11月27日はドリームキャストが発売された日だ。
ドリームキャストは1998年11月27日に、セガ・エンタープライゼス(現・セガ)から発売された家庭用ゲーム機。1994年に相次いで発売されたセガサターンとPlayStationが激しいシェア争いを繰り広げていた時期に、セガサターンの次世代機として、2000年に発売されるPlayStation 2よりもひと足早く登場した。
ドリームキャストといえば、人々の印象に強く残っているのはなんといっても、本体の発売に向けて展開された広告キャンペーンだ。当時、実際にセガの専務執行役員であった湯川英一氏(※2021年に逝去)を「湯川専務」としてイメージキャラクターに起用。「セガなんてダセェよな」という子どもたちの声を耳にする自虐ネタを扱ったTVCMは、大きな反響を呼んだ。ついには湯川専務が本体発売時のパッケージデザインに起用されたり、CDデビューを果たしたりと社会現象的なブームを巻き起こした。
ドリームキャストはグラフィックチップにPowerVR2を搭載し、セガサターンに比べて3D描画性能が大幅に強化されている。さらに、DVDドライブがまだ高価だった時代に独自企画のGD-ROMを採用して、CD-ROMを超える約1GBのメディア容量を確保するなど、ゲーム機として高い性能を誇っていた。
データ保存用の「ビジュアルメモリ」にはLCD画面が搭載されており、ビジュアルメモリ単体で携帯ゲーム機として遊ぶことも可能。コントローラに接続することでビジュアルメモリのLCD画面がセカンドスクリーンとなり、オフライン対戦時に特定のプレイヤーだけに情報を開示するといった使い方もできるようになっていた。だが一方で、コントローラ自体のサイズがかなり大きくなったり、ビジュアルメモリの電池が少なくなると「ピーッ!」という警告音がいきなり鳴り出したりといった弊害もあった。
ドリームキャストで特筆すべきは、通信モデムが標準搭載されており、本体と同梱物のみでインターネット通信が可能になった史上初の家庭用ゲーム機である点だ。セガもこの点を全面的に押し出し、自社でプロバイダー事業を行ってユーザーが無料でメールアドレスを取得できたり、インターネット上の「セガBBS」でゲームファンがコミュニティを作り上げる場を提供したりといった施策を行っていた。
もちろんゲームのインターネット対応も積極的で、多くのソフトでオンライン対戦やDLCの配信などが行われた。なかでも、ネット上で出会った他のプレイヤーと最大4人のパーティを組んで冒険できる『ファンタシースターオンライン』は人気が高く、このゲームでオンラインゲームの楽しさを初めて味わったという人も少なくない。
このように、ドリームキャストが切り拓いた家庭用ゲーム機とインターネットの融合は、その後のゲーム業界で大きな流れとなって、現在にまで続いている。
ゲームソフトに関しては、『バーチャファイター3tb』『ソニックアドベンチャー』『セガラリー2』など、セガの人気タイトルがドリームキャストの発売当初から惜しみなく投入された。さらに、あのマイケル・ジャクソンもゲスト出演を果たした音楽ゲーム『スペースチャンネル5』や、ストリート感覚あふれるアクションゲーム『ジェットセットラジオ』など、斬新なオリジナル作も次々に生まれている。
一方で、不気味な人面魚と音声による会話でコミュニケーションを行う『シーマン ~禁断のペット~』(発売:ビバリウム)は、その強烈なインパクトで話題となった。また、セガの経営そのものをネタにして笑い飛ばすシミュレーションRPG『セガガガ』といった、ユニークなゲームも登場している。
ドリームキャストのソフトと言えば、制作費70億円と謳われた超大作『シェンムー』を忘れることはできない。3Dでリアルに再現された日本や香港の街を自由に歩き回り、NPCとの会話やさまざまなアクティビティを楽しむことのできるこの作品は、オープンワールドゲームの原点とも呼ばれている。
『シェンムー』はドリームキャストで『シェンムー 一章 横須賀』『シェンムーII』の2作が発売されたが、壮大な構想のストーリーは残念ながら未完のままだった。ところが約20年を経た2019年に『シェンムーIII』がPS4などで発売されている。
他にも多数のゲームがドリームキャストに送り出されたが、PlayStationとのシェア争いを続けるなかで、2001年1月にはドリームキャストの生産終了と、セガのハード事業からの撤退が発表された。これによりドリームキャストは、現在のところ(メガドライブミニのような製品を除くと)セガ最後の家庭用ゲーム機となっている。
だが、先に挙げたような名作ゲームの数々がHDリマスターやリメイク、続編といった形で現在もプレイできることからも分かるとおり、ドリームキャストとそのゲームソフトは、今なおゲームファンから愛されている存在だと言えるだろう。