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平均年齢26歳のアニメーションスタジオFLAT STUDIOとloundrawが歩む道 ━ 日本のアニメが削ぎ落してきたものに拘り、効率重視の分業化に反する体制を取る

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loundrawらしさとは

──FLAT STUDIOがかなり特殊なアニメスタジオであることは分かったんですが、お二人がこの業界に入られた経緯も伺えればと思います。

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石井氏:
 僕はもともと編集者で、今はもうありませんが「PUBLIC/IMAGE.ORG」というWebマガジンの編集や「2.5D」というメディアスペースの運用を7,8年間くらいやってました。

 並行してCDのアートワークや広告、画集などのデザインプロデュースをして、その中でloundraw君と出会ってマネジメントとなり、作家としての活動管理だけではなく、設立にはいくつかのコンセプトがありますが、彼の才能をより伸ばすという意味でもFLAT STUDIOをloundrawと佐野徹夜と共に立ち上げました。

 なので、アニメプロデューサーに、結果的に“なっちゃった”タイプですね。

──loundrawさんはいかがですか?

石井氏:
 最初は広告代理店に行こうとしてたんだよね?

loundraw氏:
 しましたね(笑)。

──デザイナーとしてとかですか?

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loundraw氏:
 そうですね。少し自分のことを話させていただくと、両親が大学で教えたりしているんですが、子供のころからずっと「学者になれ」と言われ続けてまして……。

 それで大学受験も頑張っていたのですが、受験期の11月とかに「あ、勉強嫌いだ」って気づいてしまったんです。

一同:
 (笑)。

loundraw氏:
 それで親と泣きながら話して、「勉強好きじゃないわ」って。そこから色々調べたところ、芸術と工学を扱う学部があることを知って、じゃあこに行こうと。そのあと、偶然にもイラストのお仕事をいただいて、副業にするつもりでイラストを描いていたんです。

  石井さんとはそのあとに出会って、東京に来るならマネジメントすると言ってくれたんですよ。当時(2016~2017年)は、イラストレーターがマネジメントされることがあまりなかった時代で、すごくありがたいことだったんです。

 そこから就活辞めるかとなり、今に至る感じですね。

──イラストレーターとしては、どういう感じで活動の幅が広がっていったんですか?

loundraw氏:
 pixiv経由で見つけてくれた方が多かったようですが、「爽やか」や「青春」などのキーワードで仕事が来ていました。

 もしかしたら純粋な発見というよりは、そのフォーマットに乗った中で、当時でいえばインプレッションがある作家、くらいかもしれません。その流れの中で、2015年に『君の膵臓を食べたい』という小説の表紙を描かせていただいて、プロとして見られて行っていることを自覚していった感じですね。

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(画像は君の膵臓をたべたい (双葉文庫) | 住野 よる |本 | 通販 | Amazonより)

鳥嶋氏:
 過去のイラストを見ても、2015年くらいから急激に上手くなってるね。

──プロを自覚した瞬間に上手くなるってすごいと思います。

鳥嶋氏:
 いやだから、頭がいいのと目がいいんだよ。素質のない人は急速に上手くなれないから。

 ところで、自分の方向性や生きていく道、あるいは自分のスキルをどうやって磨いていくかみたいな部分は、どうやって決めていったの?

loundraw氏:
 自分で厳密に決めたというよりは、声をかけてもらった、というのが大きいですね。その上で、分析とか計算は良くしていました

 当時はすごくSNSを見て、どういった色使いやコントラストが注目を集めやすいのかを調べたり、漫画を描かないかと言われた時は、自分のタッチや連載にかけられるコスト感を踏まえてクオリティが良く見えるラインは、恐縮ですけど「浦沢直樹さんだな」と思ったり。

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浦沢直樹先生の代表作である『20世紀少年』(画像は20世紀少年 完全版 デジタル Ver.(1) (ビッグコミックス) | 浦沢直樹 | 青年マンガ | Kindleストア | Amazonより)

 絵が細かいわけではないですが、すごくデッサンがうまくて立体があって、かつそこまで背景は描いてないけど説得力とテンポがある、みたいな。枠線の空白の太さは上と横とで幅違うじゃないですか。それがどれくらいとか、そういう構成要素を見るタイプでしたね。

 ただ逆にいうと、フォーマットから入ると我が現れづらいのも事実なので。世の中と自分のフィーリングが合っているときは上手くいきますが、監督になる時には「もっと自分を出せ」と言われてすごく苦戦しました。

鳥嶋氏:
 でもね、あなたが研究して「上手い」と思った浦沢さんは、上手いけど、実は意外と自分がない人なんだけどね。ただ、確かに浦沢さんは本当に上手いね。特にコマ割りと人物。だから、浦沢さんを研究する目の付け所と、研究の仕方はものすごく正しいと思いますよ。

──構図やカメラ、レンズの感じは何か勉強したりしたんですか?

loundraw氏:
 あまり勉強はしていませんが、カメラは大学のころに買って、趣味で写真を撮ってましたね。もともと写真やミュージックビデオが好きなので、そこからリファレンスを持ってくることも多くて。ただただ絵が魅力的かどうかという点で作る、ある種の「かっこよさ」の頂点の表現だと思うので。

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 あとは、個人的には人物を描くことは好きでしたが、小説の表紙だとキャラクターは特定されてないほうがいいという文化があって、引きで描いてくださいというオーダーが多くて。そうすると、自ずとレイアウトが良くないと勝負にならなくなっていったんです。

 その結果、レイアウトは上手くなりましたけど、キャラクターデザインで呼ばれると「キャラがみんな一緒」と言われたり。

一同:
 (笑)。

loundraw氏:
 そんな辛い時期もありましたね。

鳥嶋氏:
 でもね、それは実は気にしなくていいと思うんだよ。「何を描いても一緒」って言われるのは、ひとつの個性。残る人はみんな、キャラはたくさん描けないから。

──あだち充とかそうですもんね。

鳥嶋氏:
 うん。宮崎駿さんもそうだし、鳥山君もそう。実はみんな、大した数はない。バリエーションはデザインによって変えればいいけど、本質は変えるべきじゃないんだ。

──アニメ監督を目指すに当たって参考にした人とかはいるんですか?

loundraw氏:
 テクニック的には今敏さんが好きです。ロストテクノロジー的といいますか。

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今敏監督作品『パプリカ』(画像はパプリカ | ソニー・ピクチャーズ公式より)

鳥嶋氏:
 へえー。ここで今さんの名前が出てくると思わなかった。意外だなぁ。

石井氏:
 カナダのファンタジア国際映画祭に「今敏賞」という今敏さんの名が冠された賞があるのですが、僕らは『サマーゴースト』でその賞をいただいたことがあって。海外志向になったのはそれがきっかけなんですよ。あ、このルートあるんだって。その賞をいただいて初めて、日本の僕らのようなスタジオでも世界に打って出れる可能性があるということに、なんだか腑に落ちたというか。

──loundrawさん個人、あるいは新しい世代として、自分たちの強みや差別化がどこにあると思われますか?

loundraw氏:
 小説の表紙を描くことが多かったのですが、当時、小説の表紙の仕事は納期が1週間程度のことが多かったんですよ。なので、すごく短いスパンで絵を描く必要がありました。

 その中で本質的にクオリティを担保して描こうとすると、押さえるところは押さえつつ、描かないところは描かない、という描き方になるんです。それがむしろ、抜け感だったりに繋がるるんですけど。

石井氏:
 なので、僕らは描かないところは徹底的に描かないんですよ。視線誘導を意識することで量を担保しようとしています。

鳥嶋氏:
 言ってること分かるよ。引き算はね、なかなか難しいからね。

loundraw氏:
 あと世代でいうと2点あって。

 まずは当然ですが、デジタルが近いというのが一番大きなところかなと思います。手間がかかるからこその価値や美徳が生まれることがあると思うのですが、デジタルだとそれがスイッチ1つでできてしまうじゃないですか。

 これは原理の理解という点ではネガティブに働きますが、トライアンドエラーの回数を増やして本質に向き合うという点ではポジティブだと思います。昔と比べて、クオリティへの向き合い方に選択肢があることはとても恵まれていますね。

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 もうひとつは、当たり前ですけど、世代が若いこと。世代によって考え方のベースといいますか、「これがデフォルトだよね」というのは全然違ってきますし、僕がよく話す高校生の子たちも「全然違うな」と思います。そこに“近い”というのが強みだと思います。

 ただ、それは同時に短所だと思うこともあって。ある種の答えが出てしまっている状況があるなかで、あえてそこをズラそうとしたときに、「え、なんでズラすの?」と言われるのが僕たち、あるいはもう少し下の世代でして。

鳥嶋氏:
 なるほどね。

loundraw氏:
 いわゆる“答え”があるのに、なぜわざわざズラす必要があるの? それ意味ある? と問われた時に、それに対して答えを持つのは簡単じゃない。10代の頃に誰もがわかってることでもないと思うんです。なので、世間の目や最適解を早くから知ってしまうことは、今の世代の一番のデメリットかなとは思っています。

──「バズらせる」って、いくらでもやりようがあるじゃないですか。一方で、そこに最適化とか特化してしまうと、ある種のはしたなさが出てしまったり、逆に突破しなくなったりしてしまう。

 だから「バズらせる」以外の価値が必要だと思うんですが、そこの追求についてはどう思いますか?

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loundraw氏:
 その人の人生を感じられるかみたいなところが、僕はすごく大きいなと思っていて。「バズる」こと自体は短距離走ですし、社会の流れを捉えるということなので、もしかしたらその瞬間だけ嘘をつけば、意外とできてしまう人も多いのかもしれません。

 でも大切なのは、その人の人生が少しでも見えるかどうかだと思うんです。「自分の過ごした時間」だけが本当の意味で他人に真似できないもののはずで。そしてそれは、一時的にバズるみたいな短いスパンでは見えてこない部分なので、「人間らしさ」みたいなものに価値があるのかなと思います。

──なるほど。一方で、スナックカルチャーと呼ばれるものが受けるわけじゃないですか。そういうものを好む社会や人に対して、長尺のものを割り込ませるって、結構難しい問題だと思っていて。そこに対して、何か考えや答えはありますか?

loundraw氏:
 難しい問題ですよね。

 僕らも試行錯誤しているのですが、例えば映画の場合は、シナリオ、絵、音という3軸があると思っていて。それらに対して、カットの切り替えは早いほうがいいとか、動きや音は変化が大きいほうがいいとか、いろいろ言われていることがありますよね。

 僕が思うに、3軸ある中で、どれか1つ2つでも現代的にすれば、残りはそうである必要はないと思うんです。つまり、どこかで安心してもらいつつ、やりたいことはやると。

 まだ試験段階ですけど、そういう形での折衷みたいなものはできるかもな? と漠然と考えてます。

鳥嶋氏:
 さきほど人間らしさという話があったけども、そういう意味でいうと、loundrawさんらしさみたいなものは、どう構成されて、どういうアニメになってるんですか?

loundraw氏:
 そこはアニメと真逆なんですけど、「止め絵でも分かる」というのが、たぶんすごく僕らしさであり、長所なんですよ。つまりセリフがなくても、表情がなくてキャラが引きでも、置いてあるものや光の当たり方などで状況が分かる。

 そういうのは従来のアニメとは、結構真逆のアプローチだと思います。

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鳥嶋氏:
 なるほどね。ところでloundrawさんはイラストから始まってるわけだけど、普通イラストって一人で完結する作業じゃない。それを共同作業にするって、面倒くさいとか思わなかった?

loundraw氏:
 もちろん思いましたけれど、「アニメにしたい」というのは自分が自ら望んだもので。

鳥嶋氏:
 それがあったからか。

loundraw氏:
 なおかつそれを自分の絵でやるのであれば、自分の意図を説明する以外の方法がなかったんですよね。

鳥嶋氏:
 使える最大の武器が言葉だったんだね。

スタッフの意識を変えるために、ドキュメンタリーカメラが密着

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石井氏:
 あとはスタジオを運営してると、興味を持ってもらうことがすごく重要で。そのためにも、やっぱり「言語化」が大切なんですよね。

鳥嶋氏:
 ということは、おふたり一緒にプレゼンの場に出ることも多いわけだ。

石井氏:
 多いですね。

 それでいうと、ドキュメンタリー映像として残したりしているんですよ。見られる意識を持つためにも、写真家の鳥居洋介さんが作業風景などを全て映像で撮ってくださっています。『サマーゴースト』の時は1年半ぐらい密着してもらって、ドキュメンタリーのほうが本編より長くなってしまいましたけど(笑)

一同:
 (笑)。

鳥嶋氏:
 プライベート情熱大陸だな。

石井氏:
 これは自覚の話なんですが、鳥居さんが「今どういうことをやってて、どういう心境なの?」という質問をしてくれるんですね。それに対して、全員がちゃんと答えるんです。最終的にはそれが世の中に出るという意識があると、日常の生き方も変わってくると思っていて。

鳥嶋氏:
 まあ、変わるだろうね。常に客観的な存在が居て、インタビューされ続ける環境に居るとなれば、その時の自分の思いを最低限整理して伝えざるをえないよね。

 でもそれさ、嫌だって人もいるじゃない? めんどくさい、嫌だ、やめて、って。

石井氏:
 もちろんそういう子は映していなくて、強制ではないです。

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──外向けの効果としてはどうだったんですか?

石井氏:
 それを見てスタジオに入りたいという人は結構多いんですよ。スタジオの雰囲気を良いと思ってくれたり、何気ない一言が響いたりして。

 なので映像に映るメンバーには、演技をする必要はないけど、意識はしてほしいと伝えています。そこに夢がないとそもそも誰もついてこないですからね。

鳥嶋氏:
 厳しいねぇ……!

──(笑)。

石井氏:
 服装はもちろん、言葉遣いや日常の所作も気を使ってほしいと思っています。そういうことに気を使うと、例えばこのキャラクターがこういう服を着るのは、こういうバックボーンがあるんだ、といったところにまで意識が行くと思うんですよね。なので、日常の些細なことから全部繋がっているんです。

鳥嶋氏:
 それ、ある種のアニメスタジオやゲームスタジオとは違うとこだね。

──聞いたことないですね。

石井氏:
 なので1枚絵を作るにしても、服装はもちろん、置かれている椅子とか、そういう一つひとつしっかりと気にするようになっていくんです。

最終的にはサッカークラブのようになりたい

──そろそろ締めの話題に入っていければと思うんですが、今後このスタジオをどうしていきたいみたいな思いがあれば聞いてもいいですか?

石井氏:
 最終的には自分たちでハンドリングして、制作予算も“集めさせてもらう”ということをやりたいなと思っています。

鳥嶋氏:
 ということはあれだよね、任天堂方式だね。

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石井氏:
 任天堂方式(笑)。

鳥嶋氏:
 アメリカの任天堂に行ってびっくりしたのは、オフィスの半分が開発で、残りの1/4が自社弁護士たちがいる法務で、もう1/4が宣伝物を作るプロダクトチームだったんですよ

 この任天堂のマネジメントの考え方とマンパワーの作り方がとにかく衝撃的だった。これが「アメリカで仕事をする」っていう任天堂の覚悟であり、リアルなんだなって。

石井氏:
 おお……。

鳥嶋氏:
 話は逸れましたけど、体力やノウハウがないうちは、筋が良くて共有性があるところと組むのが良くて、規模が大きくなってったら、チームの考えが伝わるスタッフを育てながら雇っていったほうがいいと思う。

 だから、目指すはディズニーか任天堂ですよ

石井氏:
 ええーいやいやいや(笑)。

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一同:
 (笑)。

石井氏:
 ちょっといきなり遠すぎます(笑)。

──ジブリはダメですか?

鳥嶋氏:
 ジブリはダメ

一同:
 (笑)。

鳥嶋氏:
 ジブリはだって、個人に依ってるから。宮崎さんと鈴木さんっていう2軸だけでしか動いてないから、商店はできても会社にはなれないよ。個性が強いからあそこまで行ったけど、だからこそ目指しちゃダメ。

石井氏:
 いやもう、めちゃくちゃ耳が痛いんですけど……その“継続性”をどこに置くかだと思ってて

 「作品を作る」をIPを作ることだと捉えると、絶対に任天堂さんやディズニーさんになると思うんですが、僕らはどうしても属人的だったりするんで、アニメ業界の範疇で見ちゃうと、むしろ、他の事例がないといいますか、映画を作ってるフィルムメーカーが、どう育っていくかが未知数すぎて……

鳥嶋氏:
 たぶんねぇ、参考事例ないと思う。だから、石井さんとloundrawさんが、新しいファーストスタジオを作るしかないね。

石井氏:
 まぁそうですよね……。僕らもloundraw君が「もう無理です」と言ったら、もうそこで終わりなんですよ。なんなら僕が「もう無理です」と言ってもそこで終わってしまうという自覚はあります。

 継続性や属人的な組織構造の問題というのがずっとあるんですよね。

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鳥嶋氏:
 そこを決めるひとつのポイントは、ふたりの“欲”がどれだけ大きく、どこにあるかだと思う。だから、単にいつもloundrawさんの中にあるイメージを、すごく具体的に忠実に再現するスタジオでありたいって言うんなら、例えば庵野さんのスタジオになると思う。

 だけどもっと、そこから属人性を離れて、もっといろんなものを違う形で出していきたいっていうなら、違うクリエイターを立てながら、チームが複数ある形にするとかね。

 だから専門店を目指すのか、百貨店を目指すのかっていう。

石井氏:
 それでいうと、学校がイメージに近いんですよ。学校を作って、人材紹介業やるみたいな。

鳥嶋氏:
 リクルートになるの?

石井氏:
 たとえばです(笑)。

鳥嶋氏:
 (笑)。

石井氏:
 「IPを作っていこう」となると、それはそれでスペシャルな才能が必要になるじゃないですか。というよりも、FLAT STUDIOというスタジオに志を同じくするクリエイターが集まって、彼らを育成して、発展させていったほうがイメージにあっているといいますか。

鳥嶋氏:
 ということは、石井さんとloundrawさんは決して、「研ぎ澄ましてものを作っていきたい」わけじゃないんだ。

石井氏:
 いえ、それはそれでマストなんです。

鳥嶋氏:
 だけど、人材育成をして横も広げていきたいわけでしょ。

石井氏:
 はい。

──それって、石井さんとloundrawさんで一致してるんですか?

石井氏:
 いま初めて言いました(笑)。

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loundraw氏:
 僕のポジション的には、今はまずは自分の映画を作って、それが良いものになることが結果的にチームにとってプラスだと思うので、そのために頑張っているんですね。

 一方で、一緒に作っているメンバーの中には「本当は監督をやりたい」という子も沢山いて。ただ、今この瞬間は実力的にはいろんなものが足りてないから、一緒にやってくれてるんですが、その子たちに教えられるものは出し惜しみせず全部教えているんです。

 そんな彼らが改めて「監督をやりたい」と言ってきて、実力も伴っていたならば、それを妨げるのは仲間としてはもちろん人類的にも損失だなと思うんですよね。

──なるほど。

loundraw氏:
 そうしたら、今後は監督になった子が下の子たちを指導して、いろんな才能が伸びていくわけですよね。場合によっては、またどこかで一緒にやる機会が巡ってくるかもしれない。そういう形は業界全体においても、また自分の立場だけで見ても一番メリットがあると思うので、石井さんが言われたことに対して、あんまりネガティブな気持ちはないですね。

鳥嶋氏:
 植物園の空気を良くすれば、自然と全体がうまく綺麗に育ってくって考え方だよね。

──でもこういう言い方するとあれですけど、一方で、loundrawさんは何でもできるという話だったじゃないですか。それって、かなり先天的なものだと思うんですよ。

 ゲーム業界もそうですけど、ディレクターを担える人材って限られていて、その人物の覚悟であったり、作家性というものと心中するというのは、それはそれでひとつの有りようだと思うんですよ。なにより、ディレクターは育てればいいみたいな話がありますが、現実としては育たないなというシビアな現実もあるわけで。

 そのあたりはどう思われていますか?

石井氏:
 先ほど学校がイメージに近いといったんですが、実は自分が一番モデルケースにしてるのは、サッカークラブなんですよ

 凄くざっくり説明しますと、例えばマンチェスター・シティFCを筆頭にするシティ・フットボール・グループという凄く資金力があって、世界中にに関連クラブを持っているサッカークラブ事業を展開する組織があるんですね。

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シティ・フットボール・グループの公式サイト(画像はcityfootballgroup.comより)

 関連クラブには、当然世界ランキング上位のクラブもあれば、そうでないクラブもあるのですが、何が凄いって、複数のクラブを持っているからこそ、選手の活用やキャリアパスの設定がすごくしっかりしているんですね

 トッププレイヤーは一番すごいマンチェスター・シティFCに行くけど、それ以外はレベルに応じた関連クラブに行ったり、レンタルとして他のクラブへ渡ったり。そして、実力が付いてくるとランクが上のクラブに移籍するみたいなイメージです。

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 実はそれのアニメスタジオ版といいますか、クライアントオーダーに応えられるレベルであることは前提ですが、各セクションのスキルレベルに合わせてスタジオを作っていき、そのクラスに合わせた仕事ができるようにすればいいと思っているんです。

 そうすることで、その人に適した仕事の場を提供することができ、自分と近しいクラスのクリエイター同士で仕事をすることで、適切な競争じゃないですけど、育ちやすい環境が生まれると思うんですよ。

 さらに言えば、1スタジオの上限を決めておけば、新陳代謝もあるし、若い子が「あのスタジオに行きたい」という夢にもなる。

 そうして頭角を現すクリエイターが出てくれば、トップスタジオであるFLAT STUDIOに迎える、そんな構想です。

鳥嶋氏:
 初めて聞いたよ。サッカークラブを参考にするなんて(笑)。

石井氏:
 鳥嶋さんがいう任天堂方針も良いなとは思うんですが、僕らの場合、まだまだ規模が大きくないので、任天堂やディズニー、あるいはピクサーのようなスケールで世界を見ることができないというのがあるんです。

 だからこそ、今いる人たちをどう伸ばすか、という人間ベースで考えた時に、サッカークラブの在り方にヒントを得ました。

──となると、極論としては様々なタイプの作品が出てくることになるわけですが、ことloundrawさん個人だったり、石井さんとしては、どういった作品を作っていきたいとかはあるんですか? おそらくそこには、そもそもアニメをずっと続けるんだっけ? という話もあると思っていまして。

石井氏:
 loundraw君は普通にその道を選んでいたら学者にもたぶんなれると思うんすよ。でも今自分たちがこの場でアニメ作ってるのは、それが一番自分たちの特性に合ってると思っているからなんです。

 だからこそ続けているのですが、時代と合わなくなったり、外部要因で特性や価値が低くなることってあるじゃないですか。

 その時に、それでもやり続けることが正しいのかどうか、みたいなことは、あまり答えを出さないようにしていて。

鳥嶋氏:
 それで言うとね、時代を超えるコツは簡単ですよ。うんとヒットすることですよ

石井氏:
 そうなんですよね(笑)。

鳥嶋氏:
 中途半端なヒットだと、時代を超えられない。『ドラゴンボール』『ドラえもん』のようにうんとヒットしなくちゃ。

loundraw氏:
 うんとヒットする(笑)。

鳥嶋氏:
 “うんとヒットする”っていうのはどういうことかって言うと、ある種のマスを取れってことであり、世代や国を超えて伝わっていくだけの、価値観や強さがあるってことですよ。中途半端なものは、消えてく。

石井氏:
 はい……。

鳥嶋氏:
 だから、うんとヒットするものを作るしかないよ。

──(笑)。

石井氏:
 そうですよね。

──その上で聞いてみたいのが、いま作られているものって、わりと狙い撃ちというか、「こういう人たちに、こう共感してもらう」に対して、着実に当ててるって感じがすごくして。

 一方で、マスに売るっていうことは、レンジを広げるってことじゃないですか。その時に何が起こるかというと、誰でも理解されるように角を取って、丸くしていくみたいな作業が発生するわけで。

 結果例えば、100万人に届くようになったんだけども、濃度や個性みたいなのは薄くなってしまう可能がある。そのあたりはどう捉えてますか?

石井氏:
 日本と世界、何を評価軸にして勝負するかでマスという概念自体の捉え方が変わってくるなと思うのですが、どちらかというと僕らは世界の方を見ています。というより、僕らのようなタイプは日本だけでは難しいだろうと思うことが多々あり、後者を見るしかないという表現が正しいのですが。

 例えば宇多田ヒカルさんや久石譲さん、北野武さん、宮崎駿さんなど、日本はもちろん世界的にも人気がありますが、かといって丸いという印象はあまりなくて……。

 ですので、自分たちらしい尖った部分とマスという意味での丸い部分を両立できるようにチャレンジすることが大切だと思っています。

──loundrawさんはいかがですか?

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loundraw氏:
 ゆくゆくはマス向けといいますか、メジャーをやってもいいと思うんですが、メジャーなものをやるっていうのは、「作家の歴史がそれに値するか」が重要になってくると思うんですよ。

 例えば新人の作家が、東京タワーが倒れるシーンを描いたら、「派手なのやりたかったんだな」で終わると思うんです。例えばそれを庵野さんが描いたら、「日本が壊れる」という象徴を描いたと、たぶんスッと思えるはずで。よく、誰が作ったかで作品を観るべきではないという声が上がりますけど、僕は避けられないものだと思っていて。

 そういう意味で、僕が今メジャーなものパッと作った時に、「ああなんか、いわゆる『アニメ』を作ってる人だな」みたいな感じに見られるのは、すごく良くないなと思うんです。

──段階があるということですね。

loundraw氏:
 そうですね。その時はまた客層も変わるので、いつ作るかはまだ分からないっていうのが正直なところですね。

鳥嶋氏:
 マスの話でいうと、それを目指す時に、自分の中にある一番訴えたい部分だけは、変えちゃダメ。そうじゃないと、“熱”自体をなくしちゃうから。それは、本当によくやりがちな過ちなんだよね。

 あくまでもメジャーとかマイナーって、伝わる数の問題であり、テーマの問題じゃないんだよね、実は。みんなそこを勘違いしちゃう。

loundraw氏:
 そう思います。関わる人の数やスケールが変わったとしても、結局自分の中に芯が通っているかが一番重要なんだなというのは、環境が大きく変わっていくこの数年で一番感じていることです。

 『サマーゴースト』における選択は、生と死というすごくシンプルなテーマでした。ですが、生を選択したとしても僕たちがいるこの世界ではそれで物語が終わりにはなりませんし続いていきます。それに実際の僕たちは一人だけで生きているのではなく、その先には社会があるんですよね。いろんな人がいて、正解もない。その中でどうやって芯を持つのかというのは、僕も知りたいですし、物語の中心に据えられたらと思っています。

──それは楽しみですね。本日は長い時間ありがとうございました。

(了)

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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