デザイナーやイラストレーターなどアニメ業界外から集まり、アニメ業界に対してアンチテーゼを投げかける平均年齢26歳という驚異のアニメーションスタジオがある。
イラストレーターでありアニメーション監督でもあるloundraw氏や小説家の佐野徹夜氏、れおえん氏やSWAV氏といったイラストレーターが所属するFLAT STUDIOだ。
FLAT STUDIOでは、毎週必ずオンエアしなければならないがゆえに、日本のアニメから削ぎ落とされていったという「色」「光」「レイアウト」にとことんこだわり、圧倒的なマンパワーで『サマーゴースト』という劇場アニメを2021年に作り上げた。
彼らは「絵が描ける」という共通点こそあれど、アニメ業界の人間ではなかったため、従来のアニメ作りからすると異質ともいえる方法でアニメを作っている。
一方で、あらゆることをとことん言語化するという、アニメーションスタジオに限らず多くのチームが取り組むべき課題を見事に突破しているスタジオでもあり、そのあり方は非常に興味深い。
さて、そろそろ本稿の本題に入ろう。
本稿は、そんな『サマーゴースト』の監督であるloundraw氏、FLAT STUDIOの代表である石井龍氏、そして元「週刊少年ジャンプ」の編集長であり、マシリトの愛称でお馴染みの鳥嶋和彦氏による鼎談企画である。
アニメと漫画業界から有識者が集うカンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima 2023」(以下、IMART2023)が11月24日から26日まで池袋サンシャインシテで行われるのだが、その基調講演に上記3名が登壇し、本稿はそれを記念したものだ。
同基調講演は「AI新時代」がテーマなのだが、電ファミニコゲーマーでは、loundraw氏のクリエイティブ、石井龍氏のマネジメント、そしてFLAT STUDIOというある種で異質な存在に着目し、鳥嶋氏を聞き手として、そのユニークさを掘り下げていく。
そこから見えてきたのは、効率を求めて分業化してきたアニメ業界に対する一種のアンチテーゼであり、「手作りへの原点回帰」だった。
アニメ業界外から集まった平均年齢26歳のアニメスタジオってどういうこと?
──まずはお二人に迫る前に、そもそもFLAT STUDIOがどういうスタジオなのかを伺えればと思います。
石井氏:
2021年に公開した『サマーゴースト』という映画が初めての作品だったのですが、スタッフの平均年齢が今26歳ぐらいの凄く若いスタジオでして……。
鳥嶋氏:
若いねえ! 高校生もいるの?
石井氏:
今現在でいうと高校生もいますね(笑)。
鳥嶋氏:
その高校生はどんな仕事をしているの?
石井氏:
高校生はアシスタントですね。
鳥嶋氏:
じゃあインターン的なニュアンスがあるわけだ。
石井氏:
そうですね。ただプロジェクトにおいては一般的なインターンよりも、しっかりと手伝ってもらっています。その他の年齢層としては、トップ層が僕や小説家の佐野徹夜ら30代半ばが4名、主戦力のミドル層は20代中盤が一番多いです。loundraw氏は今28歳で、『サマーゴースト』を作った時は26歳でした。
鳥嶋氏:
若い……!
──アニメ業界って慢性的な人手不足だと思うんですが、どうやっそんな若手を集めたんですか?
石井氏:
自分たちはアニメ業界の出身ではないんです。自分はデザイン出身ですし、loundraw君はもともとイラストレーターで、みんな異なる業界から集まってきているんですよ。ただ、「絵を描く」という共通技能さえあれば、「学べば分かる」はずだと思い、絵を描ける子たちをいろんなところから寄せ集めてきて作った作品が『サマーゴースト』だったんです。それこそ、なんなら国外の人もいました。
鳥嶋氏:
企画が始まって、出来上がるまでにかかった時間は?
石井氏:
配給チームとの顔合わせやボツになったいくつもの企画のディスカッションを含めると4年間ぐらいですね。
loundraw氏:
そうですね。「一緒に映画を作ろう」と配給の方にお声がけをいただいてスタートしたんですが、最初は長編を作ろうとしていたんですよ。でも監督一作目で長編かつオリジナルという想定だったので、どう構成するか、どこに的を置くか、などの部分が難しくて……。
鳥嶋氏:
だよねえ。
loundraw氏:
なので最初の数年は全然進みませんでした。ですが、作れないということが作品に携わる全員にとって一番困るじゃないですか。40分くらいの短尺でいいので、まずは1本、短編映画を作ろうとなりました。
そして、脚本として乙一さんに参加していただくことになったんです。ですので、実際4年といいつつ、『サマーゴースト』に関しては企画から脚本に半年ほど、制作に1年くらいで実質1年半ぐらいで作り切ったという感じですね。
鳥嶋氏:
なるほどねえ。でも1年半で、いきなり劇場用だもんね。
今のお話を聞いてると、作るとなってから手探りでスタッフを集めて、ディスカッションや共同作業をやりながらお互い勉強して作っていった、という感じなんですか?
loundraw氏:
そうですね。特に『サマーゴースト』の時は、まだほぼほぼスタッフがいなかったので、美術や撮影はまだしも作画は基本的に外注だったんですよね。
──制作はリモートで行われたんですか?
loundraw氏:
基本はリモートで作業しつつ、関東近郊の子は週1絶対集まって、制作の話をするようにしています。いまでも基本はリモートなんですが、全体ミーティングを週2回やって、作ったもののレビューをしたり、とにかく雑談をする時間を取ったりしています。
鳥嶋氏:
『サマーゴースト』が初めての監督作ということだけど、「届かない」とか「ここを知りたい」とか、作り始めて一番の壁になったのはどのへんだったの?
loundraw氏:
そもそもの話になってしまうのですが、僕らはアニメ業界の外から集まってきたので、アニメ業界の規格やフォーマットみたいなものを全然知らなかったんですね。それを覚える、というのがひとつ大変でした。
もうひとつが、これはクリエイターとしての考え方の話なのですが……まず前提として、これはアニメに対するディスではないです。その前提で聞いていただきたいのですが、アニメというものには比較的、表現にフォーマットがあるんですよ。
描き方はもちろん、「走る」はこういう動き、「背景」はこういう感じなど。なので一枚一枚にテンプレートを持たないイラストの視点でみると、アニメはライティングや色をそんなに気にしていないようにも思えます。
これはおそらく、「1クールを確実に回す」という中で削ぎ落としてる部分だと思うんですが、僕はイラストレーター出身なので、色や構図がすごく大事だと思うんですよね。
鳥嶋氏:
うんうん。
loundraw氏:
その結果、どうしても前述したスタンスの方々と自分たちのスタンスとでズレが生じるといいますか、「何が正しいのか」「何を目指すのか」の基準が違ってきてしまったんです。
鳥嶋氏:
同じ陸上競技でも全く違う種目をやっていると。
loundraw氏:
そうですね。
鳥嶋氏:
絵を基盤にしてやることは一緒だけど、全く違う視点の、絵の捉え方ってことですよね。
loundraw氏:
それが結構難しかったなと思います。
鳥嶋氏:
その誤差はどうやって埋めていったんですか?
loundraw氏:
諦めた部分ももちろんありますし、自分で言うと角が立つかもしれませんが僕のマンパワーでなんとかした部分もありますね。背景は基本的に僕がほぼ全てのカットをレタッチする前提で進めていて、カットも約600カット中400カットくらいは僕が手を加えました。
鳥嶋氏:
400!
loundraw氏:
CMなどでしたら、作画も背景もなるべく全て自分で最終調節しますが、流石に600カット全てはできませんでした。
鳥嶋氏:
へえー……。すごいね。美術を自分でやったってことか。
石井氏:
loundraw氏は基本的に全セクションできるんですよ。それはイラストレーター出身だからこそのスキルセットでもありますが、ただ、それを90分尺の作品でやろうと思うと、物理的に難しいじゃないですか。
鳥嶋氏:
難しいだろうね。
石井氏:
なので、例えば『サマーゴースト』の時は、総合的な判断のもと、作画にはなるべく入らないで、「美術に専念する」という判断で行きました。その結果、美術班がすごく育ち、この4年でもう任せられる状態にまでなったので、次回作は美術にはなるべくリソースを割かないで、作画のほうに割くようにしようと思っています。
この辺りはその時のスタッフやスタジオの状況によって、プロジェクトごとにフォーメーションを変えるのですが、「監督が自ら手を動かせる」というのは結構大きなポイントです。
従来のアニメにはない、「色」「光」「レイアウト」に対するこだわり
鳥嶋氏:
話をお聞きしてると、loundrawさんの全部思った通りではないにしても、こだわっているところを実現化するための、新しいアニメーションスタジオをイチから作ったっていう感じなのかな。
石井氏:
そうですね。
loundraw氏:
そう……かもしれないですね(笑)。
石井氏:
loundrawの絵柄を実現化させるためという部分は原点です。ただ、この課題は他のクリエーターも抱えているだろうと思いましたし、この取り組み自体が他のクリエーターたちにも何か刺激を与えるのではと考えていました。
ただ、「新しいアニメーションスタジオをイチから作る」というのが実は難しくて。基本的には新卒の子を2年ぐらいかけて育てるのですが、ある程度成長には時間が必要なんですよね。お金があって外注の方にお願いすれば作家独自の“フィルム感”が量産できるかというと、必ずしもそうではない。
どうしても育成期間が必要なんです。『サマーゴースト』ではほぼボツにした作画カットもありますし、外部に依頼した美術がアプローチが違うことで「結局そのままでは使えない」と判断したこともありました。結果、自分たちで直したり(苦笑)。
こういったことは短期的にお金で解決できない、お金では買えない問題なんです。
鳥嶋氏:
ああー。気持ちは分かるよなぁ。分かるけど、プロデューサーは頭を抱える。
石井氏&loundraw氏:
(笑)。
鳥嶋氏:
ちょっと戻るけど、美術のほうに力を入れられたってことをもう少し聞きたくて。僕の経験則からすると、もちろん美術は大事だけど、あくまでも人物が大事で、原画に注力するというのが一般的だよね。
石井氏:
はい。
鳥嶋氏:
そこを美術のほうに手を入れて、人物のほうは大丈夫だったんですか?
石井氏:
これが例えば、キャラクターIPものであれば、“いかにキャラが魅力的なのか”に注力するべきだと思うんですね。
一方で、loundraw氏はイラストレーターとして、「一枚絵としてのルックを担保する」というところからスタートしているので、フィルム感で見るんです。
つまりキャラクターもワンオブゼムというか、作品の中の要素のひとつでしかないんです。もちろんストーリーを引っ張るとか、そういう役割は強くありますけど。
一枚の絵で見た時に、背景美術のほうが印象としては大きな割合を占めるのではと考えていました。
鳥嶋氏:
なるほどなー。
石井氏:
なので、背景のほうを注力したというのが、まずありました。
鳥嶋氏:
やっぱり人物は人物で大事だけれども、全体的な意識としてはモニターやスクリーンで見た時に、どんなクオリティで映るかっていうことが大事なんだね。
loundraw氏:
僕としてはそうですね。単純に「人物」と「背景」という要素に分けた時に、どちらのほうが僕の作風を再現しやすいかというと、背景だったんですよ。
何より、当時は背景を任せられる人間がいなかったんです。なので、そこをまず担保する必要がありました。
逆に今はチームが育ったので、全体で見たときに背景は良いけど、人物が出来ていない状態なので、今度はそっちに入ることになります。
鳥嶋氏:
ということは、従来のアニメを作っている人たちにお願いをしたときに、色や光、レイアウトといった要素のレベルが、思ってたのと違ったわけだ。
loundraw氏:
……そうですね。いろいろな要素がある話なんですが、例えば日本のアニメの背景は、あまり「黒色」を使わないんですよね。比較的明るいというか、真っ黒を使わなくて。それは明るい色のほうが「重たくなくて綺麗に見える」という属性を持っているからだと思います。
でも例えば、“夏のアスファルト”を表現するとき、実は影側はかなり黒かったりします。その場合、どれだけ光側で白く明るい色使いをしても、日差しの強さとかが出ないんですよね。
日本のアニメは意外とそういった部分で、自分がら見た解釈というよりは既にある共通認識を優先することがあって、「影って青いよね」とか、「青いと綺麗だよね」とか、わかりやすさという視点でクオリティを担保することが多い印象なんです。
鳥嶋氏:
あー……はいはいはい。
loundraw氏:
そういった部分が、僕の作りたいルックと、当時一番合っていないものでした。なのでまずそこを担保して作らないと、「僕はこういうことがやりたい」というのが届かないので、『サマーゴースト』の時は「あ、今回は背景をやらなきゃな」と思いました。
鳥嶋氏:
なるほどね……。ここまで聞いてきて、ようやく少し分かった。
loundraw氏:
ありがとうございます(笑)。
鳥嶋氏:
loundrawさんの分析は正しくて、アニメの始まりはテレビなんですよ。だからクオリティはともかく、毎週必ずオンエアしなくちゃいけない。そのための方法論で成り立っていて。
だからおっしゃるように、業界のフォーマットとか慣習が何十年に渡ってできてきている。おまけに、昔はアニメの多くが子どもをターゲットにしていたんだよね。だから色も明るく、子供が認識しやすい形のものになってると。
だけど、ここまで来て、アニメがそれなりに成熟したり広がりを持ってきた時に、やっぱり従来の作り方では、全く「ダメだ」ってことだよね。
loundraw氏:
少なくとも、「僕のイラストをアニメーションさせるのには難しかった」という感じですかね。
鳥嶋氏:
だとすると、もう自身で手を動かして、具体的に「こういうことだ」「これでいく」と見せて、説得ないし指示出しするしかないわけだ。
loundraw氏:
スケジュール的に全てに手を入れることはできないのですが、チームでどういう修正をしたかの共有は行っていました。今はチームとして、僕が直接関わらない仕事でもメンバーたちが毎週成果物を持ってきてくれるので、一般的にはこう直すとか、僕としてだったらこう直すという話をするようにしています。そういった形で、今ようやくアップデートできる環境ができたかなと思います。
鳥嶋氏:
さっきのアスファルトの例をひとつ聞くと、「ああ、なるほど」って思ったんです。でも、それをひとつひとつ上がってきたものに対して、具体的に見せながら変えてくって、こうやってお聞きするよりは相当大変だったんじゃないですか?
loundraw氏:
結構大変でしたね(笑)。
石井氏:
(笑)。
鳥嶋氏:
だよね……。
loundraw氏:
でも逆に言うと、大変だからこそ、そこが担保できるようなチームができたら、ちゃんと差別化がされるだろうなとも思ったんです。それが頑張る理由にはなりました。
鳥嶋氏:
一方でスタッフからすると、loundraw氏の話や指示って、彼らの価値観が変わるような内容だと思うんですよ。だから彼らからしても、ビックリしながらも、納得すると楽しかったんじゃないかなぁと。そのへんどうでした?
loundraw氏:
そう願っています(笑)。ただ、もしこれからチームが少しづつ大きくなり、直接喋る距離にいないようなメンバーが出てきた時は、またそれぞれのスタンスを理解し合う必要があるのかなと思います。ですが、今いるメンバーに関しては、すごく楽しくやってると思いますね。
効率を求めて分業化していたアニメ作りが、いま「手作りの原点」に戻ろうとしてる
鳥嶋氏:
年齢というか、世代もあると思いますよ。今のアニメのスタッフって、おそらく平均値が30代前半くらいなんですよ。一方でみなさんは20代半ばっておっしゃった。
loundraw氏:
そうですね。
鳥嶋氏:
そういう意味では、わりと漫画家に近いんですよね。漫画も新人は20代半ばぐらい。
石井氏:
僕らの共通の価値観みたいなところでいくと、「漫画家」とか「イラストレーター」とか「アニメ」とか、そういった垣根がないんですよ。
漫画も描くし、小説も書くし、絵、アニメも作る。その上で、一番求められてるところが「勝手に伸びちゃう」という現象だと僕は捉えていて。loundraw君の場合は10代からイラストレーターの仕事をずっとやってきましたけど、20代の早々にしてイラストレーターが請けられるであろう仕事の範囲全てを経験してしまったんですよね。
そうなると、技術やクリエイターとしてのステップアップをどうしていくかを考えたときに、“隣接する違う業界”という別の高い山に登ろうとしたんです。
鳥嶋氏:
なるほど。
石井氏:
そうなると、当然そこで求められるものによって、必要な技術や仲間といった登上のために「集めなければいけないもの」が変わってくるじゃないですか。
僕らはそれまでアニメ業界という文脈でないところからアニメを作ったので、「5合目ぐらいから突然やってきた変な人たち」みたいな感じになってしまったのかなと。なので普通の登山ルートは登ってないんですよね。きっと装備品なども違くて、「一緒に登ろう」と声をかける人たちも、ちょっとずつ違った分野の子たちが集まっている。そういう変わった集団であるという自覚はあります。
たとえば「IMART2023」のキービジュアルは僕たちが作らせていただいているんですが、これのラフ切りやキャラの配置を含めたレイアウトは、美術マンがやっているんですよ。普通はそういう作り方しないと思うんですけど。
鳥嶋氏:
これはたしかに、この手のイベントではあまり見ないビジュアルだよね。
文字色もさ、編集的に言うと赤にしたいけど、赤にしちゃうと絵の良さが全部消えちゃうから、もうこうするしかないよね。
石井氏:
そうですね。あるメンバーは『サマーゴースト』の時に入って、メンバーになってから既に2~3年は経過しているのですが、普通であれば美術マンとしてのキャリアを深めるところ、この子の場合はむしろ「作画にも関わりましょう」という具合でキャリアを広げるようになっていて。
Z会さんのCMも作らせていただいているんですが、そこではloundraw君と一緒にキャラの色指定までやってるんです。美術の子が色指定をやるなんて普通はないと思うのですが、結局一枚絵で見た時のバランスをみんなで追求しているので、作画の人は作画だけしてればいいとか、美術の人は美術だけ描いてればいいということでは全くなくなってきてしまっていて。この子は次の映画で撮影にも参加すると思います。
鳥嶋氏:
今聞いてて本当に「ああ」と思うのは、徹底的に効率を求めて分業化したものが、「手作りの原点」に戻ろうとしてるんですね。
石井氏:
そうです。もう、そこでしかないですね。
鳥嶋氏:
だから、今までのアニメの作り方に対して、大きなアンチテーゼを投げかけてるわけですよね。
石井氏:
これでも日本のアニメーション業界の一員として、僕らにしかできない役目を担うことで、業界に何かしら貢献できればいいなという気持ちもあって。今僕らが担えることを考えた結果このようなかたちにたどり着いて。なので、結果的にはそう見えるかもしれませんが、自分たちとしてはアンチテーゼを掲げているつもりはないんです(笑)。
鳥嶋氏:
でもね、さっき話し途中になりましたけど、既にキャリアがある人には、loundrawさんのような作り方は無理だと思うんだよね。なぜかっていうと、それが常識になっちゃってるから。それはもう壊せない。
ところがこの作り方は、従来のアニメの作り方を壊すことになってるんだけれども、実は自然な流れとして、loundrawさんから始まっているよね。だからこそ、身近にいて、年齢や感性が若ければ、スッと入っていく。
石井氏:
そうですね。なので「育てる」という発想になり、高校生ぐらいのセンスいい子に、もう在学中から程度叩きこんでいくんですよ。そして、そのまま入社してもらう。
鳥嶋氏:
よくわかるよ。漫画家も、ハッキリ言えば、10代が勝負だから。
さっき、「装備が違う」っておっしゃったじゃないですか。そういうものって何か、具体的にありました?
loundraw氏:
「装備が違う」はスキル的な意味合いが強いのですが、例えばレイアウトとは一般的にはアニメーターが切るものですが、『サマーゴースト』では基本的には僕が切ってましたね。なぜかというと、カメラのイメージは監督の中にあるからです。
かつ、アニメーターといっても、実はいろんなスキルがあるんですよね。可愛く描けるとか、動きが上手いとか、それこそレイアウトが上手いとか。全部ひっくるめてアニメーターなんです。なので「レイアウトは各々で描いてください」という指示は、画面構成において実は何の保証もないことだったりするんです。
鳥嶋氏:
レイアウトっていうのは、画角とかアングル的なものは全部ということ?
石井氏:
そうですね。まずアニメーターには「動きを描けるか」と「キャラを似せられるか」のふたつが求められていて。次回作ではloundraw君が総作監までを担う予定なので、そうなるとアニメーターのメンバーたちは「動き」をどれだけ美しく描けるかに特化していくと思います。