9世紀アッバース朝時代のバグダードを舞台に、正義を求めながらもコソ泥として生きる若者バシム・イブン・イスハークが、マスターアサシンへと成長していく姿を描くアクションゲーム『アサシン クリード ミラージュ』。
世界征服をたくらむテンプル騎士団の目論見を阻止するため、さまざまな時代に暗躍したアサシンたちの物語を描くアクションゲーム『アサシン クリード』シリーズ最新作となる同作では、原点回帰をキーワードに15年に及ぶシリーズの歴史の中に埋もれた『アサシン クリード』らしさを追求。
暗殺用武器のヒドゥンブレードを軸としたステルスプレイ、物語性を重視した作風などシリーズ初期にみられた“らしさ”をふんだんにオマージュしシリーズファンからの期待を集めた。
さて、今回紹介するのはさまざまな分野の専門家と共にゲームの世界を「さんぽ」して、世界の見え方の違いを共有するゲーム実況企画“ゲームさんぽ”を投稿するニコニコチャンネル「ゲームさんぽ/よそ見」にて公開された「【知られざる闇】暗殺教団のけっこうヤバめな勧誘手口/ゲームさんぽ×アサクリ ミラージュ②」という動画。
本動画では案内人としていいださんとマスダさん、専門家としてイスラーム史を研究する亀谷学(弘前大学)さん、熊倉和歌子(慶應義塾大学)さんが出演し、イスラーム史の専門家の視点から『アサシン クリード ミラージュ』の世界をさんぽする様子が収められている。
本稿では「【知られざる闇】暗殺教団のけっこうヤバめな勧誘手口/ゲームさんぽ×アサクリ ミラージュ②」より、バグダードの暗部にに迫る一場面をピックアップ。イスラーム史の専門家の目に映る『アサシン クリード ミラージュ』の世界をご紹介する。
文/富士脇水面
マスダ:
このあたりはゲームのストーリー上では、なかなかの権力者のかたがいらっしゃるエリアなので高価そうなものも見られて、これはエジプトっぽいですね。
亀谷:
こんなのも集めていたんですかね。この時代のちょっと前のマームーンってカリフ【※】が居たんですが、マームーンはギザの大ピラミッドに今でも残っている穴を開けた人として有名ですね。
【※】カリフ:イスラム教の最高権力者。ムハンマドの後継者として信徒を導く最高指導者の称号。
中を探査するために穴を開けていて、この時代に古代に関する知識を頑張って得ようとしていたので、こういうものも持ってきて飾っていた人もいたかもしれない。
いいだ:
カリフたちは好奇心旺盛なんですか?
亀谷:
それは人によりますね(笑)。
いいだ:
結構そういう研究したがりの人もいたっていう。
亀谷:
マームーンって人はものすごいいろんな学問に通じていた人で、世界地図を作ったり、動物園を作ったのものその人だという風に言われています。
マスダ:
これ(棺)なんかもまさにエジプトの。絶対にダメですけどね(笑)。
亀谷:
でも持ってきていたかもしれないですね。そういう繋がりをうかがわせますね。
マスダ:
近場にありそうなので、収税吏の家に寄りながら病院に向かいましょう。
亀谷:
夏はこういう屋上とかでみんな寝てたりするんですよね。
マスダ:
確かに「アサクリ」なので建物の上を歩くんですけど、大体人がいますね。
いいだ:
かなり日常的に行き来する場所なんですね屋上は。
亀谷:
そうですね。家の一部っていう感じでしょうね。
いいだ:
虫はそんなに多くはないんですか?
亀谷:
いや、虫はめちゃめちゃ多いと思いますよ。ハエがすごいっていうのが、それこそジャーヒズの記録に残っていたりするので。
いいだ:
収税吏の家はこうなっています。
マスダ:
豪華な食べ物が。
熊倉:
やっぱり肉があるんだ。
マスダ:
肉と果実っぽい。
亀谷:
オリーブと紫色のザクロっぽいものがありますけど。
マスダ:
これは食べた跡ですかね。
亀谷:
良い暮らしをしている感じがやっぱり。
マスダ:
明らかに普通の家とは違う。
亀谷:
物もめちゃめちゃ多いですよね。
いいだ:
収税吏って役人ですよね。そんなにいい暮らししているものですか?
亀谷:
恐らくは良い暮らしをしていたと思います。民から税金を集めて財務を担っていた人だと思いますので。場合によっては悪い人だったら……(笑)。
亀谷:
この赤い花は何でしょう?ケシの花っぽいですね。
亀谷:
『アサシン クリード ミラージュ』ではケシの話とかは出てこないんですか?
マスダ:
ストーリー上はなかったですね。
亀谷:
この後になるのかもしれないですれど、アラムートに行ってようやく暗殺教団みたいなのが作られると、若者を女性と麻薬でかどわかして……っていうのが、よく伝えられている暗殺教団の姿なんですよね。
マスダ:
だいぶワルそう(笑)。
亀谷:
そう、悪者なんですよ。めちゃめちゃ暗殺してましたから。それを(『アサシン クリード ミラージュ』では)こういう風にアレンジしている。
マスダ:
一応そういうような勧誘をしている素振りはなかったです(笑)。
亀谷:
今の話も伝説的なものなので、実際にどうだったかっていうのはまた別の話ですね。
マスダ:
本当にそういう暗殺集団が居たんですね。
亀谷:
そうですね。ニザール派と呼ばれる人達が、暗殺をしたっていうことは事実ですね。どれぐらい暗殺教団みたいなものがあったのかっていうのはなかなか難しいですけど。
マスダ:
そんな教団として集団でいたらだいぶ影響力がありそうですけど。
亀谷:
みんな恐れていたっていう話ですよね。東方見聞録を書いたマルコ・ポーロが、その話を結構書いているんですけど、ちょっと誇張されているような気もします。
マスダ:
ちなみにその暗殺教団は歴史の中に噛んでいるみたいな、歴史書とかにその人たちの活躍とかは述べられていない?
亀谷:
歴史書と言っていいのかどうかわからないですけど、一番有名なのはセルジューク朝という王朝の凄い敏腕な宰相のニザーム・アル=ムルクっていう人がいて、その人を殺害したのがハサニ・ザッバーフっていう人の命令を受けた暗殺者だと言われているんですよね。
亀谷:
それは本当にトップから2番目。No.2の人を暗殺したということになるので、それはものすごい大きな出来事として伝えられていますね。
熊倉:
マムルーク朝だとアラムートまで声かけないんですけど、レバノンの山岳地帯にいるフィダーイーって人たちが暗殺を担うような人たちでスルタンが政敵を殺害するときに、その人たちに声をかけて依頼をするんですよね。
亀谷:
それはまさに「アサシン クリード」の一作目で描かれている話ですね。
熊倉:
あ、そうですか! 出てくる?
亀谷:
確か最初山の中から始まる……。
熊倉:
あ、じゃあ山岳地帯。きっとそうですね。
いいだ:
各地に暗殺集団っているものなんですね……。
マスダ:
大体山とかそういう人里から離れた場所に。
亀谷:
そうですね。山が多いですね。
熊倉:
日本の忍者とかも、やっぱり山の中にいますよね。
マスダ:
いまからビマリスタン(病院)のほうに行きたいと思います。
亀谷:
大きいですね。
熊倉:
二階建てで屋上がある。
マスダ:
何か知らの患者が多分いらっしゃるはずなので、ちょっと中を見ていきます。
熊倉:
この人は患者さんかな、目を見てる?
いいだ:
ここで診療してる?
マスダ:
こっちに患者の部屋があって、寝ていらっしゃいますね。
熊倉:
辛そうですね右の方。
いいだ:
この病院は(史実として)何か有名なところなんでしたっけ。
亀谷:
これに関してはちょっとよくわからないですね。
熊倉:
でも、あるっていうことは言われていたんですよね。
亀谷:
あるのはありますね。
マスダ:
何か今潰している感じですね。
熊倉:
薬を煎じてる?
亀谷:
当時は白衣があるわけでもないので、誰が医者なのかっていうのはあんまりよくわからないですね。
マスダ:
ここで医者が人体実験とかしている部屋ではあります。奥に絵とかがあって。
亀谷:
これは医学書とかに描かれている有名な絵ですね。
いいだ:
ちょっと味のある絵ですが、真面目な研究のための書類なんですよね?
亀谷:
そうですね、医学書。自体解剖図みたいなので出てくる絵です。
イスラーム史の専門家といく『アサシン クリード ミラージュ』さんぽでは、本稿で紹介した収税吏の家やビマリスタン以外にもモスクやバザールといったバグダードの街並みを散策。
専門家の視点からもリアルに作りこまれているというアッバース朝時代のバグダードではどのような生活が送られていたのか、ぜひ動画シリーズの続きもあわせてチェックしてみてほしい。