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「グランツーリスモ」は「人生を無駄にしないゲームにしたい」と思って作っている──開発者・山内一典が「GT」シリーズの開発哲学

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 2023年9月15日(金)に公開予定の、映画『グランツーリスモ』(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)。今回、映画公開に先駆けるかたちで、映画『グランツーリスモ』ではエグゼクティブプロデューサーもつとめた、ゲーム「グランツーリスモ」シリーズのクリエイター山内一典氏へのメディア合同インタビューが開催された。 

 映画『グランツーリスモ』で主人公が挑戦することになる「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下「GTアカデミー」)は、日産プレイステーションポリフォニー・デジタルによって2008年に始まったバーチャルとリアルを繋ぐ国際的なコンテストだ。

 本作では「グランツーリスモ」シリーズのトッププレイヤーに対して、生涯に一度だけ、リアル国際カーレーサーになるチャンスが与えられるという無謀にも思える「GTアカデミー」の挑戦の一部始終が描かれる。「GTアカデミー」ウィナーは勝てば欧州日産NISMOのチームに迎えられるが、本物のレースカーで実際のサーキットを勝つためにいきなり時速320kmを超えて走らねばならないのだ。

 今回の合同インタビューは、「GTアカデミー」と映画、そしてソフト「グランツーリスモ」シリーズの話題を中心に、山内氏が考える「グランツーリスモ」像について深堀した内容で、これから映画を観に行こうと思っている読者だけでなく、今まで「GTアカデミー」の存在を知らなかった読者にも注目してもらいたい記事となっている。

 なお、文中に於いてネタバレへの最大限の配慮がなされているが、メディア向け試写会を踏まえてのインタビューとなっているため、映画の内容に触れる場面も少なからず存在することをあらかじめご了承いただきたい。

取材・文/Squ


映画『グランツーリスモ』  山内一典氏・合同インタビュー

──まずはじめに映画『グランツーリスモ』の感想をお聞かせください。

山内一典氏(以下、山内氏):
 この映画って本当にいろんな紆余曲折があり、長い年月をかけてようやく出来上がった作品なんです。
結果的に、素晴らしい映画になってよかったなと、胸をなでおろしています。

 いわゆるエンタテインメントで、観た人の気持ちをポジティブにさせてくれる映画だと思います。ものすごく丁寧に、緻密に作られているんですよね。そこが良かったと思います。

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山内一典(やまうち かずのり)氏

──「グランツーリスモ」といういわゆるシミュレーションゲームが映画化するということで、当初はあまり想像が出来ませんでした。「GTアカデミー」を話のベースにするにあたって、山内さんからソニー・ピクチャーズ側に、何か要望したり、希望したことはありますか?また、出来上がってきたドラマについてどのような感想を抱きましたか?

山内氏:
 基本的には、ソニー・ピクチャーズの皆さんにお任せした形で、僕自身が関与していたのは脚本の第一稿まででした。

 ただ、ひとつだけ脚本家の方と話し合ったのは、ヤンのレースシーンで「グランツーリスモ」プレイヤーらしい演出を入れるのはどうか?という点でした。「グランツーリスモのプレイヤーだったらこう」と具体的なアドバイスも申し上げたら、その内容が生かされていましたね(笑)
 年1でしか開催されないレースのコースを何千回も練習できるのはビデオゲームだけなので、演出ではありますが実際によくあるエピソードになったんじゃないかと思います。

──「GTアカデミー」立ち上げ当時の話をお聞かせください。

山内氏:
 「GTアカデミー」が立ち上がるきっかけになったのは、2004年のニュルブルクリンク。
当時日産に招かれて、登場したばかりの新車種をサーキットで走らせていたんですよね。

 そのときに、日産のダレン・コックス【※】と出会って、彼から「GTのプレイヤーってプロのレーシングドライバーになれるかな?」と聞かれてたんです。僕は当時から確信があったので、「絶対になれると思うよ」って言ったところからスタートしていると思います。

※ダレン・コックス
「GTアカデミー」の創設者としても知られる欧州日産/NISMOの元社員。
映画『グランツーリスモ』では、彼をモデルにしたキャラクターをオーランド・ブルーム氏が演じている。

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ダレン・コックス氏がモデルとなったキャラクター、ダニー・ムーアを演じるオーランド・ブルーム氏

──第1作目の『グランツーリスモ』(PS用)が発売された1997年当時に、実際にゲームプレイをするユーザーが実車レースにデビューすることになると想像していましたか?

山内氏:
 ドライビングテクニックが学べて、スキルとして身に着けられるということは認識していました。しかし、実際にレースに出るとなると、金銭的な面などの複合的な要素がないと実現できないということはわかっていたので、想像はしていなかったです。

 ただ、いつかそういうことが出来る機会があればいいなとは思っていました。なので、そういった点で見れば「GTアカデミー」は非常に機会に恵まれたのだなと思います。

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──「GTアカデミー」を実施するにあたって心境の変化などはありましたか?

山内氏:
 彼らが「グランツーリスモ」を通じて学んだドライビングテクニックが、リアルの世界で通用するということに関しては疑いを持っていなかったですね。
 
 ただ、「GTアカデミー」のプロジェクトが始まってから初めてモータースポーツの内側を僕も知っていきました。一人のドライバーに対して多くの人たちがサポートしながら走らせる、勝負させるという部分で言えば、ほかのスポーツと大きく違います。実際に命の危険があったり、やっていることはまさに戦場に近いんですよね。

 デビューするやいなや、「GTアカデミー」出身者はどんどん勝ち上がっていったんですけど、同時に事故などの心配はもちろんですが、次から次へと勝負し勝ち上がっていかねばならない厳しい世界に彼らを送り込む事になったので「彼らの人生は大丈夫だろうか」といった点に関して、とても気にかけていました。

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──「GTアカデミー」自体は日産主幹のプロジェクトかとは思うのですが、未来のドライバーを育てていく過程で「グランツーリスモ」側で大事にしていたことはなんだったのでしょうか。

山内氏:
 日産の皆さんが考えていたことと、僕自身が考えていたことは同じではないかもしれません。でも結果的に僕が感じたのは、世界でトップレベルのプレイヤーになって勝ち上がってくる選手たちは、みんな人間的に素晴らしいというところですね。

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 8月に、アムステルダムで公式世界大会の「GTワールドシリーズ 2023 Showdown」が開催されました。この期間内に映画の特別上映会も実施したのですが、歴代の「GTアカデミー」の勝者みんなを招待したんです。
 もう人物として素敵ですよね。頭が良かったり努力家だったり、物事へのアプローチの仕方だったり、勝負に勝ち上がってきた人だけが持っている魅力があるんです。

 そういった若者たちが同じ時代を過ごして、お互いに友達として付き合う。その過程でチームやメカニック、エンジニアといった人たちとコミュニケーションを取りながら人間的に成長して行くっていう部分が一番良かったんじゃないかなと思います。

──「GTアカデミー」の選手たちは、映画内でシムレーサーという風に周りから揶揄されており、レース業界では初心者扱いをされていたと思います。「GTアカデミー」のプロジェクトが始まった当時なども同じような接し方をされていたのでしょうか?

山内氏:
 確かに「GTアカデミー」開始当初の2008年頃は風当たりが厳しかったように思います。ただ、プロジェクトが進むにつれて別の風当たりも強くなりました。

 例えばヤンが出ていた「ADAC GTマスターズ【※】」みたいなレースというのは、ドライバー2人のうち一人は実際のレース経験のないブロンズドライバー(プロではなくアマチュアレーサー)じゃないといけない。当然彼らはレース経験が無いからブロンズ扱いでエントリーするんだけれども、実際はプロより速かったりするんですね。
 だから、「アレ汚いだろ!あんな速いのはブロンズじゃないだろ!」みたいなことを言われたりはしていましたね。(笑)

 現在開催中の公式世界大会でも全世界の各国・各地域からすごい競技人口の中から「GT ワールドシリーズ」で勝ち抜いてきている選手たちを見ていても、やっぱり信じられないくらい速いですしとてつもない才能があると思います。当時の「GTアカデミー」も同じなんですよね。

※ADAC GTマスターズ
2007年から開催されているグランドツアラー(GT)のレースシリーズで、ドイツを中心にヨーロッパ各地で開催される。プロドライバーとアマチュアドライバーが同一の車体をシェアする方式が採用されている。

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──2023年6月にIOC主催の「オリンピックeスポーツシリーズ」の競技として『グランツーリスモ7』が選ばれましたよね。現在「GTワールドシリーズ」に参加しているeモータースポーツ選手たちと、「GTアカデミー」を通じてリアルレーサーになられた選手には、なにか共通点のようなものは感じていらっしゃいますか?

山内氏:
 まったく同じだと思いますね。勝ち上がってくる選手たちが持っている魅力や能力という点では何も違いはないと感じます。

 現在、イゴール・大村・フラガ選手の様にeモータースポーツの選手として「GTワールドシリーズ」で結果を出しながら、自力でスポンサーを勝ち取りリアルレースに同時参戦している選手もいます。ただリアルレースに参戦するというのは受け入れてくれるチームや金銭面など様々な条件がそろわないといけないので、敷居が高い面もあるとは思います。

──「GTアカデミー」を実施することによって得られた知見が、eモータースポーツとしての「グランツーリスモ」を進めていくにあたって生かされた点などはありますか?

山内氏:
 「GTアカデミー」というプロジェクトが最終的に何を残したかっていうことに関していうと、もちろん輝かしい戦績もそうかもしれないけれど、一番大きかったことというのは「素敵な連中」が出会う機会が出来たっていうことなんだと思うんです。

 なので、そういった意味では競技シーンとしてみたときの「グランツーリスモ」シリーズは、「GTアカデミー」の時代から数えれば第二期に入っているわけですけれども、そこでも大事なのは人と人が出会うことかなと思いますね。

──映画『グランツーリスモ』を見てみると、ドライバーの成長譚でありながらも、同時にチームとしての在り方をも描く作品だったように感じました。
過去のシリーズ作では、Bスペック【※】というモードが搭載されていましたが、そういったものを踏まえたうえで、映画を見た際に得られたインスピレーションなどはありますか?

※Bスペック
一部の作品に搭載されている、AIドライバーに指示を出して運転させるモード。客観的にレースを見ることになるため、監督的な視点でレースに挑むことが出来る。

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Bスペックのプレイ中画面(画像は『グランツーリスモ6』(PS3用) ユーザーマニュアルより)
© 2013 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. Any depiction or recreation of real-world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties. All rights reserved.

山内氏:
 リアルのモータースポーツの一番素敵な部分はそこなんです。僕もニュルブルクリンクで8年間くらいレースに参加していましたけど、本当に戦場の様なんですよ。
 まず武器を作るところから始まるでしょう。それでその武器に勝つためのアレコレを仕込むわけじゃないですか。そこにたくさんのメカニックやエンジニアがいて、得られたデータを解析して、さらに速く走れるようにする。

 そしてそのマシンを使って、命を懸けてガチンコで勝負をするわけじゃないですか。完全に戦場なんですよ。だから、ヨーロッパのモータースポーツ文化というのは戦争を無くすためのひとつのアイディアなんじゃないかな?と思っているわけです。

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 簡単にゲームがマネできる世界ではないと思いますけど、楽しいですよ。レース自体は。やっぱり大の大人が何十人も集まってやる真剣な遊びそのものなので、そういった点ではロジスティクスの部分も非常に重要だと感じます。

──「GTアカデミー」では、ゲーマーをレーサーにするという企画であったと思うのですが、逆に実車レーサーを「グランツーリスモ」のeモータースポーツ競技シーンに送り込む“逆GTアカデミー”のようなものを検討したことはあるのでしょうか?

山内氏:
 特に企画として考えたことはないですけど、今例えば「GTワールドシリーズ」を見ていると、前の週に「FIA-F4【※】」などの大会に勝利したばかりの選手が出場していたりするんです。だから、もうすでに自然に起きちゃっている感じですよね。

※FIA-F4
FIA(国際自動車連盟)が2014年に制定した規定。若手の育成を目的としたカテゴリーで、F3やスーパーフォーミュラを目標に若手やアマチュアが参加する。

 でも、特に今の世代のレーシングドライバーは、シムレーサーでもあることが多いので、境界がなくなっているというのが現実だと思います。今はどうやって未来のモータースポーツをデザインするかという模索をしている時期なんじゃないかなと。

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──「GTアカデミー」によって、山内さんが目指していた「現実のシミュレーション」はかなり完成されているなと感じましたが、以前に「シミュレートできる範囲はかなり限られている」とおっしゃっていたのが印象に残っています。具体的にどの程度の範囲までシミュレーションできるとお考えでしょうか?

山内氏:
 細かい話をすると、サーキットのラップタイムシミュレーションだったり、BMWとポルシェの違いは表現できているんですね。ただ、レクサスとメルセデスの違いが表現できるか?と言われるとなかなか難しいかな?とか、そういった感じですね。

 ただ、”森羅万象をシミュレーションする”ということに関していえば、相手は宇宙なので具体的にどの程度再現できるかは、とてもじゃないですけど言えませんね。宇宙自体があまりにも数学的に構成された巨大な計算機でもあるので、それに匹敵するモノをつくるというのは無理だとは思います。

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シリーズ最新作『グランツーリスモ7』(PS5/PS4用)
© 2023 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. Any depiction or recreation of real-world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties. All rights reserved.

──森羅万象といえば、ポリフォニー・デジタルさんは、開発目標として「森羅万象を量子化することで、計算可能の存在にしていく」ことを掲げていますよね。山内さん自身も80年代ごろからコンピューター上で現実をシミュレーションすることに挑戦されていると伺いましたが、それらについて、きっかけなどがあればお聞かせください。

山内氏:
 父が登山家で、かつ昆虫採集のプロみたいな感じだったんです。だから、子どものころからキャンプに連れていかれて、自然の中で過ごしてたんですね。
実家があった千葉県・柏市も、1970年代は自然豊かだったので、今日はこの森を抜けて、あの川やこの沼に行こうかなみたいな感じで虫やザリガニを捕まえたりしていました。なので自然科学に対する興味がすごく強くて、そこが物理シミュレーションへの興味へとつながっていく感じです。なのでクルマはもう少し後の方だったんです。

 まさに森羅万象って自然のことなので、計算可能な存在にしたい。シミュレーションしたいというのはそのあたりがルーツですね。

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──初期の「グランツーリスモ」シリーズはゲーム機の性能が物理シミュレーションの精度への足かせとなっていたと思いますが、実際のレースに匹敵すると感じた瞬間を教えてください。

山内氏:
 それに関しては『グランツーリスモ2』(PS用)や『グランツーリスモ3』(PS2用)あたりの時点では手応えを感じていました。なので、「GTアカデミー」を始めた段階では、それに類する不安はありませんでしたよね。必ず結果を出してくれると思っていました。

──本格的に現実の世界だったり自然現象だったりをシミュレーションしはじめたのはいつ頃だったんでしょうか?

山内氏:
 小学校5年生のころに初めてパソコンに触れたんですけど、シミュレーションっていうのはコンピューターでまず最初にやることですよね。シンプルな大砲の弾道シミュレーションからはじまり、時代と共にシミュレーションできる範囲が広がっていって。

 最初はモノクロだったのに色がついたり、高解像度になったり。どこかが起点というのはないんですけど、強いてあるとすればプレイステーションです。コンピュータグラフィックスが使える最初のコンシューマーハードウェアだったので。

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1994年に発売された家庭用ゲーム機PlayStation(画像はグランツーリスモ』25周年記念トレーラーより)

──「グランツーリスモ」シリーズは、ドライビングシミュレーターの中でも「グランツーリスモ」というひとつのジャンルになっているように感じます。山内さんの思うところの「グランツーリスモ」らしさみたいな部分を教えていただけますでしょうか。

山内氏:
 「グランツーリスモ」はある種の哲学に貫かれて作られている作品なんですね。そういったポイントが、言葉になっていなくても伝わっているという事なんじゃないかなと思いますよね。

──お話を伺っていると、通常のゲームクリエイターの方たちとは違う“哲学的”な感覚をお持ちのように感じました。「グランツーリスモ」シリーズであったり、現実をシミュレートするという点において独自の哲学をお持ちだったりするのでしょうか?

山内氏:
 ポリフォニー・デジタルも創業時にフィロソフィーを掲げていて今も変わっていません。

 よく考えてみると、企業が哲学を持てるという事自体が、奇跡みたいなものだとも思います。本当の意味で企業が哲学を持つというのは実は難しいことなんです。

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──シミュレーションシステム自体を構築していくなかで、そういう哲学的な部分は磨かれていったんでしょうか?

山内氏:
 僕は読書がすごく好きなんです。それで13歳のころから、1日1冊読むっていうのを自分に課していて今も続けてます。だから、そこで得ている知識によって自分が変化していくじゃないですか。

 変化していったものは、ポリフォニー・デジタルの中であれば、作品だったり会社としてだったり形にして実際に試せるんです。これは思想を持つうえですごく大事なことで、身体化させるために必要だと思います。実際に実戦で試してみて、リリースして、反応が返ってきてこそ血となり肉となるという部分がある。そういう意味でもこの環境は非常に幸運ですよね。

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ポリフォニー・デジタルの東京スタジオ内部(画像は2022年にメディア向けに開催された「GT」シリーズ25周年 スタジオツアーで撮影されたもの)

──今ではシミュレーターは、モータースポーツ界になくてはならない存在になってしまっていますよね。シミュレーター業界に対しても「グランツーリスモ」シリーズの登場は非常に大きな影響を与えたと思いますが、どのように感じられていますか?

山内氏:
 初代『グランツーリスモ』(PS用)を作った時は、きちんとしたシミュレーターは世界のどこにもありませんでした。なので、そういう意味ではジャンルを作れたのではないかと思います。

 そして、当時ティーンエイジャーだった子どもたちが、現在は企業の中核にいるような年齢になっているわけじゃないですか。そういった人たちが現代のシミュレーターを作り、それが新しい景色に繋がっているのかなと思います。

──それを踏まえたうえで、モータースポーツ業界に貢献できる事を考えたことはありますでしょうか?

山内氏:
 「Gran Turismo Sophy(グランツーリスモ・ソフィー)」(以下「GTソフィー」)みたいなものはレース業界と組み合わせると楽しいと思いますよ。今シミュレーターというものがモータースポーツ業界でも無くてはならないものになってきているなかで、「GTソフィー」は安定していますし、速いし、そして疲れないですよね。(笑)

 たとえば、エンジニアがすこしウイングの角度だったり、スプリングだったりダンパーだったりを変えてテストしたときに、パッとラップタイムがでる。どれがベストかすぐにわかるわけじゃないですか。だから、そういった点で活用できる可能性は大いにあると思います。

──映画ということで、今回改めて「グランツーリスモ」に触れる方もいらっしゃると思います。そこを踏まえて、ユーザーに対して伝えたいことはありますか?

山内氏:
 今回の映画は「GTアカデミー」という、「グランツーリスモ」シリーズの歴史の中のある10年間を切りぬいた物語となっていて、それは僕自身も忘れていた景色だったんです。
 もちろん、その時々で現場にも居て、レース中の緊迫した空気にも触れていました。それでも忘れていた世界でもあって。それが今回、様々な幸運に恵まれ素晴らしい映画になった。ある意味でその10年間が結晶化した形なんですよね。本当に奇跡みたいな事が起きたなと思っているんですよね。

 同様に、「グランツーリスモ」のプレイヤーのみなさんにも「グランツーリスモ」の歴史や思い出があると思うんです。なので、映画を見ることで思い出していただけるといいんじゃないかなと思います。

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──逆に映画をきっかけに新たにシリーズに触れるユーザーに向けてはどうでしょうか?

山内氏:
 なるべくなら僕は、「グランツーリスモ」をプレイすることで人生を無駄にしてほしくないと思っているんですね。
そういう風な作品にしたいなと思って作っている所があるので、映画をみて「グランツーリスモ」シリーズに触れる方は、『グランツーリスモ7』でドライビングスキルを学ぶのでもいいし、クルマの文化やデザインを知るのでもいいし、なにか自分が成長できることに向かってくれるといいなと思っています。

 クルマの運転ってとても楽しいですけど、ガソリン代もかかったりして乗るのは大変じゃないですか。その中で、クルマの運転の楽しさを一人でも多くの人に気づいてほしいなとは思うので、気楽な構えで遊んでいただくのがいいんじゃないかなと思います。(了)


 映画『グランツーリスモ』は、たとえゲーム「グランツーリスモ」シリーズに触れたことが無くても、面白く夢のある映画となっている。非常に濃厚な体験が出来る貴重な作品に仕上がっていると感じたので、興味のある方は是非足を運んでほしい。

 また映画を観てから『グランツーリスモ7』に触れることで、また新しい発見や成長。そして、もしかすると夢を叶える事ができる機会をつかめるのでは……と思わせられる瞬間もあるかもしれない。

  映画『グランツーリスモ』は9月15日(金)、ソニー・ピクチャーズ配給のもと全国の映画館で公開予定となっている。

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ライター
最近ゲーム業界にサメ映画ブームが来ている気が・・・え? 『スター・ウォーズ』のゲームが出すぎて手が回らない毎日。1日36時間欲しい。

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