「ゲームをもっと”いい音”で遊びたい!」
ゲーマーなら誰しもが思うことであるーーというのは言い過ぎかもしれないが、そう思ったことがある人は少なくないだろう。
自分も、ある日、ふと思いたって、良さそうなヘッドフォンを物色することになったわけだが……、そこから深い深いオーディオ沼の魅力に足を踏み入れることになった。
そして、約1年以上にも及び、総額100万円以上をかけて、ヘッドフォン、イヤフォンなどのさまざな機種を渡り歩いたすえに、30年以上前に発売され、今なお生産され続けている名機『HD25』というヘッドフォンにたどり着いた。
プロフェッショナル向けのモニタリングヘッドホンとして設計された合理的なデザイン、本体重量はわずか140gという圧倒的な軽さ、価格からは信じられないほどの音の明瞭さ、音圧が強くエネルギッシュな音色、ポータブル運用もしやすい手軽さと、すべてにおいて「これでいい」と思える総合力の高さに惚れ込んだ。
さすがは歴史ある世紀のロングセラー製品!
といった趣だ。
今回は、そんな名機『HD25』を紹介すると共に、筆者が本機に至るまでに辿ったオーディオ沼の変遷にも軽く触れながら、図らずも詳しくなってしまったオーディオの世界の魅力(自分もまだ初級だが…)を、ぜひゲームファンの皆さまに紹介してみたいと思う。
本稿を通じて、「自分にとってのいい音」を見つけることの面白さや重要さなどを、少しでも多くの方に知って頂ければ幸いである。
文/Leyvan
ゼンハイザー『MOMENTUM 3 Wireless』の音に衝撃を受けたのが始まり
ふと、思い立った。
「ゲームをもっといい音でやりたい」という欲求が強まり、良さそうなヘッドホンを探した。そこで見つけたのがドイツの大手オーディオメーカー・ゼンハイザーの『MOMENTUM 3 Wireless』だ。
当時の販売価格は48000円。ワイヤレスヘッドホンとしてはそれなりに高価だ。これまで音質にそこまで強いこだわりはなく、イヤホンはJVCの『HA-FX3X』を10年近く愛用していたくらいのもので、据え置きゲーム機が買えてしまうような金額のオーディオ製品を購入しようと思ったのははじめてのことだ。
決して安くない買い物だとは思いつつも、好奇心には抗えなかった。手にしたヘッドホンを身に着け、『真・女神転生III NOCTURNE HD REMASTER』をプレイしてみると、あまりの音の良さに衝撃を受けた。
音の鮮明さ、迫力、実在感、定位の正確さ、どれをとっても今まで聴いていたものとは段違いであるとすぐに実感した。そして、何よりも戦闘BGMがカッコよすぎる……!戦闘に入るたびに音楽に聴き入ってしまい、一向にゲームが進まない。普段何気なく聞いている音楽、効果音の音質がよくなるだけで、こんなにも体験の質が変わるということを思い知ったのある。
それからというもの、すっかりオーディオの魅力に取り憑かれた。さまざまなメーカーのさまざまなイヤホン、ヘッドホン、スピーカー、DAC、アンプ、ケーブルなどを片っ端から試した。その過程で費やした総額は具体的に書くのもおそろしい。
※DAC:Digital Analog Converterの略称。DAコンバーターとも表記される。デジタル信号をアナログ信号に変換して出力するための回路、または部品。音声品質に影響を及ぼし、同じヘッドホンやスピーカーでもDACによって音質、音色は大きく変わる。PCパーツで例えるならGPU・ビデオカードのような役割。
深い深いオーディオ沼を歩き続けた結果、現時点で自分にとってもっとも好ましいと感じたものは、ゼンハイザーが30年以上も前にリリースした名作ヘッドホン『HD25』だった。
どうしてゼンハイザー『HD25』なのか
音響の技術は時代とともに進化し続けており、今では『Airpods Pro』のような完全ワイヤレスイヤホンで手軽に高音質が楽しめるようになった。音楽を聴くだけでなく、周囲の雑音をカットするノイズキャンセリング機能や、ハンズフリー通話など生活をするうえで役立つガジェットとしても大いに活躍してくれる。
一方で、有線のイヤホンやヘッドホンもいまだに根強い人気がある。その理由は人によっていろいろあると思うが、最終的には「より良い音」を求めて、というのが大きいだろう。
筆者がHD25に魅力を感じたのも、その個性的な音に惹かれたのが一番の理由だ。鋭くパンチのきいた低音、低域から高域まで音圧が強くエネルギッシュな表現力、十分な解像度がありながらも適度に荒っぽく、雑味のある質感が絶妙な味わいになっており、唯一無二の楽しさ、没入感を生み出している。
そのような個性がありながらもわざとらしく強調されたような演出はなく、人の声など中域がすっきりと聞き取りやすく、音の見通しがいい。あくまでも自然で素性のいいサウンドなので、音楽鑑賞だけでなく動画にも向く。
インピーダンスが70Ωとそれほど高くないので音量がとりやすく、接続するデバイスを選ばないのもいい。スマホやPC、ゲーム機のヘッドホンジャックに直挿ししても音量が大きすぎたり、小さすぎるということはない。
※インピーダンス
電流の抵抗を示す値。単位はオームと読む。この値が高いほど機器に電流が流れにくく、入力機器からの悪影響を抑える代わりに音量が小さくなる。インピーダンスが300Ω以上のヘッドホンなどは出力が低い機器では十分な音量を取りづらく、アンプと併用するのが望ましい。
デザインに関しても素晴らしい。業務用ということもあって、見た目は飾り気がなく、プラスチッキーで、お世辞にもおしゃれな外観とはいえないが、実際に使ってみると実に合理的な造りであることに気付かされる。
まず、なんといっても軽い。本体重量はわずか140gで、ケーブルを含めても166gときわめて軽量だ。プラスチックのしなやかさと側圧の強さが絶妙な加減で、装着するとしっかりホールドして激しく動いてもまったくズレない。分割できるヘッドバンドはひろげると側圧の強さを調整することができて、頭頂部への負担も軽減する。
さらに、左側のイヤーカップは前後にスイングできるようになっており、片耳でのモニタリング、リスニングができる。周囲の音にも気を配るためにイヤホンやヘッドセットを片耳だけで使うことがある人ならわかると思うが、これは非常に実用的な機構だ。
また、HD25は簡単に分解できるようになっており、ケーブルとイヤーパッドだけでなく、ヘッドバンド、アーム、イヤーカップなどあらゆるパーツが交換可能でメンテナンスのしやすさも抜群だ。純正品のほかにも社外品でさまざまな交換用パーツが流通しており、カスタマイズ性が高いのも魅力のひとつ。
このように、音質のよさだけでなく扱いやすさ、信頼性の高さ、メンテナンスのしやすさなど総合的に優れており、価格を考えるとコストパフォーパンスも非常に高い。30年以上経った今なお売れ続けるロングセラーモデルなのも納得の完成度だろう。
「自分にとってのいい音」を見つけるということ
いくつかのイヤホン、ヘッドホンを使っていると、音がクリアであるか、音の再現性が優れているか、音の定位が正しいか、などといった性能面での違いだけではなく、機種ごとに「どのような表現で音を鳴らすか」という方向性があることを実感する。
どんな表現を重視しているか、周波数特性でどの部分が強調されているかは、機種ごとに傾向が異なる。たとえば、解像度が高く分析的で音のひとつひとつを聞き分けられるようなサウンド傾向のものはモニターライク、モニターサウンドなどと表現される。
高域が強調されていて、きらびやかな音が特徴的な場合はブライト、明るい音だと表現し、その逆に低域から中低域が強い深みのある鳴り方をする場合はダーク、暗い音だと表現される。
低域から高域までバランスがよく、誇張がないサウンドのことをフラットと呼び、高品位なオーディオになるほど、フラットな特性を目指して設計されていることが多い。逆に、低域と高域を強調して刺激的な味付けにしたものをドンシャリ(低音がドンドン、高音がシャリシャリする様子を指す)V-shaped(V字型、周波数特性がグラフで見るとV字に見えるため)などと呼ぶ。
そのほかにも、機械的で無機質な、冷たい印象を受けるサウンドをクール、温かみのあるゆったりしたサウンドをウォームと表現するが、いずれにしても、これはデバイスの特性を把握するための用語である。
重要なのは、自分が好む音とはどんなものなのか、ということだ。
人にはそれぞれ好ましいと感じる音の傾向があり、メーカーはそのニーズに応えるべく、そしてメーカーが目指すサウンドを届けるために製品を世に送り出す。
どんなに優れたものであっても、その機種の特性が自分の好みや目的に合わないと、その魅力を十分に受け取ることができない。そのため、自分がどんなジャンルの音楽を好み、どのような環境で使用するのかを明確にする必要がある。
筆者の場合は、メインの環境はデスクトップPCでスピーカーを使用し、夜間などあまりボリュームを大きくできないときにヘッドホンを着ける。音源は主にAmazon Musicなどのストリーミング配信サービスを利用し、音楽鑑賞以外にもゲームや動画視聴で活用する。
ジャンルはポップス、R&B、ロック、EDM、ジャズ、アニソン、ゲームミュージックなどを好み、ウォームでリスニング寄りのサウンドを好むということも把握した。
低域は量感よりも引き締まった深みのある表現を好み、高域はあまりにもシャープだとすぐに聴き疲れしてしまうため、バキバキの刺激的なチューニングよりも、自然で堅実なものが好ましい。
ヘッドホンに関しては、第一に軽量で取り回しがいいこと、使用中はある程度外部の音を遮断できることが望ましいため、そういった個人的な音の好みと用途に合致するものがゼンハイザー HD25だったということだ。
ただ、用途や目的を抜きにして、「純粋にいい音」として追い求めたいのはドキッとするような音の生々しさ、まるですぐそこで、自分に向けて演奏してくれているかのような実在感、雰囲気のあるサウンドなのだが、それを実現する機器は得てしてハイレベルなもので、相応に高価だ。それでも体験してみたい、環境を構築してみたいと思ってしまうのが魅力でもあり、おそろしさか……。
音の探求は終わらない
音の傾向・好みについて書き連ねてみたが、それでは自分にとって理想の音に辿り着けばゴールなのか?というと、実はそういうことでもない。
求める音、好ましいと感じる音は次第に変わっていく。極端な話、その日の気分や体調によっても左右される。それは理屈だけではなく、感覚によるところが大きいからだ。これがオーディオの面白さ、奥深さでもあり、難しいところでもある。
どんなに素晴らしい料理でも、それだけを食べ続けていては飽きてしまう。お酒を選ぶときなども、「今日はいい天気でビール日和だなあ。よし、ビール飲むか!」だとか、そういった気分でビールを飲もうと決めるように、「今日は元気に楽しく過ごしたいからGRADOのヘッドホンで陽気な曲を聴くか!」といった具合にチョイスする。
どんなに素晴らしいゲームでも、十分に堪能して理解したものからは、いずれ得られる刺激は少なくなってしまうのも同じことだ。
「『エルデンリング』はクリアしたから、今度は『SEKIRO』を遊んでみようかな?同じメーカーでもコンセプトが異なるから違う魅力があるはずだ」と思うように、もっと知りたい、もっと味わいたいと興味が湧いてくる。
それと同じように、音に関して自分の中で一つの正解を見つけたとしても、また違う疑問が浮かび上がっては、新たな仮説を立てて、それを検証してみたくなる。
故に、音について絶対的な優劣や正解はなく、本当の意味での終わりはないのだと思う。それでも、今の自分が求めるものにピタッとハマるいい音に出会えたとき、その音を通して得られるコンテンツの情報量と感動は何倍にも、何十倍にも(あるいは、それ以上に)増幅される。
だからこそ、より良い音、より大きな感動を求めてオーディオ製品を求めるのだろう。
最後に、筆者が本稿執筆時点でこれまでに購入してきたオーディオ機器を購入順でリストアップしてお届けしたい。試聴のみ、もしくは借用しただけのものに関しては除外している。
カテゴリごとに分けてはいるが、流れとしてはワイヤレスイヤホン・ヘッドホン→有線イヤホン・ヘッドホン→DAC・アンプ→スピーカー→DAC・アンプ(アップグレード)という風に遷移しているので、ほぼほぼこの順番どおりとなっているはずだ。
イヤホン・ヘッドホン
ゼンハイザー MOMENTUM 3 Wireless
ゼンハイザー CX 400BT
ゼンハイザー MOMENTUM True Wireless 2
Shure AONIC 50
JBL CLUB ONE
ソニー WH-1000XM4
ゼンハイザー IE300
Bang & Olufsen Beoplay EQ
Bang & Olufsen Beoplay H4 2nd Gen
Bang & Olufsen Beoplay H95
Bang & Olufsen Beoplay HX
ゼンハイザー HD25
GRADO GW100
オーディオテクニカ ATH-HL7BT
Devialet Gemini
オーディオテクニカ ATH-R70X
ソニー LinkBuds
スピーカー
ソニー LSPX-S2
ソニー LSPX-S3
DENON DHT S216
Bang & Olufsen Beosound A1 2nd Gen
Bang & Olufsen Beoplay A6
Bang & Olufsen Beosound 2 2nd Gen
EDIFIER R1700BT
EDIFIER S880DB
DALI Oberon 1
DAC・アンプ
Shanling UA2
FiiO FIO-Q3
Creative BT-W3
ゼンハイザー BT T100
FiiO BTA30 Pro
DENON PMA-600NE
iFi Audio ZEN DAC
iFi Audio ZEN CAN
Qudelix 5K
iFi Audio Go blu
AIYIMA A07
Thomann S-75 mk2
CHORD Mojo
CHORD Mojo2
ヘッドホンスタンド
オーディオテクニカ AT-HPS550