『メトロイドプライム リマスタード』──間違いなくこれは『メトロイドプライム』の決定版だ。
これから『メトロイドプライム』シリーズを始めるなら、これ一択である。
2023年2月9日、突如姿を現したNintendo Switch用ゲームソフト『メトロイドプライム リマスタード』。海外では2002年11月15日、日本では2003年2月28日にニンテンドーゲームキューブ用ゲームソフトとして発売された『メトロイドプライム』のHDリマスター版である。
『メトロイドプライム』は、探索型アクションゲームの金字塔として名高い『メトロイド』の新作。ファミリーコンピュータ(ファミコン)ディスクシステムの初代『メトロイド』、ゲームボーイの続編『メトロイドII RETURN OF SAMUS』の狭間の時間軸を舞台にした、主人公「サムス・アラン」(以下、サムス)の隠されたエピソードを描いた作品である。
『メトロイド』シリーズ初の本格的な3D作品となった『メトロイドプライム』は、特に海外で絶賛され、2002年度の「ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード」では「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」(GOTY)を受賞。
その後、続編の『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』(以下、メトロイドプライム2)の発売で、本家とは異なるシリーズとして歩んでいくことになった。
しかし、『メトロイドプライム』は近年、『メトロイド』全シリーズの中でも群を抜いて遊ぶハードルの高い作品になっていた。シリーズが展開されたゲーム機の大半が、既に現役を退いてしまっていたからである。次の世代のゲーム機でも遊べるよう、ダウンロード版を展開するといった施策はまったく行われず、過去のゲームと化しつつあったのだ。
唯一、遊ぶハードルが低かったシリーズ作はどれも外伝作品。ニンテンドー3DS向けに発売された『メトロイドプライム フェデレーションフォース』(以下、フェデレーションフォース)と同作収録のゲームモードを独立させた『メトロイドプライム ブラストボール』、ニンテンドーDS向けに発売され、WiiUのバーチャルコンソール版が展開された『メトロイドプライム ハンターズ』のたった2(+1)作である。
本編の『メトロイドプライム』から『メトロイドプライム3 コラプション』(以下、メトロイドプライム3)までのシリーズ作はニンテンドーゲームキューブ、Wii、WiiUの旧世代のゲーム機、ゲームディスクが必須とされたのだ。
そんな中、今回の『メトロイドプライム リマスタード』が発売された。
ここまでの経緯を踏まえれば、これがいかに満を持しての復活だったのかは想像に難くないだろう。
しかし、年月の経過とともに『メトロイドプライム』がどんなゲームなのか、知らない世代も増えてしまったと思われる。なにせ、本編の最終作『メトロイドプライム3』が発売されたのは2008年、15年前なのだ。
また、『メトロイドプライム リマスタード』が初お披露目された「Nintendo Direct 2023.2.9」の映像を見て、「難しそう」との印象を抱いた人も少なくないだろう。特に戦闘シーンにはそのような感想を持ったと思われる。
同時に本家の『メトロイド』とは異なる見た目に「これは『メトロイド』なのか……?」との疑問を感じた人もいるかもしれない。
実際、『メトロイドプライム』は『メトロイド』なのか?
答えはシンプルだ。紛うことなき『メトロイド』である。
では、『メトロイドプライム』は難しいゲームなのか?
1人称視点でジャンプアクションの要素があるのを踏まえれば、難しい方だろう。ただし、『メトロイドプライム リマスタード』では初めてこのシリーズを遊ぶ人に向けた新要素が導入され、入門編として適した作りになっている。
すべてをまとめれば、『メトロイドプライム』も「メトロイド オモロイド」だ。
新たにパッケージ版の販売も始まり、同期の新作でもあった『メトロイド フュージョン』がNintendo Switchで遊べるようになったいま、『メトロイドプライム』とはどんな『メトロイド』なのか。本家にして2Dの『メトロイド』とはどこが違い、なにがいつも通りなのか。
実は「ゼルダのメトロイド」とも称せる、本作の魅力をひも解いていきたい。
文/シェループ
1人称視点でも、『メトロイドプライム』紛うことなき「アクション&迷路ゲーム」
『メトロイドプライム』最大の特徴。
それは見た目通りだが、1人称視点を基本としたそのゲームデザインである。
本家『メトロイド』は横スクロールの3人称視点。
対し、『メトロイドプライム』は3Dスクロールで、サムス本人の目から見る1人称視点。
これだけでも、本家『メトロイド』の違いというのは一目瞭然だ。同時にこのような視点ゆえ、ファーストパーソンシューター(FPS)のような”弾を撃ちまくるゲームプレイ”が連想されやすい。
また別の言い方をすれば、”シューティング性が高い”、といったところだろうか。
実際、「シューティング性は高いか?」と言われれば、高い方だろう。敵との戦闘では、アームキャノンから放たれるビームによる攻撃を主体に立ち回るからだ。対峙する敵も耐久力が気持ち高めで、そこそこに撃ち込む必要がある。
だが、何も全編が戦闘に次ぐ戦闘の連続、という訳ではない。
そもそも、本作は『メトロイド』。
「アクション&迷路ゲーム」の『メトロイド』である。
その遊びのキモは、迷路のように入り組んだマップをくまなく探索し、サムスをパワーアップさせながら出口という名のゲームクリアを目指すこと。『メトロイドプライム』も見た目は違えど、そんな伝統的な遊びを踏襲しているのだ。
特に本編の舞台「惑星ターロンIV」へと降り立てば、『メトロイドプライム』は『メトロイド』であるとの印象が確固たるものになっていく。エリア間を繋ぐ「ゲート」をビームで撃って開けたり、「パワーアップアイテム」を手に入れて行動範囲を広げたり、敵への対抗手段を増やしたりなど、お馴染みの『メトロイド』がサムスの視点を通して展開されていくのだ。
もちろん、パワーアップアイテムを手に入れた時にはあの音楽も流れる。
パワーアップにも、サムス自身がボール状になる「モーフボール」を始め、『メトロイド』お馴染みのものが網羅されている。一部、3Dでは表現困難という事情から削られたり、基本性能が変更されているアイテムも存在するのだが、それらを習得することによって、どんどん行ける範囲が広がっていく楽しさはいつも通り。
最初こそ「こんな見た目なのに『メトロイド』なのか……?」という疑念が、進めていくたび……具体的には、パワーアップを続けていくにつれて「間違いなく『メトロイド』だ!」という確信に変わっていく。
だからこそ言い切れるのである。
『メトロイドプライム』は紛うことなき『メトロイド』である。
同時に3D特有の新しい遊びもある。それが「バイザー」だ。
肉眼で世界を見ないサムスの特徴を活かした「バイザー」と1人称視点の意味
なぜ『メトロイドプライム』は1人称視点なのか?
その理由のすべては「バイザー」周りのシステムで説明できる。
そもそも、サムスというキャラクターは、頭部を含む全身にパワードスーツをまとったキャラクターだ。そのため、彼女の目に映る世界は、必然的にヘルメットのバイザーを通した”肉眼ではない”ものになる。
『メトロイドプライム』は、このサムスの特徴に着目。肉眼と3人称では困難な遊びを実現させると同時に、ヘルメットを被った彼女だからこそ自然に表現できるという親和性の高さから1人称視点が採用されている。
そして、その遊びこそが「バイザー」周りのシステムだ。端的に表せば「目に映る光景を変えて秘密を暴く」だろうか。標準バイザー「コンバットバイザー」では確認できない隠し通路、特殊な仕掛け、そして敵の姿を正確に捉えるため、性質の異なるバイザーに切り替えて対処するという、1人称視点だからこそ”映える”遊びが楽しめるのだ。
同じように秘密の通路を見つけ出す装備で、『スーパーメトロイド』の「Xレイスコープ」なるものがあったが、『メトロイドプライム』はそれをさらに発展させたような感じである。しかも、サムスの視点から、まるで当人と一体になったかのような気持ちで目に見える世界が変わる様子を楽しめる。
さらに4つあるバイザーのひとつ「スキャンバイザー」を使えば、目の前に広がる世界の様々な情報、裏事情を知ることもできてしまう。
「スキャンバイザー」は「コンバットバイザー」と同じくゲーム開始時点から使えるバイザーのひとつ。主に仕掛けを動かす時に使うのが基本となるのだが、それ以外にも端末、碑文から誰かが書き残したログを取得したり、敵に使って倒し方や弱点を探り出したりといったこともできてしまうのだ。
これもまた、今まで見えていた世界が変わる楽しさを演出する。
何より、こちらは表面だけでは得られない、奥深くにある部分を知れる点で、知的好奇心と探求心を刺激する。この遊びをさらに引き立てるものとして、「スキャン率」なるやり込み要素もあるほか、得られた情報も「ログブック」へと保存され、いつでも見直すこともできるので、積極的に調べていきたくなる。
調べた対象にも「ログブック」へと保存されるものだけに留まらず、固有のテキストが用意されているため、読み物として楽しめるのも大きな見所だ。(この関係で用意されているテキスト量は『メトロイド』シリーズの中でも最多となっている)
細かいところでも、サムスの体力、ミサイルの残り弾数といったユーザーインターフェース(UI)周りも、「バイザー」に備わった機能として描写。ゲームとしての暗黙の了解で表示しているのではなく、そのような機能を持ったものをプレイヤーキャラクターが装着しているためと、必然性のあるものとして定義されている。
決して、FPSの『メトロイド』を作るためではない。3Dならではの遊び、サムスというキャラクターの特徴……彼女だけの”機能”を活かす目的から、『メトロイドプライム』は1人称視点が採用されている。まさに「機能を表現する(ゲーム)デザイン」を敢行したものとしてまとめられているのだ。
「機能を表現するデザイン」と言えば、任天堂の宮本茂氏が『スーパーマリオ』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズといった自身の関わった作品において追求されてきたものだ。
2023年現在では、そんな宮本氏の師事を受けた開発チームが手がける『スプラトゥーン』シリーズでも、そのデザインの真価が余すことなく発揮されている。
しかし、「『メトロイド』は坂本賀勇氏がプロデューサーとして統括する作品で、宮本氏は関係ないのでは?」となるところだ。
名作2Dアクション『メトロイド』シリーズの面白さとは? 生誕35周年を迎えたいま、改めて「アクション&迷路ゲーム」としての魅力を考察
これについては2021年に掲載した『メトロイド』の35周年特集の記事でも言及している通りであるが、まず『メトロイドプライム』シリーズの主な開発は、アメリカ・テキサス州オースティンに拠点を置く「レトロスタジオ(Retro Studios)」が担当している。
そして、彼らとの共同開発の指揮を執る任天堂側のチームというのが2002年当時、宮本氏が本部長を務めていた任天堂情報開発本部。本家『メトロイド』シリーズの任天堂開発第一部は監修としての参加になっていて、坂本氏はそれほど深くかかわっていない(「スペシャルサンクス」としてクレジットされている)のだ。
ついでに言えば、オリジナルのニンテンドーゲームキューブ版『メトロイドプライム』のプロデューサーは宮本氏である。(※『メトロイドプライム2』以降は、『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』などに携わった任天堂の田邊賢輔氏がプロデューサーを務めている)
そもそも、ゲームデザインの構想には宮本氏が深く関わっている【※】。そのこともあって、『メトロイドプライム』では、宮本氏のゲーム定番の「機能を表現するデザイン」が色濃く現れているのだ。
※「鮮烈なデビューを飾った開発会社レトロスタジオに聞く!」(「METROID OFFICIAL SITE」)にて、その一端が語られている。
そのためか、『メトロイドプライム』は本家『メトロイド』にも増して『ゼルダの伝説』っぽさがある。実際、謎を解いた時にも本家『メトロイド』にはない特徴的なジングル【※】が鳴り響くといった、『ゼルダの伝説』がすぎる演出もあるぐらいなのだ。
※このジングルは2017年発売の『メトロイド サムスリターンズ』(ニンテンドー3DS)で本家シリーズにも逆輸入された。しかし、ごく一部で使われるだけという意味深なものになっている。
ものすごく”『ゼルダの伝説』感”のある戦闘システムと意外な遊びやすさ
また、『メトロイドプライム』は戦闘システムもビックリするほど『ゼルダの伝説』である。
「いや、1人称視点の時点で違いまんがな」
「サムスは剣士じゃないでしょ」
「『メトロイド』と書いてあるだろ」
と、ツッコミの雨あられのイシツブテかもしれないが、あえて二度言い切ろう。
『メトロイドプライム』の戦闘システムは『ゼルダの伝説』である。
具体的には『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に象徴される3Dの『ゼルダの伝説』だ。
前述の通り、初めて『メトロイドプライム』の戦闘シーンを目にした人ほど、(難易度や遊びやすさの面からも)「難しそう」との印象を持ちやすい。なまじ1人称視点、FPSと同じゆえ、敵に照準を正確に定める「エイム力」が必要とされそう、だと。
はっきり言って、それは大きな誤解である。
そもそも『メトロイドプライム』に「エイム力」なるものは必要ない。それどころか、FPSをまったく遊んだことがない人でも、簡単に敵に攻撃を当てられる作りになっている。
なぜなら、ワンボタンで敵に狙いをつけてくれる「ロックオン」があるからだ!
もちろん、自由に照準を動かせるFPSおなじみの「フリーエイム」もある。しかし、これで戦うのはほとんど縛りプレイに等しい。基本的には敵をロックオンし、正確に狙いをつけた状態でビームを撃ち込み、時に左右へと素早く動く「サイドステップ」で反撃を回避するのがセオリー。狙いをつけるために右スティック、ジャイロセンサーを動かす必要はない。見た目とは裏腹の直感的仕様なのだ。
映像だと激しく動いているように見える戦闘シーンだが、実は最小限のボタンとスティックの操作で、あれだけの立ち回りができる。まさに「目に見えるものだけが全てではない」のである。「目に見えるものだけを信じるな」とも言う。
そして、この一連の特徴に『ゼルダの伝説』を知る人ならば感づいただろう。
「ロックオン」って「注目システム」ではないか、と。
まさしくその通りである。ついでに言えば、ロックオンのボタンも『ゼルダの伝説』と同じくZLボタンだ。左右方向へと高速で動き、回避する「サイドステップ」のアクションも、『ゼルダの伝説』で言うところの「横っ飛び」である。
言うなれば、『メトロイドプライム』は遠距離武器主体、常時1人称視点で戦う3Dの『ゼルダの伝説』。『メトロイド』らしさよりもそっちに寄った手触りになっているのだ。
そのため、3Dの『ゼルダの伝説』を遊んだことのある人ほど、本作の「ロックオン」主体に立ち回る戦闘スタイルには強烈な既視感を覚えるだろう。人によっては『メトロイド』なのに『ゼルダの伝説』を遊んでいるかのように錯覚するかもしれない。
もちろん、細かいところでは『メトロイド』特有の戦術も試されたり、難易度調整の方向性も異なっている。副装備の「ミサイル」を撃って大きなダメージを与えたり、現在装備中のビームを別の種類のものへと切り替え、対処するといったものがそれだ。
戦闘においても、作中における強敵としてサムスの前に立ちはだかる「スペースパイレーツ」(宇宙海賊)に象徴される、激しい撃ち合いもある。(そして、1体をロックオンしている状態であっても、それ以外の敵は容赦なく攻撃を仕掛けてくる)
しかし、敵に攻撃がほぼ確実に当たる保証がある中、戦闘が展開されるのはすごく『ゼルダの伝説』らしい。元々、『メトロイド』と『ゼルダの伝説』は発売された年がいっしょの同級生で、『メトロイド』は横スクロールの『ゼルダの伝説』とも称されることがある。その両者が意気投合したかのようなものに『メトロイドプライム』の戦闘システムは完成されていて、『メトロイド』経験者にとどまらず、『ゼルダの伝説』の経験者にも不思議な既視感を提供してくれるのだ。
何より面白いのがこの戦闘システム、そして前述のバイザーも含め、かつて『ゼルダの伝説 時のオカリナ』で検討されたという「1人称ゼルダ」を実現していることだ。
2011年、ニンテンドー3DSで発売された『ゼルダの伝説 時のオカリナ3D』の「社長が訊く」で、同作の3Dシステムディレクターを務めた任天堂の小泉歓晃氏がそれにまつわる次のようなエピソードを語っているのである。
小泉氏:
最初、宮本さんと「N64の『ゼルダ』をどうしようか」という話をしたら「リンク、出ないようにしよか・・・」と言ったんです。岩田氏:
え? そんなことを宮本さんは言ったんですか?小泉氏:
はい。主観視点のゲームにしたいと。岩田氏:
ああ、FPS(ファーストパーソンシューティング)視点の 『ゼルダ』にしようということだったんですね。小泉氏:
そうです。最初は主観視点で歩いていて、そこに敵が現れると、画面が切り替わって、リンクが登場し、横から見る戦闘みたいなものを最初はイメージしていました。(社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ 篇 その1:「チャンバラができる『ゼルダ』に」より一部引用)
最終的に1人称視点のゼルダは、「絵的に面白くない」ことからボツになったことが続けて語られている。ただ、1人称視点自体は完全には廃されず、「パチンコ」「弓矢」のアイテムを使った時をはじめ、部分的な形で採用された形だ。
そのようなエピソードがあったのを踏まえ、『メトロイドプライム』を見てみるといかがだろう?まさにボツになった1人称の『ゼルダの伝説』が、サムスというキャラクターの特徴によって実現されているのだ。
『ゼルダの伝説』の主人公リンクは、肉眼で世界を見るキャラクター。(設定上の話はさておき)基本的には普通の人間と同じであるから、1人称視点にしても”絵的な面白さ”が出しにくい。
だが、サムスだとそのキャラクターの特徴から”絵的な面白さ”が出せる。
まさに「アイデアとは、複数の問題を一気に解決するもの」という宮本氏の哲学を表すがごとく、『ゼルダの伝説』の時は実現せずに終わったアイディアを『メトロイド』と題材を置き換えて形にしているのだ。
確かに見た目が1人称の時点で『ゼルダの伝説』とは違う。シューティング性も高いし、難易度調整の方向性も異なる。また、足場をジャンプで渡っていく場面など、マップデザインはアクションゲームとしての『メトロイド』全開だ。
しかし、とりわけ戦闘の手触りは驚くほど『ゼルダの伝説』に近い。加えて狙いが外れることがほとんどないため、直感的に楽しめる。
だからこそ、動画を見て「難しそう」との印象を抱いた人ほど、騙されたと思って触ってみていただきたいのだ。きっと、その意外な遊びやすさと、ほのかに漂う『ゼルダの伝説』の香りに(いい意味で)戸惑うはずである。
とは言え、ジャンプで足場を渡っていく場面、「スペースパイレーツ」に象徴される強敵の存在から、難易度的には「難しい」部類に相当する。
なにせオリジナルの国内ニンテンドーゲームキューブ版『メトロイドプライム』は、先行した海外版よりもアイテムの発生率、敵の強さが底上げされている。海外版より国内版の方が難しいという、当時としては珍しいバランス調整が図られていたのだ。
── アメリカ版と日本版の違いはあるんですか?
田邊氏:
『プライム』のほうは結構変えてるんですよ。アメリカ版のときは発売日に間に合わせるためにあきらめたことがあって、日本版 ではそのような部分を足しました。── ほう。
田邊氏:
でも若干なので、普通に見てたらわからないようなところなんです。例えばボスの細かい仕様や、プレイしていると「あそこに行け」とかヒントが出るようになってますけど、日本版のほうがヒントが少なめになってます。だから、アメリカ版のほうはあまり悩まずにさっさか進めるようになってるんです。それは、ユーザーに対してわかりやすくしてほしいという、アメリカのマーケティング担当者からのリクエストもあったからなんですけど、『メトロイド』ってもともとうろうろするゲームじゃないですか。だから日本版のときは、あまりヒントを入れすぎると面白くなくなるんじゃないかってことで、あえてはずしたんですね。
山本氏:
シリーズの、壁をしらみつぶししていくような感覚をそのままキューブ版にももっていこうと。田邊氏:
それに、敵の難易度やアイテムの発生率なんかも日本版のほうがきびしいんです。山本氏:
珍しいパターンで。(「METROID OFFICIAL SITE」:開発者インタビュー「ついに完成した日本版!北米版との違いは?」より一部引用)
※本インタビューは「Nintendo DREAM 2003年3月21日号 Vol.85」にも掲載
だが、『メトロイドプライム リマスタード』ではシリーズ初心者に最適な「カジュアル」が新たに追加されたことで、難しさはある程度緩和されている(逆に「ノーマル」はオリジナル版を元にしている)。
もし、『メトロイドプライム』を遊ぶのは初めて、FPS系のゲームも初めてとあれば、「カジュアル」から始めることをそれはもう、大きな声でオススメしたい。
「手ごわいのがなんだ!」「低難易度が追加される前の『メトロイド ドレッド』をクリアしたんだぞ!」「『E.M.M.I.』(エミー)なんぞ屁でもなかったわ! 」「俺は『メトロイド』だ!!」【※】という人は迷わず「ノーマル」で行こう。
そして、本編で「スペースパイレーツ」の強さに恐れおののくがいい。本家『メトロイド』でしか、彼らを知らない人ほど困惑するはずだ。
もっとも、一番恐ろしいのは「チョウゾゴースト」なる敵なのだが。
※念のためだが、浮遊生命体の「メトロイド」ではなく、鳥人族の言葉で「最強の戦士」を意味する「メトロイド」のことである。ちなみに「最強の戦士」御用達の高難易度「ハード」も用意されている。
細かい部分にも「『メトロイド』だ」と納得させられる要素が
『ゼルダの伝説』の話が続いたが、『メトロイド』としても、前述の探索重視のゲームデザイン、パワーアップアイテムに”らしさ”が現れている。細かな『メトロイド』らしさを象徴するものでも、もはや定番中の定番たる脱出シークエンス、タイムアタックのやり込み要素といったものが網羅されている。
ただ、後者は初見の平均クリア時間が20~25時間程度と、本家『メトロイド』よりボリュームが大きいことから、早くクリアすれば特典が手に入る類のやり込み要素はない。そのようなものは「スキャン率」と「アイテム回収率」に割り振られている。ゆえに完全クリアを目指す難易度は本家『メトロイド』よりかは(気持ち)低めだ。
また、宮本氏のチームが指揮を執っていると言及したが、音楽は本家『メトロイド』のスタッフで、『スーパーメトロイド』以降のシリーズに携わっている山本健誌氏が作曲を担当。
それもあって、怪しい場所では不気味な楽曲になったり、逆に神殿エリアではコーラスを交えた神々しい楽曲が流れるなど、『メトロイド』らしさを的確に押さえたものになっている。一部、初代『メトロイド』と『スーパーメトロイド』のアレンジ楽曲が流れるファンサービスもある。
さらに本家『メトロイド』に比べ、『メトロイドプライム』シリーズはキャッチーで印象に残る楽曲が多い。ゲーム開始間もないモード&セーブファイル選択画面、「惑星ターロンIV」の玄関口に当たるエリア「ターロンオーバーワールド」の中盤、スペースパイレーツとの戦闘、あるタイミングで訪れる水没した戦艦内部はその象徴だ。
また、『メトロイドプライム リマスタード』ではサウンドテスト(サウンドギャラリー)も標準で実装。条件達成の必要こそあれど、解禁してしまえばあとは聴き放題なので、ぜひチャレンジしてみていただきたい。
『メトロイドプライム リマスタード』に関するトピックでは、操作も2つのスティックを使う「デュアルスティック操作」、『Wiiであそぶ メトロイドプライム』の操作を再現したジャイロセンサーによるフリーエイムを可能にする「ジャイロ操作」、双方の特徴をミックスした「ハイブリッド操作」、そしてニンテンドーゲームキューブ版の操作を再現した「クラシック操作」の4種類から選択可能となり、プレイヤー好みのスタイルで遊べるようになっている。
動画を見て「難しそう」と同時に「酔いそう」と感じた人もいるかもしれないが、それについては心苦しいが『メトロイドプライム』は酔いやすいと言わざるを得ない。特に「クラシック操作」はスティックを1本しか使用せず、移動中の視点微調整(主に上下方向)がほぼ不可能な点で非常に発症しやすい。逆に視点の微調整が可能な「デュアルスティック操作」と「ジャイロ操作」、「ハイブリッド操作」は視点微調整が可能なため、発症率が低めである。
この辺りは個人差に左右されるため、非常にきわどい。ただ、もし酔いへの心配があれば「デュアルスティック操作」をお薦めしたい。
『スプラトゥーン』をやり込んでいる人は「ジャイロ操作」、「ハイブリッド」がいいだろう。「クラシック操作」はほぼ趣味の域になるので、気になればという感じに。
なお、操作と感度設定はゲーム中にポーズ画面からいつでも切り替え・調整可能だ。
珠玉の決定版が誕生。そして、気になる『メトロイドプライム4』に向けた今後
オリジナルのニンテンドーゲームキューブ版の時点でも、高い完成度を誇っていた『メトロイドプライム』。今回の『メトロイドプライム リマスタード』は後発のWii版で追加された要素をすべて内包し、新たな「デュアルスティック操作」も加えてより遊びやすくなった決定版に完成されている。
基本の内容も大きな変更はないものの、1人称視点である必然性を出したゲームデザイン、高度に表現された『メトロイド』らしさは発売から20年以上が経った今もなお、色褪せない魅力がある。
グラフィックもリマスターならではの美しさ、生々しさが炸裂した仕上がりだ。
細かい部分で見ると、気になる所もある。「チャージショット」が3点バースト形式(※ビーム3発の射出後にチャージが始まる仕様)になって使い勝手がやや悪くなった、一部爆発エフェクト(特に「ヴォルテックス」系の敵を倒した時のエフェクト)が抑え気味になったのがそれだ。また、開発スタッフが増えた影響もあってエンディングのスタッフクレジットが長くなり、楽曲の締めが変更されている(しかも、そのタイミングが非常に悪くなっている)のは、件の場面が好きだった人間としては残念でならない。
しかし、年々遊ぶハードルが上昇傾向にあった『メトロイドプライム』シリーズの悪い流れが、このたびの『メトロイドプライム リマスタード』で断たれたのは嬉しい限りだ。本稿執筆時点では不明だが、これから続編の『メトロイドプライム2』、『メトロイドプライム3』と、順次リマスターされ、完全新作の『メトロイドプライム4』へと繋がる展開を心待ちにしたい。
そもそも、『メトロイドプライム4』は『メトロイドプライム3』の後を舞台にしたストーリーになる可能性が非常に高い。
『メトロイドプライム』シリーズのストーリーは連作形式で、3作目の『メトロイドプライム3』で謎の放射性物質「フェイゾン」をめぐる戦いは決着した。本家シリーズ3作目の『スーパーメトロイド』で浮遊生命体「メトロイド」が絶滅したように、『メトロイドプライム』もそのような一区切りを迎えたのだ。
だが、『スーパーメトロイド』と違うのは、次回作への伏線が貼られていたことである。詳細は省くが、サムスを付け狙う何者かの姿が示唆されていたのだ。
なのになぜ、『メトロイドプライム4』がすぐに出なかったのか?それは開発担当のレトロスタジオで、任天堂も公にするほどの”事件”が起きたことにある。
事件の一端については、任天堂公式サイト記載の「社長が訊く『ドンキーコングリターンズ』」の冒頭で語られているので、そちらを参照いただきたい。同時にレトロスタジオに戻ったことに「大丈夫?」と、不安を抱いていた一部ファンの心情が少し分かるはずだ。
正直、筆者もレトロスタジオの事件を知っていた人間で、不安があった。
しかし、今回の『メトロイドプライム リマスタード』の出来栄えから、杞憂に終わりそうな期待を持てるようになった。唯一、気にかかるのは『メトロイドプライム2』、『メトロイドプライム3』と続き、シリーズのゲームデザイン、ストーリーの表現手法がどんどん『ゼルダの伝説』に寄って行った経緯だ。
『メトロイドプライム2』以降は、ひとつの決められたストーリーに沿って本編が展開されるようになり、探索の自由度が下がっていったのだ。むしろ、シリーズの中で最も本家『メトロイド』に近い作りをしていたのは、初代『メトロイドプライム』なのである。
その流れを『メトロイドプライム4』も引き継ぐのか、それとも原点回帰を果たすのか?
気になる詳細はまだ当面先の話となりそうだが、今はただ、『メトロイドプライム リマスタード』を遊んで感覚を取り戻しつつ、来たる時を待ちたい限りだ。(実はこれを書いている時点で3周目を開始しているこの頃である)
続く『メトロイドプライム2』、『メトロイドプライム3』のリマスター版の登場も、いちファンとして心待ちにしている。究極的には『メトロイドプライム4』に絡む人物が登場している外伝作、『メトロイドプライム ハンターズ』と『フェデレーションフォース』もまた、何らかの形で復刻されることも願いたい。
双方、バーチャルコンソール版と3DSダウンロード版が2023年3月28日午前9時をもって販売を終えるからだ。
これまで『メトロイドプライム』の名前は知っていたけど、遊んだことはなかったという人も、今回のリマスター版は自信をもっておすすめできるものになっている。前述の通り、このシリーズに関しては『ゼルダの伝説』が好きな人にもお薦めできる見所がある。
サムスの視点から、『メトロイドプライム』ならではの「メトロイド オモロイド」を満喫してみよう。