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『FF13』の“一本道”は手抜きではなく、むしろ「線的なRPG」の理想を追求した先進性の表れだった。「奥スクロールRPG」と揶揄されながらも『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?

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戦闘にドラマ性を導入する

 そしてさらにもうひとつ、『FF13』の戦闘を演出しているシステムが「ブレイクゲージ」です。『FF13』の敵は全体的に装甲が硬く、普通に攻撃してもあまりダメージを与えられないのですが、攻撃を繰り返していくとだんだん敵の装甲が削れていき、最終的には「ブレイク」という状態になって一気に大ダメージを与えられるようになります。この「装甲」の値を示すゲージが「ブレイクゲージ」です。

 先ほどの「オプティマ」とこの「ブレイクゲージ」のシステムが組み合わさるとどうなるか? 戦闘に入ってしばらくの間は敵の攻撃に耐えながら、相手の装甲を削っていく必要があるため、持久戦に適したオプティマで我慢の時間を過ごします。

 しかし、ある時点で相手の装甲が「ブレイク」し、そこでチャンスが訪れます。するとプレイヤーは「今だ!」とばかりにオプティマを攻撃的布陣に切り替え、一気呵成(いっきかせい)に強力な技を連打して強敵にとどめを刺すのです。

 さらに、ここに高揚感を煽る音楽演出が加わります。『FF13』の通常戦闘BGMは「閃光」という曲で、これは主人公ライトニングのテーマでもあるのですが、曲が始まってしばらくはRPGの戦闘曲にしては地味な曲調が続きます。ところが30秒ほど経ってゲーム展開としてもそろそろ敵が「ブレイク」するか? というタイミングで、一気に曲も展開し華やかに盛り上がるのです。ここでライトニングが白馬(召喚獣)に乗ってド派手な必殺技を決め、バラの花びらが舞い、そしてバトル終了……そのようなドラマチックな展開を見ることができるわけです。

 ボス戦でもない1回ずつの通常戦闘に、こういった起伏とドラマ性を内包している、それが『FF13』の戦闘システムと演出なのです。最初は耐えて耐えて「もうダメだ!」というところで大逆転する気持ちよさ、これは昔からあるエンタメのひとつの定石でもありますね。

 ただ、この画期的な戦闘システムにも欠点はあって、どうしても一戦が長くなってしまう傾向があります。『FF13』ではそこにどう対策しているのでしょうか。なんと、個々の戦闘を短めになるようバランス調整するのではなく、戦闘自体の回数をかなり少なく絞っているのです。

 体感的には、ひとつのダンジョンで遭遇する戦闘の回数が「標準的なRPGの半分以下なのでは?」と思わせるぐらいに少なく、そしてそれらを全て「イベント戦闘」として配置しています。

 ダンジョン内を歩いていると一定確率でモンスターと遭遇する「ランダムエンカウント【※】」ではなく、すべての戦闘が開発者の意図に基づいて配置されている「イベント戦闘」を選択しているところに、「ひとつのダンジョンにおける戦闘の回数と内容をデザインしたい」という強い意図を感じます。

※ランダムエンカウント:画面上に敵が見えず「戦闘が避けられない」システムだが、敵が見える=避けられるものを「シンボルエンカウント」と呼ぶ。元々『ドラクエ8』はランダムエンカウントだったが、3DS版ではシンボルエンカウントに変更。

「線的なRPG」の洗練

 『FF13』のゲーム構造を整理すると、こうです。ほぼ一本道のベルト状のマップに、ちょうどいい感じに配置されたモンスターたちと順番に戦っていき、一戦一戦が戦略的かつドラマチックに展開し、その最深部には総力戦が楽しめるボス戦がある。いわば、パフェを上から順に食べ進めていくように「次は何が出てくるかな?」とワクワクしながら奥へ奥へと進む楽しさがあるのです。

 これを総合的にしっかり演出することは、単に面積の広いランダムエンカウントのダンジョンを作ることより、よほど手間がかかります。だから『FF13』の「一本道」は手抜きなどではなく、意図的に配置されたイベントを通じて、線的なゲーム体験をデザインするため意図された構成なのです。

 これは『FF13』がこれまでのRPGに対して、戦闘の面白さって「いま回復魔法を使うのは損か得か」みたいな細かなリソース管理の計算だけなのか? ダンジョンで分かれ道どっちに進むかで迷うのって本当に面白いのか? と問いかけているのです。ドラクエのように、もちろんそういう古典的な部分に面白さを見出すRPGがあってもいいのですが、FFに求められている面白さはそうではない! という確信のもと、新しいビジョンを提案しているのです。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか?』抜粋。『FF13』が提示した“新しいRPG”のビジョンとは?_007
(画像はSteam『ファイナルファンタジーXIII』より)

 こうして『FF13』が提示した「新しいRPG」のビジョン、それは3Dグラフィック化以降のFFが長年志向してきた「映画のようなゲーム」「操作できる映像」路線への、ひとつの答えです。当時、僕はこのビジョンに非常に感銘を受け、この路線をもっと進化させて、いっそ戦闘が始まるごとにキャラクターたちが歌って踊りながら技を繰り出すような、「見栄とケレン味」に特化したミュージカルRPGを思い描きました。

 古くは歌舞伎、近年では2・5次元ミュージカルのような、こういう見栄とケレン味に特化した方向性は、FFブランドと相性がいいと感じます。残念ながら『ファイナルファンタジーXV』(FF15)もおそらく『ファイナルファンタジーXVI』(FF16)も歌劇仕立てにはなっていませんが、いずれ『FF17』『FF18』あたりではそんなRPGをぜひプレイしてみたいと夢想しています(SNS時代との相性もいいと思いますよ)。

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ライター
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