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『サイバーパンク2077』拡張DLC「仮初めの自由」はR-18指定『エッジランナーズ』だった━━。ド級のシリアスな圧政世界で残酷な選択肢を求められるVの物語をレビュー

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 常に「俺TUEEEE」で生きていければ人生楽チンだが、現実においては「対処不能の暴力」に遭遇することが必ずあるはずだ。

 例えば、親といった自分の出自に纏わる問題、災害、事故、戦争、権力による抑圧。いくら努力や正しい選択を重ねようとも、一個人では容易く変えられない障害や暴力がこの世には無数に存在する。

 9月26日に発売する『サイバーパンク2077』の拡張パック「仮初めの自由」は上記のような「対処不能の暴力」を徹底的に描き、『サイバーパンク2077』のダークサイドをエグるように掘り下げるものとなっていた。

 実際にゲームをプレイすると、「ナイトシティ」はいかに安全で、本編で描かれていたVが「いかに恵まれていたのか」を痛感することとなる。拡張パック「仮初めの自由」には「都合の良い救済」は存在せず、また安直に与えられる“答え”も無い、そして迫られる選択には容赦がない。

 新合衆国と「凄腕ネットランナー」にまつわる悲劇と裏切りの最後には、「説得力のある歯がゆさ」をプレイヤーに突きつけてくれるはずだ。

 また、作中で描かれる「対処不能の暴力」は「デイビッド・マルティネスの苦悩」のような“個人の無力さ”であり、「仮初めの自由」は『サイバーパンク:エッジランナーズ』と近いテーマをより冷静な視点から描いているように感じた。

 そのため、パークに追加された「あーしの力」「エッジランナーズ」とは無関係に、アニメ版のファンにもぜひ「ほろ苦い」新シナリオをぜひプレイして頂きたい。

 それでは「仮初めの自由」が放つドロドロと仄暗い魅力を紹介していこう。

文/りつこ

※本稿は『サイバーパンク2077』ならびに「仮初めの自由」のストーリーについて言及しております。選択肢に関する情報が含まれているためご注意ください。

「新合衆国」にまつわる“なんだか嫌な予感がする”ストーリー。しっかりしたボリュームと“味変”で実質「続編」レベルの満足感

 「仮初めの自由」の物語は、すでに主人公・VがRelicを獲得し、死期が迫っている段階からスタートする。

 凄腕のネットランナーである「ソングバード」から「命を救う代わりに、不時着する大統領を助けてほしい」という連絡を受けたVは、新合衆国の大統領であるロザリンド・マイヤーズを救出すべく「ナイトシティ」の法律が及ばない壁に囲われた新エリア「ドッグタウン」に向かうこととなる。

 その後、マイヤーズと合流するものの、Vを救うはずのネットランナー「ソングバード」の姿は見つからない。そうしてVは自らの命を救うべく、7年前に発生した「統一戦争」にて諜報員として活躍した「ソロモン・リード」らと協力しながら「ソングバード」の捜索を行っていく……という“なんとも“キナ臭い”あらすじだ。

『サイバーパンク2077』DLC「仮初めの自由」レビュー_001

 9月21日に配信された「アップデート 2.0」によりパークのリワークや警察システムの改善、新ラジオの追加、射場戦闘などが追加されている。

 また、「仮初めの自由」を本編に追加することで新エリア「ドッグタウン」と新ストーリー、半永久的に遊べるダイナミックイベント、100以上の新武器やサイバーウェア、そして新アビリィティが追加され、大胆にゲームが進化している。

 変更点や新システムに関しては先行体験会の記事も参照して頂きたい。

 また、ジャンルはスパイスリラーとなっており、詳細は後述するが「スパイ」要素は新ミッションを通して「プレイヤーの体験」にも新たな“味”を加算している点にも注目して頂きたい。

 これらの要素による“味変”により、既に本編をクリアした筆者も「別ゲー」のように新鮮に「仮初めの自由」を楽しめた。

 なお、筆者は一度本編をクリアしたセーブデータをロードして「仮初めの自由」をプレイしたが、比較的にサクッと遊んだもののプレイ時間は20時間ほど。メインミッションは本編以上に陰惨でダイナミックな物語となっており、一般的なDLCではなく「短編の続編作」であるように認識して遜色はないだろう。

「ナイトシティ」の治安は良い。地獄のような「ドッグタウン」とサイドミッションから見えるその息遣い

 また、本作の舞台は前述のとおりナイトシティの法が及ばない壁に囲まれた地域「ドッグタウン」となっており、同エリアの凄まじく荒れ果てた描写は「ナイトシティ」とは比にならない緊張感を醸し出している。

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 新合衆国大統領のロザリンド・マイヤーズと対立する人物「カート・ハンセン」とそのギャング集団による独裁が行われる街では、そこかしこで耳をつんざく銃声が鳴り響く。

 立ち入り禁止エリアもかなり多いため、「ちょっとしたお散歩」から思わぬタイミングで銃撃戦が勃発することもしばしば。ナイトシティではよほど首を突っ込まなければ安全に街を探索できたが、新エリアでは「いつ撃たれても可笑しくない」という意識を持たねばならない。

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ドラッグを吹きかけあうバーゲストの兵士たち

 また、日の当たらないエリアにはヨタヨタのジャンキーが徘徊しており、町に住む人の多くはコーポやギャングに追われたりとナイトシティから追い出された者たちが多い。サイドクエストでは「ドッグタウン」の住人や「カート・ハンセン」率いるギャング集団「バーゲスト」に所属した兵士たちとの交流が描かれる。

 彼らとのクエストを進めれば、いずれも「無力」であるが故に権力者による抑圧ドッグタウンの暴力に苛まれており、罪を犯す者も貧困や「従軍によるサイバーサイコシス化」といった事情で犯罪に手を染めている。

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家族の為に年齢に不相応な身体改造をする少年

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 結果として「ドッグタウン」は『サイバーパンク2077』の世界における「歪に力を持った者たちの暴力」とその傷跡、加速した社会における異常な格差の表現に溢れている。

 こういった設定などは『サイバーパンク2077』に予め込みこまれてる要素でもあり、同時に鑑賞者としても安直に面白がって良いものではない。

 それらを踏まえた上で、「ドッグタウン」の陰惨な表現は『サイバーパンク2077』のアイロニカルな側面を前景化させ、まじまじと見せつける雄弁さを持っているだろう。

「スパイ映画」のようなゲームプレイ。敵の懐に堂々と潜入する「ジットリとした緊張感」で新作のようにフレッシュな体験

 新たなメインミッションが進行すると、目的はソロモン・リードらと協力し、カート・ハンセンに囚われた「ソングバード」を救出する戦いへシフトしていく。

 とはいえ、「ソングバード」の救出劇はゲーム本編における紺碧プラザへの侵入やアラサカタワーへの襲撃とは一味違う。「仮初めの自由」ではまさに“スパイ映画感”に溢れた会話や潜入、戦闘を楽しめるのだ。

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 たとえば、ソングバードに接触すべくカート・ハンセンの拠点に侵入する際には、ドッグタウンの水路を通じて建物に侵入し、スナイパーライフルやハッキングで同行するソロモン・リードの潜入をサポートする場面が用意されている。

 概念としては「ステルスアクション」だが、従来の“隠れる行為”のみが直接敵に見どころになっているわけではなく、どちらかといえば“スパイのロールプレイ”を重視したギミックと言えよう。

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 別の場面ではカート・ハンセンのパーティーに身分を隠して潜入し、カジノを楽しんでいるふりをしながら「障壁となる人物の情報」を盗んだり、敵対キャラクターが利用する車両をハッキングして暗殺したり、はたまた「顔と声を変える」未来のスパイ道具を駆使して変装し、カート・ハンセン本人と談笑をする場面も用意されている。

 勿論、各動作には失敗のリスクが用意されており、会話パートなどにおいても嘘がバレれば殺される。そんなリスクを抱えながら流暢に会話をしたり、はたまた死のリスクを背負ってパーティーを楽しんだりする際には、従来の『サイバーパンク2077』には無かった新しいヒリつきを楽しめるだろう。

 つまり「仮初めの自由」は、SF世界で「スパイ活動」を実際に行い、人を騙し、必要であれば障害をひっそりと排除することを「強い没入感」と共に楽しめる「スパイシミュレーター」としても上質だ。

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自分だけに見えているプロファイル情報を元にカート・ハンセンと談笑していく

 さらに、本作では進化した戦闘システムを携えて「ド派手なボス戦」や「危機迫る脱出劇」もしっかりと用意されている。

 序盤から登場する暴走した巨大兵器をはじめとするボス戦に、リワークした戦闘にあわせて破壊力をました集団戦はドロドロとした新シナリオのスパイスとしてプレイヤーに刺激を与え続ける。

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 新ミッションはこれらの「新たな刺激」を多分に導入しているため、まさに『サイバーパンク2077』の続編のように「仮初めの自由」を楽しめるはずだ。

【ネタバレ注意】全員のことを決して救えない。「邪悪なもの」を誤魔化さない絶望的な選択肢

 「仮初めの自由」の序盤では「国家に従事する得体のしれない奴ら」と仕方なく協力し、Vは自らの命を救うべく彼らの本心を探りながらミッションに挑んでいた。ところが、ジョニーが執拗に警戒するほど胡散臭かった「ソロモン・リード」や「ソングバード」も協力を重ねる度に、新ミッションの中盤に差し掛かる頃には「バディ」と形容できる関係性になっていく。

  最低でも10時間弱を彼らとともに過ごし、なんなら彼らが滅多に語らない公開や真意も知っている。数々のミッションを経て「結局みんな良い奴じゃん」と思っていたが、それは大いなるだった。

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 彼らの真意とともに明かされるのは「7年前の因縁」であり「国家に意思を捧げた」ことが全ての原因であるということだ。そして「ソロモンリード」と「ソングバード」、そして「ロザリンドマイヤーズ」の軋轢は、既に取り返しがつかないことに気付かされる。

 やがてVは一度信頼し合った人物に対して『ドラゴンクエストV』における“花嫁の選択”の如く「救う人間」と「敵対し殺す人間」を選択しなければならない。

 少なくとも筆者がプレイした物語においては、そこに「皆が救われる」という選択肢は残されていなかった。

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 一見「ひたすらに救いのない」な選択肢であり、筆者も実際にプレイした際には思わず引きつった笑みをこぼした。

 しかし、思い返せば今までのVの人生こそが「都合が良すぎた」だけなのではないだろうか。

 例えば主人公・Vは「ナイトシティ」にて成り上がり、多くの人の人生を救ってきた。そのなかでは親友であるジャッキー・ウェルズを亡くしたり、多少の裏切りがあったものの「自身の超人的な力量」で切り抜けている。

 だが、この世の全てを「個人の力量」の元に決定したり、思うように書き換えることはできない。

 現代ですら「個人の力量」とは無関係に“どうしようもない”不幸や不都合が無数に降り注ぐ。ならば、企業やギャング、そして「国家」が圧倒的な力で市民を蝕む『サイバーパンク2077』の世界にこそ、「操作不能の不都合」が存在するはずだ。

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 本稿ではエンディングについて詳しく触れることが出来ないが、この「個人の思い通りにならない」感覚は、物語の最後にも改めて突きつけられる。あくまでも筆者のプレイに基づく憶測となるが、いずれの選択においても歯切れの良い“正解”は得られないと思う。

 とはいえ、「決して思い通りにならない」としても、限られた選択肢の中で自分の人生を生きなければならない。物語の果てにはジョニー・シルヴァーハンドはそんなニュアンスの台詞をVに語り掛けてくれる。この台詞は「V」への台詞だが、同時にプレイヤーへのメッセージでもあるように感じた。

 「仮初めの自由」の物語は、「容赦のない残酷さ」により世界を思うように操作できる「ヒロイックな個人の力」を否定する。しかしその「不都合さ」はナイトシティを貫通し、我々が生きる世界の理を誠実に描くものに仕上がっているだろう。


 本記事を介して「仮初めの自由」に興味を持った方は、ぜひメインミッションの湿度の高い緊張感、そして物語の最後に描かれる“ほろ苦い結末”を味わって頂きたい。

 本作の対応プラットフォームはPS5、Xbox Series X|S、PCで、9月26日に発売予定。すでに予約受付を開始している。

編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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