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『FF13』の“一本道”は手抜きではなく、むしろ「線的なRPG」の理想を追求した先進性の表れだった。「奥スクロールRPG」と揶揄されながらも『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?

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困惑ポイントその②「飲み込みづらすぎるストーリー」

 このように複雑な過程を経て完成した『FF13』(ここからは無印『FF13』の話題に絞 ります)。ですが、出来上がった作品もなかなかに「困惑」の要素を含むものでした。 「FF13の困惑ポイント」2つ目は、ストーリーです。

 「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く」

 これがかつてネットミームとしても流行し、「意味不明なあらすじ」の代名詞にもなった『FF13』のあらすじです。僕の友人にも「てっきり2ちゃんねるで創作された言葉だと思っていた」といっていた人がいましたが、由緒正しい公式のストーリーなのです。

 これをかみ砕いて説明していくと、本作の舞台は「コクーン」と呼ばれる天空都市です。丸い球形の都市が天空に浮いていて、主人公ライトニングたちはその内部に住んでいます。コクーンには、それを管理する機械仕掛けの天使のような存在がおり、それが「ファルシ」です。ファルシたちは時々、住人のなかから使徒を選び、使命を与えます。それが「ルシ」。つまり、ルシとはドラクエ的な呼び方をすると支配者ファルシに選ばれた「勇者」のようなものですね。ただし、今回ルシとして選ばれたライトニングたちに課された使命は、なんと自分たちの住むコクーンを滅ぼすことだったのです。

 ライトニングたちは与えられた使命のとおりコクーンを滅ぼすか、それとも使命に逆らうか(使命を果たせなかったルシたちは「シガイ」と呼ばれるモンスターになってしまいます)、深く葛藤します。結果的に使命の放棄を選んだライトニングたちは、その罪でコクーンからは反逆者として追われてしまい「パージ」、つまり故郷から放逐されて、地上世界である「パルス」へ逃れていく……というストーリーなのです。

 こう説明すればそれほどわかりにくいストーリーでもないのですが、わざわざ「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ行く」と、冒頭から専門用語を連発してハードルを上げる手法、これもまた「ファブラ ノヴァ クリスタリス」という造語に通じるFFらしさです。

 こういったわかりづらい表現が、かえってファンたちの「わかりたい」という欲求を刺激するわけですが、一方で普通に「意味わからん」と思って離脱してしまうお客さんもいるはずで、「わかる奴だけついてこい!」というファミコン時代からのFFの姿勢がいまだ続いている部分といえるでしょう。

独特のネーミング感覚

 ちなみに「ファルシのルシがコクーンからパージされてパルスへ」がネットミームとしてキャッチーである理由は、これら造語の音選びによるところも大きいと思います。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でライムスターの宇多丸さんにこの話をしたとき、「『ファルシのルシがコクーンからパージ』のところで『し』の脚韻を踏もうとしている感じと『パージされてパルスへ行く』のところで『パージ』と『パルス』が頭韻を踏む感じ、それらが相まっての言葉遊び感があり、ふざけた印象を与える」とラッパーならではの分析をされていました。

 個人的には「ファルシ」と「ルシ」はストーリー上も主従関係があるので言葉が似ていても納得いきますが、例えば「パルス」が「ファルシ」「パージ」のどちらにも似た音であることにはまったく文脈がありませんから「こういう部分が混乱を呼ぶんだよな……」と思ったりもします。

困惑ポイントその③「奥スクロールRPG」

 そして3つ目の「困惑ポイント」は、ゲーム自体の構造です。

 『FF13』はかなり割り切った一本道構造で、当時ネットで「奥スクロールRPG」【※】と揶揄されるほどでした。

奥スクロールRPG:横スクロール(アクション)RPGは珍しくないが、それ以外にスクロールすると記憶に残りやすい。1996年発売の『里見の謎』は縦スクロールRPGで、道に迷いようがなかった。

 そもそもFFシリーズはシナリオ分岐を売りにしているようなゲームではありません。なので、どの作品も一本道といえば一本道なのですが、『FF13』はそういう「物語進行が一本道」というレベルではなく、物理的に「ダンジョンマップがほとんど一本道」なのです。

 もちろん多少の分岐はあるのですが、実質的には探索する余地がほぼない一本道構造のダンジョンをひたすら奥へ進んでいくと、最深部にはボスがいて、そのボスを撃破したらストーリームービーが流れ、また次のマップに場面が移り、次の一本道が続く……この繰り返しです。

 ゲームの終盤にやっと地上世界パルスに行くと突然世界が開け、例外的な広いマップに行けたりはするのですが、ゲームの9割はずっと一本道。ここが当時、プレイヤーの間で「手抜き」と捉えられることも多く、実際にプレイせずにそのイメージだけを持ってしまったユーザーもいたことでしょう。

 しかし、僕としては、むしろこういったゲーム構造にこそ、『FF13』の先進性が表れていると考えます。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_004
(画像はSteam『ファイナルファンタジーXIII』より)

『FF13』の真価は戦闘システムにあり

 様々な困惑ポイントはありつつも、実際にプレイすると『FF13』はしっかり面白いゲームでもあります。その面白さの理解のため、まず注目したいのは、戦闘システムです。

 作品ごとに戦闘システムをガラッと変えることでもお馴染みのFFシリーズですが、そのなかでも『FF13』の戦闘システム「オプティマ」はかなり独特なものです。

 「オプティマ」とは、プレイヤーがゲーム中のキャラにおこなう「指示」にまつわるシステムで、例えばプレイヤーが各キャラクターに「アタッカー」(攻撃役)や「ヒーラー」(回復役)のような役割を与えておくと、キャラクターたちは自動的にそれに応じて「たたかう、たたかう、ファイア」「エスナ、ケアル、ケアル」のように複数のアクションを組み合わせ、オートで行動してくれるのです。

 いわゆるベーシックなRPGの戦闘の面白さは、まさにここで自動化されてしまっている部分、すなわち「誰が誰を攻撃するのが効率いいか」「いま回復魔法を使うのは損か得か」「複数いる敵にそれぞれダメージを与えておいて、最後に全体魔法で一掃するのがベスト」といった、細かなコストとリターンのやりくりにあったわけですが『FF13』はこういった「リソース・マネジメント」の要素を大胆にカットしてしまいました。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_005
(画像はスクウェア・エニックス『ファイナルファンタジーXIII』公式ページより)

 僕はかなりゲームシステムを重視するプレイヤーなので、この変更には最初はかなり抵抗がありました。普段は自分で細かく損得計算して入力している部分がオートになってしまうと、「考えどころ」が減ってしまいますし、自分のプレイがゲームに反映される度合いが下がる=つまらない、となるはずなのです。

 しかし、しばらく『FF13』をプレイし続けていると、実はこのバトルシステムは非常に画期的で、これまでのRPGの戦闘システムとはまったく異なるレイヤーの思考を要求するゲームだということがわかってくるのです。

戦況をひとつ上から眺める「監督視点」

 そのレイヤーというのは、通常のRPGの戦闘よりもっと上の視点、いうなれば、チームスポーツにおける監督のような視点です。

 例えばサッカーでの各選手がどうドリブルする、どこでパスする、みたいな個々の判断が通常のRPGにおける「考えどころ」だとすると、『FF13』におけるプレイヤーは選手ではなく監督の立場なので、もっと試合全体を俯瞰して観察し、フォーメーションをどうするか、今は攻め時なのか、守り時なのか、といった戦況の見極めが「考えどころ」になるわけです。

 『FF13』の味方パーティーは3人組なので、その3人の役割分担を、「アタッカー、アタッカー、エンハンサー(味方を強化する役)」の組み合わせにすると非常に攻撃的な布陣になり、「アタッカー、ヒーラー、ジャマー(敵を弱体化する役)」のように配分すると攻守のバランスがとれた布陣になります。

 こういったパーティー内の役割分担は、これまでのRPGでも戦士、魔法使い、僧侶のような「職業」という形でシステム化してありました。

 しかし従来の「職業」は、旅の途中でときどき「転職」することはできても、戦闘中にリアルタイムで切り替えるものではありません。つまり、これまで1回の戦闘におけるパーティー内の役割分担は固定されていたわけで、そこを「状況に応じて再編成を繰り返す」という面白さを、『FF13』はバトル内に組み込んだのです。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_006
(画像はSteam『ファイナルファンタジーXIII』より)

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ライター
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