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『FF13』の“一本道”は手抜きではなく、むしろ「線的なRPG」の理想を追求した先進性の表れだった。「奥スクロールRPG」と揶揄されながらも『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?

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 日本を代表するゲームといえば? と問われたとき、特にジャンルを指定されずとも『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』の名前を挙げる人は少なくないだろう。それほどまでに日本における「RPG」というジャンル、引いては『ドラクエ』と『FF』の影響力の大きさは圧倒的だ。

 しかしなぜ、日本でRPGが人気を獲得したのか?

 その疑問を追求していくのが、元スクウェア・エニックスのプロデューサーでもある渡辺範明氏による書籍『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』(イースト・プレス出版。以下、国産RPGクロニクル)だ。本書籍ではあらためて『ドラクエ』と『FF』の功績を検証するとともに、時代に応じて変化していった両シリーズの軌跡を追う。

 今回、電ファミニコゲーマーでは渡辺氏のご厚意もあり、『国産RPGクロニクル』から「困惑の『FF13』」の章を丸ごと抜粋し、掲載させていただくことが叶った。この場を借りて、あらためてお礼を申し上げます。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_001
「国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?」(イースト・プレス)

 さて、このたび弊誌に掲載させていただく「困惑の『FF13』」の章は、タイトルの通り2009年に発売された『ファイナルファンタジーXIII』(以下、FF13)を深掘りする内容だ。そして頭に「困惑の」と付けられていることからも分かるように、本章では『FF13』が発売された当時の独特な空気感にも触れている。

 「ファブラ ノヴァ クリスタリス」という聞きなれない言葉のプロジェクトを通じて、当時のスクウェア・エニックスが目指していたものとは? また『FF13』の、あまりにも“一本道”な構造はなぜ生まれたのか?

 本章ではスクウェア・エニックスを古巣とし、今は気鋭のゲームデザイナーとしても活躍する渡辺氏の手によって『FF13』に込められた意図の数々が解き明かされていく。発売から14年近くが経った『FF13』がどのような作品だったのか、あらためて見つめなおすのに最適な内容となっているため、ぜひご一読いただきたい。

 なお、8月19日(土)と8月26日(土)には本書の刊行記念イベントが開催される予定。気になる方は、下記記事より詳細をご覧いただければ幸いだ。


困惑の『FF13』

 2003年、エニックスとスクウェアは合併しました。ドラクエ・FFという日本を代表する大作RPGをそれぞれ有し、ずっと意識しあっていた2社がひとつになることなんて誰が予想したでしょうか。これにより、両組織はお互いの開発技術、販売ルート、市場を融通し合い、様々なシナジーが生まれます。作品的にもPS2時代のドラクエ・FFはそれぞれ3DグラフィックRPGとしての一旦の完成形に到達したといえるでしょう。

 この回では、その後の2000年代後半、プレイステーション3(PS3)とニンテンドーDS(DS)時代のドラクエ・FFをみていきます。これまで2タイトルは互いに近づいたり離れたりしながら、様々な影響を与え合って発展してきましたが、今回の時期は、2シリーズ間の路線がもっとも離れたときといえるかもしれません。

 そしてそれは同時に、2シリーズにとっての挑戦の時代であり、PS2時代の「一旦の完成形」に安寧せず次のステージを準備した時代ともいえます。

 発売ハードまでも『ファイナルファンタジーXIII』(FF13)はソニーのPS3、『ドラゴンクエストⅨ』(ドラクエ9)は任天堂のDSと別々に分かれたこの時期、両タイトルの目指していたものは何だったのかを語っていきます。

 『FF13』はFFの長い歴史のなかでも特に挑戦作と呼ぶにふさわしい一作です。そしてそれ故に、良くも悪くもファンを困惑させるパワーにも溢れていました。この「困惑」というキーワードは、現在から振り返り『FF13』発売当時の独特な空気感を理解するうえで、ひとつの切り口になると思います。

 ここからは『FF13』にまつわる「困惑ポイント」を3つに整理し、ご紹介しましょう。

困惑ポイントその①「ファブラ ノヴァ クリスタリスって何?」

 『FF13』の「困惑ポイント」、最初のひとつは「ファブラ ノヴァ クリスタリス」です。2006年、『FF13』は、「ファブラ ノヴァ クリスタリス FF13」というプロジェクト名を通じて発表されました。この聞きなれない言葉は、「新しいクリスタルの物語」という意味のラテン語をベースにしたと思わしき造語で、今回のFFプロジェクトは、『ファイナルファンタジーXIII』『ファイナルファンタジー ヴェルサス XIII』『ファイナルファンタジー アギトXIII』の3作品で構成され、それらは同時並行で開発される、という発表でした。

 この発表当時、僕はスクエニの社内にいましたが、社員でも「どういうこと??」と意味を掴みかねていたぐらいなので、一般ユーザーは尚更の戸惑いがあったと思います。「FF13は3本出ます」といわれたら、普通はいわゆる前編、中編、後編のような3部作構成を想像しますが、そういうわけでもなく、この3作は時系列でつながった一続きのストーリーではありません。

 それどころか同じ世界を舞台にした作品ですらなく、「共通のクリスタル神話をもとにした、3つの異なる世界の物語」だというのです。どうでしょう? 意味わかりますか?

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_002
(画像はSteam『ファイナルファンタジーXIII』より)

 僕なりに要約すると「ファブラ ノヴァ クリスタリス」プロジェクトの構想は、こういうことです。「共通のクリスタル神話」というのが例えば「ギリシャ神話」のようなものだとすると、まずその「ギリシャ神話」にあたる部分をスクエニ社内で創作し、さらにその神話をベースに『ゴッド・オブ・ウォー』『HADES』【※】『聖闘士星矢』といった別々の世界観の作品に仕立て上げていく、というイメージなのです。

※HADES:2020年発売のアクションゲーム。不死身の王子が父・ハデスの配下たちと戦
い、何度も挫折を繰り返して強くなり、冥界からの脱出を目指す。神々の好感度を上げていく恋愛ゲーム的な側面あり。

共通の神話とは自社製エンジン

 なぜこんな複雑な構想の必要があるのか? 多くの方が疑問に思われるでしょうが、ひとつには当時、ゲームの開発費が高騰を続けていたという背景があります。

 PS→PS2→PS3とゲームハードの性能向上と共にコンシューマーゲームの開発工程も複雑化し、1本の大作RPGを作り上げるための基礎研究からコンテンツ完成までの費用は、単一の商品がヒットしたぐらいではなかなか回収しきれない規模になっていました。

 そこで単一の商品を作るのではなく、3本のゲームの開発を同時に走らせるとどうでしょう? 当然グラフィックなど多くの素材を3本分開発することになるので開発コストはさらに増しますが、新ハードの解析、研究からプログラムの基礎部分の開発費用までは作品を超えて共有できる部分もあるわけで、トータルには3倍よりはコストが抑えられます。つまりコストパフォーマンスの向上が期待できるわけです。

 まさにこの頃、ゲーム業界では「UnrealEngine」「Havok」「Unity」のような開発エンジンやミドルウェアの重要度が急速に上昇していました。つまりそれは先ほどの「ゲーム開発の基礎部分を共有化していくことで開発効率をアップする」というのと同じ発想です。

 しかし自社の技術力に自信があったスクエニは、こういった外部エンジンの全面的な使用でなく「自社のオリジナルゲームエンジンの開発」へと舵を切りました。

 こうして開発されたのが「クリスタルエンジン」「クリスタルツールズ」などと名付けられた一連のスクエニ自社製エンジン/開発ツール類です。「ファブラ ノヴァクリスタリス」における「共通のクリスタル神話をもとにした、3つの異なる世界の物語」という構想は、この「共通のクリスタルエンジンを使って開発された3本のゲーム」という意味合いもあったのでしょう。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_003
(画像はスクウェア・エニックス『ファイナルファンタジーXIII』公式ページより)

会社の都合をロマンチックに表現

 そして、この3作を素直に前編・中編・後編としない理由は、そうすると並行開発が難しいからです。

 例えば『指輪物語』のようにかっちり固まった原作に基づいたゲームを3部作で並行開発するなら、上手に計画すれば不可能ではないでしょう。

 ただ、FFというのは、これまで語ってきたとおり、開発過程で設定もシナリオもどんどん変容していくものなのです。そうなるとFFの場合は、前編・中編・後編の3部作を作るのならば、前から順番にひとつずつ作っていかないと整合性がとれません。

 その点、「ファブラ ノヴァ クリスタリス」プロジェクト構想のように間接的な関係しかない3作品ということにしてしまえば、複数の部署で並行開発が可能になります。当時、スクエニは合併後の組織構成として10ほどある事業部制を敷いていたため、複数の事業部をまたいで『FF13』の開発負担も、売り上げもシェアしていくという発想もあったかもしれません。

 つまり、「ファブラ ノヴァ クリスタリス」プロジェクトというかなり特異な構想は、完全にスクエニという企業の都合に過ぎないといえば、確かにそうなのです。ただ、これを単に「会社都合でこうしますね」とは発表せず、「共通のクリスタル神話をもとにした、3つの異なる世界の物語」と言い換えるロマンチシズムにこそ、「FFらしさ」が宿っている……といえなくもありません。

 ビジネス上の要請から発生した都合を、あたかも新しい世界観の提示のように演出したことが強烈な「わかりにくさ」を生んでもいるのですが、その「わかりにくさ」自体がFFファンにとって「さすがFFはわけわかんないな……」という独特のカリスマ性につながっている側面があります。

10年かけた『ファブラ ノヴァ クリスタリス』

 このように様々な都合を通して発表された「ファブラ ノヴァ クリスタリスFF13」プロジェクトですが、それすらもなかなか計画とおりにはいきませんでした。

 無印の『FF13』は発表から3年後の2009年に発売。そして『ファイナルファンタジーアギトXIII』は当初は携帯電話端末用に開発されていたものが紆余曲折を経て、発表から5年後の2011年にタイトルを『ファイナルファンタジー零式』と変更し、携帯ゲーム機プレイステーション・ポータブル(PSP)にて発売(後の2013年、スマートフォン用アプリとして『ファイナルファンタジーアギト』もリリース)。そして、最後の『ファイナルファンタジー ヴェルサスXIII』はなんと発表から10年後の2016年、『FF15』として発売されました。

 「3部作を順番に開発していたら時間がかかりすぎる」ということで同時開発していた3作品も、結局すべてが出揃うには10年かかってしまったということですね。

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ライター
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