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悠木碧さん演じる主人公「クレマンティーヌ」のイカれたかっこよさがたまらない。『オーバーロード』のゲームは超攻撃的な戦闘アクションが原作の雰囲気を引き立てる作品だった

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 RPGにおける「勇者」と「魔王」のどちらになりたい? と問われたら、筆者は迷わず魔王を選択するだろう。これは他愛もない想像だが、そんなコンセプトを感じさせる作品として『オーバーロード』は多大な成功を収めたと言える。

 もともとはWeb小説として連載をスタートし、のちにKADOKAWAより書籍版が刊行。2017年ごろには宝島社の発行するガイドブック「このライトノベルがすごい!」においても上位にランクインし、2015年からはテレビアニメもスタート。きたる2022年7月には第4期にあたる『オーバーロードIV』の放送も控えている。

 アニメやライトノベルに対する理解が浅い筆者でも、小説やアニメ版の存在、そして見た目のインパクトがすごすぎた主人公「アインズ・ウール・ゴウン」(以下、アインズ)については知らなかったとは言えない。だが同時に、そのストーリーや設定、キャラクターの魅力をきちんと把握しているとも言えない「名前だけ知っている勢」のひとりである。
 
 今回ご紹介するのは、そんな『オーバーロード』を原作とするアクションゲーム『OVERLOAD: ESCAPE FROM NAZARICK』(以下、ESCAPE FROM NAZARICK)。今回のレビューのお話をいただくにあたって、あわててアニメ版『オーバーロード』の視聴を始めた筆者だが、幸いゲーム中のストーリーに置いていかれることはほぼ無かったことを最初に報告しておく。本作は最低限のキャラクター設定さえ把握すれば、充分に楽しめる作品だ。

 『ESCAPE FROM NAZARICK』はさまざまな方向性から『オーバーロード』の雰囲気、イメージを巧みに演出している。そして同時に、スピード感あふれるゲーム性と本作における主人公「クレマンティーヌ」のキャラクター性が素晴らしいマッチングを果たし、陰鬱に走り過ぎない、楽しみやすいひとつのゲームとして昇華されていると言える。

 本稿では多岐にわたるその演出法とゲームシステムを解説しつつ、『ESCAPE FROM NAZARICK』の持つ「原作あってのゲーム」だからこその魅力を紹介していきたい。

文/久田晴


イカれたかっこよさを誇る「クレマンティーヌ」というキャラセレクション

 『オーバーロード』は「最凶ダークファンタジー」と謳われているように、ライトノベルとしては非常に暗く重厚な雰囲気が特徴的な作品であり、同時に人気の要因でもある。予備知識のないプレイヤーが本作のパッケージ画像を見て、まさか後ろに立つ異形が原作の主人公だとはまず思わないだろう。

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原作の主人公「アインズ」(奥)と本作の主人公「クレマンティーヌ」(前)

 本作はプレイアブルキャラクターである「クレマンティーヌ」がアインズに敗北するシーンから始まる。その後、彼女は記憶や装備をすべて失った状態で「ナザリック地下大墳墓」に閉じ込められ、アインズの主導する「実験」に実験動物として参加させられることになってしまう。改めて文字にすると中々に尖ったスタートダッシュだが、これも原作のストーリーと雰囲気をしっかりと受け継いだ展開である。

 この冒頭に結びつくシーンはすでにアニメでも放送済み。その際の強烈な描写も話題を呼んだようなので、気になる方にはぜひアニメを視聴してご確認いただきたい。とにかく、本作は開始と同時に『オーバーロード』原作のテイストをプレイヤーに知らしめてくれるというわけだ。

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 主人公たるクレマンティーヌも、見た目は美しい女性ながら「性格破綻者」と公式に銘打たれてしまうような人物である。ゲーム中でもとにかく口が悪く、ボスたちとの会話イベントでは当たり前のように挑発し、プレイヤーのミスで倒されてしまった際には「クソがァァ!」と口汚く吠える。本作では記憶こそ失えど、性格自体は変わっていないらしい。

 ちなみにクレマンティーヌの声優は、アニメ版に準拠する形で悠木碧さん『魔法少女まどか☆マギカ』「鹿目まどか」役などで大いに知られる方だが、クレマンティーヌのダーティでクレイジーな雰囲気を最高に引き立てていると感じた。

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 ゲーム内で立ちはだかるボスにも原作に登場するキャラクターたちが登場しており、特に印象的なのが発売前の映像でもその姿を見せていた「森の賢王 ハムスケ」だ。設定上は伝説的な魔獣であるが、尻尾が蛇になった巨大なジャンガリアンハムスターというそのキュートな姿でプレイヤーを迎える。

 原作通りの古風な侍言葉で語りかけてきたり、ハートを飛ばして攻撃したりと、とにかくユニークで忘れがたいキャラクターと言えるだろう。

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 基本的に本作の雰囲気はダークに統一されており、いわゆる味方はもちろん、中立的なNPCさえ存在しないという仕様がそれに拍車をかけている。出会うキャラクターはほぼ全員が敵対心をむき出しにしており、相対するクレマンティーヌの態度も上述のような挑発的なものなので、ゲームを通してピリピリとした空気が続く

 だが、その雰囲気は決して陰鬱に過ぎるというわけではなく、ライトノベルらしい軽さ、ノリの良さのようなものも強く醸し出されている。その絶妙なさじ加減は、次の項から紹介していくアクション部分のスピード感にも支えられていると感じられた。

3属性の魔法を防御に使って走り抜けていくパルクールアクション

 本項からは『ESCAPE FROM NAZARICK』のゲーム部分に関する紹介を行っていきたい。本作は2D形式の横スクロールアクションをベースとしており、入り組んだ迷宮「ナザリック地下大墳墓」をさまざまなパルクールアクションを駆使して踏破していく

 しかしゲーム開始時点では、クレマンティーヌが記憶や装備、武技を失っているためダッシュジャンプバックステップしゃがみといったごく基本的なアクションしか行うことができない。ゲームを進めていくにつれてスライディングやしゃがみ状態からのローリング、敵の裏への回り込み、武器「モーニングスター」を用いた3次元的な動きなどを取り入れていく形となっている。

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モーニングスターは一部の壁や天井に張り付くことができる

 マップ自体もゲームが進むにつれて構造が複雑化していき、待ち受ける罠のバリエーションも増加。一部には、特定の能力を入手しなければ足を踏み入れることもできないエリアも用意されている。

 各所にはファストトラベルポイントに相当するものが用意されており、こちらを経由して離れてしまった初期のステージに立ち返り、新たに習得したアクションを用いてマップの空白を埋めていく。公式サイトでも「メトロイドヴァニア系横スクロール」と謳われているように、「行けなかったところに行けるようになる」探索の楽しみがひとつの魅力だ。

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テレポート用の扉の起動にはマナが必要になる

 その探索システムを成り立たせる代表的な要素として挙げられるのが、最終的には「炎」「氷」「雷」の3種を切り替えながら使い分けていくことになる「魔法」
 である。

 それぞれの魔法は道をふさぐ木の根や氷柱といった障害物を破壊することに用いられ、さらに「氷」属性のものについては空中にいるエネミーを凍結させて足場にするという運用も可能。後半のマップギミックの踏破には欠かせない存在となる。

 発動中は各属性の弾が前に飛ぶ攻撃を行うことができるが、むしろ重要なのは装備しているものと同属性のダメージを無効化してくれるという防御面だ。各種エネミーからの攻撃をたやすく切り抜けることに役立つのはもちろん、魔法を切り替えながら辺りに設置された罠をくぐり抜けていくプレイも本作の特徴となっている。

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炎の魔法を装備することで炎ダメージを無効化

 本作のアクションにはスタミナなどといった動きを制限するシステムが存在せず、後述する戦闘面でも通じることだが、とにかくスピード感を味わわせることに特化している。徐々に複雑化するアクションも、実際に動かし順応しながらバリエーションを増やしていくため、無理なく習得していくことが可能なデザインだ。

 後半のステージは張り巡らされた罠と狭い足場といった2Dアクションゲームらしい難しさを備えているが、いわゆるジャンプアクション自体はそれほどシビアなものではない。体力回復も兼ねるセーブポイントは「そろそろ欲しいな」と思ったところで用意されていることが多く、誰でもクリアしやすいようゲームバランスは丁寧に整えられていると感じた。

防御の概念がない、超攻撃的かつスピード感あふれる戦闘アクション

 探索アクションでもスピード感が魅力の『ESCAPE FROM NAZARICK』、戦闘においてもその魅力は色あせない。クレマンティーヌが軽装を主としていることからか、本作では「防御」の概念が無いのだ。つまり、激しいパルクールアクションをそのまま生かした攻撃的なプレイスタイルが基礎となる。

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 運用できる武器は同時に3種類。もっとも基礎的な装備である「スティレット」と壁に張り付く、天井などにぶら下がるアクションを行える「モーニングスター」、そして豊富に用意されたラインナップから自由に選択して装備できるサブ武器だ。マップ中に配置されたオブジェクトから、それぞれ5段階の強化が行えるようになっている。

 スティレットは原作でもクレマンティーヌが愛用していたもので、本作では魔法を発動すると自動的にこの武器に切り替わるようになっている。ゲーム開始すぐから最終盤まで運用することになるため、優先的に強化しておいて損はない。またこちらの武器のみ、マップ中に隠されたものを見つけ出していくことで本数が増え、攻撃力が上昇していく。

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 モーニングスターはどちらかというとパルクールアクションにおける活躍が目立つが、実は対アンデッド特効があったりと武器としての運用も現実的なウェポンだ。

 サブ武器は、オーソドックスな間合いと攻撃速度を有する直剣や連撃数の多い短剣、ガードを貫通してダメージを与えるハンマーなど、それぞれ攻撃面における特徴を持つ。基本的には後半のマップで手に入れられるもの、入手までの道のりが分かりにくかったり複雑だったりするものの方がより性能が高く、探索の主たる「ご褒美」として機能している。

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 攻撃アクション自体は非常にシンプルで、攻撃ボタンを連打することで武器の連撃数に応じて繰り出されるというもの。方向キーを入力することでその方向を狙うことができ、空中では真下への刺突も行える。武器によってモーションやリーチは異なるが、非常に直感的にアクションを楽しむことができた。

 操作面で少し気になったのは回避行動「バックステップ」の仕様である。こちらは文字通りのバックステップであり、クレマンティーヌの向いている方向と逆に移動する。そのため、左に回避したい、と思ったときには方向キーを右に入力しておかなければならず、慣れないうちは頻繁にミスを起こしてしまったように思う。

 とはいえ、難易度ノーマルで武器の強化を順当に行っておけばクレマンティーヌの攻撃力に不足を感じることは少なく、ストレスフリーにゲームを進めていくことが可能だ。パルクールアクションの練度が上がればそれだけ戦闘でも動きやすくなり、自身の成長を感じることができる。

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徐々に包囲されるようなシーンも増えていく

 本作の戦闘は防御行動が無く、お互いに攻撃力が高いため、アクション自体の素早さも相まって非常に速いペースで進行する。これはボス戦さえも例外ではなく、特に序盤のボスは相手の行動をきちんと理解していなくても攻撃力と被弾後の無敵時間によって推し通せてしまうパターンも少なくなかった。

 そんな荒々しいプレイングも「クレマンティーヌ」という主人公によって表現されていれば存外絵になってしまうのが、キャラクターの魅力のなせるわざと言えるだろう。

 もちろん後半のボスになればなるほど強引に勝負を決めてしまうのは難しくなるため、きちんと相手の攻撃パターンや回避方法を見極めて戦わなくてはならなくなる。しかし、そのころには武器やアクションの幅が広がり、プレイヤー自身のスキルも向上しているはずだ。ストーリー進行に応じ成長したクレマンティーヌの戦いぶりを、自らの手で表現してやろう。

原作の魅力を表現しつつ、単体のゲームとしても高い完成度を持つ作品

 『ESCAPE FROM NAZARICK』はゲームを通して『オーバーロード』のダークな雰囲気を存分に醸し出している。主人公であるクレマンティーヌの暴力性が存分に発揮されていることをはじめ、マップのデザインも不気味かつ禍々しく、友好的な登場人物が存在しないなど、まさに「敵地」として表現されているナザリック地下大墳墓をひたすら進んでいく作品だ。

 だが、その暗さは重すぎるということはない。パルクールアクションのスピード感と「やるかやられるか」という攻撃偏重の戦闘、そしてクレマンティーヌの殺し合いを楽しむような言動によって、むしろ一種の爽快感さえ感じさせるエンターテインメントへと昇華されている

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 一方、育成要素が薄味だったり、唯一のリソース「マナ」の管理要素がストレス排除を優先するあまりかほぼ死んでしまっていたりと、あと一歩物足りなく感じる部分もあった。

 それでもゲームプレイの根幹である2Dアクションと「探索」の部分は非常に遊びやすく整えられている。難易度も3段階が用意されており「原作は好きだけど2Dアクションはあまり遊んだことがない」といったプレイヤーや、メトロイドヴァニアというジャンル名に敷居の高さを感じている方にもおすすめしやすい。

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 何より原作ファンの方にはもちろん、筆者のように名前だけを知っているようなプレイヤーでも楽しめるゲームとして仕上げられていることがありがたい。単体作品としての完成度を保ちつつ、原作への導線にもなる「原作あってのゲーム」としての価値を存分に証明していると言える。

 爽快感あふれるアクションと原作のテイストを引き出した雰囲気づくり、そして遊びやすいゲームデザインといった要素が『ESCAPE FROM NAZARICK』には詰まっている。『オーバーロード』のファンの方はもちろん、同作に興味をお持ちの方はぜひ一度本作に触れてみてはいかがだろうか。
 

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ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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