「新しい感覚」は面白い。初めて食べる味、行ったことのない場所、新しいリズム。
『HUMANITY』はプレイヤーの感覚を改造し、未知の感覚を生み出すゲームだ。本作が与えるのは、まさしく“神の視点”である。
アクションパズルゲームである本作の主な目的は「人類をゴールへ導くこと」だが、プレイ中には無数の人類が奈落の底に落下したりと命を落としていく。
そんな光景を目の当たりにして「悲しむ」「可哀そうに感じる」という感覚も今では懐かしい。
与えられた“神の視線”に基づく冷徹さは世界への新たな認知を生み出し、プレイヤーの好奇心を刺激する。そしてズルズルと荒唐無稽な本作の世界に引き込んでいくことだろう。
さらに、『HUMANITY』はプレイヤーを神に改造するという“出オチ”に留まらず、進むほどさまざまな表情を見せるアクションパズルでプレイヤーをつかんで離さない。それだけでなくゲームプレイと噛み合った物語、アートワーク、音楽と多角的に「人間性」というテーマを描写する作品となっていた。
本記事では本作がいかにしてプレイヤーに「神の視点を与えるのか」を皮切りに、ユニークなゲームプレイ、そしてアートワークを順に紹介していこう。
インディーを除いて、昨今のゲームは「既存のジャンル」を踏襲した盛り上がりが目立っており、PS1やPS2時代に開発されていた「ヘンテコでおもしろい」ゲームを今一度遊びたい、という声もしばしば話題に上がっている。
本作は実験性を携えながらも高いクオリティを携えた作品となっているため、とくに「突飛で質の高い作品が遊びたい」という方に本作の魅力が伝われば幸いだ。
文/りつこ
人類をゴールに誘導するアクションパズルゲーム『HUMANITY』
冒頭で“神の視点”などと仰々しいキーワードを出したが、ひとまず本作の概要を説明しておこう。
『HUMANITY』は記憶を失った柴犬となり、意識や目的を失った人類を導くを描くアクションパズルゲームだ。プレイヤーは「実験」としてステージごとに用意されたパズルを解いていくこととなる。
基本的なゲームプレイは、グリッド上に区分されたマップに、人類の足元で発動する進行方向やジャンプ、長距離ジャンプ、浮遊、武器の付与といった「指示」を配置し、最終的にゴールへ導くこととなっている。
全部で90種のステージが用意され、ステージによってはかなり歯ごたえがある難度だ。詳しくは後述するが、ゲームルールのシンプルさを維持しつつ、ギミックの種類が増えたり、柴犬の能力が増えたり、パズルゲームながらボス戦が用意されていたりとバラエティに富んだ謎解きを楽しめる仕上がりとなっている。
本作の開発を担当するtha ltd.は山田圭吾のソロプロジェクトCorneliusのミュージックビデオやユニクロの広告映像、NHKの番組「デザイン あ」にまつわる展示のインタラクティブコンテンツなどを手がけているデザインスタジオだ。プロデュースとパブリッシングは、『Rez』を手がけた水口哲也氏率いるEnhanceが担当する。
ゲーム業界としては珍しい布陣で開発される本作は、tha ltd.を設立した中村勇吾氏が制作したデモ映像に水口哲也氏が惚れ込み「自らプロデュースを願い出た」かたちで現在のチームが設立されているという。
つまるところ、『HUMANITY』は、かなりのキャリアを持つウェブデザイナー/インターフェースデザイナー/映像ディレクターによるゲーム業界への挑戦状のような作品と形容できる。
神になっていくイントロダクション。効果的なVRの表現
本作は天の声のような「何者か」の声に導かれてゲームが進行していくが、冒頭で「何者か」はプレイヤーにこう告げる。
「彼らの消滅に、きみが心を痛める必要はない」
バタバタと人々が落下する光景を前に、そんなことを言われても人類であるプレイヤーはなんとなく感情移入をしてしまう。
しかし、プレイヤーの目的はパズルを攻略することであり、「天の声」が言うように道中で人類が何人朽ち果てようとゲームの進行に関係はない。ステージをすすめるほど人類の“しぐさ”以上に「謎解き」そのものへの関心が高まっていく設計になっている。
また、本作はズームイン、ズームアウトが可能な俯瞰に近い三人称視点を採用している。これによりステージ全体を見直すという利便性も高まっているが、同時にカメラワークの効果で「意思を失った人類たち」を小さく、滑稽に演出する。
特にVR版では箱庭のようにステージ全体が描画され、そこで文字通りに小さなスケール感の人類が右往左往している。この演出は一層“かれら”への感情移入を阻害する効果を発揮していると言えよう。
さらに、本作で描かれる人類たちはピクトグラムのような、シンボルのようなデザインで描かれる。情報が抑制されたデザインはスタイリッシュだが、そこに人間らしい油断や有機性はない。
そんな人類が川を流れる液体のようにアルゴリズムに従って動き、ときに幾何学的なパターンを形作るビジュアルは、人類を“個”ではなく“群”としてマクロに向き合うようプレイヤーに促す。
これらの要素を携えた『HUMANITY』をプレイすれば、人類へ当初抱いていた哀れみや同情の心は消滅する。これは正に“神の視点”とも言うべき感覚で、悪徳や残忍さを持たずに「人類の死を当然のものとする感覚」は面白い。
この感覚を与えるデザインは『HUMANITY』が描く世界にプレイヤーを引き込む原動力であり、大きな魅力のひとつとなっているだろう。
やっていることは基本同じ。なのにどんどんジャンルが変化していく独特のゲームプレイ
本作は前述のとおり突飛なデザインや設定を携えた作品だが、意外にもゲームプレイそのものは無難な「パズルゲーム」であるように感じる方もいるかもしれない。
しかし、確かにシンプルであり、「人類を導く」という根本的なコンセプトは維持されているのに、なぜかプレイフィールが変化していく。そんな奇妙なゲームデザインにより飽きることなく楽しめる作品になっているのだ。
ここからは、「変わらないのに変わっていく」という不思議なゲームデザインについて紹介しよう。
まず、ゲーム冒頭では前述のとおり「ボクセル」のようなグリッドで構築されたステージ上に、曲がる・ジャンプするといった「指示」を配置することで意思のない人類をゴールに導くパズルを解いていく。
上記のほか、ステージには移動可能なブロックやベルトコンベア、泳ぐことができる水ブロック、風を発生させる装置、ステージに変化をもたらすスイッチなどのステージギミックも登場する。
これらの要素を組み替えたり、「指示」の回数制限があったり、「予め支持を全て配置しなければならない」「特定のキャラクターをゴールに運ばなければならない」といった条件を設け、アップデートしていくことで、ゲームの中盤に差し替えるまでは「指示による誘導」というゲーム性のまま、パズルのバラエティを演出していく。
なお、中盤に差し掛かるまではガッツリとパズルであるため、困ったらPSプラス加入者向けのヒントや攻略情報を活用すると良いだろう。体に良い範囲で悩もう。
そしてさらに、しばらく進めば「人類」に似ているが対立し、妨害してくる謎の存在「OTHERS」が登場したり、「OTHERS」と戦えるライトセーバーのような近接武器や銃の要素が登場し、次第に「どのように攻撃をしかけるか」「どのように防衛していくか」といった戦略性がゲームプレイに加算されていく。
目的はあくまでも「人類をゴールに運ぶ」ことだが、まるで「シミュレーションゲーム」のような形式に進化していくのだ。
そして追って登場する要素として注目したいのは「追従」(FOLLOW)だ。ゲームの中盤を超える頃、任意の床に「指示」を配置するのみならず、「ワン」と吠えることで人類が「柴犬」の動きを追跡するステージが登場する。
同時に、レーダーを搭載したタレット兵器のようなギミックも登場するため、「ステルスアクションゲーム」のようなステージも用意されている。
さらには、近接攻撃や銃撃能力のある人類を引き連れて、冒頭からは想像できないほど前のめりに敵と戦う「ピクミン」のような形式のステージも登場し、パズルゲームながら戦闘に重きを置いたステージも登場するのだ。
ボス戦も「追従」を駆使したステージとなっているが、群を活用した魅力的なビジュアルとダイナミックな演出を携えており、「ボス戦」にふさわしい盛り上がりを味わえる。
これらのうち9割以上のステージが「運んでゴールに運ぶ」という基本ルールを維持しており、最早美しいとすら感じさせる秀逸な設計であると言えよう。
基本ルールは変わらないのでプレイヤーが困惑することなく、かといってゲームジャンルの“味変”もある。不思議なビジュアルや設定だけでなく、この不思議なゲームプレイもしっかりとプレイヤーを楽しませてくれるはずだ。
「人類の導き」と音楽、問われる「人間性」
本作は光る柴犬を操作し人類を導くゲームだが、ゲームプレイのみならず物語も「柴犬として人類を導く」内容になっている。
ネタバレになってしまうため詳しく言及できないことが歯がゆいが、ゲームプレイ面で「人類が行える選択肢が増えていくこと」と、「柴犬として人類を導く」物語が呼応するような関係性になっている。
物語では「プレイヤーを導く声の正体」「なぜ作中の人類に意思がないのか」「実験の目的」なども徐々に明かされていき、プレイヤーが謎を解くたびに物語における謎も明かされる。
プレイヤーが自らの手で進めるゲームと物語が共鳴することで、物語で描かれる現象をより身近な出来事として捉えられるため、ゲームならではの雄弁さを備えた設計だ。
また、本作の音楽はエレクトロニカやIDMといったジャンルに長けたミュージシャンであるJemapur氏が手がけているが、なかでも人の声を短くサンプリングしたり、サンプラーなどにより不自然に音階化した音色を駆使した楽曲は「物体に近い人間たち」を描く本作にマッチしている。
はじめに述べた視覚的な要素やシナリオ、そして音楽は『HUMANITY』というタイトルのとおり、「人間性とは何か」をいまいちど浮彫にしてプレイヤーに投げかける。
このシリアスなテーマを独特のゲームプレイと共に、本作が携えたあらゆる要素で描きだす。プレイした後は漏れなくお腹いっぱいの気分に成れるはずだ。
『HUMANITY』は5月16日(火)にPS4、PS5、PC(Steam)向けに発売予定。それぞれPS VRとPS VR2、PC VRにも対応する。
まさに「実験性」と大型タイトルらしい高品質なクオリティを存分に味わえる本作。刺激的な“神の視点”や落下していく人類、光る柴犬などに関心があれば、ぜひ本作をプレイしていただきたい。
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