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「クリエイターに結婚相手を紹介する」のも仕事のうち?『NEEDY GIRL OVERDOSE』『少年期の終わり』の斉藤大地氏が語る、“なんでも”やってきたプロデュース術【WePlay Expo 2023】

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ゲームプロデューサーとして、クリエイターに結婚相手を紹介する──。

まるで冗談のように聞こえる話だが、これがどうやら事実らしい。そんなユニークな経験を語るのは『NEEDY GIRL OVERDOSE』『少年期の終わり』のプロデューサーとして活躍する斉藤大地氏。特に『NEEDY GIRL OVERDOSE』では企画の段階から関わっており、広く知られているように同作は日本国内外で高い人気を獲得している。

その斉藤氏が説くインディーゲームプロデューサーの仕事とは……“すべて”。資金調達や予算管理、スケジュール調整などイメージしやすい仕事はもちろんのこと、クリエイターの補助となることは「なんでも」するという。上述の「結婚相手を探す」という、一見するとゲームプロデューサーの仕事とは思えない行為もそのひとつだ。

今回、電ファミ編集部では11月17日から中国・上海で行われた大規模インディーゲームイベント「WePlay2023」の取材を行った。同イベントの一環として講演会「CiGADC」も実施されており、上のエピソードは斉藤大地氏(以下、斉藤氏)による講演で語られたものである。
本稿では『NEEDY GIRL OVERDOSE』の中国における人気ぶりもうかがえた、講演の模様をお届けしていきたい。

『NEEDY GIRL OVERDOSE』斉藤大地:CiGADC講演レポート_001
斉藤大地氏

取材・文/久田晴


自身の立ち位置はクリエイターの「サーヴァント(しもべ)」

まず斉藤氏は上述したように『NEEDY GIRL OVERDOSE』をはじめ、『東方ルナナイツ』や『少年期の終わり』、『殺戮の天使』など数々の人気作でプロデューサーを務めてきた人物だ。現在はパブリッシャーである株式会社ワイソーシリアスの代表を担う。

その斉藤氏が説く「インディーゲームプロデューサーの仕事」とは、上でも触れた通り“全部”だ。

斎藤氏いわく、プロデューサーとしてまず最初にやる仕事は「腰の痛くならない椅子をクリエイターに送る」こと。そしてPCやディスプレイなどゲーム開発に必要な機材をそろえることはもちろん、生活をおざなりにしがちなクリエイターに冷凍食品やマッサージを手配したり、ときには家の保証人になったり……と、文字通り“なんでも”やってきた経験を語った。

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斉藤氏のおもなプロデュース作品

こう聞くと「本当にそれがプロデューサーの仕事なの?」 と思うかもしれない。しかし斉藤氏にしてみれば、自分が動くことによってクリエイターの生産性が上がればそれだけ開発も早く進むので、まさに「何でもやる意味がある」のだという。

よりゲーム開発に直接つながっている事例としては、クリエイターたちをさまざまな取材へ連れて行ったり、海外のゲームイベントへの出展をサポートするといったアクションが取り上げられた。取材では横スクロールアクションの背景美術のために庭園を見に行ったり、中には「山の上から見下ろした雲の様子が見たい」というクリエイターの希望を叶えたこともあったそうだ。

また人の集まるゲームイベントへ出展すると、マーケティングが得意ではないクリエイターも実際のユーザーを目の当たりにすることになる。すると、それが結果的に自作品のターゲット層をつかむ機会にもなるという。

ちなみに今回の講演が行われた中国のイベント「WePlay」にもワイソーシリアスはブース出展を行っており、『NEEDY GIRL OVERDOSE』や『少年期の終わり』の開発陣が参加している。ただし講演の際には「その中のひとりが空港で連絡が取れなくなってしまった」と語っており、斉藤氏の苦労がうかがえる一幕となったことは補足しておこう。

斉藤氏は自らが担うインディーゲームプロデューサーの仕事を「クリエイターのサーヴァント(しもべ)」と語る。しかしその奉仕があるからこそ、IP経営や企画の提案、変更などに口を出してもクリエイターに聞き入られるようになる、とも話した。次項では、より詳細なインディーゲーム制作における斉藤氏の活動ぶりについて触れていく。

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開発者の“その後”のため、結婚相手まで手配するプロデューサー

斉藤氏がゲームの企画部分に介入した例として代表的なのが、『NEEDY GIRL OVERDOSE』のヒロインについてだ。実はもともと『NEEDY GIRL OVERDOSE』では、5人のヒロインキャラクターが登場する予定だった。それを斉藤氏が止め、結果的に完成した作品はひとりのヒロインにフォーカスした内容となっている。

そのほかゲーム内容に直接かかわるケースとしては、『少年期の終わり』で作りたい方向性は持ちつつもら、明確な企画の形が定まっていないクリエイターに助言を送った例も語られた。

また重要なポイントとして、発売するゲームのタイトルは『NEEDY GIRL OVERDOSE』をふくめ、80%~90%ほどを斉藤氏が命名しているという。さらにSteamのストアページに記載される紹介文や、メディア向けのプレスリリースなども自ら執筆しているとのこと。

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もちろんこうした活動の裏でプロモーション代理店を選んだり、プロモーションに起用するクリエイターの選定も行っている。さらにイベントでは自らゾンビのコスプレをして人目を引いたり、司会を担ったりと、まさに八面六臂の活躍でプロデュースを行っているのだ。

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そしてプロデューサーの仕事はゲームが完成し、販売され、狙い通りに売れてからも終わることはない。さらなる展開を見越してメディアミックスのパートナーを見つけ、そうしたら今度はメディアミックス作品の監修も行わなくてはならなくなり……と、仕事は次々に現れる。

くわえて、ひとつの作品を作り終えたクリエイターの“その後の人生”の相談に乗るケースも少なくないと語った。特に冒頭でも触れたように、ある制作者にはなんと結婚相手まで紹介したというのだから驚きだ。

このような数々の事例とともに自ら「“すべて”をやっているといって過言ではない」と語る斉藤氏。ただしその仕事ぶりがあまりにも多岐にわたるため、講演はここでひと区切りとなり、残りの時間は質疑応答に回される形となった。以下では上海に集まった現地のクリエイターやメディアによる質疑応答の模様をお届けしていく。

質疑応答

──『NEEDY GIRL OVERDOSE』はリリース後、中国でも非常に高い人気を獲得しました。正直なところ、この反響については予想通りのものなのでしょうか?

斉藤氏:
ストーリー性の強いアドベンチャーゲームが中国で人気であるというのは把握していましたので、ある程度のシェアを得られるのは予想していました。ただ、現状ほどの売れ行きは予想していませんでしたね。

──今後の作品も中国でのマーケティングを意識したものとなるのでしょうか?

斉藤氏:
マーケティングと謳うほど数値的なものは意図しませんが、中国のユーザーさんに喜んでいただける作品にしたいとは思っています。

──『NEEDY GIRL OVERDOSE』について、初期には5人のヒロインがいたというお話でしたが、どうクリエイターを説得したんでしょうか。やはりなかなか自分の意見を変えてくれないという場合も多いのではないかと思うんですが……。

斉藤氏:
「俺たちは気が長くないから5人もいると飽きると思うんだ、ひとりにしないか?」と言いましたね(笑)。もちろんクリエイターによって説得の方向性は変わってくると思いますが、『NEEDY GIRL OVERDOSEのときはそう説得しました。

──『NEEDY GIRL OVERDOSE』はテーマ曲も中国で大人気になりました。テーマ曲の制作にあたり、何かディレクションのようなことはされたのでしょうか?

斉藤氏:
僕が言ったのは「画面の比率を4:3にしろ」「パラパラ踊りなよ」のふたつです。あとは動画のクリエイターを連れてきただけ。なので、あれはシナリオのにゃるらさん、作曲のAiobahnさんのふたりのクリエイターの力でよって生まれたものですね。

──あの楽曲はプロモーションにおいて重要な役割を果たしたと思いますか?

斉藤氏:
それはもちろんそう思います。ちょっと言い過ぎかもしれませんが、本作の人気の半分くらいは楽曲のおかげじゃないかと。

──『NEEDY GIRL OVERDOSE』のお話が続いてしまいますが、あの作品には地雷系、ロリータ系など色んな服のデザインがあって嬉しかったです。あれは斉藤さんの趣味なんでしょうか?

斉藤氏:
衣装デザインについてはにゃるらさんと、キャラクターデザインのお久しぶりさんの意向が強いです。見た目についてはほぼ彼らにお任せしました。

『NEEDY GIRL OVERDOSE』のゲームデザインについては、画面設計なんかに口を出したりしましたね。メンタルの弱い女の子と付き合っている感覚を得られるように、LINEを無視したらゲームオーバーになる仕様を提案したのも僕です。……と思っていましたが、あまりに当たり前な仕様なのでやっぱり自分の案ではないかもしれません。

──斉藤さんは元からゲームのプロデューサーをされていたんでしょうか?

斉藤氏:
今はプロデューサーを名乗っていますが、もとは“編集”という立ち位置ですね、マンガの編集者なんかが分かりやすいと思いますが、クリエイターを助けたり、お世話したりといった仕事です。そういう意味では名前こそ変わりましたが、やっていること自体は一貫しているかもしれません。

──一般的に言えば、ゲームのプロデューサーというのは売れる方向性を決めるのが仕事であり、制作はクリエイターがやるものだと考えられていますよね。そのうえで斉藤さんは制作部分に介入されているわけですが、そこのバランスはどう取っているのでしょうか。

斉藤氏:
ゲーム本編について口を出すポイントはふたつに絞っていて、最初と最後です。遊び始めて最初の5分の内容とエンディングには意見を出しますが、ほかはほとんど口をはさみません。ただ、よく「短くしろ」とは言っていますね。

──『東方ルナナイツ』は「東方Project」という大きなIPを活かしたタイトルでしたが、こうした“IPモノ”を制作するときは「IPを売りたい」と考えられているのでしょうか。それとも言い方は悪いですが、IPというガワを被せてクリエイターの作品を売りたいのでしょうか。

斉藤氏:
個人的には半々といったところですね。このクリエイターとこのIPは相性がいいだろうというような、相乗効果を狙える組み合わせ方をします。やはりIPにとっても、クリエイターにとっても幸福な出会いになってほしいので。

──私のチームのスタッフはみんな給料をもらうのが主になってしまっている人ばかりで……みんなのゲームに対する情熱や、ゲームプレイへの作り込みのこだわりを引き出すにはどうしたら良いのでしょうか。

斉藤氏:
これは本当に人によるとしか言えませんね……。例えばお金の話をすると「生活を安定させながらゲームを作りたい」という人だと月額の固定給が喜ばれるでしょうし、自分が中心になって作っていくんだというディレクター、企画屋の人は成果報酬型の契約の方がモチベーションが高まるかもしれません。

職人タイプのクリエイターで「お金じゃない」という場合は、本当に人によるとしか。例えば結婚相手を紹介するとかね(笑)。

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──中国でインディーゲームを作っているのですが、日本市場を狙う上でのアドバイスをいただけないでしょうか。

斉藤氏:
まず先に言っておくと、日本市場ってそんなに大きくないですよ(笑)。それでも狙いたいですか?

──はい。なのでアドバイスをお願いします。

斉藤氏:
分かりました。まず日本の場合はゲーム実況へのアクセスが必要だと思いますね。これは『NEEDY GIRL OVERDOSE』でもそうだったんですが、実況からバズりやすいというのは日本と中国で似通っているポイントです。

あとは結構難しいですが、ただ“美少女”はやめておいた方がいいと思いますね。今から作って中国製の美少女ソーシャルゲームに勝つというのはかなり難しいと思います。

──最近、大学生としてゲームジャムに参加しました。これはゲームクリエイターとしての長い道のりのはじめなんだろうな、と考えていますが、この先どういうところを目指すべきなんでしょうか。

斉藤氏:
僕自身も、ゲームについては今も何が正しいのか分かりません。その謎を解くために仕事をしていますし、きっとあなたもそうなんじゃないでしょうか(笑)。ぜひがんばっていただきたいです。


以上となる。長めの時間が質疑応答に割かれた本セッションだったが、現地では時間いっぱいまでたくさんの質問が斉藤氏に寄せられていた。

「クリエイターの生産性を上げるためなら“なんでも”やる」という斉藤氏のスタンスは、消して簡単に真似できるものではないかもしれない。とはいえ、本イベントに集まった中国のインディーゲーム開発者たちにとって、同氏の経験と知見が非常に興味深いものであったことは想像に難くない。

また質疑応答の内容を振り返っていただければ分かるように、中国市場においても『NEEDY GIRL OVERDOSE』の存在感は非常に大きい。実際、翌日からのワイソーシリアスの出展ブースは非常に力の入ったものであったし、物販ブースもふくめて非常に多くのファンたちが押し寄せていた。

そんな同作に企画の段階から関わってきた斉藤氏のトークは、中国の若きクリエイターたちにとって「マスターピースの制作秘話」と言っても過言ではないほどの価値があったのではないだろうか。今後は『NEEDY GIRL OVERDOSE』に影響を受けた中国産タイトルの登場にも注目していきたいところだ。

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イベント会場入り口に大々的に飾られた『NEEDY GIRL OVERDOSE』ポスター
ライター
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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