うつ病の自分が『DEATH STRANDING』を遊んで、“実感”を取り戻した話ーーコロナ禍を経て改めて感じられた小島監督が伝えたかったことを考えてみる

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 新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の脅威によって、世界は変わった。

 誰もがマスクを着用し、人と人が距離を保ちながら過ごすことが日常となり、2022年のいまでは、リモートワークで仕事をすることが当たり前の世の中となった。コロナ禍で人と人の物理的な繋がりが希薄化してから、もうすぐ3年もの歳月が経とうとしている。

 奇しくも、パンデミック直前の2019年11月に、そんな現状をまるで予見したかのような物語を描いた作品が発売された。

 そう、『DEATH STRANDING』(以下、デススト)である。

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 とはいえ、発売当初は正直、そこまで本作の内容にのめり込めず、プレイも途中で止めてしまっていた。ひたすらネガティブな振る舞いをする主人公(物語の序盤では、だが)に共感できなかったからだ。
 しかし、あるとき、予感ともお告げとも言える何かが、「本作をプレイをしろ!」と強く訴えかけてきた。

 コロナ禍での体験を踏まえ、いま改めて『デススト』をプレイしたら、当時とは感じ方がまるで違うのではないか? 今の自分が求めているものが、この『デススト』には込められているのではないか?

 結論から言うと、その予感は正しかった。

 コロナ禍のいまだからこそ、本作の内容ーーとくに主人公サム・ポーター・ブリッジズ​​の振る舞い、そして生き様が、深く心に突き刺さった。本作のおかげで、生きる希望が感じられたーー誇張なく本当に!ーーほどに、『デススト』は、自分にとって重大な作品の一つになった。

 本稿では、コロナ禍を踏まえて、なぜいま本作を改めて遊ぶ意味があるのか? また、自分がなぜそれほどまでに感動したのかを、できるだけ多くの人に伝えられればと思っている。
 ややネタバレも含む内容にはなってしまうが、ぜひこの記事を通じて、『DEATH STRANDING』の素晴らしさを知ってもらえれば幸いである。

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できる限りイイ環境で体験するために、Steamで配信中のディレクターズカット版を購入してプレイした。オーディオ沼にズブズブとハマったことをきっかけにデスクトップ環境をグレードアップしていたが、それはこのときのためだったのかもしれない。

文/Leyvan
編集/TAITAI


孤独を抱え、人との関わりを恐れているサムという男

 本作の素晴らしさを語っていくうえで、まずは主人公のサム・ポーター・ブリッジズについての解説が必要だろう。なぜなら、本作は、いわゆる世界を救う過程で、サム自身が孤独から立ち直っていく物語であり、また一度は断ち切った人との繋がりを回復していく物語だからである。

 このサムの心境や立ち振る舞いの描き方が、いまを生きる現実世界の我々にとって、とても共感できるものになっているのだ。

 ゲームの開始当初、サム・ポーター・ブリッジズは徹底して「孤独な男」として描かれる。

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 “接触恐怖症”を患い、人との関わりを避けながら生きているフリーランスの配達人という設定だ。

 物語序盤のサムは、とにかくネガティブな人間。「他人との繋がりを感じられない」どころか、物理的に人に触れることも、触れられることもできなくなっている。いわば人間不信、対人恐怖症の極地のような状態である。握手をすることもできず、人からの好意を素直に受け止めないし、人から求められても応えない。

 唯一、サムが繋がりを感じられるのは、幼い頃から“ビーチ”でふれあっていた義理の姉、アメリのみ。
 それ以外の全ては、サムにとっては「自分との繋がりを感じない」、どうでもいいものなのだ。(ゲーム冒頭では、そのアメリとの繋がりでさえも否定しようとしている)

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 そして、かつて所属していた組織ブリッジズのリーダー、ダイハードマンからアメリカ合衆国再建のため、分断された世界を再びネットワークで繋ぐための依頼を打診されるのだがーーそれすらもサムは拒む。

 「ネットが世界を覆い尽くしても、争いは絶えなかった。無理やり世界を繋いでも、また綻びが生まれる。同じことを繰り返すだけだ」

 サムの主張は、一部では正しい。
 実際、現実の世界でも、インターネットが普及し、ソーシャルメディアが社会のインフラになったいまでも、それが本当の意味での繋がりや理解に繋がっているのか?と疑問に思う人も多いだろう。

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 サムは、一度は依頼を拒んだものの、アメリが武装集団に人質として捕まっていることを知り、彼女を助けるため、渋々ながら依頼を引き受ける。
 サムは「もう繋がるつもりはない」と突き放しつつも、再び世界をひとつに繋ぎ直すために、広大な北米大陸を渡っていくのだ。

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この距離感。いや、そんなに露骨に避けなくても。

 では、そんなサムがどうやって接触恐怖症を克服し、人や世界と再び繋がられるようになっていくのか?ーーそこが本作では、「荷物を配達する」ということを通じて描かれていくことになる。

 単なるストーリーの”お話”としてではなく、プレイヤーが苦労して物資を送り届けるという、体験や実感を伴う形で、「人と人が繋がる大切さ」を感じられる内容になっているのだ。

 この「実感を伴った人との繋がり」が、ゲーム全体のプレイ体験として感じられるように設計・構築されているのが、この『DEATH STRANDING』のもっとも重要なポイントなのである。

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脅威となるBT(死者)の存在を感知するための“装備品”であるBB(ブリッジベイビー)は、プレイしているとどんどん愛着が湧いてくる愛らしさ。サムは後に“ルー”と名付けて、我が子のように接していく。

依頼人からのメールがなぜ「おじさん構文で長い」のか?

 依頼は引き受けたものの、サムの姿勢はとにかく消極的だ。
 どうして俺がやらなければいけない……。そんな態度で嫌々配達の依頼をこなしている。

 いきなり国の再建だ、世界のためだと重大な責任を背負わされて、それも育ての親の遺志だから、義理の姉が囚われているからと、過去のしがらみに束縛されてのことなので、無理もないことだとも言える。

 プレイヤーもある意味ではサムと同じで、まだ『デススト』の世界のことも、サムのこともよくわからないままに、アレをやれコレをやれと言われるので、困惑しながらゲームを進めているというのが正直な心境だろう。

 それでも、荷物を届けた先で依頼人から「ありがとう。あなたは本当に素晴らしい!」と喜ばれると、なんだかそれだけでも嬉しくなってくるから不思議だ。

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 なぜ、荷物を運ぶだけで、こんなにも嬉しい気持ちになれるのか?

 一つには、依頼人からのお礼やメッセージのディテールが非常に細かいことがあるかもしれない。
 このゲームでは、とにかく依頼人がサムと、実際にサムを操作して荷物を届けたプレイヤーを褒めまくってくれる。とにかく全力で「いいね」と肯定してくれるわけだ。しかも、荷物を届けた後にもサムのことを労い、気遣う異様に熱量の高いメールを送ってくれる。

 なかでも、絵文字いっぱいの独特の文体で綴られるメールは、いわゆる「おじさん構文」のようなものが多く、発売当初にプレイしたときから強烈に印象に残っていた。

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 そもそも、なんでメールがおじさん構文みたいな内容なのかというと、要するに、この世界の人たちは皆、繋がりが途絶えて久しいので、「コミュニケーションに飢えている」からなのだ。
 分断されて孤立が続いた世界で、ずっと寂しく孤独で、サムが通信網を繋いだことによって、やっと人と繋がった喜びが溢れているわけだ。その歓喜の感情が文面にあらわれているということなのだろう。

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 親密度が上がっていくと、より親身になった内容が送られてきたり、ちょっとした身の上話をしてくる依頼人などもいるのだが、最初のパッション溢れるメールとは打って変わってシリアスになっているものも少なくない。

 これは、感情が落ち着いて、その人の本来の感情、文体で書かれたものになっているからではないかとも思う。本来の自分を取り戻した、ともいえる。

 「メールの文章ひとつで何をそんな大袈裟な」と思うかもしれないが、人と交流できる機会が以前よりも少なくなり、繋がることが難しくなった今になってプレイすると、改めてそのリアリティ、ディテールに感心してしまう。

 つまり『デススト』は、いまや現実のものとなった”分断された世界”のありようを、コロナ禍以前の時代に想像し、そこで生きる人々の環境や心理状態を、細部まで作り込んでいたということなのだ。

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ライター
ゲーム、模型、ファッション、ドール、オーディオなどさまざまなジャンルの沼を渡り歩くスワンプウォーカー。関心のあるものに後先考えずに全てを捧げる狂戦士。手がけた代表的な記事は 「人はなぜ少女にメカをくっ付けるのか」 「最高のゲーム用ヘッドフォンを求めて」など。
Twitter:@Leyvan44
編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
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