2021年8月6日で『メトロイド』の誕生から35年になる。
1986年2月21日発売のファミリーコンピュータ(ファミコン)向け周辺機器『ファミリーコンピュータ ディスクシステム』(ディスクシステム)専用タイトルとして発売された『メトロイド』。
見た目は『スーパーマリオブラザーズ』などに象徴される横スクロールのアクションゲーム。しかし、舞台となるステージは迷路のように複雑で広大。さらに随所にアイテムが隠されており、それらを手に入れて主人公のサムス・アラン(以下、サムス)を強くしながら進めていくという、当時としては斬新な遊び心地のゲームに完成されていた。
それがコアなゲームユーザーから高く評価され『メトロイド』は任天堂を代表するシリーズ作品のひとつになった。
同時に『メトロイド』が確立したプレイスタイルは「探索型」と称され、横スクロールアクションゲームの新たな方向性を開拓するに至っている。
だが、『メトロイド』の人気というのは日本よりも海外が勝る。近年では 『月下の夜想曲』以降アクションRPGに一新された『悪魔城ドラキュラ』シリーズの海外名「Castlevania(キャッスルヴァニア)」と組み合わせた「メトロイドヴァニア(メトロヴァニア)」なる造語の広まりで、日本でも探索型のアクションゲームはユーザー、メディアの間でそのように称されるようになっている。
しかし、いちメトロイドファンの筆者個人としては、日々その使い方に違和感を抱いている。なぜなら、「メトロイドヴァニア」と称されるゲームには、しばしば『メトロイド』というよりは『悪魔城ドラキュラ』寄りだったり、『リンクの冒険』、『モンスターワールド』などの別の作品を例に挙げるのが正確に見える例が多いからである。逆に『メトロイド』に寄っているのに、「ヴァニア」が付けられることもある。
こうした例が目立つのも、『メトロイド』の国内知名度が起因しているのでは、と考える。任天堂の大人気シリーズ『大乱闘スマッシュブラザーズ』では初代からサムスが出演していることもあり、後に「ゼロスーツサムス」や「リドリー」も参戦するなど、キャラクターへの一定の知名度はあると言えるだろう。
しかし、ゲームとしての『メトロイド』はどうだろう?全体的にコアなユーザー間で支持されているマニアックな作品とのイメージが先行していて、その醍醐味や特徴、支持される背景はよく把握されていないのではないだろうか。
実のところ、筆者も改めて考えてみると、『メトロイド』のゲームとしての醍醐味、支持される背景はよく分かりきれていない思いがある。
そこで35年を迎えたこの日、改めて『メトロイド』のゲームとしての醍醐味、特徴、支持される背景などをシリーズの歴史も交えつつ、集約してみることにした。これが少しでもメトロイドというゲームの特徴、魅力を把握する一助になれば幸いだ。
文/シェループ
『メトロイド』の生い立ち──突貫工事の末の誕生
まず『メトロイド』というゲームの誕生についてである。前述の通りだが、本作はファミコンディスクシステム用のゲームとして開発され、1986年の8月6日に発売された。
開発を担当したのは『ウルトラハンド』、『ゲーム&ウオッチ』などの初期の任天堂を支える大ヒット商品を生み出した故・横井軍平氏が部長を務められた任天堂開発第一部。そこに所属する新人デザイナー2人が原案を考え、最終的に開発第一部のメンバーを助っ人として総動員し、完成に漕ぎ着けたという。
具体的な経緯は任天堂公式サイト(1、2)に掲載されているため、以降はそこからの要約及び抜粋になるが、原案当初から探索型のゲームイメージはなかった。
「飛んで走って撃つ」を軸に、当時大ヒットしていた『スーパーマリオブラザーズ』にはなかった仕様を組み込んだアクションゲームを目指していたという。
だが、最終的なゲームの完成像がないまま時間が過ぎ、確約されていた発売日が迫る。時間が限られたことから新要素の追加も難しかったため、動員された助っ人のメンバーは出来上がった素材を元に迷宮を探索し、主人公を強くしていく探索型のゲームデザインを考案。 同じ柄の背景だけが続くだけだったマップも迷路のように組み換え、『メトロイド』は晴れて現在の形となるに至った。
当時、助っ人のひとりとして参加した任天堂の坂本賀勇氏は「ある種リサイクル的発想で作られているんですね」と、後年のインタビューで回答している。
「新しい仕様を入れる余裕はないけど、要素は足りない。で、背景の柄は同じだけど、ヒットチェック(当たり判定)だけ外した部分を作っておくと、隠し通路になる。同じ方法で見た目には溶岩が煮えたぎっているけど、飛び込んだら意外と下に行けたとか。『メトロイド』は、ある種リサイクル的な発想で作られているんですね。限られたパーツを使い、みんな総掛かりでやったから、いろんな人のいろんな声が反映されているんです。」
(『CONTINUE Vol.10』135ページより一部引用)
初代『メトロイド』は、まさに(言い方が良くないが)突貫工事の末に誕生したゲームだったという訳だ。
なお、坂本氏は後年のシリーズ第3作『スーパーメトロイド』(スーパーファミコン)でディレクターを務められ、現時点でもメトロイドシリーズのインタビューに決まって登場することから、メトロイドの生みの親と扱われることがある。しかし、初代『メトロイド』の開発経緯が指す通り、氏は終盤に参加した助っ人のひとり。
さらに探索型の原型を作り上げたのも当時の開発第一部のメンバー全員だった。
このため、坂本氏は「『メトロイド』は僕が思いついたゲームではないんです。」と、2003年の『メトロイドフュージョン』発売当時のインタビューで発言し、一連の誕生までの経緯を明らかにしている。
また、2010年に開催されたGDCの講演においても、
「『METROID』の生みの親」と呼ばれることには抵抗があります。どちらかといえば自分は「サムスの育ての親」だと自覚しています。『METROID』の生みの親はやはり、(『メトロイドII RETURN OF SAMUS』に登場する)クイーンメトロイドでしょう(笑)。
と回答し、自身がどのような立場でメトロイドに関わるようになり、そのゲームデザインが誕生するまでの経緯を語っている。
ただ、メトロイドの人気を決定付けた名作『スーパーメトロイド』の総指揮を務め、その後の続編でも開発の中核にいることから、坂本氏が『メトロイド』シリーズにおける重要な人物であることは間違いないだろう。
「アクション&迷路ゲーム」と称される『メトロイド』
誕生の経緯はこの辺にして、『メトロイド』のゲーム部分の掘り下げに入ろう。
ジャンルとしては『スーパーマリオブラザーズ』に象徴される横スクロールのアクションゲームである。だが、マリオとの最たる違いは「コース(もしくはステージ、レベル)」と「ゴール」の概念がないこと。舞台となる地形の端には「ゲート」という区切りこそあるものの、そこを通ると隣の地形へと移り、再び行動が可能になるという地続きの構造になっている。
明確に「ゴール」と言えるものは、ゲームクリアだけ。
こうした特徴から、『メトロイド』とはゲームクリアというたったひとつのゴールを目指し、地続きの長くて複雑な土地を進んでいくアクションゲーム、とも言える。また、地形は横に広いだけでなく、縦状に長いものから狭い小部屋まで、様々な種類がある。こうした地形が「ゲート」と共に横に繋がり、広大な迷路(迷宮)のような世界を作り上げている。
当時のテレビコマーシャルは、この構造を元に「アクション&迷路ゲーム」と『メトロイド』のことを称しているのだが、実際、ひとつしかないゴールという名の出口を目指す過程は、迷路そのものである。
このことからも、『メトロイド』は迷路ゲームとも称せるだろう。
この「迷路」という単語は、以降のメトロイドでも作品の特徴を示すキーワードになっている。
実際に所々に行き止まりがあったり、見えない所に隣の地形と繋がった通路が隠されていたりと、ゲームプレイの基本は「先に進むための道を探していく」ことであり、まさに迷路に近い遊び心地となっている。
だが、『メトロイド』はただの迷路ゲームとして完結しているわけではない。アイテムによるパワーアップを重ねることによって、だんだんと踏破できる範囲が広くなるように設計されているのだ。
地形のあちこちに特殊なアイテムが設置されており、それを取ると主人公のサムスがパワーアップ。ボールのように身体を丸めたり、ジャンプ力が大幅に上がったり、通常攻撃であるビームの射程が伸びたり、ビーム以上に強力なミサイルが発射できるようになったりと、特殊なアクションが可能になっていくのだ。
そのパワーアップと同時に狭い通路を通れるようになったり、ビームでは開けられないゲートを開けられるようになるなど、行動範囲も広がっていき、より迷宮の奥へ足を踏み入れられるようになる。
そのようにプレイヤーを強くしながら、動ける範囲を広げ、ゲームを進めていく。これこそが『メトロイド』の面白いところで、単純に地形のあちこちを歩き回っていくだけに留まらない、起伏あるゲームプレイを実現させている。
当時、似たようにアイテムを手に入れ、行動範囲などが広がるゲームと言えば、同じ1986年に任天堂から発売されたアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説』があるが、まさに『メトロイド』はそれを横スクロールのアクションゲームに置き換えた感触に近い。『ゼルダ』からダンジョンだけを抽出したゲームとも言えるのだ。
しかし、パズルを解くといった謎解きらしい謎解きがないのは『メトロイド』特有のもの。基本的には行動範囲を広げ、行き止まりと思しき場所を通過できるようにしていくのがキモで、いかにも迷路のゲームらしい遊び心地になっている。
ただ、同じ『メトロイド』でも、2002年に誕生した3Dの一人称視点を採用したメトロイドこと、『メトロイドプライム』のように本格的な謎解きが用意された作品もある。
この『メトロイドプライム』は、(当時の)宮本茂氏が本部長を務める任天堂情報開発本部の田邊賢輔氏率いるチームとアメリカのレトロスタジオが開発し、坂本氏を始めとする本家のチームは監修の立場になっている。そのため、謎解きの部分には若干、『ゼルダ』の色が滲み出ている。
だが、基本はパワーアップしながらアクションを増やし、行動範囲を広げていくことを軸にした構成であり、「迷路の出口を目指す」という『メトロイド』の原点は厳守されている。
主に骨組みの部分に焦点を当てたが、メトロイドがどのようなアクションゲームなのか。何を醍醐味にしているのか。
それは「迷路」、「道探し」、「成長」の3つのキーワードで表せるだろう。
『メトロイド』を『メトロイド』たらしめるもの
しかし、近年のように探索型のアクションゲームが増えた中では、一連の特徴は普遍的になってしまった節もある。逆にそれ以外で『メトロイド』を『メトロイド』たらしめるものとは何なのだろうか。
『メトロイド』シリーズを長年追い続けてきた筆者は、下記に挙げる10の事柄が『メトロイド』を『メトロイド』たらしめている要素だと考えている。
(1)アクションゲームであること
何を今更な話だが、『メトロイド』はアイテムによる成長要素はあっても、最終的なゲームクリアのカギになるのはプレイヤーの操作技術である。
難所を乗り越えるのも、強いボスを倒すのも、サムスというプレイヤーの分身をいかに上手く動かせるか次第だ。回復アイテムをお店で買い込んだり、そのためのお金を稼いで貯蓄するような救済要素、力押しの余地は初代『メトロイド』に限らず、以降のシリーズも一部を除けば存在しないと言っていいだろう。
力押しは決してできなくもないが、全ては探索を通してどれだけのアイテムを集められたかにかかってくる。まさに純粋なアクションゲームなのだ。
(2)「飛んで走って撃つ」を軸にしたアクション
サムスの基本装備は遠距離武器のビーム。このため、敵との戦闘では距離を取ってビームを撃ち込んでいく、シューティング色の強いものになっている。射程距離を伸ばす、凍結・貫通効果を加えるなど、パワーアップもビーム攻撃に集約されている。後年のシリーズでは近接攻撃技も登場しているが、敵を倒すに当たっての基本は「撃つ」ことだ。
近年の「メトロイドヴァニア」と称される探索型作品では、基本攻撃が近接(剣を振るなど)である傾向が非常に高い。だが、『メトロイド』は遠距離主体であり、近接はあくまでも補助的な役割だ。さらに走ること、ジャンプの行為そのものが攻撃になるパワーアップ(前者スピードブースター、後者スクリューアタック)もある。
こうした「飛んで走って撃つ」を軸にし、全体のアクションを統一させているのは、「メトロイドらしさ」と称してもいいところかもしれない。
(3)ビームを撃って開く「ゲート」
隣の地形、部屋などの直前にはビーム攻撃を命中させると開く「ゲート」が必ず設けられている。「通過点・扉に等しいものを攻撃し、その先に進む」という過程は、改めて考えてみるとけっこう独特だ。初代『メトロイド』に限らず以降の続編、『メトロイドプライム』シリーズでもこのゲートはお約束のように登場しており、まさに『メトロイド』を『メトロイド』たらしめるものと言えるだろう。
(4)自然に練習させて気付かせる地形
アイテムを取得すると新しいアクションが可能になって、行動範囲が広がる。
しかし、そのアクションで一体、どのようなことができるようになる?
そんな疑問に回答するかのように、プレイヤーに練習と理解を促す地形デザインというものが『メトロイド』では全編に渡って徹底されている。初代『メトロイド』の場合、一番最初に手に入るアイテム『モーフボール』が置かれた地形がその象徴だ。
ただ、初代『メトロイド』は突貫工事で作られた経緯から、一部のアイテムはこうした地形になっていないことがある。だが、以降のシリーズではこの部分に磨きがかけられていき、実際にサムスを動かしながら使い方を理解させる構造を確立させている。
後年のシリーズでは、最小限のテキストも交えた操作方法解説も導入されるようになり、さらに親切になっている。こうしたプレイヤーがやらされている気持ちにならないよう配慮する地形作りは、『メトロイド』のお家芸と言える。
余談だが、『ゼルダ』でも新しいアイテムを入手した際にはこうした地形になっていることが多い。その点では『ゼルダ』らしい部分、と言えなくもない。
(5)孤独感
『メトロイド』というのは基本、主人公サムスただひとりが戦うゲームである。一緒に探索を共にしてくれたり、後方から支援してくれる仲間はあまり登場せず、孤独な気持ちを喚起させやすい。そして、この設定を逆手に取り、突然中ボスが現れて戦闘になったり、見えない何かが近づいてくるような恐怖感を煽るといった演出が盛り込まれている。
この特色が一番強調されているのは『メトロイドII RETURN OF SAMUS』だろう。
また、『メトロイドフュージョン』、『メトロイドプライム3』、『メトロイド アザーエム』のようにサムス以外の仲間が登場したり、共闘するシリーズ作も存在する。しかし、そのような設定でも基本、ひとりで行動する場面が多いため、孤独というのは『メトロイド』が持つ雰囲気全体を示すキーワードのひとつだろう。
ちなみに主人公のサムスも幼い頃、両親を失っていることから天涯孤独の身である。
(6)ハードSF調の世界観と薄暗さ
孤独感と関連する特色だが、シリーズの世界観はハードなSF調で、舞台となる場所も地下空間であるなど、全体的に暗い作風である。また、敵として現れるクリーチャーたちもまさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)と呼べる不気味な容姿をしている。
タイトルにもなっている強敵「メトロイド」もクラゲのような見た目に加え、こちらに近づいてまとわり付き、エネルギーを吸い取り続けるという恐怖の存在として確立している。そういったデザインの方向性もあって、マリオやゼルダのような明るい感じの任天堂らしさが無い(任天堂らしくない)のが、そもそものメトロイドらしさと言えるかもしれない。
(7)エリアごとの空気の表現に徹した演出
何か隠されていそうな場所では不穏な音楽が流れたり、環境音主体に切り替わったりなど、『メトロイド』の音楽は雰囲気を重視した作風になっており、この関係で場所ごとの空気の違いが如実に描かれているというのが大きな特徴になっている。
とりわけ、坂本氏がディレクターとして関わったシリーズ作(スーパーメトロイド、メトロイドフュージョンなど)ではその傾向が特に強く現れている。
これは氏の代表作のひとつであり、リメイク版の発売が記憶に新しい『ファミコン探偵倶楽部』の開発を通して坂本氏が確立した「空気を操る演出術」が影響していると思われる。氏の演出術については別稿で解説しているので、詳しくはそちらを参照されたい。
(8)探索自由度の高さとタイムアタックの楽しみ
アイテムを見つけてアクションを増やし、行動範囲を広げていくのが『メトロイド』の基本的な進め方だが、実は全てのアイテムは必ず取らなければならないわけではなく、一部は無視して進めていけるように設計されている。
そのためには高度な操作技術が試されることもあるが、おかげでどれだけクリア時間を縮められるかに挑戦するタイムアタックが非常に楽しく、シリーズファンの間では定番のやり込みになっている。
また、初代『メトロイド』では短い時間でクリアすれば、サムスがヘルメットを脱ぎ、素顔を見せてくれるという特典もあった。その正体が実は女性で、さらに短い時間でクリアすると、水着(のような)姿になるとの仕掛けもあったことが大きな話題を呼び、以降、シリーズでは短い時間でのクリアを目指すという遊びがお約束になっている。
(9)お約束の脱出シークエンス
同様にシリーズお約束になっているイベントのひとつに「脱出シークエンス」がある。制限時間以内に崩壊する要塞や戦艦から逃げ延びるというものだ。初代『メトロイド』から登場しており、以降、(一部例外がありつつも)シリーズのお約束として定着している。
『メトロイド』と言えば脱出、といってもいいぐらいだ。
(10)「驚き」に対する探究心
そして、メトロイドは常にゲームとしての「驚き」を追い求めている。
初代の時点では、脱出シークエンスとサムスの正体ぐらいしかないが、いずれも何の予告もなく判明する要素だけあって驚きの度合いは高い。
そして続くシリーズでは、遊びの面での「驚き」にこだわるようになる。『メトロイドII RETURN OF SAMUS』では地下空間内に潜むメトロイドたちを探して狩る遊びにゲームデザインを一新したり、『メトロイドフュージョン』ではストーリー性の強化とサムスを模した強敵「SA-X」に追撃されるイベントを設けるといったものだ。
また、開発陣の異なる『メトロイドプライム』でも3Dへの一新に加えて、「バイザーシステム」による謎解きを設けるなど「驚き」は大切にされていて、一作ごとに独自の面白さと刺激を追求している。
さらには2006年発売の『メトロイドプライムピンボール』で、その名の通りのピンボールゲームにしてしまったり、2016年発売の『メトロイドプライム フェデレーションフォース』ではサムスを脇役にし、統治組織「銀河連邦」の一兵士を主役にしたストーリーと共闘型のFPSというジャンルに挑むなど、思い切ったこともやってのけている。
前述の通り、シリーズには「お約束」と呼べるものも多々ある。しかし、それを残しつつ、遊びの根幹を大胆に変えることも容易にやってのけてしまうのが『メトロイド』という作品であり、シリーズが根強く支持され、話題になりやすい「メトロイドらしさ」とも言えるだろう。
どんなに派生が増えようと、メトロイドはメトロイドである。
主要なものは上記に挙げたとおりだが、『メトロイド』を『メトロイド』たらしめる要素は他にもたくさん挙げられる。アイテム入手時に流れる独特なジングル、サムスがボール状になる「モーフボール」に代表される人間離れしたアクション、ゲームプレイを通して描かれるストーリー。そして、アクション重視ゆえの高めの難易度、独特な浮遊感を持ち合わせた操作性。
ただ、操作性については2004年発売の『メトロイド ゼロミッション』を機に機敏なものへと刷新され、現在では過去のものとされている。
難易度も初期のシリーズはアクションの豊富さと操作から起因した難しさがあるが、『メトロイドフュージョン』以降は簡略化が図られるようになり、抑えられつつある。難易度選択機能、チェックポイント制の導入といった試みも同作以降からは行われるようになっている。
また、基本的に自力で道を発見していくというスタイルも初代と現在とでは全く違う。『メトロイドフュージョン』を境にどこに行くかを教えてくれる「ナビゲーション機能」が備わってより親切になったり、『メトロイド サムスリターンズ』では「スキャンパルス」と呼ばれる隠し通路や周辺の地形を明らかにする強力な救済機能が備わり、今まで『メトロイド』シリーズを遊んだ経験のない人にも門戸を広げることに挑戦し続けている。
現在はNintendo SwitchのNintendo Switch Online会員限定ソフト『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』で初代『メトロイド』が、『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』で『スーパーメトロイド』が遊べる。
加えて、ニンテンドー3DSが手元にあれば『メトロイドII RETURN OF SAMUS』、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』、『メトロイド サムスリターンズ』が。 WiiUがあれば『メトロイド フュージョン』、『メトロイド ゼロミッション』、『メトロイドプライム ハンターズ』、そして『メトロイド アザーエム』が遊べる(いずれもダウンロード版が販売中となっている)。
35年を迎えた2021年は『メトロイドフュージョン』以来となる、横スクロール『メトロイド』の完全な新作『メトロイド ドレッド』がNintendo Switchで10月8日に発売予定。さらに『メトロイドプライム』の最新作、『メトロイドプライム4』も開発が進められている。
後者は本稿執筆時点でも全容が明らかにされていないが、前者はシリーズの魅力を引き継ぎつつ、「恐怖」にフォーカスした新しい探索が繰り広げられるという。ゲームシステム面も3DSの『メトロイド サムスリターンズ』を継承・発展させたものになるということで、より刺激と驚きに満ちた『メトロイド』になることが予感される。
今やインディーゲームの台頭と共に探索型のアクションゲームは大幅に増えた。しかしながら、『メトロイド』が持つ魅力、ゲームとしての醍醐味にはこのような中でも唯一無二のものがあり、初代を始め、どのシリーズ作にも驚きが満ち溢れている。
どんなに「メトロイドヴァニア」という造語が広まろうとも、メトロイドはメトロイドである。メトロイドはメトロイド以外の何者でもない。サムスという最強の戦士が、孤独で過酷な戦いと困難へと挑む、元祖「アクション&迷路ゲーム」なのだ。
マニアックな作品の印象も強いが、『メトロイドフュージョン』以降、2000年代以降に発売された作品の多くはシリーズ未経験者にも門戸を開いている。
惜しむらくは、個人的に最もお薦めしたい傑作『メトロイド ゼロミッション』がWiiU、もしくはゲームボーイアドバンス本体が無ければ遊べないことなのだが、何らかの機会が得られれば、ぜひ遊んでみてほしい。
それが厳しい場合は近年の旧作が遊べる『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』、『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』の2つ、もしくは3DSの『メトロイド サムスリターンズ』が入門にちょうどいいだろう。
35年に渡って愛され続ける探索型アクションゲームの始祖を改めてこの機会に少しでも体験してみていただけると幸いだ。合言葉はただひとつ。
メトロイド、オモロイド。