あなたが目を覚ますと、そこは閉ざされた研究室。
その近くには「博士」と呼ばれる頭部がなくなった死体と、「イヴ」と名乗るアンドロイドが佇んでいた。
「また会いましたね、はじめまして」とイヴは語り掛けるも、あなたは何も覚えていない。記憶を喪失していたのだ。そして、そこに現れた女児口調の統合法規インターフェース「ケル」は、惨殺された博士の死体を前にして、現在得られる情報から想定して殺人犯はイヴであると断定。”処分”を敢行しようとする。
それに「待った!」をかけたあなたは、イヴの無実を晴らすため、閉ざされた研究室内の調査を開始する。だが、許された時間はたったの5分。それまでに無実を証明する証拠を見つけられるのか……?
……と、いきなり急展開から始まる『EDEN.schemata();(エデン・スキマータ)』は、2024年にSteamで発売予定のSFミステリーアドベンチャーゲームである。小説「ルヴォワール」シリーズを代表作とし、『Fate/Grand Order』の期間限定イベント「虚月館殺人事件」を手がけた実績を持つミステリー作家の円居挽氏が脚本を担当。
開発は『幻走スカイドリフト』などのインディーゲームを代表作とするインディーゲームスタジオ兼同人ゲームサークル「illuCalab. -いるからぼ-」、キャラクターデザインとアニメーションは『東方』シリーズを主としたアニメ作品を手がける、ゆたろう氏が担当している。
東京ゲームショウ2023には、そんな本作の序盤エピソードを体験できるプレイアブルデモが出展された。Steamストアページ記載の情報によれば、“ゲーム内の行動によってゲームデザインがUIとともに移り変わっていくのが特徴”(※原文を一部引用)とのことだが、いったいどういうことなのか。実際に遊んでみて分かったその特徴をレポートする。
取材・文/シェループ
反論しようにも打つ手なし!しかし、それと共に新機能が解禁され……?
ゲームを始めて間もなく起きる展開は冒頭に記した通りだ。不思議なアンドロイドと出会って間もなく、頭部がない死体を発見。それから間もなく統合法規インターフェースなるAIが起動して、即座に件のアンドロイドを犯人認定され、処分が決まって大ピンチ。絵に描いたような急展開である。
だが、このまま黙って見過ごせるかよということで、Lボタンはいっさい使わずに「待った!」をかけ、事件現場の研究室内に無実を証明する手がかりがないか調査開始。非常にテンポのいい始まりで、一気にプレイヤーを引き込む流れとなっている。
アドベンチャーゲームとしての作りはポイント&クリック型。マウスでカーソルを動かし、気になる所をクリックして調べ、手がかりを探していく形だ。ただし、調査するにも制限が課せられている。
冒頭の繰り返しになるが、調査を始める前にケルから“5分間だけ許す!”と言われる。つまるところ、調査は5分の間にやり切る……のではない。時間自体はリアルタイムで進行せず、気になる場所を調べた時に限って経過する仕組みになっている。
要は5回だけ、気になる場所を調べられるという仕組みである。そして、5回調べ切ると時間切れになり、ケルに反論可能な証拠を見つけられなければイヴの処分が実行されるバッドエンドを迎える。逆に見つけられれば、反論を展開するパートへと移行するという感じだ。
ただ、最初の調査は確実に失敗する。そもそも、どこを調べようが無実を証明する証拠が発見できない。見つかるのはせいぜい意味深な手がかりぐらいで、反論するには不十分な情報しか集まらないのだ。よって、イヴは処分されて終了……とはならず、それと共に新システムが解禁。
それまでの会話にあった気になる単語などの「KEYWORD」が記録されるようになって、一部、下線が引かれたテキストにキーワードをドラッグ&ドロップで反映させられるようになるのである。
そして、先ほどの調査開始の時間まで戻って再開し、前述のシステムを用いると新たなイベントが発生。さらなるキーワードが発見されると同時に、反論に使える証拠・情報が手に入るのだ。
このような調査の失敗などと共に新たな機能が解禁され、ストーリーが進展するに限らず、行動範囲の拡大からゲームシステム全体の変化まで発生する作りが大きな特色になっている。最初はストーリーを追うだけのビジュアルノベルだったのが、コマンド選択型のアドベンチャーになって、そこから某法廷バトル的展開になっていくような感じだ。こうなると、いずれはハイスピード推理アクションにまで発展するのかと思ってしまうが、さすがにそこまでの情報は公にされておらず不明。けど、あり得そうではある。
実際にキーワードを用いる以外のシステムもプレイアブルデモでは確認できた。それは今までの会話を記録した「バックログ」に隠された仕掛けを暴くというものである。どんなものかは割愛するが、体験すれば本作のストーリーが単純にアンドロイドの無実を証明するだけに終始しない、複雑怪奇なものである事実をまざまざと思い知らされるだろう。同時に今後のエピソードで、どんなシステムが現れるのか、そもそも最終的にこのゲームはどこまで変質してしまうのかと先が気になってしまうかもしれない。
手描きアニメで描かれる個性的なキャラクターたちにも注目
システムとストーリーに組まれた仕掛けに限らず、手描きアニメで描かれたグラフィックもインパクト十分。イベントデモから調査パートまで、イヴがまるで生きているかのように動き続けるのは圧巻だ。
キャラクターも個性的。本作のキーキャラクターでもあるイヴはさることながら、筆者は女児口調でこちらに語り掛けては真実を説こうとするケルがやたらと印象に残ってしまった。なんというか……憎たらしくて可愛い。
特に反論した際に見せる戸惑いと、意地でもイヴが犯人だとこじつけようとする必死さには、見れば見るほど「なんか可愛いな、このAI」となってしまった。むしろ、イヴがプレイヤーに対しておしとやかで献身的な性格である分、ハッチャけ気味のケルは印象に残りやすかった……のかもしれない。
周回を前提にしているなりに、再開時にはイベントをスキップしてすぐに調査から始められるなど、快適性周りにも配慮が感じられるのも嬉しいところ。失敗と共にシステムが解禁されていく作りの関係上、特に何の説明もなく始まる一番最初で何をしたらいいか分からなくなりやすいが、あえてそうしたなりのストーリー構成が面白く、それが大きな個性として確立されている感じだ。
反論シーンに象徴されるように、所々に某法廷バトルを始めとする著名なアドベンチャーゲームの小ネタもあって、アドベンチャーゲーム好きをニヤリとさせる要素も揃っている。ゲームシステムの拡張、それに伴って増える謎など、小説や映画などでは味わえないゲームならではのミステリーを欲する人には要注目の新作だ。