。また、あるダンジョンでは、内部のギミックが放つ効果音がBGMと同調し、曲の重奏感を増すといった気の利いた演出もある。
 イベントバトルやボス戦では雰囲気が一転。戦いのテンションをアップさせる勇壮でメロディアスなアレンジの曲が奏でられる。ある意味オーソドックスな演出だが、こちらの気分を最高に上げてくれる熱い音楽の使い方だ。

 このように、ゲームを構成しているありとあらゆる要素がトップクラスに洗練されている『Death’s Door』は、オーソドックスだからこそ遊ぶ人を選ばない。誰が遊んでも標準以上のプレイ体験を約束してくれる作品であることは間違いないだろう。

ライター
雑誌のゲーム記事や攻略本等の作成経験はそこそこあるが、WEB関連はわりと初心者なゲームライター。最近のゲームとは別に、昔の2Dシューティングを下手の横好きで延々プレイし続けていて、最近ちょっと上達したような気がしている。ゲーム以外では、東京ヤクルトスワローズの動向に一喜一憂する日々を送る。

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