ナルホド君が弁護士として本格復帰『逆転裁判5』
続いての収録タイトルは『逆転裁判5』。
事件の真実を追及することではなく、法廷での勝敗を争うことが目的となってしまった「法の暗黒時代」と呼ばれる状況の中で繰り広げられる弁護士たちの戦いを描いた本作は、冒頭からいきなり法廷爆破事件が発生するという中々に衝撃的な展開で幕を開けます。
そんな本作では、前作で弁護士を辞めていたナルホド君が弁護士として本格復帰。オドロキ君も所属する成歩堂なんでも事務所の所長として、事件の究明にあたります。
また、前作では初々しさがかなり強かったオドロキ君も心なしか凛々しくなり、貫禄が出てきたような気がします。
それもそのはず、本作からオドロキ君にも後輩の弁護士ができたのです。
成歩堂なんでも事務所の最若手であるその弁護士の名は、希月心音。
顔芸……もとい感情が表現豊かで明るく前向きな彼女は、アメリカの大学を飛び級で卒業した人物で、周囲からはココネちゃんと呼ばれています。
大学では心理学を学んでいたココネちゃんは、他人の言葉の中に潜む感情を聞き取れるという特別な力を持っており、証言と感情のムジュンを指摘することで、事件解決への井戸口を手繰り寄せることができます。これが本作からの大きな追加要素の1つ。
また、事務所では明るく前向きなココネちゃんですが、本作のキーとなるのは彼女の心の中にトラウマとして強く残る過去のとある事件。この事件と現在の事件がつながり、物語は大きな展開を見せるのです。
そして、Nintendo DSにて発売された『逆転裁判4』に対し、『逆転裁判5』が発売されたのはNintendo 3DS。グラフィック面にも大きな変化が見られ、『逆転裁判4』まではイラストで描かれていたキャラクターたちの立ち絵が、本作から3Dで表現されています。アニメーションが挿入されるのも特徴的ですね。
ナルホド君、オドロキ君、ココネちゃんという三人の弁護士を主役とするストーリーが描かれる本作は、賑やかさも増していて、シリーズの旨味も凝縮されているように思います。
異国の地であるクライン王国が舞台『逆転裁判6』
最後の収録タイトルは、『逆転裁判6』。これは、『逆転裁判』シリーズの最新のナンバリングタイトルでもあります。
本作の舞台の1つとなるのが、異国の地であるクライン王国。
かつて助手として活躍していた霊媒師のマヨイちゃんを迎えに行くためにこの国を訪れたナルホド君は、運命のイタズラで、この国の裁判に弁護士として参加することに。
霊媒の力が強く信じられているこの国では、姫巫女の霊媒による裁定が行われており、これに対して異議を唱える弁護士は、彼らの教え、彼らの信仰に対して異議を唱えているのと同義とみなされてしまいます。
さらに、弁護の結果被告人の無実が証明されなかった場合、弁護士は弁護罪という罪に問われ、被告人と同じ量刑に処されるという法律がクラインにはあるのです。
つまり、被告人に死罪が言い渡されれば弁護士も死罪というわけで、弁護士が命を懸けた職業になっているのです。こんな法律がある国ですから、被告人の弁護を名乗り出る者はいつの間にかいなくなってしまい、長らくクライン王国では弁護士が存在すらしていませんでした。
無実であったとしても、罪に問われてしまった時点で弁護の余地なく罪を受け入れなければならないこの国の法廷に付いた異名は、“あきらめの法廷”。弁護士にも強いペナルティが課される絶望的なこの状況下で、ナルホド君は被告人の無罪を信じて戦うこととなります。
そして、このあきらめの法廷において、ナルホド君が打ち破らなければならないのが、姫巫女の霊媒による御魂の託宣です。これは、殺人事件の被害者が亡くなる直前に五感で感じ取ったもの全てが映像のように水鏡に映し出されるというものであり、本作を象徴するシステムの1つ。
霊媒と聞いて想像するようなものよりも、遥かに具体的で決定的に思われる託宣ですが、ここにもムジュンが潜んでいます。ムジュンを指摘して、姫巫女の託宣の不当性を証明することができなければ、被告人にもナルホド君にも未来はないのです。
クライン王国にて事件に巻き込まれまくるナルホド君の一方で、日本のオドロキ君とココネちゃんも、しっかりと事件に巻き込まれることに。2つの国を舞台として物語が展開していきます。
ほどのマヨイちゃんもそうですが、『逆転裁判6』には過去作のキャラクターたちが多数登場するため、そのストーリー展開も含めて、『逆転裁判4』から続く、オドロキ君3部作の完結編と言っても差し支えない内容となっています。
『逆転の帰還』と『時を超える逆転』
さて、これらのタイトルに加えて、本コレクションでは、『逆転裁判5』および『逆転裁判6』のダウンロードコンテンツである特別編、『逆転の帰還』と『時を超える逆転』が収録されています。
推理ゲーム好きとしては名作として外せない『逆転裁判』シリーズ。このコレクション発売前の段階でナンバリングタイトルは全てプレイしてきていましたが、正直これらの特別編はノータッチだったので、今回が初プレイ。筆者としては特別編ならではの試みと思われる要素が多数見られる『逆転の帰還』が特に好きです。
インパクト絶大なシナリオとキャラクター
さて、先ほどもお話しましたように、『逆転裁判』シリーズは殺人事件を主軸とする推理ゲーム。事件の構図の逆転こそが面白さの核となります。
証言に隠されたムジュンを指摘しながら、事件の真相に少しずつ迫っていくことが醍醐味の『逆転裁判』はプレイヤーにそのムジュンやトリックを閃かせるためのゲーム側からの誘導が非常に丁寧であるということも、印象的な要素のひとつです。
こういった推理の誘導の丁寧さにより、プレイヤーは事件の逆転解決に対して納得感を抱きやすくなっているため、本シリーズは推理ゲームにあまり触れていない初心者でも楽しみやすい作品であると言えるでしょう。
そのことは、本シリーズが『逆転検事』や『大逆転裁判』といったスピンオフ作品と共に長らく続いていることや、アニメ化や漫画化、実写映画化といった様々な展開をするほど、推理ゲームとしては異例ともいえる人気を獲得していることからも伺えます。
また、事件に隠されたトリックがゲームプレイをする上での最大のキモとなるのは、『逆転裁判』に限らず推理ゲーム全体を通じて言えることですが、本シリーズのシナリオは、数ある推理ゲームの中でも、事件の発生状況や被告人といった、シナリオの導入部分のインパクトが絶大です。
例えば、被害者の遺体が何故が屋台を引いている状態で発見されたり、
妖怪が殺人事件発生現場から立ち去る姿が目撃された直後に、その妖怪が空を飛んでいる姿が目撃されたり、
マジックショーの最中に、突如として出演者のひとりであるマジシャンの遺体が出現したり、……といった具合。
そして、先ほどもお話した、弁護士を辞めていたナルホド君が殺人事件の被告人として登場する回は、導入のインパクトが強いシナリオの最たるものであると言えるでしょう。
常に様々な仕掛けでプレイヤーを驚かせてくれる『逆転裁判』シリーズですが、私以上の『逆転裁判』ガチ勢である友人にとくに印象的だったシナリオを聞いてみたところ、『逆転裁判4』のとある回に登場する「音を使った謎解き」は新鮮で目から鱗だった……と、答えてくれました。初プレイから15年近く経った現在でも即答してくれたので、それほど印象的だったということなのだろうと思います。
そして、導入でプレイヤーを思いっきり引き込んでくるシナリオを更に盛り上げてくれるのが、キャラクター同士の会話。
法廷での証言と証拠品を交えた舌戦で事件の真相に迫るというゲームの性質上、ゲームプレイ中の多くの場面が会話で展開される『逆転裁判』。このことを考えれば、会話の面白さがゲームの面白さに直結しているのは明白です。
本シリーズで繰り広げられる魅力的な会話たちは、緊迫感や緊張感のあるものだけではなく、シリーズを通して語り継がれ続けているキャタツとハシゴの違いという結論の出ない議題があったり、『逆転裁判』シリーズのクリアを目指す中で、ほぼ全てのプレイヤーが経験するであろう “とりあえず相手に弁護士バッジをつきつけてみる” というあるあるをネタにしたセリフがあったりと、ネタも豊富に取り揃っています。
殺人事件を取り扱う『逆転裁判』シリーズには、冷静に考えると暗い気持ちになってしまうようなストーリーが多いんですが、こういった形で話そのものは基本的にギャグベースで進んでいくため、そこまでの暗さが感じられないというのも、プレイヤーに対して先へ先へとゲームをプレイしていきたい気持ちを湧き上がらせる一助となっているように思います。
そんな会話劇としての側面が強い逆転裁判シリーズにおいて忘れてはならないのが、ナルホド君たちが会話をする相手となる登場人物たちのインパクト、個性の強さでしょう。
見た目が強烈なキャラクターが多いのはもちろんのこと、印象的な動作をするキャラクターが多いのも『逆転裁判』シリーズの大きな特徴です。
ミツルギ、カルマ、アウチ、星威岳哀牙……。その動作は真似しやすいものが多く、友人がいつもの雑談の途中に彼らの動作を積極的に取り入れていたことを思い出します。
私の友人の奇行はともかく、中には見た目も動作もそこまで変じゃなく、普通に時代遅れのカウボーイの風を感じるカッコよさを持つキャラクターもいたりはするのですが、そういったキャラクターは極々まれ。
魅力的なキャラクターばかりではありこそするものの、彼らについて語る場合には大抵、「黙っていれば美人 or イケメン」「良い人なんだけど激ヤバ」とか、「普通かと思ったらクズだった」「クズかと思ったらドブクズだった」だの、エキセントリックな感想ばかりが口からあふれ出てきます。
会話が主体であるゲームの場合、会話の相手となるキャラクターの印象が薄いと、会話そのものが無味無臭になってしまいがちですから、『逆転裁判』シリーズのキャラクターがあからさまなほどに個性的に描かれるというのは、ある種の必然であると思います。逆転裁判のキャラクターの濃さは、少年時代のナルホド君が着ているシャツに描かれているゲーム『ふしぎ刑事』の流れを引き継いでいるように思いますね。
さらに、推理小説や推理ゲームを進めていく上でありがちなのが、物語の中で誰かしらの名前が出た時に、「それって誰だったっけ?」となり、話を読み進める手を一旦停止させて、どこかに記載されている登場人物の説明に目を通す時間が発生すること。
しかし、『逆転裁判』に登場するキャラクター達は、見た目のインパクトの強さだけでなく、名前そのものも何かしらのダジャレになっているなど覚えやすいものが多いため、こういった事態の発生がかなり抑えられているように感じます。
例えば、上図のクライン王国に着いたナルホド君を観光旅行に案内する少年は、その見た目こそインパクトがありませんが、名前がボクト・ツアーニ(僕とツアーに)という覚えやすすぎるものであるため、出会ってすぐにプレイヤーの頭の中にインプットされるのです。
特に、『逆転裁判4』に登場する、北木滝太(きたきたきた)と並奈美波(なみなみなみ)という名前のセンスには感動すら覚えました。正直、初プレイから15年も経つと、彼らの見た目の記憶は薄れ、うろ覚えになってしまっていたんですが、名前だけはずっとハッキリと覚えていました。あまりにも口馴染みが良すぎます。
プレイヤーが対面し続けなければならない存在、検事たち
さて、見た目、性格、名前といったキャラクターを形作る様々な要素が強烈な事件関係者たちですが、彼ら以上に、ゲームを進めていく上でプレイヤーが対面し続けなければならない存在がいます。
それが、被告人の無実を信じるナルホド君たちとは立場上敵対関係になることが多い、検事たちです。
警察の捜査情報を元に、裁判で被告人の有罪を立証しようとする彼らは、弁護士と並ぶゲームのもう一つの顔とも言える存在であり、彼らの魅力が作品の魅力に直結している部分があります。
実際、先ほども少しお話しましたように、ナルホド君の親友でありライバルである本作屈指の人気キャラクター、ミツルギ検事が登場するとテンションが上がってしまうというものです。
例えば、こちらの阿内(アウチ)検事。
彼はシリーズ作品の第一話に必ず登場する検事であり、その威張りっぷりで多くのプレイヤーに苛立ちを与えつつ、溢れんばかりの圧倒的小者感から、被告人の逆転無罪を勝ち取る快感を教えてくれるキャラクター。素晴らしい斬られ役です。
下の名前は武文だったり文武だったりするんですが、そんなことはどうでもいいことでしょう。
続いては、『逆転裁判4』でオドロキ君の主な舌戦相手となる牙琉(ガリュウ)検事。
彼の特徴は、甘いマスクから繰り出されるキザな甘い言葉。
また、『逆転裁判4』では、検事でありながら “ガリューウエーブ” という大人気ロックバンドのリーダーもしているという、とんでもなく豪勢な二足の草鞋をはいたキャラクターでもあります。法廷で披露するエアギターがこれまたクール。
チャラすぎる見た目に反して性格は超真面目という、外身も中身も完全なるイケメンです。そういう逆転の構図はズルいですって。ギルティー。
そして、とんでもない二足の草鞋と言えば忘れてはいけないのが、『逆転裁判5』のメイン検事である夕神(ユウガミ)検事。
夕神検事が履いている二足の草鞋とは、“検事” と “囚人”。なんと彼は、過去の事件において有罪を宣告されており、『逆転裁判5』の作中では殺人罪で服役している身。
そのムジュンした肩書などから「法曹界の歪み」の象徴であるとして彼につけられた異名が、 “ユガミ検事”。
肩書、見た目、動作、発言……私の中ではキャラクターとして完璧です。ゴドー検事と同じくらい好きです。既に私の趣味がバレていそうな気がします。
しかも、ユガミ検事の肩に乗っている鷹のギンがまた最高なんですよね。かわいい。賢い。かっこいい。かわいい。
リメイクならではのファン歓喜要素
本作の新機能のひとつが、“タイトルランチャー”。
これは、各タイトルに収録されたそれぞれのエピソードをチャプター単位で選んで遊べるというもの。
『逆転裁判』に限らず、推理ゲームの難点として、一度クリアしてしまうと周回プレイがしにくかったり、「あの話だけプレイしたいんだよなぁ」という気持ちになったりするということが挙げられるのですが、この機能を使えば、好きな話を好きなところからプレイすることができるため、非常に助かります。
更に、本作では「推理ゲームは苦手だけど、ストーリーは楽しみたい」というプレイヤーに向けて、文字送りやムジュンの指摘といったものを全て自動で行ってくれる “ストーリーモード” が搭載されているため、『逆転裁判』シリーズのシナリオを、ドラマを見ているような感覚で楽しむこともできます。
「推理が苦手でプレイできない人がいるならば、推理をさせなければいい」という逆転の発想から生まれたかのようなモードですね。
そして、本作にはスペシャルコンテンツとして様々なお楽しみ要素が収録されています。『逆転裁判456』のBGMや『逆転裁判123』で流れる名曲たちのオーケストラ演奏を聴くことができる “オーケストラホール”や、設定画集やキービジュアル、ムービーなどを鑑賞できる “アートギャラリー” といったモードがある中で、私が特に気になったのが、 “アクションスタジオ”です。
ここではゲームに登場するキャラクターたちのアクションやボイス、背景などの様々な要素を自由にカスタマイズしてシチュエーションを作り上げることができます。ゲームでは見られない組み合わせを生み出すことも可能であり、その自由度はかなり高いと言えるでしょう。
……ただ、アクションスタジオはその性質上、ストーリーのネタバレのオンパレードなモードでもあります。クリアしてから楽しむべき要素ですね。クリアして見つけたお気に入りのキャラクターを存分に愛でていきましょう。
さて、以前にクリアしたことのあるゲームのリメイク作を購入して遊ぶとなると、そこには確固たる理由が必要になってきます。特に『逆転裁判』シリーズのような推理ゲームだと尚更で、購入の前に一度結末を知ってしまっているという大きな壁が立ちはだかるもの。
そういった中で、今回ご紹介してきた『逆転裁判456』は、『逆転裁判』シリーズの3つのタイトルで遊べるだけでなく、シリーズのファンのテンションが上がるような要素がてんこ盛りのタイトルとなっており、購買意欲が刺激されます。
更にはストーリーモードからも、「いちいち選択肢選ぶの面倒だけど、あの話が好きだからもう一回見たいんだよなぁ」という人にも向けた意図が感じられ、こちらもまたファンにとって嬉しい特典であるように思います。
未プレイの方はもちろん、既プレイの方も、本コレクションで当時の思い出に浸りながらプレイしてみてはいかがでしょうか。